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コロナ禍でも東京大好き。テレワークが進んでも一極集中が止まらないワケ

日本の人口は、1年前と比べて50.5万人も減少したそう。この調査結果を踏まえて、東京一極集中について論じたのが8月6日の読売新聞3面です。本記事では、この読売の記事をメルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんが詳しく解説。政治が2つの不安を解消しないかぎり、テレワークが進んでも東京一極集中は止まらないだろうと分析しています。ほか、米国での銅像撤去や中国アプリ規制、大阪府知事のうがい薬会見に関する話題も。

「東京一極集中」ほか、新聞各紙の報道を比較(8/6)

ラインナップ

◆1面トップの見出しから……。
《読売》…日米欧 サイバー演習
《朝日》…被爆75年 草木は生えたが
《毎日》…広島原爆 きょう75年
《東京》…GoToトラベル 除外時の感染者割合

◆解説面の見出しから……。
《読売》…東京一極集中 鮮明に
《朝日》…レバノンで爆発 113人死亡
《毎日》…保育園 悩む感染対策
《東京》…緩く長く 家庭内感染防ぐには

プロフィール

■人口減少の最中の東京一極集中■《読売》

■銅像から読み取れること■《朝日》

■だんだん似てくる中国と米国■《毎日》

■うがい薬と都構想■《東京》

人口減少の最中の東京一極集中

【読売】は3面の解説記事「スキャナー」で、人口調査の結果を入り口に、地方分散、デジタル化の必要を論じている。見出しから。

(3面)
東京一極集中 鮮明に
人口調査
地方分散へデジタル化急ぐ
「特効薬ない」声も
出生数10人未満 96町村

●uttiiの眼

各紙、「50.5万人減少」という人口減少の側面を大きく報じているなか、《読売》はデータを「東京一極集中」で読み取ろうとしている。東京都は人口の増加数、増加率ともにトップで、一極集中の傾向は続いていることは間違いない。政府は地方分散の取り組みを強化しているが、決定打はないのが現状…という問題意識。

東京都以外に人口が増加したのは、神奈川県と沖縄県しかない。増加率でも東京都は他の2県より突出していて、その意味でも「東京一極集中」はハッキリしている。さらに15~64歳の生産年齢人口の比率が東京都は最も高く、64.92%。大学進学や大企業への就職を目指して地方の若者が東京に流れる構図が目立つという。

問題はたくさんあるが、指摘されているのは「大災害が発生した際の行政・社会機能の維持や地方での担い手不足の深刻化」。地方分散のカギとなるのが「デジタル化」だという。コロナ禍をきっかけとして広がったテレワークなどが定着すれば、東京近郊に住む必要がなくなるというわけだが、国内経済が冷え込めば、逆に東京に雇用を求めて集まる人が増える可能性もあるという。

人口減少にせよ東京一極集中にせよ、複雑な要因が絡み合っていることは間違いないと思うが、それでも、政治が解決すべき問題であることが明確な問題が大きく言えば1つ、分ければ2つあるように思う。1つというのは、「不安」ということ。これを分ければ、「雇用の不安」と「年金の不安」となる。

ザックリいえば、「雇用の不安」は85年の労働者派遣法制定以来、歴代の自民党政権が意図的に拡大してきたもの。「年金の不安」は、「雇用の不安」の拡大と共に付随的に生じた部分と、年金官僚の腐敗と堕落によってデータさえ整備されていなかったことが判明した一連の危機で醸成されたものとからなる。この不安が解消されない限り、東京一極集中は止まないだろうと愚考する。

銅像から読み取れること

【朝日】は11面オピニオン欄。「倒される「銅像」とは」と題する「耕論」で3人の識者に話を聞いている。奴隷制や人種差別に関わる人物の銅像を引き倒し、撤去させようという動きが米欧に広がっていることについての様々な意見。特に、米ニューヨーク・ハーレム地区に住むフリーライター、堂本かおるさんの話を中心に紹介する。タイトルを以下に。

(11面)
「今の力」の優位性を誇示

ここ20年、ハーレムには黒人の銅像が建つようになってきたという堂本さん。とはいえ、全米で見れば圧倒的に白人男性の銅像が多いという。銅像の意味には、確かに「昔の偉人」を讃える意味もあるが、それを通じて、「今の自分たち」の優位性を誇る機能もあると指摘する。

「ブラック・ライブス・マター運動」のなかで引き倒された「南部連合」の指導者たちの銅像に対して、歴史的建造物として擁護する議論もあるが、「こうした銅像には南北戦争が終わり、奴隷制が廃止されて時が経過した後に作られたものも少なくない」という。

奴隷制が廃止された後になって、殊更に「白人の優位性」を主張するようなものを、少なくとも公的空間に設置することには問題があるという。悪い側面を併せ持つ人物の銅像をすべて撤去せよとは言わないが、奴隷制は今も米国の根幹に関わる問題。米国社会の病理は奴隷制から始まった人種差別に由来すると。

●uttiiの眼

非常に目配りの効いた議論で、一つ一つ頷ける分析と主張がなされている。「耕論」はあと2人の論者の話で構成されていて、成田龍一氏と木下直之氏は、銅像を抹殺したり引き倒したりするのではなく、「白人優位を賛美した時代の象徴」として、あるいは「引き倒す人の銅像を一緒に置く」というやり方で、その時代と人物の功罪を問うという方法を提案している。

まさに「歴史は解釈の積み重ねで構成されている」(成田氏)のであって、破壊されたものも含めて「博物館などの公共の場に残す知恵」も必要なのかもしれない。過去は変えようがないが、過去の意味は読み替えることが出来るということだろう。

だんだん似てくる中国と米国

【毎日】は2面に専門編集委員、坂東賢治記者によるコラム「木語」。見出しを以下に。

(2面)
アプリ規制の落とし穴

ここで「アプリ」とは話題の「TickTok」であり、「規制」とはトランプ米大統領が米国内での「TickTok」使用を禁じようとしていることを指す。最近、トランプ氏は「TickTok」が9月15日までに米国企業に買収されるなら事業継続を認めると言い出している。だがその際、「米政府はキーマネーを受け取る権利がある」とも言っているという。

キーマネーとは家を買う際に大家に差し出す「心付け」のことで、「袖の下」の意味もある言葉。大統領が真っ昼間から「袖の下」を要求する事態に、「ゆすり」とか「マフィアの手法」と内外から非難の声が集まっている。

そもそも、米国内だけで1億人が使うアプリの利用制限は実際上困難で、もしも完全に禁止しようとすれば、悪名高い中国の「金盾」のような国家的ファイアウォールが必要になってくる。相手のやることをやり返していれば、「だんだん相手に似てくる」ことになるというのが坂東氏の批判。

●uttiiの眼

「やられたらやり返す」「倍返しだ」の台詞を思い出す。トランプ氏は不動産王だけあってキーマネーは常識なのだろうという坂東氏の言葉は勿論冗談だろう。大統領と不動産王は同じではないからだ。それにしても、これほど品のない大統領は空前絶後というのが本当のところで、トランプ氏が関わったあらゆる政策の「公的」な意義を問い直さなければならないだろう。

うがい薬と都構想

【東京】は22面のこちら特報部・「ニュースの追跡」で、大阪府の吉村知事と大阪市の松井市長が会見して、「うがい薬で、コロナに打ち勝てるのではないか」とわざわざ特定のうがい薬を推奨するかのような会見を行った件について報じている。見出しから。

(22面)
先走った「うがい薬」会見
薄い科学的根拠
データまだ41件
大阪知事「パフォーマンスに混乱」
裏に「都構想」投票?
「政治的勇み足、裏目に」

「うがい薬でコロナに勝てるのではないか」と会見で言ってしまった吉村知事。府立病院機構「大阪はびきの医療センター」の研究成果なるものはそもそも41件のデータしかない代物なのに、会見の効果は絶大で、人々かうがい薬を求めて店に走り、薬は店頭から次々と姿を消した。

混乱と批判を受けて再び会見した知事は、「一部誤解がある。うがい薬は予防薬でも治療薬でもない」としたが、結局のところ「まるで「大阪府と自分がこんな発見をした」と言いたいがためのようで、「パフォーマンスに流れた」と見なされた(駒沢大・逢坂巌准教授)。

大阪で取材するフリージャーナリストの吉富有治氏は「11月に都構想の賛否を問う住民投票を目指している。感染拡大防止に有効な手だてを打てず焦る中、何とか府民の支持を集め、賛成を勝ち取りたい。そんな政治的思惑で勇み足になったのでは」と分析。

●uttiiの眼

日本社会は未だにこの種の言い訳を許しているのかと暗澹たる気持ちになる。吉村知事が「一部誤解がある」というのは間違いであって、誤解していたのは知事本人。府民は「誤解」したのではなく、「騙された」。うがい薬を買いに走ったし、ネットで高値転売されたものを次々買ってお金を失った。知事と市長のせいで。

吉富氏の分析は、大阪人以外には分かりにくいところがあるかも知れないが、維新の最大のテーマが「都構想」であり、すべてをそこに流し込もうとしていることからして、実はあり得ない話ではない。少なくとも、新型コロナの第2波に対して吉村知事も松井市長も実に無力な存在となっており、焦りを感じているのは確かだろう。ついでに言えば、やたらとテレビ出演が多くなっている維新の創業者、橋下徹氏の動きも、11月の都構想住民投票と無関係ではないのかもしれない。

image by: StreetVJ / Shutterstock.com

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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