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ひれ伏す習近平。中国海軍が台湾沖で米台日同盟軍に勝てない理由とは?

激しさを増す米中対立。香港の民主派の逮捕、アザー米厚生長官の台湾訪問など、緊張感は頂点に達したといえるかもしれません。そんな米中関係を独自の視点で紐解くのは、ジャーナリストの勝又 壽良さん。勝又さんは自身のメルマガ『勝又壽良の経済時評』の中で、米国は中台間の軍事バランス回復に努めており、すでに中国は歯が立たない状況になっていると分析しています。

軍備強化を進める中国。日本海保は最小限の火器のみ

中国は、臨戦態勢に入っている。海警局(日本の海上保安庁に相当)を軍備強化するからだ。日本の海上保安庁は、最小限の火器携行である。海警局は、中国海軍と連携し平時から軍と共同訓練をできるようにするというのである。海警局が、「準軍隊」に組織換えする狙いは軍備増強である。海上パトロールでなく、攻撃力を持つ軍隊化するのだ。

海警局は、組織的に約60~70万人とされる武警の一部である。非常時には、武警から海警へ人員補充して戦闘態勢を強化する手はずだ。突然、アジアがきな臭くなってきた。中国が、周辺国との領土争いに本格的態勢を整えるシグナルである。

中国が、非同盟・平和のシンボルとされたのはとうの昔のことになった。経済力弱体をカムフラージュする戦術であったのだ。戦後日本の「民主青年」は、競って中国を礼賛し日本を批判したものだ。もはや、そういう純粋な若者はどこを探しても見られない。中国警戒論に変わってしまった。

中国が仕掛けた中印軍事衝突

中国の本質はカメレオンである。自由自在に色を変えるのだ。力のないときは平和を唱え、力が付くと平和を脅かす。帝国主義そのものの行動パターンである。新中国は、平和の味方を信じ込ませてきたが、このレッテルは中国自らがかなぐり捨てたのである。

中印両軍による6月中旬の国境線での軍事衝突は、両軍に死者が出る惨事となった。インド軍は20名の死者を出した。中国は未発表である。中国外交部発表によれば、インド軍の責任としている。だが、この発表は大嘘であった。衛星写真によって、軍事衝突発生前に、中国軍が衝突現場へ機材を持込んでいたのだ。中国軍の意図による衝突であることが判明したのである。

中国軍は、衝突までの数日間に機械類を持ち込んだり、ヒマラヤ山脈の山腹に道を切り開いたりしていた。ほかに、川をせき止めた可能性もあることが、衛星写真によって示唆されている。

衛星写真は、衝突翌日の16日に撮影されたものだ。ロイターの発表によれば、1週間前と比べ衝突の起きたガルワン渓谷で、中国軍の活動が活発化した様子が分かる。

報道された写真では、樹木のない山沿いとガルワン川の中に、機械類設置された跡であると説明されている。中国軍が、ここまで準備してインド軍に襲いかかった理由は何か。

中国が、国内向けに始めた衝突であろう。愛国心を高める目的である。経済停滞による失業者数増加の社会不安を消す効果を狙ったものだ。

現に、中国側でも死者は出ているが、詳細を発表しないところに、日本の「大本営発表」と同じ作為を感じさせるのである。旧日本軍が、北京で中国軍と始まった「盧溝橋(ろこうきょう)事件」(1937年)のように、軍事衝突へ拡大させた意図がちらつく。警戒すべき事件である。

南シナ海域に浸透する中国の凶暴化

この2カ月前、ベトナム政府は中国と領有権を争っている南シナ海の海域で、中国の船舶がベトナムの漁船に体当たりして沈没させたと明らかにした。これを受けて、外交上、中国寄りの姿勢を強めているフィリピン政府からさえも、ベトナムを支持する声が上がった

インドネシア政府は、南シナ海をめぐる中国との主張の相違に関し、中国側が呼びかけた交渉による解決を拒否する書簡を国連本部に送っていたことが分かった。ルトノ外相が6月18日の外国メディア向けのオンライン記者会見で表明した。

各国が、南シナ海における中国による島嶼(とうしょ)不法占拠に対する抗議の動きを活発化させている。これに対して、中国は前記の海警局の武装船によって襲わせる準備であろう。

正規の軍艦による対処では、大事になってしまう。海警局に占領させた「衝突」であれば、事態を矮小化させられる。そういう小細工を弄する意図を感じさせるのだ。中国は、軍事力で周辺国をねじ伏せる凶暴化戦術が、一段と鮮明になってきたと言えよう。

米がアジアで同盟軍を率いる

南シナ海は公海であり、中国領海でないと強く反発する米国が、「インド太平洋戦略」の重要性を高く掲げている。エスパー米国防長官は、中国の脅威に対抗して、インド太平洋地域のパートナーおよび同盟との協力を強化する、と表明するにいたった。

エスパー米国防長官は、シンガポール日刊紙『ザ・ストレーツ・タイムズ』に寄稿(6月15日付)し、「米国は新型コロナウイルスと中国共産党による挑戦の中、域内の同盟およびパートナーと緊密な安全保障関係を構築するために努力する」と表明した。米国が、域内で反中国体制を構築し、中国封じ込めに乗り出す意向を固めたもので、軍事的取り組みを明確にしたのだ。

米国は、すでに台湾防衛姿勢を明確に打ち出している。新鋭航空機を台湾へ売却して、中台の空軍力バランスを回復させている。最新鋭ではないが、米国新型航空機に中国も歯が立たないとされている。

軍事にくわえ金融でも沈没する中国

中国は、周辺国に対しては強圧姿勢を取っているが、米国に対してはなぜか、低姿勢に転じてきた。米国が、中国による香港への国家安全法適用で、「一国二制度」の消滅に強く抗議しているからだ。

米国は、香港に国家安全法が適用されれば、香港を中国の一都市として扱うと表明した。北京や上海と同じ扱いにする以上、現在、香港に与えている特恵(関税やビザ発給)を廃止すると宣言するのは当然である。

これによって、中国の受ける金融的な損害は莫大である。習近平氏を強力に補佐する民族派は、経済計算という合理性に無頓着である。国威発揚の情緒面を重視するが、合理性の視点が完全に抜け落ちている。香港が、中国の金融面でいかに大きな位置を占めるかが分からないのだ。愚かというか、子ども並みの知識にとどまっている。

米経済紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』(6月15日付)は、「『王様』ドル、米中の闘いで人民元に対する死角は」と題する記事を掲載した。この中で、米国の中国に対する勝利宣言を早くも発したのだ。慎重なWSJがここまで報じたことは、中国が金融的にいかに脆弱な立場に置かれているかを見抜いている結果であろう。

私は、米ドルが世界の基軸通貨であることの強味を再三再四にわたり強調している。世間では意外と、GDPの規模と成長率の議論に熱中するが、金融面での議論に興味を示さないのだ。ここが最大の弱点である。

金融の話は、専門用語が頻繁に登場して面倒くささを感じる。だが、一番重要な点である。「金の切れ目は縁の切れ目」と言われるごとく、金融が杜絶すれば一国経済は沈没する運命だ。自動車にとって、ガソリンの役割である。

米ドルは、他国経済の運命を左右できる基軸通貨である。1816年に制定された英国の金本位制が、1930年代に崩壊し、第二次世界大戦後に米ドルが基軸通貨として登場した。

当初は、米ドルと金との兌換が行なわれたが、米国経済の停滞から起こるドル危機で金との兌換を停止。その後は、自由変動為替相場制でドル危機は起こらず安定した。こうして、米ドルによる世界経済支配が確立したのである。

米ドルが、世界の通貨になっている以上、この米国と政治的に対立すれば、米国からしっぺ返しを受ける関係になった。むろん、これを心よしとしない国々がある。かつては、フランスのドゴール大統領が反対の急先鋒であった。だが、フランス経済が逆境に立てば、そんな不満を言っていられなくなる。こうして、いつしか米ドルが絶対的な地位を固めた。

中国は共産党が支配する限り覇権を握れない

このほか、これを許す条件が3つある。軍事力・経済規模(GDP)・市場規模(市場経済)が世界最高という尺度だ。これに合わせれば、米ドルの右に立つ通貨は存在しない。

中国人民元が、逆立ちしても米ドルに敵わない理由は、前記の3点を見れば分かるはずだ。仮に、軍事力とGDPで米国を追い上げても、中国は市場経済を軽視する経済システムである。これは、国有企業中心=共産党支配を前提にしているからだ。こうして人民元は、本質的に基軸通貨になれないのだ。

中国がどうしても、基軸通貨国になりたければ、共産党を死滅させなければならない。自らの身を燃やして、新たな生命を世界に与える仏の御心になることだ。中国共産党にそのような慈悲の心があれば、南シナ海を不法占拠したり、新疆ウイグル自治区で100万人以上を強制収容所に閉じ込める非人間的なことを行うはずがない。

結局、我執の強い中国共産党には、世界覇権が手の届かない夢である。あるいは、見てはならぬ夢であることが分かる。

中国に「トランプのバズーカ」が火を吹く

WSJの記事を紹介する前に、予備知識を申し上げてきたが、ここで本論に移りたい。

(1)「米国にとって本当の『バズーカ砲』は、中国の銀行に対する制裁だろう。昨年、名称非公開の中国の銀行3行が、北朝鮮に対する制裁の捜査を巡り法廷侮辱罪とされたため、米国から罰を受ける可能性が出てきた。上院に提出されている法案も、香港の自由をないがしろにする銀行への罰則をちらつかせている」

米国は、基軸通貨国であるのでFRB(米連邦準備制度理事会)が、事実上の世界金融の元締め役である。FRBが、中国の銀行との取引を停止すれば、中国は信用恐慌を起こす。まさに、米国は中国を狙う「バズーカ砲」である。

(2)「中国の銀行がドルで事業をする能力を限定することは、かく乱要因であることは間違いない。中国の銀行が国外に保有すると主張する2兆2150億ドル(約237兆7237億円)のうち、63%はドル建てだ。今後2年間に、中国と香港で発行された米ドル建ての債券約3210億ドル相当が償還を迎え、借り換えが必要になる可能性がある」

中国の銀行が、海外での事業に融資するにはドル資金を不可欠とする。誰も、人民元を欲しがっていないのだ。反米で盛り上がる北朝鮮すら、国民から米ドルを取り立てて輸入品の決済に使うほどだ。米ドルが世界通貨である以上、米国の影響力から「自由」であり得ないという宿命を負っている。

中国の銀行が、保有する資産の63%は米ドル建てである。これは、いつでも換金できるという流動性が付与されている結果だ。米国の市場規模(市場経済)が世界一であるのは、同時に金融市場が世界一であるという意味でもある。

中国は米国への嫌がらせで、約1兆ドルの米国債を売却するという情報を常時、流している。世界一流動性の高い米国債を売却して何を買うのか。米国債に代替される債券は存在しない。米金融専門家は、中国による嫌がらせ情報を高笑いしている。馬鹿にされているのだ。恥ずかしい話である。

(3)「中国の時代遅れの金融システムは崩壊しかねず、中国は高齢化から膨らんだ不動産セクターまで、成長に対する無数の脅威に直面している」

これが、WSJの結論である。中国は、時代遅れの金融システム、とまで蔑まされている。米国が、香港への特恵を撤廃すれば、香港経済は成り立たなくなる。香港の中継貿易という立地条件が失われれば、自動的に香港金融市場は機能低下に見舞われる。それは、香港ドルと米ドルとのペッグ制(固定相場)の崩壊を招くだろう。

香港への支配を強めて失う世界経済との繋がり

中国は、この香港ドルのペッグ制に助けられて、世界経済と繋がって資金調達が可能になっていた。中国の銀行が保有する資産の63%は、米ドル建てであるのもこの結果である。中国は、国内の不平不満を抑えるべく、香港へ国家安全法を適用しようとしている。それが、香港経済に打撃を与えて、中国の首を締める。自業自得の典型例がこれだ。

中国最高指導部は、この矛楯にようやく気付いたようだ。これまで、米中のコロナを巡る対立で、中国は米国からの穀物輸入を極端に減らしけん制してきた。それが、下記のように突然の翻意が起こった。「金融危機」を察知したのであろう。

ポンペオ米国務長官は6月17日、ハワイで中国共産党の楊潔篪(よう けつち)政治局員と会談した。その際、中国側が第一段階合意の下で交わした米国からの穀物輸入について、約束を全て守る考えを改めて示した。

これまで、米中対立を利用して、米中貿易「第一段階合意」を反古にして対抗すると予測されていた。それが、「約束の完全実行」と発言したのは、米中対立激化を恐れ始めたと見るべきだろう。ハワイ会談は、米中いずれが呼びかけたか不明である。しかし、場所がハワイであることから、中国が申し出たのであろう。

中国が慌てた理由は、形勢不利を悟り始めたと見るべきだろう。独裁政権ゆえに、これまでの行動を改めるとは思えない。現行路線を突っ走るだろう。周辺国との摩擦を激化させて、国内の不満を鎮めるという常套手段を継続させる。

これは、アジアが一段ときな臭くなるという危惧の念を強める。米国は、これに対応して「インド太平洋戦略」を強固にして、中国が軍事的に手出しできない体制を固めることになろう。

大局を読めずに右往左往、韓国の運命は?

このような情勢下で、韓国はどうするのか。客観的に見れば、韓国文政権の「親中朝・反日米」路線は破綻した。北朝鮮は、国民が飢餓線上にまで落込んでいる。その反動が、南北合同連絡事務所の爆破となっている。国民の不満を逸らすための演出である。

事態がここまでこじれると、南北の早期修復は困難であろう。少なくも文政権が続く2022年5月まで、双方が対峙した緊張関係が続くほかない。

韓国は、中国との関係をどうするのか。米中対立激化の中で、経済のデカップリン(分断)まで進む気配が濃厚である。具体的には、香港残留を決めたワールドバンクが、その歴史に幕を閉じざるを得なくなっている。

英国HSBC(香港上海銀行)は創立以来、中国本土と二人三脚の関係にある。今さら、中国との関係を絶てないということで、香港への国家安全法適用に賛成せざるをえなくなった。これが、先進国から大きな反発を受け、米国内支店70店の閉鎖を決めた。英国でも27店を閉鎖し、フランスでリテール・バンキング事業を売却する

このように、中国と深い関係を構築した企業は、先進国が受入れないという厳しさが壁をつくっている。韓国は、これを持って他山の石とせざるを得まい。米中の二股外交が難しくなってきたということだ。

韓国が冷静に考えるべきは、すでに見たように中国の金融面の弱点が曝け出されていることだ。米中対立がさらに深まれば、米国が中国を金融面から締上げるであろう。そういう中国を選択することは、いかに無意味であるかだ。

習政権が、米国に対して構造的弱点を抱えながら、自らの権力維持でやむなく対立路線を歩まなければならないとすれば、韓国にとっての中国支持は自殺行為となる。この際、韓国の国益にとって、何がもっとも有益な選択かを問うべきである。

韓国は有史以来、中国へ依存する事大主義が、米中デカップリングで破綻することを認めるべきだ。実質的には、朝鮮戦争で侵略されたことで終わっているはず。それが、惰性で未だに存在するに過ぎない。韓国は、精神的に自立して、大人にならなければならない。

image by: Evan El-Amin / shutterstock

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経済記者30年と大学教授17年の経験を生かして、内外の経済問題について取り上げる。2010年からブログを毎日、書き続けてきた。この間、著書も数冊出版している。今後も、この姿勢を続ける。

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