ここ最近、増えつつあるという「熟年離婚」ですが、長年連れ添っていたこともあって相手がなかなか同意してくれないケースも多いといいます。家庭裁判所へ離婚調停を申し立てる場合、どうしたらスムーズに離婚の同意を得ることができるのでしょうか? 開業から6年で相談7,000件の実績を誇る「離婚のプロ」、行政書士の露木幸彦さんが発行する無料メルマガ『10年後に後悔しない最強の離婚交渉術』では、露木さんが過去の事例をもとに、離婚に応じない相手を納得させる方法や、離婚調停で絶対に間違えてはいけない「順番」についてアドバイスしています。
エピソードの「優先順位」が、離婚同意の決め手となる
結婚が自己責任なら離婚も自己責任。結婚生活をやめたいのなら人任せにせず、自ら相手と直談判するのが第一です。
しかし、あらゆる方法を用いても相手を説得できないのなら、家庭裁判所へ離婚調停を申し立てることを検討しなければなりません。
統計(厚生労働省の人口動態統計、2016年)によると離婚全体(21万件)のうち、家庭裁判所の調停を通じて離婚したケースは10%以下(2万件)に過ぎません。
85%の夫婦は裁判所を介さずに離婚するのに(協議離婚)、調停に頼らざるを得ないのです。そして調停を申し立てても実際に成立するのは全体の半分(54%。裁判の迅速化に係る検証に関する報告書)で、残りの46%は結論が出ずに終わるのが現状ですが、どうしたら成功する54%に入れるのでしょうか?
離婚事例:延々と人生相談をするタイプ
例えば、養育費の調停で必要なのは収入や支出、家族構成などです。
(子どもとの)面接交渉の調停で必要なのは日時や場所、送迎方法などですが、離婚の調停で必要なのは離婚に結びつくエピソードです。
それなのに嫌悪感、不信感を爆発させ、相手の悪口や愚痴、不満などを言いっ放しにすると調停委員は怪訝な顔をします。
嫁への罵詈雑言を喜々として聞くのは姑ぐらいですが、調停委員は夫の母親ではありません。
自分は何の調停を申し立てたのかを思い出しましょう。
若宮綾乃さん(61歳。仮名)の夫(62歳)が家で食事をとらないのは日常茶飯事ですが、それだけで綾乃さんが離婚を決断したわけではありません。
毎日、帰宅するとキッチンには食器やフォーク、リビングにはクリーム、洗濯機には衣服が散乱している状態で、毎日のように綾乃さんが片付けざるを得なかったのです。
「ふざけないで! いい加減にしてよ。何回言ったら分かるのよ!」と叱責しても、夫は綾乃さんの声をスマホで録音する有様。
「ああ、怖い怖い。ちゃんと証拠とったから」と言うばかりで、汚部屋生活は変わりませんでした。
ほとほとあきれ果てた綾乃さんが「それなら離婚よっ!」と言い放っても、夫は「あんたは俺の努力の上に胡坐をかいて、ぜんぜん有難みが分かっていないんだ!」と感情論にすり替えるので、離婚の話に本腰を入れるのは無理な状況でした。
綾乃さんはやむを得ず離婚調停を申し立てたのですが、調停委員に「関係を修復する余地がないから離婚しかない」と思ってもらえるようなエピソードを選ぶことが大事です。
家事を手伝わない夫が何かの拍子に手伝い始める可能性がゼロだと言い切れません。
「夫がやらないのなら妻がやればいい」と言われたら、離婚ではなく修復の方向へ進む危険もあります。
調停委員の素性は様々ですが、すでに定年退職した元公務員が多い印象です。そのため「(妻の)我慢が足りない」と先達から説教じみたお叱りが飛んでくるでしょう。
露木さんがアドバイスした「泥酔エピソード」作戦
そこで綾乃さんは別のエピソードを申立書に記入しました。
綾乃さんいわく、夫は毎晩のように晩酌するのですが、お酒に強いわけではないので、毎日500mlのチューハイを3本も飲んで泥酔し、嘔吐することもしばしば。
夫が酔っぱらって真夏に暖房、真冬に冷房のボタンを押し、寝室が熱すぎたり寒すぎたりして綾乃さんが目を覚ますことも。
特に酷いのが外飲み。直立歩行できないほど飲み過ぎたり、居酒屋で他の客に「うるさいぞ!」と絡んで喧嘩になったり…。綾乃さんが夜中の1時以降、駅や居酒屋、警察に夫を迎えに行った回数は両手の指では足りないくらいです。そのたび、夫は「もうお酒はやめる」と禁酒宣言するのですが、その約束が守られた試しはありません。
つまり、これ以上、結婚生活を続けると綾乃さんが夫の酒乱に悩まされることは確実です。
調停委員は夫の酒癖を「修復する余地はない」と判断したようで、夫に対して「もう奥さんを解放してあげたらどうですか?」と投げかけた模様。
夫は今まで何十回も禁酒宣言を破ってきた手前、「もう迷惑をかけないから」と口が裂けても言えず、しぶしぶ離婚に承諾したようです。
離婚調停で特に注意すべき「順番」とは?
このように、エピソードの優先順位を工夫することで、夫から離婚の同意を取り付けたのですが、調停の場合、先に離婚の可否、後に離婚の条件(養育費、慰謝料、財産分与など)を決めるという順番を守ってください。
夫が離婚を拒否しているのに、離婚の可否と条件を同時に進めると大変です。夫の希望する条件を受け入れない限り離婚できないので、夫が「退職金、貯金、家、何も分けてやらん!」などと無理めの条件を提示してきても、どうしても離婚したいのなら承諾するしかありません。
綾乃さんの場合、先に離婚を決定付けてから条件面を詰めたので、年金分割の按分割合は50%、自宅の売却益は折半、退職金と貯金は勤務期間と結婚期間の重複部分のみ折半という可も不可もない内容で折り合いがついたのです。
離婚寸前の夫婦の間に信頼関係は存在しません。
協議の段階で疑心暗鬼に陥っている夫に、いくら正論を言っても「あいつのことは信用できない」と一蹴されるだけ。これは妻だけでなく妻側の人間…両親や兄弟姉妹、友人や弁護士でも同じです。
そのため、調停の段階で中立の第三者に代弁してもらうことが効果的ですが、調停委員は妻との間に利害関係がないので適任です。
過去のケースを振り返ると、夫は「調停委員が言うなら」と、ようやく聞く耳を持ってくれることが分かるでしょう。
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