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読売新聞の論調に変化? 核ゴミ処分問題報道は「原発礼賛」せず

原子力発電所から出る「核のゴミ」と言われる使用済み核燃料の最終処分場の候補地として、北海道の寿都町と神恵内村が第1段階の「文献調査」を受け入れると表明しました。にわかにニュースを賑わす「核のゴミ」問題ですが、実はタイムリミットは迫っており問題も山積みです。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、読売新聞も「核のゴミ」問題を語るときには「何が何でも原発」との主張に迷いが生じていると分析。「脱原発」に舵を切ったとしても逃れられない問題の深刻さについて解説しています。

読売新聞は「核のゴミ」をどう報じてきたのか?

きょうは《読売》の記事からキーワードを拾います。「核のごみ」あるいは「核のゴミ」が大きな問題になりそうですので、まずは《読売》のデータペースで検索を掛けてみましょう。

記事の中で使われる場合、《読売》は「核のゴミ」としていて、カタカナで「ゴミ」と表記。他の3紙はいずれも「核のごみ」と平仮名で表記している。ただ、反対運動の団体名やプラカードに書かれる場合には「核のゴミ」となっている場合が多いので、3紙がそれらを引用する際には、「核のゴミ」とカタカナで表記するため、1つの記事の中で併用される場合もあるようだ。きょうは《読売》の記事から始める形なので、当メルマガも「核のゴミ」と表記することにした。

《読売》にはサイト内検索と記事検索があり、「核のゴミ」で検索すると前者は29件、後者は70件ヒットした。後者は、この1年間、平均で1週間に1本以上、「核のゴミ」に関する記事が紙面に載ったということを意味する。サイト内の最も古い記事は17年3月のものなので、前者の検索で拾った記事、つまりサイトに残った記事は3年半の間に29本、平均すれば月に1本もないということになるが、逆に、《読売》の主張や取材ものが多く含まれている可能性があるので、こちらを中心に見ていく。まずは「核のゴミ」に関する今日の記事。1面と3面の記事の見出しから。

(1面)
各処分場 寿都町応募へ
文献調査 神恵内村 近く表明

(3面)
核ゴミ議論 拡大契機に
2町村名乗り
処分場選定 待ったなし
原発の将来明示 政府の課題
核燃料サイクルも左右

1面は寿都町と神恵内村が応募するという本記のみ。3面は解説記事「スキャナー」で、2町村の応募によって、「長年の膠着状態が一歩前進した」と評価しつつ、住民の反対が根強いので「候補地決定に至るには不透明感も大きい」としている。

過疎化が止まらない2町村の状況、受け入れを拒否する北海道の条例の存在、反発する住民による住民投票の動き、文献調査だけで20億円が交付されることを巡って「交付金も目的の1つ」と明け透けに語る町長、など、今回の立候補が候補地選定につながるか、まさしく不透明な状況が、手際よく説明されている。

政府はカナダをモデルケースとして、時間をかけて候補地を決めようとしているが、実はタイムリミットは迫っている。廃棄物は既にガラス固化体2万6千本分で、建設予定の埋設量の半分近くに及んでいる。しかも2045年には、今六ヶ所村で「中間貯蔵」されている2500本を搬出しなければならない。

《読売》は日本のエネルギー政策全体にかかわる問題として、最後のブロックで議論を展開している。政府は2030年度の望ましい電源構成として原発の割合を20~22%としているが、原発が引き続き稼働すれば、その分、「核のゴミ」が生まれると。再生エネは「脱炭素」のために重視されているが、「再生可能エネだけで充分な電源を確保する道筋は確保されて」いないと。つまり、原発は必要だが、動かせば「核のゴミ」が増えるということになる。

核燃サイクルも、「原発が充分に活用されなければ、生産された核燃料は行く場を失いかねない」とする。「政府は最終処分場の選定に並行し、国民に納得感のある原発の将来像をしっかりと示すことが課題となる」と結論付けている。

●uttiiの眼

《読売》流ながら、非常に手堅く、全体状況をまとめた記事。しかし、最後の結論は何を意味しているのか分からない。原発を使い続けることを国民に納得させろとけしかけているのか、それとも、「脱炭素」とともに「脱原発」も果たし、再生可能エネだけで電力需要を賄う展望を示せと言っているのか。曖昧さが残る。

穿った見方かもしれないが、《読売》がこうした点で何が何でも原発…と言えなくなっていることが重要なのかもしれない。少なくともこの記事を書いている記者には、健全な迷いがありそうだ。

関連記事など

読売オンラインのサイト内検索がヒットした29本の最古のものは…と記事を見てみたが、なぜか「古い」ほうの数件は「核のゴミ」と無関係の記事。ブラウザーの画面検索を掛けても「核のゴミ」は出てこない。どうなっているのか?(その後も無関係の記事はリストアップされており、都合7件が無関係。本当にヒットしたのは22件だった)。結局、一番古いのは「よみうり時事川柳」に載った読者の作品。そして、実質的には次の記事。

2019年9月24日付「解説スペシャル」
政府とNUMO(原子力発電環境整備機構)が候補地を探して日本中を行脚しているという話。

*その次はもう今年の8月末に飛ぶ。

2020年8月28日付
寿都町の片岡町長が、廃棄物の受け入れに否定的な道の条例について、改正も視野に議論すべきだとの考えを明らかにしたとのニュース。鈴木知事は、記者会見で、条例改正の必要はないとの考えを示したという(道は、幌延町の深地層研究センターを受け入れた時に、将来最終処分地にされてしまうのではないかという住民の不安を払拭するため、「特定放射性廃棄物は受け入れがたい」という内容の条例を施行した)。

*9月に入り、原子力規制委が六ヶ所村にある高レベル放射性廃棄物の「中間貯蔵移設」の安全対策を「妥当」と認めたことを受けて、解説記事。東電と日本電源の2社は、当面、原発敷地外に「核のゴミ」を排出できるメドが立ったことになるとの位置付け。それでも「仮置き場」に過ぎないとして、乾式貯蔵を紹介している。

*その後、寿都町町長と経産相、北海道知事との会談、寿都町住民への説明会、神恵内村の説明会、神恵内村の議会での請願採択などのニュース。そして…。

2020年10月8日付
寿都町の町長宅に火焔瓶のようなものが投げ込まれる。町長が文献 調査に応じる旨表明するのを妨害しようとしてのことか、70代の 男性町民が取り調べを受ける(その日のうちに逮捕)。

●uttiiの眼

寿都町住民の激しい反発と比べると、神恵内村は少なくとも表面上は「冷静」に文献調査に進んでいるように見える。既に大量の高レベル放射性廃棄物が生じている以上、仮に政府が「脱原発」を掲げることになっても、処理の問題は消えることがない。何らかの処分方法を考えなければならない。

《読売》は包括的に問題を捉えているように見えるが、行き着く先は、どこかの過疎の自治体か無人島のようなところに「核のゴミ」を押しつけること以外には、乾式貯蔵について僅かに言及するのみとなっている。そもそも日本のような場所で地層処分は正しい選択なのか、数万年以上も管理し続ける前提は妥当なのか、もう一度考え直す必要があるはずだ。

image by:TK Kurikawa / Shutterstock.com

内田誠この著者の記事一覧

ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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