MAG2 NEWS MENU

なぜ日本は負けた?韓国政府の“成果物”としてのK-POPとBTS世界制覇

ビルボードの世界チャートでNo.1を獲得するという快挙を成し遂げた、韓国を代表するグループであるBTS。彼らを始めとする韓流アーティストたちの活躍はとどまるところを知らず、まさにK-POPが世界を制する状況となっています。一方、我が国の「クールジャパン戦略」はと言えば、とても成功しているとは言い難いのが現状です。なぜこれほどの差がついてしまったのでしょうか。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』で「Windows 95を設計した日本人」として知られる世界的エンジニアの中島聡さんが、日韓の明暗を分けたその理由を検証しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

偶然ではないK-POPの世界制覇

今月に入り、韓国のアーティスト・グループ BTSの「Dynamite」がBillboardの世界チャートでNo.1の地位を勝ち取ったことが大きな話題になりました(「BTS’ ‘Dynamite’ Dominates Billboard Global Charts」)。このチャートは、世界の国々での、CDやダウンロード販売と有料・無料ストリーミングを合算した、今の時代を反映した信頼できるチャートです。

BTSは男性ばかりのグループですが、女性アーティスト・グループのBlackPinkは、2019年のCoachella Festival(毎年、春にカルフォルニアのCoachella Valleyで開かれる音楽の祭典)でのパフォーマンスが大成功で、これがK-POPの音楽業界での立ち位置を大きく変えたと言われています(「Blackpink’s Coachella Performance Was a Historic Moment for K-POP and Music’s Futurel」)。

この記事によると、BlackPinkがCoachella Festivalに合わせてYoutubeで公開したミュージック・ビデオ「Kill this Love」は、最初の2時間で5,670万ビューを稼ぎ、それまでの記録を塗り替えたそうです(その記録は、後にBTSによって破られました)。現時点で、「Kill this Love」のページビューは、10億回を超えています。

注目すべきなのは、このK-POPの世界制覇は、単なる偶然でも一過性のものでもないという点です。

K-POPの台頭に関しては、Euny Hongというジャーナリストが2014年に『The Birth of Korean Cool: How One Nation Is Conquering the World Through Pop Culture』という書籍を出版し、何が起こりつつあるかを丁寧に解説しています。発売当時のインタビューがYoutubeに公開されているので(「Euny Hong, Author of ‘The Birth of Korean Cool’」)、そこで大体の内容を知ることが出来ます。

彼女によると、K-POPの台頭は、韓国政府による「音楽で世界制覇する」という周到な計画の成果物だそうです。

韓国は、1997年に強烈な金融危機に見舞われました。当時の韓国政府が、その状態から韓国経済を立て直すために、戦略的な投資を行ったのが、音楽だったのです。そこだけ聞くと、日本の「クールジャパン戦略」と似ているように思えますが、はるかに戦略的で、本腰の入ったものです。

まず最初に立てたのは、21世紀には「音楽といえば韓国」という世界での地位を築くという明確なゴールです。米国にとっての自動車産業や銀行のような位置付けにすることを国家として決めたそうです(ここが、日本のクールジャパン戦略と根本的に違うところです)。

1997年と言えば、まだインターネットの黎明期でしたが、「インターネットが世界中に普及した時には、音楽の楽しみ方は今とは大きく違うものになる」というビジョンの元に、まずは国内のインターネットの整備をし、さらにインターネットを使った音楽のプロモーションの手法などの研究を本気で開始したそうです。普通のK-POPとは少し違いますが、2012年に世界を席巻した『Gangnam Style』も、今考えてみると、「インターネットを使った音楽のプロモーション」のお手本のような、見事な出来栄えでした。

それ以来、適材適所に税金を投入し続けることによりK-POP産業を育て、ようやく23年後にK-POPをBlackPinkとBTSという世界的な大スターを掲げるブランドに仕立て上げることに成功したのです。

韓国政府が K-POP のプロモーションにどのくらい税金を使っているかを調べたところ「Korean Government To Spend $25 Million USD On Online K-POP Concerts Next Year」という記事が見つかりましたが、この$2 million(25億円強)は、K-POPグループがオンラインでコンサートを開催するのを補助するお金でしかなく、全体では2021年に$584.8million(600億円弱)をK-POPに代表される韓国のカルチャー(”Korean Wave”)をプロモートするために使うそうです。

なぜ韓国のKorean Wave政策がこれほどまでの成功を納め、日本のクールジャパンが何も生み出していないかについては、丁寧な検証が必要だと思いますが、「『クールジャパン』はこんなにひどいことになっていた」「迷走『クールジャパン』 相次ぐプロジェクト失敗でムダ金に」などを読むと、おおよその姿が見えてきます。

この中で、最も無責任な失敗投資が株式会社「ALL NIPPON ENTERTAINMENT WORKS」(ANEW)といえるだろう。

 

ANEWは、経産省が主導し官民ファンド・産業革新機構が2011年に総額60億円、100%出資という形で設立された官製映画会社である。その事業目的は、コンテンツの海外展開として日本の知的財産を活用しハリウッドで映画を製作するというものだった。

 

しかし、ANEWは映画7作品の企画開発を打ち上げたが、1本も映画制作に至ることなく、2017年5月にベンチャーキャピタルに3,400万円という破格の価格で身売りした。その結果、産業革新機構が投資した22億2,000万円の出資をほぼ全額が損失した(「『クールジャパン』はこんなにひどいことになっていた」)。

日本の場合、この手の予算があると、必ず電通のような会社が政府の代わりに動くことによって手数料を稼ごうとするし、さらにそこには、政府のお金を「甘い汁」だとしか考えていないシロアリのような人たちが大勢集まってくるので、こんなことになってしまうのです。

image by: Tinseltown / Shutterstock.com

中島聡この著者の記事一覧

マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。IT業界から日本の原発問題まで、感情論を排した冷静な筆致で綴られるメルマガは必読。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 週刊 Life is beautiful 』

【著者】 中島聡 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週 火曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け