【改憲問題】安倍首相は自分より賢い市場をナメてかかると失敗する

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「経済を取り戻す政治」と「憲法改変の政治」

『山崎和邦 週報「投機の流儀」』第137号(2015年1月18日号)

1月11日号で述べた。

「今からの『正念場』は、第3の矢が発効する仕掛けを官僚や旧勢力とのバトルを乗り越えて実現させることだ。そこで安倍内閣が少しでもファイティング・ポーズを緩めたり曖昧にしたら、市場は(見せ場を既に完結しているから)直ちに『土壇場』を指向する」

これへの懸念を少々述べる。市場は安倍さんより賢い。市場をナメてかかると失敗する

国内の理想的均衡は「適度な成長力を維持しつつ適度なインフレ下の完全雇用」であり、対外的な経済の均衡とは「持続的な国際収支の適度な黒字」である。この両者を同時に満たすことは「平時」でも難しい。

今は内外共に経済学で言う「均衡状態」とは遠い。安倍さんが自ら「道半ば」と言っている。永遠に言い続けるつもりだろうか。「道半ば」なら「自民党結党以来の宿願たる憲法改正」に執心しないで、それをやりやすくするための経済均衡の姿を実現させることに邁進すべきだ。

選挙中は経済優先に絞ったが、今は時々「憲法」が出てくる。本稿では1年半前から憲法問題について述べたが「唐突な気がする」という便りも頂いた。だが、市場は「(自民党の結党以来の宿願たる)憲法改正」に熱心になって「経済を(デフレから)取り戻す」ことに不熱心になれば直ちに反応するはずだ。

市場は安倍さんより賢い。市場をナメてかかると失敗する。いきなり憲法は唐突だと昨年に言われ、読者諸賢は筆者の持論の「森羅万象、何事も市場に無関係なものはない」と言うことに、できれば共通認識をお持ちいただければありがたい。

今から、憲法問題は次の3点セットで外堀から埋めてゆく気だろう。狡猾な図面師が安倍さんについているはずだ。

1) 日本版NSC(大統領が強い権限を持つ米NSCをモデルとし、総理・官房長官・外相・防衛相の4人が中核となり外交上の安全保障に関する政策を立案する組織「国家安全保障会議」)。

2) 特定秘密保護法(国の安全や外交にからむ秘密情報を漏洩した者を処罰する法律)。

3) 集団的自衛権(自国と密接な関係に在る国が武力攻撃を受けた場合、自国が根本的に脅かされる恐れがある場合、自国が攻撃されていなくとも実力を以て阻止できる権利。昨年7月に閣議で行使容認を決定した)。

筆者はこれを第2次大戦前の日独伊3国同盟を連想させる。3国同盟は参戦の義務があった。集団的自衛権は、タテマエ上は義務ではない。だが、これの世界は法文の解釈でなく、外交上の政治的営為の世界であろう。

安倍さんが「経済を(デフレから正常な姿に)取り戻す」と標榜して大いに受けたし効果も相当程度は出た。だが、これは彼の、また自民党結党以来、満60年間に亘って連綿と受け継がれた「憲法改変という主目的」を円滑に進めるための「鎧の上の衣」であることは間違いない。

もし安倍さんが本丸に近づいたことに気を許し緊張感を欠いて「衣の下の鎧」をアカラサマに見せた場合は市場は直ちに反応するだろう。

安倍さんには相当に狡猾な図面師がついているはずだ。だが、市場は安倍さんより賢い。市場をナメてかかると失敗する。

 

『山崎和邦 週報「投機の流儀」』第137号(2015年1月18日号)

著者:山崎和邦(大学教授/投資家)
野村證券、三井ホームエンジニアリング社長を経て、武蔵野学院大学名誉教授に就任。投資歴51年の現職の投資家。著書に「投機学入門ー不滅の相場常勝哲学」(講談社文庫)、「投資詐欺」(同)など。メルマガ「週報『投機の流儀』」では最新の経済動向に合わせた先読みを掲載。
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