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オバマの失敗を取り戻す。バイデン当選で高まる軍事衝突の緊張

11月3日に迫った米大統領選。バイデン候補の優位が伝えられていますが、どちらが当選しても世界は激変必至のようです。元国連紛争調停官の島田久仁彦さんさんはメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で今回、米大統領戦後の世界を様々な情報を駆使して予測分析。さらに日本に対しては、国際秩序作りの中心を担う役割を目指すべきと期待を込めて記しています。

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米大統領選挙の結果は“世界を変える”のか

現地時間11月3日に行われるアメリカ大統領選挙まであと2週間を切りました。アメリカ国内がコロナ禍に苛まれる中、合衆国憲法の規定に則り、大統領選挙は予定通りに開催されます。しかし、コロナ禍でより郵送投票の割合が上がることになり、それは開票の遅れと“勝者”の決定まで時間を要することを意味します。結果がどうであれ、恐らくすんなりとは済まないでしょうから、もしかしたら1月20日の新大統領就任式まで間に合わないのではないかというシナリオも真剣に議論されるようになりました。

投票日まであと10日ほどになった現在、メディアの調査ではバイデン候補が10ポイントほどの差を保っており、優勢と伝えられますが、実際の結果は、2016年がそうであったように、空けてみないと分からないというのが実情でしょう。アメリカ大統領選挙そのものについては、専門家の方に議論をお任せしたいと思いますが、世界各国はその結果を固唾を飲んで眺め、トランプ大統領の再選のパターンでの対応策と、バイデン新大統領の登場のパターンの対応策を必死で練っているところです。

今回は、10月22日に私がBBCの番組などでお話しした内容に基づいて、「アメリカ大統領選挙の結果によって、国際情勢はどのような影響を受けるのか」についてお話しいたします。

一つ目は、【米中対立の行方はどうなるのか】についてです。

本件については、対中脅威論と強硬論はすでに議会超党派での一貫した方向性ですので、貿易戦争、南シナ海問題、香港国家安全維持法関連、そして台湾問題などについては、さほど大きな転換は見られないと思われます。アメリカの新政権は、かつてのソビエト連邦以上に中国共産党を警戒し、すでに様々な分野でアメリカに次ぐ規模に達している中国対決姿勢を強めるものと思われます。

ビジネス界からの要望もあり、もしかしたらHuaweiなどを中心とするIT関連への制裁は緩和されるかもしれませんが、南シナ海や台湾海峡で強まる中国の強硬姿勢に対しては、党派に関係なく、「アジア太平洋地域における同盟国の利益を守る」という名目と、「アジア太平洋地域における覇権の維持」という観点から、軍事的な緊張を高めることになるでしょう。

特に、ペンダゴンの最新の報告書の内容を見ても、海軍力については中国は数の上ではアメリカ海軍をすでに超えており、今後それほど遠くない未来には、他の戦力でもアメリカをしのぐ可能性に言及していることもあり、軍事的な面では緊張緩和には進まないと考えます。

民主党政権、特にバイデン政権になったアメリカは、オバマ政権時の“失敗”を取り戻すために、恐らく比較的短期間で決着をつけようと意気込んでくるものと考えられ、対話による解決を優先する姿勢は示すものの、圧倒的な軍事力を誇示して対峙する姿勢も取ることになるでしょう。

香港国家安全維持法を巡る問題に絡めて、米国議会が抱く台湾防衛への意識が働き、仮に中国が台湾に対して何かしらの挑発行為や偶発的な衝突を起こした場合には、規模の大小は分かりませんが、米中間の軍事的な衝突が起こる可能性が高まります。

そして、民主党政権の場合、共和党政権に比べて、「原理原則に則った対応を取ること」が傾向としてあり、中国が侵す人権や同盟国の安全保障に対して、主義として妥協できないということになります。恐らく、バイデン政権になった場合は、中国との対立は、貿易戦争という経済面のみならず、軍事面、人権問題、知財などのエリアにも広がり、緊張がより高まるものと予想できます。

では、トランプ大統領が再選された場合はどうでしょうか。トランプ大統領がこれまでの“通常の”リーダーであれば、第1期目の政策と方針を継続し、中国との対立(主に貿易面)はこのままいくのでしょうが、再選を気にしなくていい第2期目においては、トランプ・マジックとでも呼びましょうか、ある日突然、北京を訪問して、習近平国家主席と固く握手し、仲直りしちゃうかもしれません。利益にならないことを忌み嫌うタイプと分析できるため、直接的な利害に繋がらないと判断し、和解したほうが諸々ベターと考えて行動するかもしれません。

ただ、2期目とはいえ、トランプ大統領としては矢継ぎ早に成果を出し続けることを最も望むはずですから、いろいろな国際問題に対して、半ば強引に解決を迫るような対応を取るのではないかと考えられます。

例えば、台湾問題については、すでに議会もコミットしていますので、急に台湾を見捨てることはしませんが、昨今、イスラエルを使って、アラブ諸国と和解を演出しているように、突如、北京と台湾に対して“アメリカの仲介の下”、和解を迫るかもしれません。

ただ“負ける”のは大嫌いなようですので、逆に全面的な対峙に陥り、本当に今度こそ武力衝突を仕掛ける可能性も考えられます(ゆえに、習近平国家主席は、各軍に対し、戦時臨戦態勢を取ることを命じています)。

何か米中関係に動きが出るとしたら、トランプ大統領の再選のパターンではないかと私は考えます。

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そうそう簡単には変更できぬ中東情勢

二つ目は、【中東地域の情勢はどうなるのか】についてです。イシューとしては、【イランとの関係】と【イスラエル主導で進むアラブとの“和解”の動き】、そして【トルコとの関係】が挙げられます。

他にはシリア問題やイラクの戦後復興、そして地域としては少し中東からはズレますが、アフガニスタン政策もどうなるか注目です。

仮にバイデン政権になった場合、どうでしょうか。イランの核合意への復帰といった表面的なところでは、トランプ政権とは180度違った方針に展開します。その結果、対イランの緊張感は“表面上は”和らぐかもしれません。それで違いをアピールしたいところでしょうが、実際には、トランプ政権時の対中東戦略とさほど違いは出てこないと考えます。

まずイランを巡る問題ですが、オバマ政権の“成果”としてイラン核合意を挙げたいでしょうからそれへの復帰は躊躇わないでしょうが、トランプ政権下で作られた「イラン憎し」の感情と方向性はリバースできないものと考えます。

以前にもお話ししましたテヘラン米大使館人質事件以降、アメリカの歴代政権にとってイランは倒すべき相手であり、また同盟国・イスラエルの宿敵であることから、反イランの感情がアメリカ政治からはなくなることはないと言えます。

すでにトランプ政権下で、「イランへの攻撃もやむなし」という方向性は議会においても、世論においても出来上がっていますので、これを急にリバースさせることはできないでしょう。

またイラン国内では、アメリカは常に宿敵イスラエルの後ろ盾であり、憎むべき敵との位置付けですから、オバマ政権時に締結した核合意の存在をもってしても、アメリカへの敵意も消えておらず、そのことはアメリカの議会もよく承知していますから、強硬なイラン対策についてなかなか変化は期待できないものと考えます。

問題は【バイデン氏が、自ら副大統領を務めたオバマ政権の威光と、トランプ政権の4年で固定化された反イランの波の間でどのようにふるまうことが出来るか】というポイントでしょう。

トランプ政権が継続する場合、イランへの敵対は恐らく変わることはありません。娘婿の存在や自らやペンス副大統領のキリスト教福音派の信仰の所以もありますが、あからさまな対イスラエルへの肩入れは継続し、次々とアラブ諸国に働きかけて「反イラン包囲網の拡大」を図るものと考えます。

ところで皆さん、イスラエルとアラブ諸国(UAE、バーレーンなど)が次々と“和解”し経済関係のみならず、国交も樹立している“本当の”狙いは何だかご存じでしょうか?

表面的には【対イラン包囲網の拡大】と言われていますが、実際には【トルコ包囲網の拡大】です。

トランプ政権にとっては、NATOの同盟国としてこれまで贔屓にしてきましたが、エルドアン大統領のロシアへの傾倒にあるように、米露を天秤にかけたようなやり方に我慢がならないというのが実情のようです。

トランプ大統領のみならず、一般的にアメリカ政府は他国にplayed(弄ばれる)のを極限に嫌いますので、エルドアン大統領の態度には腸が煮えくり返っていると言えます。

イスラエルにとってトルコはイランと並ぶ地域のライバルという位置付けであり、イスラエルにテロ攻撃をかけてくるシリアやレバノン(ヒズボラ)を、イランと共に支援する存在との意識のようで(とはいえ、シリア北部の帰属については、シリアとトルコは対決姿勢)、自身の存在と安全にとっての脅威になってきています。

その点では、トルコと歴史的な対立を深めているUAEやバーレーン、オマーンといった国々と利害が一致しますし、すでに和解しているエジプトも同じです。イスラムの盟主を自負するサウジアラビア王国は、同胞パレスチナ人への配慮から、最後までイスラエルとの公式な和解には参加しないでしょうが、サウジアラビア王国も、皆さんご存じの通り、カショギ氏殺害事件(in Turkey)におけるビン・サルマン皇太子の直接的関与を匂わす決定的証拠を握っていると繰り返し攻めてくるエルドアン政権を決して良くは思っておらず、自らは参加できずとも、他のアラブ諸国がイスラエルと和解に走る動きを黙認しています。

【イラン包囲網】と名付けられ、実際には【トルコ包囲網】が広がる中、中東地域における勢力地図の書き換えに向けた動きは、仮にバイデン氏が大統領になり、民主党政権になっても、アメリカにはすでにリバースする力はありません。

シリア問題については、オバマ政権下でRed lineを設定したにもかかわらず、実際にはred lineを超えたアサド政権に対して何もできなかったという外交・安全保障上の大きな失敗があり、バイデン氏と民主党はその汚点を一刻も早く挽回したいと考えているらしく、シリアのアサド政権に対しては、トランプ政権以上に厳しく対峙することになりそうです。

トランプ政権によって書き換えられ、パンドラの箱が明けられた中東情勢は、そうそう簡単には変更できないものと考えます。

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韓国を同盟国とみなしていないアメリカ

三つ目は、【日本を含むアジア戦略はどうなるのか】についてです。これは一つ目の中国との関係も大きな影響を与えますが、どちらが大統領になっても変わらないとすれば、『アメリカの韓国離れ』と『アメリカの安全保障・経済戦略のアジアシフト』です。それが意味することは何でしょうか?

アメリカの安全保障・経済戦略のアジアシフトについては、トランプ政権で軍の再配置を行う上で、駐独米軍を削減し、その分をアジア太平洋地域に再編するというような計画がありますが、実際にはアジアシフトはオバマ政権時からスタートしており、仮にバイデン氏が大統領になった場合でも、アジアシフトの方針は変わることはないと考えます。

特に先述のように、対中関係の悪化と中国の地域における台頭と覇権拡大の動きを受け、中国と真正面から対峙するという方針を取るものと思われます。

トランプ政権下で進められている【自由で開かれたインド太平洋地域】戦略は、仮に民主党政権になっても継承され、日米豪印のクワッドからなる共同安全保障体制の確立が目指されると考えます。またNATOをモデルに、安全保障のみならず、情報、インテリジェンス、経済といった多様な分野での協力も強化され、そこにBrexitでEUから出てきた英国も加わってより強固な“中国包囲網”を形成する方針は、どちらが大統領になっても変化しません。

余談ですが、今週、菅総理が初めての外遊先としてベトナムとインドネシアを選びましたが、まさしくクワッドの核として、両国に、中国からの脅威に対抗するべく【自由で開かれたインド太平洋地域】の旗印に加わるように働きかけを行ったのも、次のアメリカ大統領がどちらになったとしても、この方向性は変わらず、日本も中心的な役割を担うとの決意表明であったと私は理解しています。

アメリカがこだわるもう一つのアジア戦略が【北朝鮮をめぐる動き】です。

トランプ大統領が“演出した”外交上のサプライズNo.1を挙げるとしたら、金正恩氏との直接会談に臨んだということではないでしょうか。

3度にわたって顔合わせしたにもかかわらず、実質的な成果は皆無ですが、北朝鮮を野放しにし続けたオバマ政権への当てつけとしては最高の材料だったように思います。

トランプ政権があと4年継続する場合は、北朝鮮側の出方にもよりますが、もしICBMやSLBMを用いた威嚇を続けるようなことがあれば、トランプ政権としても何かしら軍事的な対応を迫られることになります。

ペンタゴン関係者によると、朝鮮半島への攻撃は可能性の高いオプションとしてリストに残っているそうですが、それが金正恩氏奪首と政権転覆を狙うものなのか、金王朝を活かしておきながらコントロール下に入れるための脅しになるのかは分かりませんが、オプションの選択は、中国の出方にもよるでしょう。

内容については詳説できませんが、米中間(プラスロシア)で水面下でのディールがあるのであれば、大規模な、でも一方的な戦争の可能性もあるでしょう。

では、バイデン氏が大統領になったらどうでしょうか。こちらも、オバマ政権時の失敗を帳消しにするため、就任当初から外交・安全保障上の重要課題に挙げ、比較的短期で(2年くらい)何らかの成果を得ようとすると考えられます(再選をにらむなら)。対話を重視すると表面的には発言するかもしれませんが、オバマ政権時よりも、軍事的な作戦も含めた対応を前に押し出してくることが大いに考えられます。北朝鮮に対する攻撃も、対イランや中国ほどではないですが、議会内ですでにゴーサインが出ているマターですので、状況によっては、トランプ・バイデンの別なく、北朝鮮への攻撃は大いに可能性大です。

そして共通しているのが、【韓国飛ばし】です。韓国・文政権のRed Team入りを確信している両陣営は、すでに2021年以降のアジア戦略に韓国を同盟国としては看做していません。北朝鮮対応や中国対応のために“日米韓の連携が必要”とは一応発言はするでしょうが、トランプ政権の場合は、韓国はアメリカグループには戻ってきませんし、バイデン政権になったとしても期待薄だとの情報が入っています。

そこで日本はどう振舞うのかが大事になりますが、それはまた後程。

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なかなか元には戻ることがない、一度離れた仲

四つ目は、【欧州との関係】についてです。トランプ政権下では、ドイツ・メルケル首相やフランス・マクロン大統領との微妙な距離感と、トランプ大統領が就任当時から強調したNATOを通じた欧州各国の“安全保障ただ乗り”問題への不満ゆえに、第2次世界大戦後最悪とも言われる米欧関係になっています。

トランプ政権ではドイツに駐留するアメリカ軍の縮小と再配置が進められるようですし、デジタル課税を巡る争いなどが存在しています。これはどうなっていくのでしょうか?

トランプ政権が続いた場合、恐らくですが、欧州各国とのデタントは起こりません。ドイツではメルケル首相がついに退陣することになり、リーダーシップは後継者に託されますが、トランプ大統領とは与しないとの方針は変わらないでしょう。

フランス・マクロン大統領は、トランプ大統領に直言できる数少ないリーダーではありますが、アメリカから離れて欧州としてのリーダーシップの回復を願うマクロン大統領は、ことあるごとに欧州の対米最前線で非難の矢面に立っていることから、残り4年も(マクロン大統領が再選されるか否かは別ですが)同じような付かず離れずの関係でしょう。

東欧諸国はトランプシンパが多いため(ハンガリーのオルバン首相など)、アメリカと東欧の不思議な蜜月関係は続くことになります。

これらの欧州各国との関係は、バイデン政権になった場合、一応表面上は改善に向かうように取り繕われることでしょう。ただし貿易・通商上の関係改善や、対中包囲網の形成といった部分に限られ、一度離れた仲はなかなか元には戻ることがないでしょう。

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バイデン当選で米ロ関係は再び緊張状態に

五つ目は、【ロシアとの関係】についてです。トランプ大統領とプーチン大統領は馬が合うのか、直接に会うと、非常に有効的な雰囲気を醸し出すリーダーです。新STARTIIの延長を巡る問題や、選挙介入・サイバー攻撃についての問題などでは対立関係がありますが、その他のイシューについては、さほど直接的な攻撃をしていません。

欧州各国がロシアへの制裁を強める原因となったウクライナを巡る問題についても、トランプ大統領は懸念こそ示しますが、本格的な制裁や非難には至っていません。

2021年からの新政権では、米ロ関係は国際情勢を見るうえでどのように変遷するのでしょうか?

トランプ政権の場合は、START2が延長されて、軍事・安全保障上の安定的な関係は再構築できるかもしれませんが、アメリカが元々望んでいた中国を交えるという構想は、ロシアには届かず、中国からの強い反対もあり、どこまで意味のある枠組みにできるかは不明です。

これがバイデン政権の場合は、これまでトランプ大統領とプーチン大統領のやり取りをこき下ろしてきた張本人で、かつ噂通りであれば、息子のハンター氏とウクライナの特別な関係が邪魔をして、米ロ関係は再度、緊張状態に陥ることになります。ウクライナ問題やベラルーシ問題、サイバー攻撃などの問題において、アメリカは原理原則を盾に、ロシア・プーチン大統領批判を継続するだろうと考えられるため、バイデン政権では、ロシアとの関係は悪化するか、非常にデリケートなバランスで推移するでしょうが、結果として中ロの“対アメリカ”での接近を加速させる結果になるでしょう。欧州各国とのきずなが完全に戻ることがないだろうとの見解からも、ロシア対策は困難を極めそうです。

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“仲介者”ではなくアルメニアへの肩入れを選択するバイデン

六つ目は、一見、アメリカ大統領選挙の結果とは関係なく激化しそうな【アルメニアとアゼルバイジャンとの間の紛争】についてです。

2度の停戦合意については、一応、ロシアが中心となった米仏ロの仲介となっていますが、本件は、先に挙げたトルコとの関係やロシアとの関係、欧州との関係にも影響を受けることになるため、今後の国際情勢を占う上で見ておく必要があるかと考えます。

トランプ政権は一応停戦を呼び掛ける者の、これまでのところ、ロシアやフランスに比べると、本件に深入りしていません。一つはロシアや欧州各国のように直接的な利害がないことが考えられますが、先に述べたトルコの野心への対応、ロシアへの釘差しなどの理由から、出方を探っているとも思われます。実利主義の権化のようなトランプ大統領としては、直接的にアメリカの利益になるのでなければ、さほど関心はないものと思われます。

しかし、バイデン政権になった場合には、対ロシア政策(対決姿勢)やトルコへの威嚇、そしてナゴルノカラバフ地域での戦闘がユーラシアのみならず、中東地域などへ飛び火する懸念から、【ナゴルノカラバフ地域で起こっていることは、国際法違反だ!】とでも言いだして、原理原則からコミットを試みるかもしれません。

その場合、恐らく“仲介者”というよりは、アルメニアへの肩入れをすることになるでしょうから、結果がどうなるにしても、何らかの望ましくないバックラッシュに悩まされる方向に陥る危険性を予見します。

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世界のバランサーを目指すべき日本

ここまで駆け足で(でも長々と)いろいろな状況の変化の可能性を描写してみましたが、ではこれらに鑑みて【日本はどう国際情勢の中で立ち位置を見つけるか】についてはどうでしょうか。

「日米同盟が基礎にある対応」という核は不変化と思いますが、「いかに中国との関係も悪化させずに良好に保つか」というポイントも、今後の中国の成長や、すでに深化している経済関係の相互依存性から慎重に見る必要があるでしょう。そして、菅総理がベトナム・インドネシアを最初の訪問先に選び、ASEAN重視をアピールしたこともあり、ASEAN各国とのつながりも大事ですし、ずっとTICADの主催国を務めていることもあり、どのようにアフリカとの連携を図るのかも重要です。

また中東各国とも非常に良好な関係を保ち、“中国と同じく”分け隔てなく友好関係を持つ稀有な国でもあります。以前にもお話ししましたが、日本は外交上、非常にユニークな立ち位置で、上手に振舞うことが出来れば、この混乱の国際情勢下で、頼れるバランサーの地位を確立できると考えます。

トランプ政権が継続しても、バイデン新政権が生まれても、アジア太平洋地域戦略を考えるうえで、アメリカにとって日本はかけがえのない同盟国であることは変化しません。しかし、またすでにトランプ政権下でも表出してきている防衛費問題については、どちらの政権になっても、厳しい対米交渉を迫られそうです。

同時に安倍政権の下、改善した日中関係の状況を保ちつつ、近年、激しさを再度増す尖閣諸島問題を巡る緊張とどう向き合うのかも、今後の国際情勢、特にアジア太平洋地域やインド太平洋地域の情勢を占う上で大きなcasting voteを握ることになり得ます。

現時点では菅政権の日本政府は、強大化する中国の脅威と強硬的な態度に対峙すべく、米豪印そしてASEAN諸国を巻き込んだ対中包囲網の一翼を担っていますが、今後、対中関係も悪化させないように、非常にデリケートなかじ取りが必要になるでしょう。

絶対に避けたいのは米中双方から【どちらの味方なんだ!】という踏み絵を踏まされる状況ですが、そうなるまえにASEAN諸国をはじめとした“日本の友人”をできるだけ多く得て、明確に二分化されるブロック型の国際秩序ではなく、対立はあっても、お互いさまと持ちつ持たれつな関係をベースとした国際秩序作りの中心を担ってもらいたいと期待しています。

非常に長々と書いてしまいましたが、皆さんはどのようにお考えになるでしょうか?ぜひいろいろと意見交換させてください。

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image by: Christos S / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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