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情けない日本。政府とマスコミが「米中冷戦」に対応できない理由

消費税増税から始まった経済の減速は、コロナ禍の大打撃によりリーマンショックを超える負の影響を日本経済に与えています。そこに米中冷戦がさらなる不安要素として世界経済を不透明なものにしていますが、日本の政府もマスコミも米中問題への態度を明らかにしない状況が続いています。メルマガ『j-fashion journal』著者でファッションビジネルコンサルタントの坂口昌章さんは、この状況を大いに危惧し、「正常性バイアスに囚われてはいけない」と警告しています。

正常性バイアスに囚われるな!

1.変化が苦手な日本人

日本人は伝統を重んじる。古来の文化や技術を代々継承することに価値があると信じている。企業も歴史が古いほど尊敬される。反面、日本人は変化への対応が苦手だ。変わらないことに価値があると考えているのだから、当然ではある。

変化が苦手なのは、日本の個人も企業も政府も共通している。今回のコロナ禍でも、平時の防疫体制を変更することができなかった。現在でも、海外から日本に入国する人に対して、空港の検疫では、注意事項を書いた紙を渡し、自主的に2週間の隔離を行い、公共交通機関を使わないことを指導しているだけだ。

台湾やタイでは、国が隔離に使うホテル等を用意し、そこまでの移動は防疫処置済のバスで移動する。隔離後も、勝手に外出しないようにチェックしている。日本では、移動は当人に任せ、他の交通機関も用意していない。おそらく、ほぼ全員が公共交通機関で移動するだろう。そして、2週間の隔離も誰もチェックしていない。多分、自主的な隔離も行われていないだろう。

企業や行政も、迅速に新しいルールを作ることができない。感染防止のためのテレワークなのに、書類に捺印するために出勤しろ、と命じた企業もあった。厚労省は、平時同様にPCR検査の手続きに保健所を仲介させ、マンパワーもシステムも揃っていない保健所が機能不全となり、世界のどの国よりも検査ができない状況が続いている。それでも、ルールを改正することができないのだ。

2.マスコミ報道も米中冷戦に対応できない

新聞、地上波テレビが流すニュースは、圧倒的に国内ニュースが多い。毎日、コロナ禍に関するニュースと、芸能人のゴシップ、国内政治等のニュースばかりが取り上げられ、米中冷戦については他人事であり、介入しないという姿勢だ。

元々、海外ニュースの報道には積極的ではないが、米中冷戦には更に複雑な問題がある。米国は中国に敵対しており、米国発のニュースを流すと中国を批判することになり、中国発のニュースを流すと米国を批判することになる。米中冷戦のニュースを報道するには、マスコミ各社が自社の姿勢を明確にしなければならない。

同様に日本政府も明確な姿勢を示していない。これまでは安全保障は米国と連携し、経済は中国と連携してきた。経済より安全保障が優先されるので、基本的には米国支持だが、政府内にも親中派や中国生産依存の財界に忖度して明確な主張ができない。本来ならば、政府が明確な姿勢を示して、政府内の親中派や財界を説得しなければならないのに、説得せずに沈黙を守っているのだ。

英国は最初は親中の姿勢だったが、香港問題で明確に反中の立場を取るようになった。ファーウェイの採用も打ち切り、既存の設備も2027年までに他社と交換すると発表している。これが一般の国家の対応だろう。国際政治は常に変化しており、変化に対応しなければならない。旗色を鮮明にしておかなければ、何も発言できない。

政府が明確な主張をしないので、マスコミも自社の主張ができない。こうして曖昧で何を考えているのか分からない日本が出来上がっている。

3.我々は正常性バイアスに囚われている

「正常性バイアス」という言葉をご存じだろうか。人は、事故や災害にあうと、「あり得ない」「考えたくない」という心理状態になり、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価する特性を持っている。これを正常性バイアスという。

2014年韓国で起きたセウォル号事件では、乗船していた多くの高校生が「救命胴衣を着用して待機してください」という船内放送と「動かないでください」という乗務員の指示を守り、そのまま死亡してしまった。高校生達はSNSに不安な気持ちを書き込んでいたが、集団的に正常性バイアスが働き、その場に留まったものと見られる。

さて、我々は今現在、正常性バイアスに囚われていないだろうか。コロナ禍も大変だが、米中冷戦による経済問題は更に大変である。WHOもコロナ禍は2年以内に終息する希望を持っているという。逆にいえば、最短で2年ということであり、2年以上掛かるかもしれないということだ。それでも、時期が来れば終息する。

米中冷戦は、いつまで続くかは予測ができない。世界は2つに分断され、インターネットも2つに分断される。1つの地球というグローバリズムは確かに終わった。世界中の国々のあらゆる産業、ビジネスが影響を受けるだろう。

そんなことがあるわけがない。信じたくないという正常性バイアスは思考停止を招く。そして、じっと我慢していれば元に戻ると考えてしまうのだ。冷静に考えれば分かることが、考えられなくなる。自分に都合の悪い事象は見なくなる。そんな状況に陥っていないだろうか。

4.コロナ前からの変化を冷静に観察する

2019年10月から消費増税が行われた。安倍首相は以前から、リーマン級の不況が来ない限り、増税を行うと述べていた。市場に通貨が不足し、デフレが解消しない段階で消費増税すれば、消費が減速するのは当然である。しかし、これまで見てきた通り、日本政府や財務省は状況をみながら柔軟に対応することは苦手だ。一度決めたことは実行するし、一度実行したことは修正しない。

実は、コロナ以前に消費不況は始まっていた。そこに、コロナ禍がダメ押しした。その後、政府は自粛による休業の保証を少しだけしただけだ。まだ、消費増税に対する対策は打たれていない。

更に、米中冷戦が始まった。まず、5Gに関わるファーウェイ潰しだ。これだけでも、ファーウェイとの連携を進めてきた日本企業には大きな痛手である。続いて、米国は「クリーンネットワーク構想」を発表した。これが実行されれば、世界のインターネットは2つに分断される。これにより、日本と中国の通信は大幅に制限されるだろう。在中国の日本法人は、営業を続けられるのか、分からない。

更に、米国が本気で金融制裁を強化すると、中国は外貨不足となり、貿易ができなくなるのではないか。最近、中共が内循環経済を提唱しているのも、それを予測してのことだ。そうなれば、中国との貿易そのものが困難になる。こうした変化は米国の手の内にある。そして、米国の対中政策は我々のビジネスに直結している。

米国は日本政府や日本の財界に忖度することはない。詰将棋のように順序を考えて法律をつくり、制裁を強めている。今だ解決していない国内要因に加え、海外要因も加わる。全てが経済にマイナスの要因である。対策が状況変化に追いついていない。それなのに、まだ動けないで沈黙を続けている。

冷静に考えれば、世界恐慌が起きても不思議ではない。しかし、正常性バイアスが足を引っ張っている。「世界恐慌なんて起きるわけがない」と信じている。我々は浸水して傾きかけた船に乗っているのかもしれない。

image by:Drop of Light / Shutterstock.com

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