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石破は堂々、菅チラ見、岸田ゆらゆら。総裁選「演説」をプロが辛口分析

辞任を表明した安倍晋三首相の後を引き継ぐ、次期首相を決める自民党総裁選の立候補者が3人出揃い、論戦がスタートしました。8日に自民党本部で「立会演説会」がおこなわれましたが、石破、菅、岸田各氏のスピーチは、「話し方のプロ」の目にはどのように映ったのでしょうか。経営者やトップアスリートにスピーチトレーニングをおこなっている「スピーチのプロ」森裕喜子さんは、自身のメルマガ『スピーチコーチ・森裕喜子の「リーダーシップを磨く言葉の教室」』の中で、今回の立会演説会を「言葉」と「話し方」という視点から徹底分析。御三方のスピーチから、どのような人柄とリーダーとしての資質が垣間見えたのか、称賛と批評を織り交ぜながら解説しています。

自民党総裁立候補者3人「立会演説会」徹底レビュー

9月8日午後、自民ポスト安倍総裁選の「立会演説会」「共同記者会見」が行われました。仕事の合間を縫ってなんとか観ることができたので、まぐまぐでレビューをしよう!と思いまして、即レビューの号外をお届けします。

「NHKプラス」という便利な機能がありまして、そこに登録すれば見逃した放送も観ることができるんですね。誠にありがたい限りです。

今回の演説で最も大切なことは「政策」ですが、このメルマガでは「トップリーダーを目指すお三方がどんな風に何を話したか」、その最も記憶に残った「言葉」と「話し方」について考察します。

ですので、政策内容を重視する方や、立候補者選びを実際にされる方には、ほぼお役に立たない記事かもしれませんので、その点、あらかじめお伝え申し上げます。

一国民として、国を担おうとするリーダーは国民にどう語るのか、またリーダー層のスピーチをマンツーマントレーニングする立場として世のリーダーの皆様に何かお役に立てれば、という視点でお届けするものです。

立候補されるすべての方に敬意を払いながら、「伝わるリーダーとは」の視点で書いてまいります。何卒よろしくお願いいたします。

それぞれのスピーチは? プロの目線で批評

場所は永田町、自民党本部の上階にある講演会場です。かつて私も足を運んだことがありますが、それほど広くはなく、小さめの公会堂のような雰囲気で、ちょっとレトロさも感じました。

テレビ放送を見る限り、席にはディスタンスを取った関係者がパラパラと座っている感じですね。決して聞き手が詰めかけている熱い雰囲気ではありませんが、登壇されるお三方にとっては人生を掛けた1時間。マグマがふつふつ燃え上がるような気分で登壇されたことでしょう。

お一人の持ち時間は20分。1分過ぎるとベルが「チーン」と鳴る仕組み。プロンプター無し、演壇に手元資料を持ち込んでの演説でした。

そもそも「スピーチ」ではなく「演説」と命名されているところが政治の世界らしいですね。

石破 茂氏のスピーチ評

トップバッター。ステージ上の席を立ち、お辞儀、小さめのメモを演壇に置いてから演説が始まりました。声量がすごいですね。普段わりとボソボソ、つぶやきながらも鋭い眼光と言葉で刺す、あのコメントぶりとは、別です。

選挙期間中に街頭で演説されるお姿は拝見したことはございませんが、きっとこの迫力で訴えておられるのでしょう。野太い声、時に両手のジェスチャー、です。

少し鼻声でいらっしゃる。この辺りに、高い緊張感が出ています。内容は「これが私が考えるあるべき政治だ」。地方創生、コロナ対策、特措法の改正、防災省の必要性。国のあり方を見直す、「グレートリセット」という言葉が政策のキーワードのようでした。

石破さんのスローガンは「納得と共感」。正式立候補前からメディアで繰り返しお話になっているキーワードですね。ポスターもお作りになりました。一般人には馴染みやすい言葉です。

「トップリーダーは相手を説得できる話を!」などと、かつては言いましたが、いまや「説得」は古いと思います。だって、誰も説得されてまで動きたいと思わないのでは、と感じるからです。「説得」するより、自分で「納得」して動きたい。これからは「人を動かす」ではなく「人が動く」だと思います。その点では「説得力と支持」ではなく「納得と共感」にされたのは、時流をつかんだ言葉選びであると思います。

会場に響き渡ったであろう声量と大きなジェスチャーで、時間をちょっとオーバーして演説を終了されました。途中、手元原稿をご覧になったのは数回あったかないかくらい。会場の聞き手に向けて発信していらっしゃいました。

20分、短く感じました。側で聞いていたほか2名の方のお姿も時々映りましたが、菅さんは落ち着いた感じ、岸田さんはナーバスにちょっと動きが多い雰囲気でした。

菅 義偉氏のスピーチ評

官房長官としてお話ししているときよりも、しっかりお声が出ている印象。時間にすると半分くらいは手元原稿を見ながらの演説。冒頭は、ご自身の実績。そして生い立ち。

今回の演説ハイライトは、ここからでした。秋田の農家に育ち、高校を出た後、東京に来て工場で働き、2年後に大学進学、世の中が見えて来て26歳で政治家秘書に。38歳で横浜市議に当選、47歳で国政へ。

ゼロからのスタートをし、総理を目指している今を50数年前に上京した際には想像もできなかった。「私のような一般人でもここまで来ることができたのです」菅さんの立身出世ストーリーが、今また新たな展開に入ろうとしている。「ジャパニーズドリーム」とでも言えますでしょうか、人々からの共感が湧き上がりそうな流れの構成です。もしかするとスピーチライターがいらしたのかもしれません。

その後、再び政権についてのお話でした。立身出世ストーリーで締めた方が盛り上がったかも? お話しぶりは、とつとつと、でも、熱い思いが伝わってくる印象。ジェスチャーはゼロです。菅さんらしい感じです。

途中、水をお飲みになったご様子。一世一代の立候補スピーチ。いつもの官房長官会見とはちがう熱が入っていらっしゃいました。

「しっかり挑戦していきたいと思います」

しっかり、というのは安倍総理が最も使う形容詞。「しっかり」って、どういうこと? そこをお話しいただきたいなあといつも思っていますが、形容詞を使うと一気に言葉の力が落ちる気がします。なぜなら、しっかりとは何がどういうことなのかがわからないからです。

締めの言葉は「国民のために働く内閣を作りたいと思います」。次はぜひ「作ります」と言い切っていただきたい! リーダーが決意を表明する際に「思います」と言ってしまうと、「思ってるだけでやらないかも」と聞こえるからです。※これを「思います禁止令」とずっと前から私は命名しております。

唯一、時間オーバーなしで完了された菅氏。原稿を見ないでお話になったら、もっと「自分の言葉」が感じられたと思いました。

岸田 文雄氏のスピーチ評

image by: 切干大根 / CC BY-SA

外相時代から、お殿様のような雰囲気を感じておりました、岸田さん。

キーワードは「聞く力」。テレビ映りもお三方のうちでは一番ではないでしょうか。

ワイドショー情報ですが、岸田さんは人の悪口を言わないのだそうです。清廉潔白なイメージが、お姿からも漂います。ですが、正式立候補前にメディアに露出した時点からちょっと気になっていたのは、お話しされる際に「え~、あ~」「その~」という唸り、つまり、言葉のヒゲ(と呼ぶのです)が時折見られるということです。

美声でわかりやすいお話ぶりでいらっしゃるのですから、ヒゲがなければ……と思ってしまいます。あ~う~、が出ると(故田中角栄氏は別として)どうしても、言い淀んでいる印象になるため、決断力が弱まる感じがするのです。

とっさの質疑応答なら考えながら話すため、少し出るのは仕方ないのですが、今回は準備に準備を重ねてのご登壇のはず。ならば、ズバッと言い切り、ヒゲは無し!と決定力をお見せいただきたいと思いました。

それから、今回は相当緊張されていらしたのでしょうか、声が心なしか上ずっていらしたような。それもそのはずです、一世一代の場ですから。ものすごいパワーが内側から湧いていらしたのだと思います!

また、体の軸が終始揺れていらっしゃいました。片足に重心を乗せ、すぐに反対足に重心を移す。会場で見ればそれほど気にならない可能性ありですが、テレビ画面で見ると体が揺れ、顔が動いてしまうのでせっかくのテレビ映りが「安定感がない」と取られてしまう……と思いながら、拝見しておりました。

両手で自然なジェスチャーをしながらのお話でしたので、アクティブと言えばそうとも言えますけれど。

キーワード「聞く力」は、石破さんも岸田さんも、わかりやすさからして、国民に向けた言葉のように思いました。国民が投票できる選挙なら響きますが、今回の選挙戦ではどうなのでしょう。

時間オーバーしながら、最後は「みなさんと政治を前進させるために」と締めていらっしゃいました。なんだかこちらも心臓がばくばくしながら、拝見した次第です。

立会演説会、1時間。中身の濃い時間でした。

共同記者会見の様子は?

立会演説会の1時間ほど後に、共同記者会見が行われました。会見なので、座ってお話。演説のときよりもお三方落ち着いた雰囲気です。

まず、ちょっと余計な考察ですが、3名のお席が「三密」すぎる! 長テーブルひとつに全員着席です。ディスタンスなし。透明フィルムのパーテーションがしつらえてあった模様ですが、あれで仕切りの役割を果たせているのかしら?

さて、会見でのお話ぶりです。

石破さん

一言ひとことに「発した言葉に悔いなし!」という意志が感じられるのが石破さんの個性。語尾のいい切り方が強いので、私としては聞いていてゾクゾクします。リーダーは言い切ってこそ、ですから。

ここは私のかなり勝手なコメントですが、もしもこの方が総理になられたら「石破総理、いいお話ぶりでした!」と逐一分析してお伝えしたい。トップの方は「自分の話がどうだったのか、指針がほしい」とおっしゃるので、必要ないかもしれませんが、毎度の露出レビューいたします。

菅さん

官房長官時と同じ雰囲気のお話ぶり。いつも原稿を見ながらお話になりますね、下を見て話す、ということになる。

一般に、目線が下向きになっている話し手は「なんだか元気がない?」という印象になります。だから手元原稿に頼って話すと伝わりにくいのです。三密なお席の真ん中に挟まれて座る菅さんのお姿を見ながら、そんなことを考えました。

岸田さん

演説よりも記者会見では明確にお話になりました。クールで落ち着いたイメージがある方なので、熱い演説だとご自身でもヒートアップしてしまわれるのかもしれません。

御三方は記者からの質問にどう答えた?

この会見で興味深かったやりとりがひとつ。

記者の方からの質問:「総理としての会見(ぶら下がりなど含む)、トップとしての発信はどうするか?」

石破氏:メディアは国民を代表している。かつて大臣などのポストにあったときには、私は手が上がらなくなるまで質問を受け付けた。国民の納得が5割を超えなくてはいけないと思う。

菅氏:内閣の発信は官房長官が担うものだ。

岸田氏:できるだけ多くの質問に答えていく姿勢を持っていく。

ぜひ、国民に向けてメッセージを出していただきたいです。今回のコロナ危機でも、安倍総理は「メッセージ」をあまり感じられませんでした。

エリザベス女王やニュージーランドやドイツ、カナダ、イギリス等の国の首相は、もうしょっちゅうメッセージを出しておられました。ご自身でスマホ自撮り動画なども出していたくらいです。

危機の時こそ、リーダーの言葉が効くのです。ぜひ国民に直接届く発信をお願いしたい!

さてさて、長々と書いてまいりましたが、この辺で終了いたします。

政治家の方の話しぶりの特徴などについても書きたいと思ったのですが、それはまた別の機会にいたしますね。

本気のリーダーの話を聞けるのは嬉しい! 新たな時代づくりのトップリーダーを心から応援いたします!

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森裕喜子この著者の記事一覧

清泉女子大学英文学科卒後、大手印刷関連会社で勤務。その後、ジャズボーカリストの夢を叶えるが、挫折。外資製薬会社に転職しマーケティング部でハードな業務に取り組む中、外国人のスピーチやプレゼンに多く触れ、日本人リーダーの発信力向上の必要性を痛感。30年以上に渡る声の経験にマーケティング、イメージコンサルティング、コーチング、リーダーシップ各論を掛け合わせ、2011年「ボイスイメージ®コンサルティング(VIC)」メソッドを開発して独立。業務で聞いたクライアントのスピーチプレゼンの数は1万回以上(延べ数)。顧客の可能性を引き出すスパルタトレーニング、わかりやすい理論と分析、柔軟に対応できるコンサルティングを得意とする。

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