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絶好調ニトリが島忠を買収へ。美人アナリストが説く「お値段以上」の強み

大手家具チェーン「ニトリ」がホームセンター中堅の島忠に対して株式公開買い付け(TOB)を実施し、完全子会社化を目指すと発表しました。これでDCMホールディングスとの争奪戦に発展。ニトリは本気で島忠を奪いにきたようです。

それができるのも、ニトリが絶好調の証。新型コロナウイルスの影響も全く関係ありません。もはや一人勝ち状態となっています。なぜニトリはここまで好調なのでしょうか?株式アナリストとして個別銘柄・市況の分析を行う馬渕磨理子さんが、詳しく解説していきます。

プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

コロナ禍でも増収増益を続けるニトリ

「お、ねだん以上。」のコピーでおなじみのニトリは、安定的に成長を続けている会社です。それはコロナ禍でも変わりなく、21年2月期も37期連続で増収増益を更新する見通しです。

ニトリの理念には「『ロマン』を原点に、『ビジョン』の実現をめざす」とあります。ロマンとは、「住まいの豊かさを世界の人々に提供する」であり、ビジョンとは2032年に3000店舗、3兆円を達成することです。

ニトリが成長すること=人々の住まいが豊かになる~という信念で企業を拡大させています。実際に、コロナ禍での勝ち組企業の代表格といってよいでしょう。

ニトリの20年3~8月期の売上高は前年同期比12.7%増の3624億円、営業利益は同45.0%増の805億円、経常利益は同43.4%増の810億円、純利益は同35.1%増の497億円と増収増益です。

その要因は、コロナ禍で在宅勤務・巣ごもり消費が拡大したため、住居家具やオフィス家具が好調だったこと。この機会に購入したという人もいるかもしれません。

4~6月には緊急事態宣言下の影響もあり、最大110店が臨時休業したにもかかわらず、売上・利益ともに伸ばしていることは、誰の目から見ても驚異的な数字だと言えるでしょう。

会社四季報の業界地図によれば、現在、国内家具全体の売上高は約1兆7926億円。その中で、売上高の約35%がニトリホールディングス。まさにシェア、売上ともに一人勝ち状態なのです。

なぜあなたの部屋にニトリ製品があふれているのか。その必然性を解説していきます。

ニトリがここまで強い秘密とは?

自社ブランドであるという強み

大前提として、ニトリは企画から製造、販売を手掛ける製造小売業(SPA)を取り入れています。つまり、販売する家具や雑貨のほとんどが自社ブランドなのです。

店頭の販売動向に応じて生産量を増加させたり、減少させたりと柔軟に在庫を調整できるのがニトリの根底にある強み。そう、コロナ以前から、「ニトリは凄かった」ということです。

ニトリは「巣ごもり消費」だけではない

新型コロナの影響で消費行動が変化し、外出自粛により家で過ごす時間が長くなったため、消費者の志向が「家の中」に向かっています。特によく売れたものが、収納付きベッドフレーム家具や新生活向けの家電です。

そのほか、フラットデザインの多用途収納ボックス「Nインボックス」や、ネジや工具を使わずに組み立てられる収納ケース「Nクリック」などの売り上げが好調で、さらに、パソコンデスクやワークチェアなど、テレワークに必要な商品ニーズも拡大しています。

一過性の需要に頼らない多面的戦略

しかし、ベッドやリモートワーク用の机は一度購入すれば、何度もリピートするものではありません。

そう、ニトリの好調さは巣ごもり需要の一過性ではないところがポイント。

ベッドは頻繁に買い換えないとしても、食器は買いますよね?ニトリはキッチン用品やカーテンなどの低価格雑貨が店舗売上高の過半数を占めているのです。

ここで考えてみてください。向こう3年で新たにベッドを買いますか?

質問を変えます。向こう3年で、食器を一枚でも買いますか?

もう答えは明らかですよね。

キッチン用品や雑貨は購入機会が多いということ。そのため、需要の把握も容易。膨大な消費者データにより、在庫の回転率を高めることができるのです。また、店舗やECサイトを訪れる機会が増えるので、“ついで買い”も喚起できます。

話をまとめます。ニトリがコロナ以前から強い理由は…

  1. 製造から販売まで引き受けるので在庫ロスが少ない
  2. 家具屋さんのふりをして、日用雑貨を売る
  3. 2により、需要予測がしやすい

この3つと言えるでしょう。

ここまではコロナとは関係なく、ニトリが持っている強みを見てきました。その上で、今回のコロナ特需が後押しをし、驚異の増収増益を達成しているのです。

では、コロナのどのような点が追い風を受けたのでしょうか。見ていきましょう。

コロナでも業績が堅調な納得の理由とは

コロナの恩恵を受けたところに焦点をあてて、業績好調の背景を述べるとすれば、

  1. 生活用品を扱っている
  2. 郊外の店舗が堅調
  3. ディスティネーションストアに選ばれる

まずは、生活用品を扱っている点です。小売業は2極化が進み、アパレル業界は需要が蒸発する一方で、スーパーマーケット、ドラッグストアなど生活用品を扱っている企業は業績が堅調です。

また、郊外の店舗が堅調であったことも挙げられます。都心部の店舗は人が出かけにくくなりましたが、ニトリの郊外の店舗では120%以上と好調な数字となっています。そして、通販事業も20年8月は前期比+156.3%とオンラインの売上も堅調です。

最後の理由は、ディスティネーションストアに選ばれたことが挙げられます。ディスティネーションストアとは、人が何かを買おうと思った時に最初に思い描く店のことを指します。

コロナ禍で、消費行動は変わりました。色々な店を回って、商品を選ぶことができない中で、1番最初にニトリを選び、ニトリで購入を決めるといった行動をした消費者が多かったのです。

危機が起きるずっと前から、常に、ムダ・ムラ・ムリをなくす作業を続けているのがニトリで、その長年の企業努力が、コロナ禍でも、顧客にディスティネーションストアとして選ばれた理由です。

日頃から、『消費者が望む品質や機能を、望まれる価格で、望まれる時に、望まれるだけ揃えておく』この信頼の積み重ねが、コロナでも真っ先に、消費者が向かうお店となったのです。

今後は店舗+ECでさらに売り上げUP

ニトリは毎年数十店舗を出店しており、20年度は64店舗の新規出店を予定しています。

今年はコロナの影響もありショッピングセンター内のテナントが退店するケースも増えるでしょう。そこの空いたスペースにもニトリの売り場を作っていく強気姿勢です。

さらに、ECサイトも堅調で、売り上げの10%程度を稼ぐまでに成長しています。

今後は店舗+ECでさらに売り上げを積み上げるでしょう。

ファッション分野にも参入していくニトリ

ニトリがこれから力を入れていくのはファッションです。

意外かもしれませんが、「N+」(エヌプラス)という働く女性のための洋服を企画し、コーナー展開し、通販サイトも立ち上げて強化し始めています。

21年2月期第2四半期(2020年2月21日〜8月20日)の決算説明会で、「Nプラス(N+)」について、似鳥昭雄会長は200店舗まで出店を広げる構想を明かしています。現在は、ららぽーとやイオンモールといった商業施設を中心に出店しています。

Nプラスは年齢を重ねながらも若々しさや感性を失わない30代以降の「大人の女性」をターゲットにしたオリジナルファッションブランドで、昨年3月にデビューしています。

こちらも、ブランド公式サイトを立ち上げ、ネット販売を開始しています。

デイリーウェアのほか、アクセサリーといった小物も販売しており、コート類以外の価格帯は税込4000円以下の低価格を徹底。

ここでも「お、ねだん以上。」が発揮されています。

家具、インテリアからファッションへと事業領域を拡大し、売り上げをかさ上げしていく狙いです。

ニトリがファッションを展開することは、ある意味、小売業界全体の流れを象徴していると言えるでしょう。

コロナでサプライチェーンの影響はなかったのか

ニトリは現在、約6割が中国での製造です。

コロナ以前より、中国での製造の比率を50%以下に抑える方向で、工場をアジア諸国に分散させている最中でのコロナショックが起きたのです。

ただ、ベッドやソファの組立はアジア諸国でも可能ですが、生地は中国から輸入をしているため、中国の工場をゼロにすることは、技術的に難しいのが現状ですので、この辺りのサプライチェーンの分散の課題は残っています。

一方、中国経済の立ち上がりが早かったことは、販売網の観点からはやはり魅力的な市場であることには変わりはないでしょう。ニトリは今後も中国への出店計画は進めていく見通しです。

小売業界の今後の行方

アメリカの小売業を見てみると、ウォルマートとアマゾンの存在感がより増しています。

アマゾンが食品雑貨大手ホールフーズなどの実店舗を買収する一方で、ウォルマートがネット企業を買収。この実力のある、実店舗とEC店舗が融合していく中で、デパートや家電、スポーツ用品など様々な小売チェーンがこの波に飲み込まれていく流れは日本でも変わらないでしょう。

そして、ここへ来て、ニトリが家具とホームセンターの複合チェーン・島忠に対し触手を伸ばしました。ニトリをめぐっては、ホームセンター大手のDCMホールディングスが完全子会社化を目指して友好的TOB(株式公開買い付け)を実施中です。

DCMのTOB価格は1株4200円ですが、ニトリは島忠株を1株5500円で買い付け、全株式の半数以上の取得を目指すといいます。いわば横やりを入れたような形ですが、ニトリは敵対的買収になるのを覚悟で島忠を奪いにきたのです。

ファッションという新たな分野に参入し、かつ島忠も手に入れようとしているニトリ。強者がより強くなっていく時代に突入していると感じざるをえません。

image by : 著者提供

馬渕 磨理子(まぶち・まりこ)

京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。アベノミクスが立ち上がった時期に法人でトレーダーの経験を経て、フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当する、パラレルキャリア。大学時代は、国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞している。
Twitter https://twitter.com/marikomabuchi

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