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中国が招く「コロナ再拡大からの第三次世界大戦」最悪のシナリオ

欧州各国でまたも猛威を振るい始めた新型コロナウイルスですが、加速する世界の分断がワクチンの開発や供給までも困難にしているようです。元国連紛争調停官の島田久仁彦さんはメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で今回、米中からどちらに付くかという「踏み絵」を突きつけられた世界各国の選択を詳細に分析し紹介。その結果としてさらに広がりつつあるブロック化と情報の遮断がワクチンの供給を遅らせ、世界的な大恐慌と戦争の引き金になるという「負のシナリオ」を記しています。

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コロナが問う新しい経済秩序と中国を核とした分断が進む世界

コロナウイルスのパンデミックは国際情勢の有様を根本から変えてしまいました。それは第2次世界大戦後の国際秩序のみならず、2000年代に入ってからの中国の著しい経済発展によって加速したボーダレスで、経済合理性に基づいた経済体制も2020年のコロナ危機の中で崩れそうになっています。

言い換えると「ヒト・モノ・マネーで密接に絡み合って、相互依存を深めていた経済体制」の大転換期を迎えようとしています。確実にコロナウイルスのパンデミックは、この「ヒト・モノ・マネー」の絡み合いの糸と網を至る所で断ち切り、世界は再びブロック化の波にさらわれようとしている気がします。

そのような中、ポジティブかネガティブかは別として、変化の中心にいるのが中国です。

IMFの最新のWEO(World Economic Outlook)によると、プラス成長が期待される中国、そしてベトナムといったごく少数の例外を除いて、世界経済(GDP)は大幅なマイナス成長を記録することになりそうです。

2020年の成長率は2019年比で4.4%マイナスとなり、これから6年間で3,000兆円ほど(28兆米ドル)の経済的損失が、コロナウイルス・パンデミックの影響で生じるとの数値が出ています。

2021年にコロナワクチンが普及すれば持ち直すという観測もありますが、すでに先進国・新興国の別なく、政府債務の額は世界のGDP(約90兆ドル)に匹敵するレベルに達しており、2021年にはその比率が125%を超えるとの予測も出されました。

感染の抑制がうまく行っておらず、また健全な財政を築けていない国については、コロナの悪影響は長引くとの観測もあります。

特にそのネガティブな影響を受けそうなのが新興国で、以前にもデフォルトの可能性について言及しましたが、ブラジルやトルコ、南ア、インドネシアといった国々では、財政出動の失敗と通貨の下落による財政不安が重なり通貨安が止まらず、復活の見込みが立たないという非常に悲観的な見解も出されているところです。

先進国経済とて実は大きなピンチです。例えば、アメリカについては、大手銀行は体力が十分にある中でコロナ危機に直面したため持ちこたえられるとの見方が大半ですが、気になるのは米国企業の多くの借入比率が非常に高く、まだ数値化されていない「コロナによる貸し倒れによる損失」は膨大なレベルに達すると言われています。

11月の大統領選挙の結果に関わらず、次の政権が比較的すぐに直面する経済的な危機は2008年のリーマンショックどころのレベルではないかと思われます。

EUはどうでしょうか。ショックの状況は加盟国間で差はありますが、軒並みマイナスです。Brexitが拗れている英国については2割のマイナス、ドイツで6%ほどのマイナスとなっていますが、財政収入の観光業への依存度が高い南欧(ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガルなど)は軒並みアウトでしょう。そして、今、フランスの夜間外出禁止令、マドリードの非常事態宣言、ドイツでのマスク着用の義務化など、欧州では感染の再拡大傾向が顕著に出てきており、回復しだした経済活動を再び止めることになるため、大きな懸念を有しています。

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形成さつつあるRed Team vs.反中国包囲網

では日本経済はどうでしょうか?国内での感染状況はなくなっていないものの“落ち着いてきた”との観点からか、経済活動への制限が次第に緩和され、それに伴って消費志向も上昇してすこし持ち直しているという数値が出ています。しかし、日本経済特有の外需への依存度の高さが日本経済の復活スピードを遅らせていることに加え、シニア層の増加で中長期的な潜在成長率が低く、他国に比べてDX(デジタルトランスフォーメーション}のスピードも遅いため、楽観視はできないものと考えます。

このような状況の時、これまでのような国際経済の連携が保たれていれば、唯一成長を遂げる中国経済のプラスの影響を各国とも享受できたかもしれませんが、米中対立に加え、コロナのパンデミック、そして香港国家安全維持法の強行採決による一国二制度の事実上の消滅と新疆ウイグルで進む人権侵害などを理由に欧州各国が中国離れを加速させる中、なかなか回復パターンを各国ともに確立できずにいます。

そのような中、中国の強硬策への脅威と反対から欧米諸国を中心に中国包囲網を強化し、その網を狭めようとする試みが見受けられます。例えば、以前にもお話しした日米豪印がクワッドを組む【自由で開かられたインド太平洋地域戦略】では、地域における共同の安全保障体制(中国包囲網の形成)に留まらず、経済、エネルギー、情報(インテリジェンス)など多岐にわたる分野で協力を深める動きが加速しています。そこに中国離れを加速させる独、英、仏が加わり、これまでの二国間ベースでの外交安全保障体制から、マルチでの外交安全保障体制への転換が見られ、完全に中国とその仲間たち(Red Team)vs.反中国包囲網といった2大ブロックが形成されようとしています。

もちろん、私が好きな(?)トルコや、ロシアと言ったどちらのブロックにも属さない独自路線を取っている主要国もあり、これはまた別の緊張を作り出していますが、「困ったときはお互い様」的な国際的な連携は取りづらくなっているのが現状です。

その煽りを受けているのが新興国・途上国です。ラテンアメリカ・カリブ諸国、アフリカ諸国、東南アジア諸国は、日に日に強まる中国の強権的な外交姿勢に対して警戒感を示すものの、実際に困っている際に安価で高水準の技術を提供してくれるのは、欧米諸国ではなく中国という現実に直面して、中国からの支援の確約と引き換えに、国連をはじめとする国際舞台で中国へのサポートを提供するという苦渋の決断を迫られているのが現状です。

例えば、surveillance system、特に顔認証の認証システムについては、アルゼンチンは、日経新聞の記事にもあったように、アメリカからのHuaweiや中国製の排除の依頼にも拘らず、ハイクビジョン社のシステムを首都ブエノスアイレスに導入しましたし、コロナ時にマスクや人工呼吸器、そして医療スタッフと物資の提供をいち早く受け、中国賛美を行ったセルビア共和国は、Huawei製のシステムの導入を決めました。

両国とも「中国製の導入により、多くの個人データなどが中国に吸い取られる危険性については十分認識しているが、背に腹は代えられない」とのことですし、トランプ大統領が対峙するイランも、以前お話しした通り、25年にわたる戦略的なパートナーシップを中国と結びアメリカと対決するための後ろ盾と経済的な支援を得る代わりに、中国への外交的サポート(と原油の継続的提供)を約束しています。

そしてアメリカがアフガニスタン政策の一環でパートナーシップ関係にあるパキスタンも、隣国インドとの歴史的ライバル関係にも押され、中国との接近を強め、アメリカをはじめとする欧米諸国とは(頻繁に人権問題や内政問題にケチをつけられることに嫌気がさしたようで)距離を置くようになってきています。

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アフリカ市場から追い出され始めた日欧米の企業

このような姿勢は、アフリカ諸国ではより顕著で、中国への警戒と債務漬けによる縛り付けへの恐怖を認識しつつも、スピーディーに支援を進め、開発を推し進める中国に付き従うしかなく、結果、アフリカ各国においてleap-froggingで伸びる技術基盤(インフラ)の多くを中国が担うという事態にまで陥っています。そして、エチオピアやジブチなどでは、アメリカの中東・北アフリカ地域でのプレゼンスに対峙する形で、中国が戦略的な拠点(港など)を“借金のかた”に獲得しており、遠く離れたアフリカの地でも米中対立を激化させる要因になっています。

そしてじわじわと見えてきている現象があるとすれば、中国人と企業のアフリカ諸国市場への浸透が広まるにつれ、日本をはじめ、欧米の企業のプレゼンスがどんどん落ちており、市場から追い出されるケースも頻発し始めています。その顕著な例が、元々は欧米や世界銀行などの助言の下、公共部門(テレコム、運輸網など)の民営化を推し進める政策を取る中、それらの事業の契約を次々と中国企業のコンソーシアムが落札し、受注するという事態にまで繋がっています。アフリカ諸国の政府筋に聞くと、「中国のプレゼンスの著しい増加は、まさに脅威に思うが、口ばかり出して何もしてくれない欧米(や日本)よりはましだ」との耳の痛い意見もありました。

アフリカ諸国並みに中国に引っ張られているのが、中東・アラブ諸国です。他との違いは、経済的な支援という餌につられているのではなく、安定的な原油・天然ガスの販売先としての中国への魅力と、中国国内並みに人権侵害のケースを抱えているのではないかと欧米から批判され続けているという“共通点”から、国連をはじめとする国際舞台では、アラブ諸国は例外なく中国シンパで、この姿勢には、イランvs.アラブ諸国の図式は存在しません。

欧米諸国から非難対象になり、かつ中国離れの元凶にもなった新疆ウイグル自治区での強制収容キャンプについても、中東諸国は絶賛していますし、香港国家安全維持法を巡る国際的な議論の場でも、中国側に付いています。完全に実利主義に基づいた政策選択といえるでしょう。

そのような中で分断・分裂の世界の縮図となっているのが、東南アジア諸国です。カンボジア、ラオス、スリランカという親中国の国々や、ここ数年、ロヒンギャ問題を機に親中国に変わったミャンマーというASEAN内のRed Teamがいる一方、南シナ海で直接的に中国と対峙するマレーシア、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピンは、経済的なイシュー(とコロナ対策)については、中国批判の度合いを弱め、欧米と中国との間で、実利に基づいた態度表明を都度行っています。アメリカはポンペオ国務長官を派遣して支持取り付けに奔走していますが、一筋縄ではいかぬ状況になっているのはこのような理由でしょう。

「中国の強硬な外交政策には反対だが、中国との経済的な結びつき無くして発展はなく、またコロナ対策では中国に頼るしかない」というのが現状のようです。

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コロナ再拡大が戦争を招くという最悪のシナリオ

そして今、顕著にみられるのが米中間の綱引きで、各地域における【踏み絵】です。つまり「どちらに与するか、どちらのグループに属すか、選べ。そのためには、相手と手を切るのだ」と迫っています。今、その踏み絵運動で最も悪影響を受けていると考えられるのが、世界が待望するコロナワクチン開発と供給を巡る国際的な協調体制です。

UN/WHOの音頭の下、COVAXファシリティの取り組みがスタートしていますが、今、ワクチン開発で先頭を走る米中露は参加しておらず、情報も共有していないため、国際公衆衛生と疾病対策に必須とされる情報の共有がブロック化によって遮断されているという状況です。

ブロック化と情報の遮断は、ワクチンの世界的な供給を遅らせ、コロナ感染の再来に十分に対応しきれず、結果、第一波に比べてもより深刻なパンデミックを招く可能性が高まると思われ、すでに欧州各国で見られているような再度の都市封鎖や緊急事態宣言の発令などによる経済活動(ヒト・モノ・お金の流れ)が滞ることで、回復基調にあったはずの世界経済は、再び下降曲線を辿ることになりそうです。

疾病によって引き起こされる世界的な大恐慌、そしてそこに相互不信の高まりが重なると、世界が向かう先は自ずとブロック間の闘争、つまり戦争になるという負のスパイラルが世界各国を襲う可能性が高まります。

コロナパンデミック以前に、すでに現れていた【2度の世界大戦直前の状況に類似した対立構造と経済的なスランプ】という兆候が、コロナを機に「世界レベルでの対立とブロック化の顕在化」という形で加速されてきています。そして、国際協調体制の綻びが今、アルメニアとアゼルバイジャンとの間の紛争、シリアやイラクの国内情勢の不安定化、東地中海での多国間での権益争いと武力的対立の顕在化、最終局面にまで来ているとされる中台間の緊張関係、ベラルーシ問題の激化などを生み、紛争解決のための国際的な調停・仲介のメカニズムを次第に弱体化させ、マヒさせ始めています。

これまで紛争の調停に携わってきた身としては非常に残念ですし、同時にこれまでにない無力感と恐れに苛まれています。

取り留めのない内容になってしまったかもしれませんが、今回ご紹介したような負のシナリオが、私のただの思い過ごし・妄想であることを祈ります。

皆さんはどうお感じになりますか?またご意見などお聞かせいただければ幸いです。

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image by: Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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