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卵でとじない。信州名物「駒ヶ根ソースかつ丼」のディープな世界

かつ丼と聞いてほとんどの方が思い浮かべるのは、出汁卵でとじたカツの上に三つ葉を散らした丼ですが、信州駒ヶ根では勝手が違うようです。今回の無料メルマガ『郷愁の食物誌』では著者のUNCLE TELLさんが、「駒ヶ根ソースかつ丼」の歴史や9つの規定など、そのディープな世界を紹介しています。

信州のご当地丼「駒ヶ根ソースかつ丼」

諏訪湖周辺から伊那谷を天竜川に沿って走る国道153号線は、人呼んで「どんぶり街道」。その街道の名主(?)達が、もうだいぶ前のことになるが「信州・天竜川どんぶり街道の会」を結成、連携し研鑽を深めているようだ。

その丼たちを何回に分け紹介する予定だが、今回は、どんぶり街道の盟主(?)ともいうべき駒ヶ根のソースかつ丼の物語である。県内の人で今や駒ヶ根のソースかつ丼の存在を知らない人はいないくらい知名度抜群である。

全国にも知られた県内ご当地丼の元祖といわれる「ソースかつ丼」。駒ヶ根・伊那谷を飛び出し県内全円に広まり、どこの町でも食べられるポピュラーなものになって来ている。どんぶり街道の会に属する伊那市もソースかつ丼をメニューとして標榜しているが、名前は単に「ソースかつ丼」。「駒ヶ根ソースかつ丼」は、元祖の誇りも高き強力なブランドなのである。その駒ヶ根ソースかつ丼、2007(平成19)年には、全国のB級グルメが集う祭典に出品し、第8位という好成績を収めるなど実力もアップして来た。

駒ヶ根ソースかつ丼は、アツアツの飯の上に千切りのキャベツを乗せ、その上に揚げたてのトンカツを秘伝の特製のソースにくぐらせ乗せたもの。簡潔な料理ながら、アツアツのかつと冷たい千切りキャベツの歯ざわり、それらにから絡む甘辛味のソースがなんとも絶妙。分厚い豚ロース肉の味もひとしお、一度食べたらクセになると、B級グルメとしての評価もすこぶる高い。

ではこの駒ヶ根ソースかつ丼がうぶごえを上げたのはいつなのか、脚光を浴びるようになったのはいつ頃なのか。実は私は、仕事の関係で、昭和53年から昭和55年(1978~1980)まで、駒ヶ根市内で暮らしたことがあるが、この時は職場でも、ソースかつ丼が特に話題になるということも、全市的に広がりがあるというもなかったと思う。

私は知らなかったが、駒ヶ根ソースかつ丼公式サイトを見ると、駒ヶ根ソースかつ丼のパイオニアは、喜楽という店の初代店主、市瀬正一氏らしい。始まったのは昭和初期、昭和ひと桁時代とも、また10年代とも。当時、地方の町でも洋食がブームに。カツライスをもっと庶民的にと「丼」にアレンジしたのが始まりとも伝えられている。以来、長い間、特に全市的には普及することはなく1、2の店でささやかにその調理法・伝統が受け継がれて来たのではと思われるが、平成に入って以降、急速に広まっていったのではないか。

全国的にかつ丼といえば、「卵でとじたかつ丼」=「煮カツ丼」が一般的だが、伊那谷、特に駒ヶ根・伊那市一帯では、ご飯の上にキャベツを敷き、その上に揚げたてのかつを特製ソースにくぐらせ載せた「ソースがかかったかつ丼」を指す。店で「かつ丼!」と言えば、間違いなくこの「ソースがかかったかつ丼」が出てくる。だから、若い人など駒ヶ根近辺の人が都会に出て、初めて卵とじの煮かつ丼を食べ、その新しい(?)スタイルと味に小さなカルチャーショックを受ける人も少なからずいるとか…、という話もある。

かつて、まだ太い大きな流れにはならないソースかつ丼の系譜が脈々と続いていた駒ヶ根市にも、主流派ともいうべきかつ丼(卵とじかつ丼)が進出してきた時期もあった。しかし1992(平成4)年、自分たちのかつ丼アイデンティティーを取り戻そうと有志が集い、それまで当たり前のように「かつ丼」と呼んでいた「ソースがかかったかつ丼」を「ソースかつ丼」と命名、翌1993年に「駒ヶ根ソースかつ丼会」を結成し、食のルネサンスに取り組んだとか。

爾来、ソースかつ丼会加盟店における味の研鑽、共同PRなど、地道な努力が実り、徐々に「駒ヶ根市=ソースかつ丼の街」として定着してきた。このソースかつ丼、材料もさることながら、味の決め手は特製のソースに有る。かつの旨みを生かしながら、その下のシャキシャキのキャベツ、ご飯とも絶妙に合う。かつ丼の味はむろん加盟店相互で微妙に違う、そこが競争切磋琢磨、いかにお客さまに受け入れられるか、各店主の腕の見せところ。

現在、駒ヶ根ソースかつ丼会には飲食店を中心とする44店が加盟。会員はお客さまのためのソースかつ丼規定を作り活動している。なかなか興味深いのでその規定というのを紹介してみよう。

お客さまのための駒ヶ根ソースかつ丼規定

 

其の一 器は丼に限定する。

其の二 ソースかつ丼の肉は豚肉のロースを基本とし、120グラム以上とする。

其の三 かつはパン粉を付けて揚げたものでなければならない。

其の四 キャベツは細かく切って水に浸してから水分を切って丼の飯の上に載せる。

其の五 かつを揚げる油については油脂は自由としても良いが、揚げかすは必ず取り、汚れた油では揚げない。

其の六 ソースはソースかつ丼会で作ったものを最低基準とし、これに工夫することが望ましい。

其の七 かつを揚げてソースを潜らせる時、ソースも温めておき、揚げたてのかつをそのままソースに潜らせて切って飯に載せても、切ってからソースに潜らせて飯の上に載せても自由とする。

其の八 海苔等はソースかつ丼に載せない。また、キャベツ以外の野菜は載せない。

其の九 蓋は自由とする。

豚のロース肉120グラム以上なんてのは細かいが面白い、ところでソースかつ丼会に入会に際しては審査があるのか、上の項目に違反した店が出てきたらどうするかなど、ネット上ではちょっとわからない。会スタートから20年以上、加盟店数などは大きな変動はなさそうだが、そのエリアは近接の宮田村、飯島町の店も含まれるようである。

image by: Shutterstock.com

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団塊の世代以上には懐かしい郷愁の食べものたちをこよなく愛おしむエッセイです。それは祭りや縁日のアセチレン灯の下で食べた綿飴・イカ焼き・ラムネ、学校給食や帰りの駄菓子屋で食べたクジ菓子などなど。

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【著者】 UNCLE TELL 【発行周期】 月刊

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