去る8日に総務省でおこなわれたという、総務大臣と一般の携帯電話利用者たちとの「意見交換会」。しかし、その顔ぶれや中身が「なかなか香ばしい」様子だったようです。メルマガ『石川温の「スマホ業界新聞」』の著者でケータイ/スマートフォンジャーナリストの石川温さんは、この意見交換会のニュース記事を読んで違和感をおぼえた事柄をあげるとともに、大手キャリアの値下げによる価格競争がなかなか始まらない原因について厳しい意見を述べています。
武田総務相が携帯電話利用者と“香ばしい”意見交換会━━そこそこ使うくせに「高い」と文句を言うのは難癖?
10月8日、総務省で武田良太総務相と携帯電話利用者の意見交換会が開催された。会は非公開で行われるということで、取材には行かなかったが、ITmediaの記事によれば、冒頭部分の撮影と終了後、総務省の担当者からの説明はあった模様だ。
ITmediaの記事を読むと、なかなか香ばしい意見交換会だったようだ。
そもそも参加したのはシングルマザー、主婦、シニア、消費者、フリーランスを代表するという人たち。ただ、フリーランス代表は「クラウドソーシング協会 事務局長」でありながら「株式会社パソナ 営業総本部 シニアマネージャー」という人だったりするので、本当にフリーランスの意見が反映されているのか、かなり怪しい。
交換会の中で気になったのが「Zoomを使うと容量を消費する。通信費が高いのでなんとかして欲しい」という意見だ。そもそも、オンライン会議という動画を流すサービスを利用しているのに「月末になると速度制限になるから安くしてくれ」というのは主張として無理があるのではないか。
Wi-Fi環境を選んで使えばいいという話だし、そんななか「公衆Wi-Fiだとセキュリティが心配だからスマホのテザリングを安く使いたい」という意見もあった。ただ、「Wi-Fiはセキュリティ面と引き換えに無料」なのであるし、「スマホのテザリングは安全と引き換えにコストが発生している」というのをしっかりと理解した方がいいだろう。
また、シニアからは「サポートをしっかりして欲しい」という意見もあったようだが、今の携帯電話料金は、ショップ店頭やコールセンターなどのサポートも含まれての料金体系だ。意見をしているシニア代表は、値下げと引き換えに「サポートは有償」を受け入れる覚悟はあるのか。
「料金体系が分かりにくい」という意見があったが、確かに「光回線とのセット割」「家族での複数回線割引」を全面に押し出してのサイトや広告は、必ずしも分かりやすいとはいえない。
ただ、このあたりを規制しようとすると、総務省はまじめ一辺倒のルールにしがちで「複数回線割引や光回線とのセット割引、期間限定の割引は一切禁止」という明後日の方向を向いた規制になりがちなので注意が必要だ。キャンペーンや割引は競争であり、おおいにやるべきなので、総務省は間違っても、競争を停滞させる方向にすべきではない。
確かにキャリアの分かりにくい表記方法に問題があるのは間違いないが、一方で、消費者が「わかろうとしない」のも課題だろう。
積極的に月々の支払いを安くしようと思えば、MVNO(格安スマホ)やサブブランドという選択肢はあるし、それらを選んでいかない事には、大手キャリアが甘えて料金競争などいつまで経っても起きるわけない。
政府や総務省がやるべきはいかにMVNOを認知させ、キャリアに不満を感じているユーザーに移行させるかに尽きるはずだ。
菅総理自身がケータイから格安スマホに乗り換え、メリットをアピールするぐらいのアクションが必要なのではないか。
ドコモ井伊新社長は「基地局共用」に前向き━━値下げを実現する「コスト削減」の秘策か
12月1日より、NTTドコモの社長に就任する井伊基之副社長。果たしてどのタイミングで料金値下げを仕掛けてくるのか、早くインタビュー取材をしたいものだが、気になったのが過去の発言だ。
昨年10月、NTTの副社長時代にNTT研究所のイベントに登壇。その模様が日経電子版の記事になっているのだが、井伊副社長が5G時代における「インフラ共用」に言及しているのだった。
● 日経電子版 2019/10/31「5Gは設備競争からインフラ共用へ」NTT副社長」
「これまでの携帯インフラは、それぞれの会社がより良い場所にアンテナを建てることがアドバンテージになっていた。設備とサービスが一体化した競争モデルだった」という。さらに「これからは各社でインフラ共用できる部分は進めていくことが目指すべき姿ではないか」としているのだ。
すでにNTTでは、国内で設備共用ビジネスを展開しているJTOWERに資本提携を実施。
JTOWERを中心に屋内外のインフラを共用を進め、同じエリアに各社が持つ鉄塔を統廃合していくアイデアを示したという。
これまで各キャリアは我先にと全国エリアを拡大し、繋がる場所、通信速度を競ってきた。
ただ、井伊副社長が、料金値下げに自信を見せるのは、こうした基地局整備の費用を大幅に削減するつもりだからなのかもしれない。
すでにJTOWERは国内4キャリアと付き合いがあり、主に商業ビルや病院、大学などの屋内向け施設で共用設備を持っているという。5G時代には、屋外に広げ、鉄塔とアンテナは共有しつつ、そこに各社が基地局設備を持ち込んで、みんなでエリアにしていくようだ。
例えば、楽天モバイルが積極的にインフラシェアリングを提案するとか、総務省が楽天モバイルをバックアップするために基地局共用を後押しするというのは理解できる。
しかし、そもそも「山でもつながるから」とNTTドコモを選んできた人も多いはずであり、このタイミングでNTTドコモのアドバンテージを自ら放り投げるというのは、相当な決断と言えるだろう。
「他社よりもつながる」という明確な差別化ポイントを犠牲にしてしまうことで、NTTドコモのユーザーが他社に流出する危険はないのか。
インフラ共有で、楽天モバイルとNTTドコモが同じエリアの広さになったとしたら、「楽天経済圏」というポイントサービスに力によって、NTTドコモから楽天モバイルにユーザーが流出することも考えられるだろう。
と、NTTドコモにとってインフラ共用はデメリットの方が多そうな気もするが、井伊副社長は本気でインフラ共用に舵を切るつもりなのか。
そのあたりも含めて、早くインタビュー取材がしたくてたまらないのだ。
image by: 総務省動画チャンネル(YouTube)