新型コロナウイルスの感染拡大により大きな痛手を被った外食産業。一方で、テイクアウトやデリバリーを手掛けるお店には追い風となっています。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』では今回、これからの飲食業のあり方として注目を集める「ゴーストレストラン」のビジネスモデルを解説。成功のための秘訣を探っています。
ゴーストレストランはなぜ、コロナ禍の中伸びているのか?~アンバンドリングの仕組みでモデルを創る!
先日、テレビで「ゴースト・レストラン」という飲食業の一業態を紹介していました。なんでも、お店の外には看板もメニューもなく、中には飲食をする場所もない、ということです。今回の特集では、この業態が、新型コロナウイルス感染拡大防止の消費動向の中で、どのように展開していくのか、消費者は受け入れるのか?背景にあるビジネスモデルは何か?今回も、理論と事例からひもといていきます。
ゴーストレストランとは何か?
ゴーストレストランとは、ゴースト、という名の通り、“実態を持たないレストラン”として、「実店舗を持たず」に、フードデリバリーサービスを利用して、商品を販売する営業形態を指します。そこで料理は作りますが、ウーバーイーツなどの宅配サービスを使い、宅配だけで稼ぐ、という仕組みの飲食業態になります。
朝日新聞によると、ゴーストレストランは“クラウドキッチン”とも呼ばれ、すでに米国や中国では知られた業態だったそうですが、日本では、これまでそれほど浸透していませんでした。そんな中、昨年できたゴーストレストラン研究所、という会社では、40平米という、比較的狭いスペースにキッチンがあり、そこで、中華料理や、タイ料理など、「9つ」の異なるゴーストレストランを運営しているそうです。
なんでも、タブレット端末9台を駆使して、宅配代行サービスのウーバーイーツなどから注文を取り、作り、配達する、といった流れでの運営です。一般の飲食店と違い、店内にテーブルや椅子もいらないことで、スペースをセーブでき、また、そのサービスのための人員も不要なので、その分の人件費もいらない、ということになります。
ゴーストレストランの背景にある仕掛けは何か?
ゴーストレストランを通常のレストランと比較してみると、人や食品を提供する工程、設備などを省くことで、毎月固定的にかかる費用を軽減できています。
このやり方は、元々売っていた焼肉定食を、顧客の需要に合わせ、定食としてセットになっていた、焼き肉、ごはん、スープ、漬物を、バラバラにして販売することで、ニーズに対応し、売り伸ばしができる、というビジネスモデルの、「アンバンドリング」の考え方に近いものがあります。
1000円カットのQBハウスが、洗髪や髭剃りなどのサービスを廃止し、髪を「切る」ことに専念した、あのやり方ですね。新しいサービスとして何かを足す、ということではなく、「不要なものを削ぎ落とす」という、iPhoneのような考え方です。こちらに踏み切っているのが、今の時代、この情勢にマッチしていると言えます。
ゴーストレストランは今度広がっていくのか?
こちらの会社では、昨年は月500万円を、売り上げるまでになったとのこと。そして、今年に入ると、新型コロナウイルスの感染拡大防止もあり、家で食べる人が増えたため、さらに注文も増えているとのことです。
新型コロナウイルスの収束もまだまだ不透明なこともあり、需要は急増していて、フランチャイズ化の相談もきているとのことが報道されています。まずは大阪にこのような拠点を増やし、3年で30~40拠点に増やしたいと考えているそうです。
この「店がなくても飲食店ができる」という動きが広がっているようで、「ゴーストキッチン」をはじめませんか?というサービスも出てきています。受注と配送の仕組みをIT上に持ち、キッチンを複数所有する会社が、飲食店の事業許可を所有する人たちに、「キッチンのスペースを貸します」ので、あなたもゴーストレストランを始めませんか?というものです。
一方で、「カプリチョーザ」などを運営するWDIジャパンが、自社の商品開発用のキッチンを使用して、この業態に参入してくるなど、競争も激しくなってきています。
ゴーストレストランはなぜ伸びているのか?
クラウドキッチン、ゴーストレストランは、なぜ、日本でもこのように伸びる兆しを見せているのでしょうか。まず言えるのは、「市場のニーズ」に敏感に対応していること。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、外出、外食を避ける傾向にあります。
しかし、食べる、という需要、また、自分で作るのではない食事、たとえば、時間がないとか、特別な時とか、が、同じように減っているわけではありません。消費者は、これらができずに困っているのです。外食がしたい、いつもと違う食事が食べたい、でも、買いに行ったり、作ったりはしたくない、というニーズです。ここに、何ができるか、と考えていると、このようなアイディアにたどり着きます。
また、食を供給する飲食店側にもニーズがあります。今、自粛傾向にあるため、自店舗に集客ができない、でも、自分でITを駆使して集客は難しい、という個人店のオーナーなど、困っている飲食店さんにとって、クラウドキッチンは、スペースも、集客の仕組みも、デリバリーも提供してくれるわけですから、売り上げを上げるチャンスです。
次店舗の前で、テイクアウトでランチボックスなどを、販売している飲食店さんも、同じものを、ゴーストキッチンの形態をアレンジして実施してみる、ということもできることになります。今は、ウーバーイーツだけでなく、出前館やLINEデリマなど、フードデリバリーサービスも増えてきました。また、それらを買う方のユーザー側も、デリバリーが普通の食事の仕方になってきています。
商品を売り伸ばすやり方は、いろいろとありますが、いい商品があれば、「売る場所」を追加することで、今までとは違うお客様に届けることができます。飲食店にとってみれば、このゴーストレストランのような形態は、売る場所=販路を1つ追加するようなもの。これをチャンスとみて、「やってみたい」と考える人も出てくるでしょう。
この事例から学べることは、やはりマーケティングは「ニーズ」を見つけること。そのためには、顧客視点になり、市場の変化に敏感であること、そして、気づきがあった時に、すぐに行動することの重要性が必須だ、ということを再確認できました。
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