そして米中衝突の可能性が一気に上がったのが、8月26日に実施された中国軍による南シナ海(西沙諸島と海南島の間の海域)への弾道ミサイル発射でしょう。当初2発と伝えられましたが、実際には4発発射され、そのうち少なくとも1発は“グアムキラー”と呼ばれるDF26ミサイル(グアムまで届く射程4,000キロの中距離弾道ミサイル)であったことと、少なくとも1発が“空母キラー”と呼ばれるDF21Dミサイル(海上の空母を攻撃できる射程1,500キロの弾道ミサイル)であったことで、中国の本気度(威嚇に対して一歩も退かない)が示されたと思われます。また落ちた海域を見てみても、南シナ海問題にも、最大案件の台湾を巡る争いにも、的確に対応できることを示していますので、これはアメリカが活発化させている台湾と南シナ海における威嚇行為への示威行為と考えられます。
アメリカ、特にトランプ大統領がこれをどう捉えるかにもよりますが、もし明らかなアメリカへの敵対行為であり、このミサイル発射を同海域における偶発的な攻撃と看做した場合には、米中間での南シナ海海域を舞台にした武力衝突も起こり得ます。
しかし、仮に南シナ海で交戦があった場合、アメリカ軍にとっては余裕の戦いとは言えないかと思います。アメリカ軍の攻撃が遠方から飛んでこなくてはいけない爆撃機による戦いと空母からの戦闘機による空中戦と爆撃、そして海軍によるミサイル攻撃という戦い方になるのに対し、中国は地の利を生かし、戦闘機からの弾道ミサイル発射も可能ですし、すでに南シナ海の諸島には様々な軍備が設置されていることから、さまざまな作戦展開が可能だと思われます。ゆえに、簡単には決着しない戦争に、再度、アメリカが泥沼に足を突っ込む羽目になりかねません。もちろん、世界を終わらせるくらいのつもりで大量破壊兵器が投入されたら話は別ですが…。
これまでアメリカなどからの一方的な軍事力の押し付けが行われてきましたが(中国政府の認識によると)、これを機にOne China; One Asia構想の下、中国がアジアでの覇権獲得を狙って賭けに出たとも言えるかと考えます。これもCOVID-19前までは米中間で緊張が高まっても、南シナ海における両国艦船が並行して航行することで暗黙の力の均衡を保ってきていた状況を、コロナを機に一気に中国サイドが“アジア人によるアジアの確立と欧米からの脱却”を旗印に、大いに拡大し近代化された軍備と圧倒的な経済力を持って、アジア地域の力関係の再編と確保に乗り出したと思われます。
新型コロナウイルスの感染がまだ収まらず、かつ第2波、第3波の到来が恐れられる中、協調の下で隠されていた各国の思惑が表出し、微妙なバランスの下で成り立ってきた均衡が破られようとしています。
国連の定義では中東は“西アジア”という表現をされることもありますが、まさにイランから日本に至るまで広く広がる“アジア”を核にした再編が始まっていると考えます。
その帰結がどのような形になるのか私にはまだ分かりませんが、コロナ前に言われていた【21世紀はアジアの世紀】という定義は、これまで予想されていた経済的な意味合いとは別の形で、現実化するのかもしれません。
皆さんはどうお考えになりますか?
国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ
image by: U.S. Navy - Home | Facebook