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ファクターXの鍵は「日本の伝統食」か。実は新しかった古の知恵

新型コロナウイルスの感染者増加が止まりません。人類はなぜこのウイルスに翻弄されてしまっているのでしょうか。そんなコロナ禍の中で「価値観の転換」について考察しているのが、メルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』の著者であるジャーナリストの高野孟さん。1回目は「コロナ禍に想う。日本が今一度、脱近代、脱合理を目指すべき理由」で文明発達の歴史について、2回目は「なぜ旧民主党は政権交代を果たしたにも関わらず短命に終わったか」で明治以降の日本の近代史について述べてきました。第3回目となる今回は、私たち日本人が古来から食べてきた伝統食に注目。日本人がコロナで重症化しない理由とされる「ファクターX 」を解明する鍵があるのかもしれない、としています。

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コロナ禍を機に起こるべき価値観の転換ーー自然免疫力を高める食事こそが「新しい生活様式」

この連載は、第1回の冒頭で述べたように、平野貞夫=元参議院議員の「コロナ禍による混乱を克服するには、稲作・漁撈・発酵文化の再生が急務だ」という趣旨の講話に大いに触発され、それを私なりに補充・拡張しつつ綴っている。

平野の論旨のユニークなところは、稲作を中心とした日本の伝統的な食生活への回帰を、単なる懐古趣味やロマンティックな田舎暮らしへの憧れからではなく、玄米・米ヌカをはじめ無農薬の野菜、海藻類などに豊富に含まれている免疫ビタミン「LPS (リポポリサッカライド)」がヒトの免疫力を高めるのに極めて重要な役割を果たしているという最新の科学的発見に着目、それが山中伸弥教授の言う「ファクターX 」の解明にも繋がるのではないかという観点から、これを提起しているところにある。

LPSが免疫力を高める

LPS と言われても、私はもちろん、ほとんどの人にも初耳だと思うが、驚くべきことに、アベノミクスの「第3の矢」のために2014年に立ち上げられた内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム」の下に「次世代農林水産業創造事業」があり、その1つとして「ホメオスタシス(健康維持機能)評価システムの開発」とそれを通じての「機能性食品の開発、食事レシピや運動メニューの開発」というプロジェクトが取り上げられ、杣(そま)源一郎=香川大学客員教授(免疫学)を代表として、14年から18年まで、国費による研究が進められていた。

ヒトの体に張り巡らされている自然免疫機能の中で中心的な役割を果たしている白血球の一種に「マクロファージ」がある。マクロは「大」、ファージは「食う」、つまり「大食い細胞」で、そう呼ばれるほど、体の外から侵入した細菌やウイルスや体の内で発生する変異物をバクバクと食べてしまう。

このマクロファージを活性化させて免疫力を高めるには、LPS を適切に摂取することが必要であることを解明したのが、杣教授らの長年の研究による世界的な成果で、それを応用して実際に経済効果に繋がるような食品などを開発しようというのが内閣府のプロジェクトだった。

尤も、この研究成果を安倍政権は「何故か積極的に活用しようとせず、事実上、棚上げとなっている」(平野)。恐らくその理由は、安倍首相もその取り巻きもこの文明論的な意義を理解できなかったからで、もし少しでも理解していれば今次コロナ禍への対応も違っていたかもしれない。

それはともかく、マクロファージだ、LPSだと言ってもまだよく分からないだろうから、杣源一郎著『「免疫ビタミン」のすごい力』(ワニブッックス新書、15年刊)、補足として藤田紘一郎『免疫力』(同じくワニブッックス新書、20年刊)を繙くことにしよう。

2種類の免疫システム

まず、そもそもの基礎知識から。免疫には「自然免疫」と「獲得免疫」の2種類がある。自然免疫は、生まれながらにして備わった免疫細胞が病原体を発見して闘うシステムで、動物のみならず植物も持っている原始的な機能である。「好中球」「マクロファージ」「NK細胞」などが主役で、これらが真っ先に先発隊として出動し、チームプレーを組んで異物を倒す。

それに対して獲得免疫は、侵入してきた病原体が先発隊では防ぎきれないという場合に、その性質を分析して対策を立て、それに応じた抗体を産生して強力な攻撃力を発揮する。リンパ球の「B細胞」「T細胞」がその主役である。

マクロファージは体の至る所に常在して、それが自律神経や内分泌系と連携することで、総体として我々の健康を維持する基盤的なシステムを構築している。感染防御、新陳代謝、代謝調節(鉄代謝、コレステロール調節、ホルモン調節など)、創傷治療(皮膚創傷治療、骨折治療、末梢神経修復など)……元気な体でいるために不可欠なすべてのことに、マクロファージを中心とした生体防御システムが深く関係していると考えられている。

つまり、生命の神秘というか、ヒトの体は何でこんなに上手くできているのかと感心することが度々あると思うが、それはほとんどマクロファージ・システムが勝手に作動して知恵と体力の限りを尽くして異物と戦ってくれているお陰。そこに「ファクターX 」を解明する鍵があるのかもしれないのである。

LPSが豊富な日本の伝統食

そのマクロファージに大いに働いてもらうには、まずは、意識してLPS をたくさん摂ることだが、それはけっして難しいことではなく、玄米、無農薬の野菜、納豆、梅干し、味噌汁、海藻などから成る日本の昔ながらの食事を心がければいいだけのことである。それで江戸時代の日本人は現代人の10倍ものLPS を食べていたそうで、そのようにして形作られたDNA は多少なりとも今に伝わっているのではないか。

とはいえ、明治以来の近代化を通じて自然免疫力は次第に失われ、とりわけ戦後になって食生活の西欧化、農薬の大量散布や食品添加物の使用、医療の場面での抗生物質の乱用などによって、マクロファージは酷く痛めつけられてきた。それで花粉症はじめ昔はあり得なかったアレルギー症状が出てきたのだろう。

日本に限らず朝鮮、中国からインド南部まで含めたモーンスーン気候下の稲作地帯に共通する食の原理は「医食同源」で、西欧資本主義的グローバリズムによるその破壊から抜け出すことが、我々のコロナ禍対策の根本ということになるのだろう。

しかし、LPS 摂取増強作戦は食だけではない。人類はいわゆる「バイキン」、すなわちウイルスや細菌、カビ、寄生虫などの攻撃に晒される中で、免疫システムによってそれと戦いつつ今日まで生き抜いてきた。ということはバイキンを敵視し、洗剤や消毒剤を多用して絶滅させようとするのは大間違いで、ほどほどに仲良くするよう心がけなければならない。それにはまず、床に落とした食べ物は拾って食べるのが当たり前という風に子供をしつける親の態度が大事である。

物差しを持ち替える

よく言われることではあるけれども、46億年前の地球誕生を1月1日とする円形カレンダーを描くと、最初の生物である微生物の誕生は3月25日、それから魚類、両生類が生まれて最初の陸上生物が現れたのは11月20日、人類が登場するのは何と12月31日の午後2時30分のことで、大先輩であるバイキンを「汚い」などと感じて絶滅しようとするなどとんでもない傲慢で、それに対するバイキンの側からの「お前ら、いい加減にしろよ」という警告がコロナ禍なのかもしれないとうことになる。

まずは、我々の体内におけるバイキンの働きについて知識を持ち、それと外界との繋がりを巧く調節することなしには、我々は地球上で生きることを許されない存在なのだという自覚を持つことである。

そのように、いったんは地球的な物差しに持ち替えてコロナ禍の現在を測ると、いろいろなことが見えてくる。例えば、コロナ禍の下での「新しい生活様式」は、テレワークだソーシャルディスタンスだとかのカタカナ語の話ではない。

伊藤博文から安倍首相に至る長州の富国強兵の軽薄イデオロギーを引き剥がすと、その向こうに江戸時代までのこの国が持っていた限りなく深い文明の記憶が蘇ってくるというのが、実は、日本人の「旧くて新しい生活様式」という問題なのである。

image by: shutterstock.com

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早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

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