MAG2 NEWS MENU

11~12月開戦の情報。米大統領選の混乱に乗じ台湾攻撃に出る中国

自国のみならず、世界の今後を大きく左右するアメリカ大統領選挙。現時点で早くも郵便投票を巡っての混乱が予想されていますが、そんな状況下で自国の利益拡大を狙っている国もあるようです。元国連紛争調停官の島田久仁彦さんさんはメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で今回、大統領選挙のいざこざで米国が混乱している隙に、中国が台湾への攻撃を画策する可能性について言及。さらにそのような情勢に直面した際に、日本政府が取るべき方策を考察しています。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

もう戻ることが出来ない米中のチキンレースと国際情勢の行方

「危機が現実のものになるのは、人々が相手の意図を読み取ろうとして、その意図を間違って解釈しだす時だ」

カナダの歴史家Margaret MacMillan博士の言葉です。

この言葉は紛争勃発の原因について歴史的な観点から述べられたものですが、私には激化する一方の米中対立と、それによって誘発される世界の分裂(ブロック化)の現状を見事に言い表しているように思います。

ここ3年以上、米中対立は様々な分野に及んでおり、金融を除けば、全面的な対決姿勢になっていますが、コロナウイルスのパンデミックと香港国家安全維持法までは、欧州各国は米中の間での第3極の立場を保とうと必死でした。しかし、香港国家安全維持法施行とウイグル自治区での“人権問題”を機に、中国との決別の道を選択し、“欧米アライアンス”が復活しました。

今は米中対立という2極化に加え、トルコ・ロシアなどがかき回す中東・コーカサス地域が混乱を極める別極になっているように見えます。

米中の対立は、先述の通り、多様な部門に及びますが、あえて3つに絞るとしたら、【通信─5Gの開発と普及を巡る対立】、【南シナ海問題】、そして【台湾問題】を挙げることが出来ます。

最初に【通信─5Gの開発と普及を巡る対立】についてですが、これは再三報じられているHuawei問題に大きく関係します。本件は、米中2か国間でのbilateralな問題から、現CEOの娘で同社CFOを逮捕したカナダ政府を巻き込み、そして欧州においては各国での5Gネットワークの普及にHuawei製を導入するか否かという通信政策が国際安全保障上の問題に発展しました。

真偽については不明な点も多いのですが、Huawei製の携帯電話・モバイル端末、サーバーをはじめとする通信技術の基盤にスパイウェアが仕込まれていて、常時個人情報はもちろん、採用した国家の情報が中国によって収集されているという“疑惑”を発端としていると言われます。

言いがかりかもしれませんし、本当かもしれませんが、トランプ大統領とその政権はこの情報を米中対立の重大事項に取り上げ、アメリカ政府と国民が最重要視する【国家安全保障問題】として、中国と戦うことに対し、超党派的な支持を得ることに成功しました。ゆえに次期大統領が仮にバイデン氏になったとしても、通信部門を基端とする中国との対立は続き、恐らくさらに強化されることになります。

英国、ドイツ、フランスなどは、中国との経済的な結びつきと、コロナ以前に進めていた中国とEUの通商協定交渉への配慮から(そして、トランプ大統領への“当てつけ”という側面もあったのだと思いますが)一度は国家の5G戦略にHuawei製の導入を進めようとしていました。

しかし、コロナと香港国家安全維持法を機に一気に方向転換し、今ではHuaweiの排除に与しています。ドイツなどは、Huaweiの最初の欧州工場を誘致するほどのサポートぶりでしたが、「ドイツ国内における製造および稼働については問題としないが」と条件を付けた上での排除に乗り出しました。

日本も、中国との関係への配慮がまだまだ強いとはいえ、菅政権下でも米国が呼びかける【クリーン・ネットワーク】構想にどっぷりと浸かる覚悟を示し、国内で5GリーダーシップをとるNTT/KDDI/ソフトバンク/楽天という通信会社とNECと富士通をカウンターパートとして進めるようです。加えて【クリーンパス】(5Gを使った外交使節間の通信の安全を確保するためのパス)の趣旨にもがっつりと乗っかりました。今のところ中国政府としては、この“決定”に特にコメントはしていないようですが、中国製排除後の企業戦略については、すでに中国などの後塵を拝していることからも、官民による投資の拡充やサプライチェーンの多様化(中国依存からの迅速な脱却)が必要となります。言い換えると経済安全保障上の力学と地政学上のパワーバランスに外交的に、そして経済政策的に即時対応していく必要が出てきました。

日本も欧州各国も【中国とも良い関係を継続しつつ、迫りくる中国の圧力に協力して立ち向かう】というスタンスが、どこまで通用するか、米国新政権と共に早急に検討しないといけないでしょう(ゆえに、誰が次の大統領になるか、その結果判明が遅れることは、非常に不利益になる可能性が高まります)。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

南シナ海・インド太平洋地域における米中間の力の均衡

二つ目のフロントは【南シナ海・インド太平洋地域における米中間の力の均衡】です。

このメルマガでも何度かお話ししているように、中国は軍事力と経済力を駆使して、南シナ海での領有権問題で圧力をかけています。西沙諸島エリアにも、南沙諸島エリアにも次々と人工島を建設し、あっという間に軍事拠点化してしまいました。ベトナム、インドネシア、マレーシア、フィリピンという南シナ海沿岸諸国からの再三の非難と抵抗をもろともせず、突如湧いたかのように「南シナ海で自国の領海を主張する」という強硬策に出ました。反抗するベトナム艦船を衝突して沈没させ、ASEAN諸国が抵抗する海軍力を嘲笑うかのようにその力を拡大させていきます。

経済面では、一帯一路政策を通じてASEAN内に中国シンパを形成し、対中国批判を封じ込めるのみならず、コロナに乗じたマスク・医療外交を通じてフィリピンなどの対中強硬派を手なづけてきています。とはいえ、フィリピンやベトナム、インドネシアなどは見事なまでに実利主義に徹していますから、状況によってはまた対中強硬路線に回帰すると思われますが。

そのような伸び続ける中国の勢力に危機感を抱き、軍事的緊張を高め、そして貿易や支援などを通じてASEAN諸国巻き込みに躍起になっているのがトランプ大統領のアメリカです。

コロナの前では、米中海軍の艦船は、互いに状況を把握し、無駄なエスカレーションを起こさないように距離を保ちつつ平行に航行してメッセージを伝えてきましたが、コロナ禍に乗じて中国の態度が強硬化するにつれ、一触即発の状態まで緊張が高まっているとのことです。

そこに“火に油を注いでいる”のが一気に加速している日米豪印の“クアッド”による【自由で開かれたインド太平洋地域】戦略の存在です。

軍事面のみならず、経済、情報などの多分野にわたり、4か国を中心とした協力と連携を深め、半ばインド太平洋地域版のNATOの構築に向かっているとの見解もあります。そこにBrexitでEUから離れ、アジア回帰を図る英国が加わる公算ですし、また南太平洋に権益を有するフランスも興味津々であることから、南シナ海やインド洋、太平洋をまたぐ広範囲な中国封じ込めのためのアライアンスが出来てきています。

そこに、昨今、米印がニューデリーで2 plus 2を開催し、米印間で衛星情報やGPS情報といった地理空間情報を共有することに合意し、中国人民解放軍の動向や装備を監視する機能が加わったことと、アメリカからインドにドローン兵器をはじめとする最新鋭兵器の供与が行われることは、中国を非常に苛立たせる原因になっているようです。

日本もこのクアッドのコアメンバーに名を連ね、来月には合同演習にも参加することになっていることが、北京の目から見てどう見えるのか。

そしてそれがどのような影響を日中関係はもちろん、日米関係や日本とASEANとの関係に与えるのか。真剣に対応を練っておくべきでしょう。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

最大のフロント、【台湾】

三つ目で恐らく最大のフロントは【台湾】です。

なぜ最大のフロントなのか。それは、未確認情報ではありますが、11月から12月に中国が台湾に何らかの攻撃を加える計画がありそうです。共産党に近いメディアである環球時報の署名記事によると「中国が前進し、さらなる発展を遂げるには、戦争に向けた準備を完全に整えるべきだ。歴史的な転換点が近づきつつある」とのこと。

加えて、最近、台湾への敵対的な感情が中国国内でエスカレートしてきており、ここ数日、中国空軍機による台湾海峡での示威行為が頻発していることも気になります。

それに対抗するためなのか、台湾に対してアメリカ政府は短期間に大量の最新兵器を売却または供与しており、それに中国政府が明らかに警戒心を強めているという情報もあります。

では果たして有事が起こった際、アメリカ政府は台湾の安全を本当に保障するのでしょうか?特に1996年の台湾危機の時に比べ、中国の軍事力は格段に発展していることから、アメリカが空母を派遣して対峙するような事態になるのかに関心が向けられています。ちなみに、どうも北京も人民解放軍も“それはない”と見込んでいるようで、アメリカが大統領選挙のいざこざで混乱している隙に、台湾への攻撃を画策するとの見解も強まってきました。

しかし、大統領選挙の結果がどうであれ、短くとも来年1月20日まではトランプ大統領のアメリカであり、中国が変な動きを見せるようならば、台湾防衛という名の下での対中ピンポイント攻撃も可能性としては排除できないものと考えます。

習近平国家主席は、様々な情報筋からの情報を総合してみた際、【台湾の統一(再統一)は「中華民族の偉大な復興」と位置付ける最重要・優先課題】になっており、自らがそれを現実化させ、ついには毛沢東に並びたいとの野心を隠すことがないとのこと。そのためには、武力行使も厭わず、ウイグル自治区問題や香港、南シナ海問題やインドとの交戦といったことに対しての国際社会(特に欧米)からの非難も完全スルーし、緊張を高めることを厭わない姿勢を明確にしています。

しかし、全面戦争は非常に困難であることも理解して、対台湾では小出しの攻撃を繰り出して、アメリカなどの出方を探りつつ、計画を進める方針のようです。

ここで仮にアメリカが台湾を防衛できないような事態になったとしたら、実際にはアジア太平洋地域およびインド太平洋地域でのアメリカへの信頼は吹っ飛び、日本を含む他の同盟国は“アメリカには守ってもらえないと感じてアメリカを見限り、アジア地域における軍備増強競争が始まるかもしれません。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

日本に突きつけられた課題

では、このような情勢に直面し、(尖閣諸島問題を身近な課題として抱える)日本としてはどのような課題が考えられるでしょうか。

日米関係の観点からは、大統領選の結果に関係なく、さらなる貢献を求められるだろうと思われます。

たとえば、エスパー国防長官が言うような【GDP2%を防衛費に】という要請にどう答えるか。ちなみに豪州は、2021年度からは今の1.7倍の規模にするそうですが、日本は、名目上は“軍隊”を保持しませんから、どのように正当化するのか、そもそも可能なのかについても、すでにしていることとは思いますが、検討し具体的な行動を考えておくべきでしょう。

そして、【もし、バイデン氏が大統領になったら…】という淡い期待は捨てることでしょう。急に外交方針、特に国家安全保障にかかわる内容について急転換は不可能だと考えられるため、パーセンテージについては交渉の余地はあっても、日本にさらなる貢献を求めてくるのは確かでしょう。

それは、対中国という観点に加え、オバマ政権時に大失態を演じた北朝鮮情勢を迅速に解決するためにも、日本のon-the-groundでの貢献と直接的な行動が必要だと考えられるからです。

日本として難しいのは、日米同盟を基盤とするという基本姿勢は変わらないでしょうが、安倍政権下で改善した日中関係に影を落とす事態は避けたいとの思惑も同居していることでしょう。

メディアを騒がせ、かつ自民党内でも賛成と反対が激しく対立する【習近平国家主席の国賓としての訪日】案件について、菅政権がまだ明確な方針を示しておらず、あくまでも【コロナなどもあり時期が適切ではない】との理由から結論先延ばしになっていることからも見えるように、中国への“配慮”が感じ取れます。

また10月に訪日したポンペオ国務長官と菅総理が会談したことを受け、11月には王毅外相とも会談する運びになっており、これは菅政権と外務省が非常にデリケートなバランスを保ちつつ、米中間でのシーソーゲームを繰り広げています。ちょっとした偶発的な出来事を引き金にしてこのバランスは容易に崩れることになるでしょうから、適度な緊張感を中国との間で保ちつつも、亀裂が決定的にならないためのハンドリングが要求される事態と言えるでしょう。

米中の対立が解消されるのは、まだまだ先のことだと予測しますが、それを受けて、日本をはじめとする周辺諸国はどのように対応すべきでしょうか。明確な方向性を定めておく必要があります。

とはいえ、もしトランプ大統領が再選されたら、まあおとぎ話みたいな話かもしれませんが、突然の電撃和解!なんてシナリオもあるかもしれません。それに淡い期待を抱いてしまうほど、今、米中対立を核とした、国際社会のブロック化と分断が進んでいるように思えて仕方ありません。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

image by: Gil Corzo / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

有料メルマガ好評配信中

    

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』 』

【著者】 島田久仁彦(国際交渉人) 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 金曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け