ついに武力行使か?米中衝突の時計の針を一気に進めた中国の暴挙

 

次に【協調と均衡の崩壊】を表している例として【中東情勢の不安定化の加速】が挙げられます。

これは先週発表されたイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)との電撃国交正常化に端を発したもので、その波はオマーンやスーダン、バーレーンなどにすでに広がってきています。そしてその波がドミノに変わるか否かのカギを握るのがサウジアラビア王国の動向と言われています。サウジアラビアはアラブの雄を自任し、二聖モスクの守護者・管理者としてアラブ社会でリーダー的な役割を果たしていますが、それゆえに今回のイスラエルからの秋波に乗ってしまうと、それは“パレスチナ人を見放した”とアラブ世界から看做されかねず、それはアラブのリーダーとしての立場上アウトなので、今回のディールからは距離を置く姿勢を取っています。しかし、確実にアメリカからの圧力や、すでにイスラエルと国交があるエジプトやヨルダンからの影響もあり、今後、他国の動き次第では、ドミノは一気に倒れるかもしれません。

ところでこの“ドミノ”、何のドミノだと思いますか?確実に言えることは、アメリカとイスラエルが仕掛けるイラン包囲網の強化です。イランからの攻撃の可能性を仄めかされ(イランによるサウジアラビアの油田施設への攻撃後)、UAEはしばらくイランへの攻撃・非難を止めていましたが、地域に反イランのイスラエルの“後ろ盾”を得ることで、再度、イランからの脅威に対抗する態勢を取ることにしたようです。

同じような心理は、サウジアラビアにも根強くありますし、他のアラブ諸国も同様のようなので、各国とも“イスラエルかイランか”というまたfalse choiceともいえる2択に直面しています。

もちろんその危険性と意図を理解して、イランとトルコは大反発しています。シリアでの天然ガスパイプラインの爆発(8月24日)、相次ぐイラン国内の核関連施設の火災などは、イスラエルによるテロではないかと、イランは主張しています。

トルコについては、中東の再編は自らの手で行いたいと狙っていたエルドアン大統領の企みが、このイスラエルを軸にした再編の試みが拡大すると潰され、トルコがまた不思議な立場に置かれる(そしてエルドアン大統領の覇権は終わる)ことを非常に警戒し、ここにきて、サウジアラビア王国がイスラエル“連合”に加わるのを阻止すべく、以前、迷宮入りしたカショギ氏殺害事件の“証拠映像と音声”を盾にMohamed Bin-Salman皇太子に圧力をかけているようです。

アメリカからの過度の介入と、やはりイスラエルは信用できないというサウジアラビア王国の心理ともシンクロして、今のところは、大きなドミノにはなっていませんが、今後、イランやトルコの出方次第では分かりません。

その危険性を察知したのでしょうか。イラン政府は公式に、これまで【欧米の陰謀だ!】と拒み続けてきたIAEAの査察を限定的に受け入れることで合意するというカードを切ってきました。このことで国際社会からの支持を得つつ、国連で常任理事国の一角を担う中ロ政府と、親イランのフランスからの支持を取り付けて、イランへのシンパシーを作り出そうとしているようです。

どうしてここまでイランが危機感を抱くと思いますか?

これまで数週間にわたって米中対立の激化の危険性についてお話ししてきました。中には核ミサイルが飛び交うシナリオまでありましたが、実際に米中間での武力衝突が起こるケースはあまり現実的ではないと考えています。

また時折話題に上る北朝鮮の核開発と軍拡についても、アメリカ政府と同盟国は、国連安保理決議違反を理由に武力行使の可能性を匂わせて威嚇こそしますが、こちらも100%ないとは言えませんが、トランプ大統領にとってはpriority number oneではないと思われます(もちろん、韓国の文大統領がまた一人で張り切って、アメリカを激怒させなければというbig IFと、北朝鮮が読みを誤って核実験やICBMのテストをしなければというanother big IF付きですが)。

今、アメリカが本気で戦争する気があるとしたら、特に11月3日に控える米大統領選挙に向けて時間がない中でもあえて武力行使に踏み切るとしたら、そのターゲットはイランになるだろうと思われます。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

print
いま読まれてます

  • ついに武力行使か?米中衝突の時計の針を一気に進めた中国の暴挙
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け