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元検事が暴くTBSの嘘。『朝ズバッ!』不二家叩きデマ報道との死闘全記録

2007年初頭に発覚し、各メディアが大々的に報じた菓子メーカー「不二家」による不祥事。中でもTBSの情報番組『みのもんたの朝ズバッ!』による同社へのバッシングは凄まじく、不二家商品の小売店からの撤去や製造停止など、影響は甚大なものとなりました。存亡の危機に立たされた不二家がこの時期に設置した「信頼回復対策会議」の議長を務めたのは、元検事で弁護士の郷原信郎さん。郷原さんは自身のメルマガ『権力と戦う弁護士・郷原信郎の“長いものには巻かれない生き方”』で今回、信頼回復の途上で明るみに出た『朝ズバッ!』の「捏造報道疑惑」とその疑惑追求の一部始終を公開するとともに、「電波の私物化」を始めとするTBSサイドのあきれた対応の数々を白日の下に晒しています。

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プロフィール:郷原信郎(ごうはら・のぶお)1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。鉱山会社に地質技術者として就職後、1年半で退職、独学で司法試験受験、25歳で合格。1983年検事任官。2005年桐蔭横浜大学に派遣され法科大学院教授、この頃から、組織のコンプライアンス論、企業不祥事の研究に取り組む。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2017年横浜市コンプライアンス顧問。コンプライアンス関係、検察関係の著書多数。

不二家信頼回復対策会議とTBS『朝ズバッ!』捏造疑惑追及

とうとう始まりました。有料メルマガ『権力と戦う弁護士・郷原信郎の“長いものには巻かれない生き方”』は、

  1. “長いものには巻かれない”「自分史」
  2. 独自のコンプライアンス論
  3. 組織の不祥事事例の分析
  4. 第三者委員会委員長等で関わった不祥事の解説
  5. 特捜事件の論評
  6. 弁護士として担当した「権力と戦う」訴訟事件の解説

をコンテンツとして、読者の皆様への発信を行っていきます。

創刊号の「2020年11月5日号」では、この中の【4.第三者委員会委員長等で関わった不祥事の解説】として、《「不二家信頼回復対策会議」でのTBS「朝ズバ!」捏造報道追及》を取り上げたいと思います。

「ペコちゃん」ブランドで国民的人気のある不二家が不祥事で存亡の危機に立たされて設置した「第三者委員会」の「信頼回復対策会議」は、不当なバッシング報道の中心だった巨大メディア企業TBSと真っ向から戦い、そこに、「文春砲」、BPO放送倫理検証委員会、国会での追及も加わって、当時、高視聴率を誇っていたワイドショー番組『みのもんたの朝ズバッ!』の「メディア不祥事」に発展するという“前代未聞の展開”になりました。

かなりの長文になりますが、この事件の経過の詳細を皆様にお届けします。


私は、検察に所属していた2005年から、桐蔭横浜大学法科大学院に派遣され、教授・コンプライアンス研究センター長を務めていたが、2006年3月末で検事を退職し、弁護士登録。それまでの組織のコンプライアンスの研究をベースに、企業不祥事についての具体的な助言・指導にも関与するようになった。

その後、企業不祥事の第三者委員会等にも多く関わったが、その原点となったのが、「食品企業不二家をめぐる不祥事」だった。それは、コンプライアンスの専門家として企業不祥事に具体的に関与する仕事の原点と言える。

「不二家信頼回復対策会議」の設置

不二家は、「ペコちゃん」ブランドで国民的に親しまれてきた菓子メーカーだ。

その不二家は、2007年1月に表面化した不祥事で、存亡の危機に立たされた。

消費期限切れの牛乳を原料に使ったシュークリームを製造・出荷していたことが発覚し、それを契機に、新聞、テレビなどから連日激しいバッシングを受けていた。

同月末、不二家は弁護士・有識者による「第三者委員会」としての「信頼回復対策会議」を設置、私はこの会議の議長に就任した。

不二家問題のキーワードは「発覚したら雪印の二の舞」という言葉だった。

「雪印」というのは、2000年に乳製品による集団食中毒事件が発生して厳しい社会的非難を受けた雪印乳業を指す。

「不二家は、この言葉を使って社内でかん口令を敷いて事実を隠蔽しようとした。そこまでやるぐらいだから、その『消費期限切れの牛乳』というのはよほど不衛生なもので、それを原料として使用した不二家の行為は食品メーカーにあるまじき悪質なものだ」というのが、世の中の認識だった。

しかし、食品衛生の専門家による調査の結果、「消費期限切れの牛乳」と言われていたのは、食品衛生上、品質上は何の問題もなく、それを原料として使用したのは社内ルールに違反した形式的なコンプライアンス違反に過ぎなかった。

「雪印の二の舞」という言葉も、不二家の内部者が考えた言葉ではなく、同社が業務の全面見直しのために委託した外部コンサルタント会社が、消費期限切れ原料使用の事実を発見し、センセーショナルな表現を使った報告書を作って不二家の経営陣も加わった会議の場にいきなり提出し、それが外部に流出したものだった。

「雪印の二の舞」という悪意に満ちた表現のために、不二家が隠蔽を図ったかのような誤解を受け、食品メーカー失格の烙印を押されてしまったというのが、この事件の真相だった。

信頼回復対策会議にとって重要なのは、不二家が、この程度の行為で、なぜマスコミから猛烈なバッシグを受け、存亡の危機に立たされることになってしまったのか、その原因を究明し、信頼の回復のための対策を講じることだった。

議長としての私の役割は、それを具体的に実行していくことだと考えていた。

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TBS『朝ズバッ!』の不二家バッシング報道

不二家問題に関する多くの報道は、食品衛生法や食品の製造実態についての無理解や誤解に基づくバッシングだったが、その中でも特にひどかったのは、TBSの情報番組『みのもんたの朝ズバッ!』だった。

この番組での不二家関連報道は、1月中だけで合計3時間40分、1日平均15分に及んでいた。

『朝ズバッ!』は、取材結果のVTRに基づき、司会者のみのもんた氏が、視聴者の声を代弁するように、素人的な観点から「ズバッ!」と言いたい放題のことを言い、コメンテーターとして出演している弁護士・評論家・TBSの解説委員などが、みの氏の発言に同調する発言をする、という構成だった。

それによって、みの氏の「ズバッ!」発言が、社会全体で是認されているように印象付けるものだった。

『朝ズバッ!』では、生菓子の原料の問題から始まって、チョコレート、クッキーなどの一般の菓子についても、異物混入などを取り上げ、バッシングの対象は不二家の全製品に及んでいた。

不二家製品は、全国のスーパー、コンビニ等の売り場から撤去され、1月末には缶飲料まで製造停止に追い込まれた。

その結果、生菓子のフランチャイズ店の20%が倒産・廃業に追い込まれるなど、その社会的影響は甚大だった。

2007年2月中旬に開いた信頼回復対策会議の終了後、事務局を務めていた不二家の社員の一人が、「この番組だけは許せないんです。先生、何とかできませんか」と言って、『朝ズバッ!』の報道内容に関するファイルを私に渡してきた。

そのファイルは、「新証言 不二家の“チョコ再利用”疑惑」と題する報道を行った1月22日の『朝ズバッ!』での報道に関する資料だった。

番組内容の詳細に関する資料と、この放送に関する不二家側とTBS側との交渉経緯を記載した資料が綴られていた。

チョコレート再利用報道と「顔なし証言」

1月22日の放送では、

「情報提供者は、不二家平塚工場の元従業員。彼女によれば、賞味期限が切れたチョコレートの包装をしなおしたり、溶かし直して再利用していた、というのです」

というアナウンサーのナレーションに続いて、不二家・平塚工場の元従業員と称する女性が「首から下だけの映像」で画面に登場して、

「チョコレートの包装をし直したり、溶かし直したりしていた」

と証言し、それを受けて、司会のみのもんた氏が、溶かしたチョコレートに牛乳を流し込むイラストのフリップを示しながら、

「賞味期限の切れたチョコレートと牛乳を混ぜ合わせて新しい製品として再出荷しちゃう」

などと決めつけるように言っていた。

さらに、翌日の番組で不二家の新社長就任を伝える場面では、みの氏が

「古くなったチョコを集めてきて、それを溶かして新しい製品に作り直すような会社はもうはっきり言って廃業してもらいたい」

などと発言した。

このように、徹底して不二家をこき下ろしていた『朝ズバッ!』だったが、その放送内容には明らかな誤りと不合理な点があった。

第一に、チョコレートを牛乳と混ぜ合わせてもうまく固まらない。そもそも、そのような工程はチョコレート工場にはない。

第二に、平塚工場で製造する不二家のチョコレートは「LOOKチョコレート」を始め、フルーツペーストやナッツを含んでいる商品ばかりであり、単純に溶かして成形し直しただけでは製品にならない。

第三に、小売店からチョコレートを回収して再利用することは、配送や包装を取り外して再包装するコストを考えたら、経済的に割が合わない。

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会社側対応メモから「証言映像捏造疑惑」に気付く

不二家の側でも、この1月22日の「朝ズバッ!」に対しては、放送当日にTBSに電話で抗議を行い、翌日には、文書で調査と放送内容の訂正を申し入れていた。

しかし、それに対してTBS側は、「証言の信憑性を確認するため」などと称して、「牛乳で混ぜ合わせるのでなければ何を混ぜるのか」、「製造年月日表示、賞味期限表示が開始された時期は?」などと不二家側に質問するだけで、何ら回答せず、交渉は中断していた。

『朝ズバッ!』は、不二家の信頼失墜に大きな影響を与えた番組だった。

その放送内容に虚偽があったのであれば、それを是正することは信頼回復に向けて重要な課題だった。

そこで、この『朝ズバッ!』の問題を信頼回復対策会議で取り上げることとし、議長の私が中心になって調査を開始した。

私は、まず、不二家平塚工場の製品の物流ルートについて調査し、小売店に出荷された製品が平塚工場に戻って来ることはあり得ないこと、万が一、小売店からの返品を工場に持ち込もうとしても、平塚工場内に返品を受け入れる施設もスペースもないこと、を確認した。

少なくとも、不二家平塚工場で小売店から返品されてきたチョコレートが再利用されることはあり得ないことを確信した。

それによって、「元従業員」だとする証言者や、返品されたチョコレートを再利用していたとの証言自体が存在するのか、それ自体がでっち上げなのではないか、という疑念も生じた。

しかし、それを信頼回復対策会議で正面から取り上げて追及するためには、証言自体が「捏造」や「やらせ」であることの疑いについての証拠をつかむ必要があった。

私は、関連資料のファイルをいつも鞄の中に入れて持ち歩き、僅かな時間でも、取り出して何度も読み返していた。

3月19日、私が、タクシーの車中で、ファイルを取り出して眺めていた時、一つの重要な事実に気付いた。

放映された「顔なし証言」の起こしの中に、

「全部が賞味期限だからゴミ箱の方に入れていたら、怒られて」

「パッケージに、一つひとつにラベルがあって、そこに製造日と賞味期限が書いてあるってことなので」

「それをもう一度パッケージをしなおすために裸にして欲しいんだって言われて」

という言葉があった。

それを見ていた時に、「これと同じような言葉を別の文書で見たことがある」というかすかな記憶が頭をかすめた。

同じ関連資料のファイルの中に、マスコミ等の問い合せに対する多くの対応メモが綴られていた。

その中に、問題の『朝ズバッ!』の放送の2日前の1月20日に、TBSのディレクターが不二家に事実確認の電話をかけてきた際の対応メモがあり、やり取りが記録されていた。

「平塚工場で働いていたという女性からの情報提供の事実確認」の欄に

(ア)賞味期限切れで返却されてきたチョコレートを再び溶かして使用していた

 

(イ)カントリーマアムについて。賞味期限が切れていたので捨てようとしたら上司に怒られ、それを再度新しいパッケージに入れて製品としていた

「答えた内容」の欄には

(ウ)工場で発生した成型不良品を溶かし直すことはあるが、返品は使っていない

 

(エ)カントリーマアムは平塚工場では未製造

と記載されている。

「カントリーマアム」というのは、チョコレート・チップが入った不二家の主力製品のクッキーのことだ。

メモは、機械的に電話の内容と対応を書きとめたものである。

検事として長く刑事事件の捜査に携わった経験からも極めて信憑性の高い証拠だと判断できる。

この事実確認の(イ)の文言と、放映された「顔なし証言」と比較すると、「捨てようとしていたら上司に怒られ」という部分が酷似している。

これは何を意味するのか。

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「カントリーマアムの再利用証言ビデオ」が存在する可能性

『朝ズバッ!』の放送で流されたのは、「チョコレートの再利用」の「顔なし証言」だった。その放送の2日前に、TBS側が不二家側への事実確認の電話をかけていた。そこで、質問してきたのは、「チョコレートの再利用」と「カントリーマアムの再利用」の両方だった。

「カントリーマアムについて、捨てようとしていたら上司に怒られ」という具体的な発言内容を不二家側に示しているのだから、TBS側には、そのとおりの内容の「カントリーマアム再利用証言」が存在するはずだ。

ところが、平塚工場ではカントリーマアムは製造していない。

つまり、「平塚工場におけるカントリーマアム再利用」は客観的事実としてあり得ないのである。

平塚工場で製造していないカントリーマアムについて、その工場内で売れ残り品を再利用する作業をしていたと証言した「元従業員」の証言は明らかに事実に反しており、まったく信用できない。

それどころか、そのようなことを証言する人間が、果たして平塚工場の「元従業員」なのかにも重大な疑問が生じる。

『朝ズバッ!』のディレクターは不二家への事実確認の電話でカントリーマアムを平塚工場で製造していないと知らされた。

それによって、カントリーマアムを再利用したとする「元従業員証言」が信用できないことは十分に認識できたはずだ。

ところが、そのような「元従業員の証言」に基づいて、『朝ズバッ!』では、不二家平塚工場の「チョコレート再利用疑惑」を放送し、出演者が寄ってたかって不二家を断罪し、みのもんた氏は、それを理由に「不二家は廃業しろ」とまで言ったのである。

しかも、放映されたチョコレート再利用についての「証言映像」に出てきた「捨てようとしていたら上司に怒られ」というフレーズは、不二家への事実確認の際にTBSディレクターが告げた「カントリーマアムについての証言の内容」と酷似している。

『朝ズバッ!』で使われた「チョコレート再利用についての証言映像」は、実際には、「カントリーマアムの再利用証言」を切り取って、すり替えて使ったものではないか、チョコレートを再利用したとする証言映像は存在しないのではないか。

私は、タクシーの後部座席で、思わず「これだ!」と声を上げた。

この「朝ズバッ!」報道をめぐる問題を追及し、それを世の中に明らかにすることができれば、マスコミから総バッシングを受けている不二家にとって“起死回生の一打”になるのではないかと考えた。

不二家側の電話メモから明らかになった『朝ズバッ!』の捏造疑惑の概要を不二家の広報室長に伝えた。

その問題に関するマスコミ対応についても、社長から一任を受けた。

ちょうどその頃、導入を控えて議論が盛り上がっていた裁判員制度に関して、文藝春秋の月刊誌『諸君!』に掲載する私のインタビュー記事のことで、編集担当者と話を進めていた。

私は、その編集担当者を通じ、週刊誌の『週刊文春』の編集部に、『朝ズバッ!』の捏造疑惑に関する情報を提供した。

不二家側も、平塚工場での取材など週刊文春の取材に協力することになり、取材が始まった。

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なんでチョコ工場にクッキーが返ってくるのか

しかし、『朝ズバッ!』の放送内容への不二家側の抗議への対応から考えて、「捏造」を疑う証拠があっても、TBS側が、素直にその事実を認めるとは思えなかった。

「電話メモの記載のような事実確認は行っていない」とか、「言い間違えた」などと、ありとあらゆる弁解や言い逃れをしてくることが予想された。

TBS側から直接、メモに記載されたとおりのカントリーマアムについての証言が存在することの確証をつかんでおく必要があった。

そこで、TBS側の“逃げ道”を塞ぐため、不二家側から、TBS側に会談の申し入れを行わせた。

3月25日、不二家本社で、不二家の広報部長、広報担当者、TBSのコンプライアンス室長、『朝ズバッ!』のプロデューサー2名に、信頼回復対策会議の議長の私が同席して、会談が行われた。

会談内容を録音することについて了承を得た上で行った会談の中で、私が、TBS側に、

「電話メモに書かれているような『カントリーマアム再利用についての証言』は実際にはないのに、あるように装って不二家側に事実確認をして引っ掛けようとしたんじゃないでしょうね」

と言うと、TBS側は、血相を変えて、

「失礼なことを言わないでほしい。我々は、カントリーマアムについても証言を得て、不二家さんに確認している」

と反論した。

それによって、TBS側は、不二家側に事実確認した内容がメモのとおりであること、そこで発言した「カントリーマアム再利用証言」が存在していることを明確に認めた。

それに加え、コンプライアンス室長を含むTBS側の3人は、口をそろえて、

「チョコレート工場なのに、『なんでクッキーが戻ってくるのだろうか』と思いながら、カントリーマアムの包装し直す作業を行っていたと元従業員が証言していた」

と述べた。

そういう疑問があったので、カントリーマアムについての証言は敢えて放映せず、チョコレート再利用についての証言のみ放映したというのだ。

TBS側は、完全に罠にはまった。

カントリーマアムについての証言ビデオの存在、そして、それを明確にチョコレートと区別して証言していたことを、TBS側が明確に認めたことで、局面は急展開することとなった。

その頃、週刊文春の取材も佳境に入っていた。平塚工場を訪れた週刊文春の記者の取材に、全従業員が総出で協力し、「顔なし証言」の女性に該当する工場従業員がいないことを確認する取材がほぼ終わっていた。

不二家側とTBS側の会談の内容を週刊文春に提供したことで、『朝ズバッ!』に関する記事掲載が決まった。

私は、その情報を、古くからの知人の共同通信文化部の記者に伝えた。

3月28日の水曜日の午後、翌日発売の週刊文春の『ペコちゃんを泣かせたみのもんた』と題するトップ記事の早刷りが出回った。

TBS『朝ズバッ!』の「チョコレート再利用疑惑報道」で、インタビュー映像の捏造が行われた疑いを取り上げた記事だった。

それと相前後して、共同通信が、『朝ズバッ!』の捏造疑惑を報じる記事を配信したことで、TBSにマスコミの取材が殺到した。

それを受けてTBS広報室長とコンプライアンス室長が会見を行った。

その会見で、TBS側は、

「証言者は平塚工場ではクッキーを製造していないことを承知しており『チョコレート工場になぜクッキーが戻ってくるのか』との疑問を抱いたという趣旨の証言をしている」

と記載したペーパーを配布した。

また、

「カントリーマアムとチョコを混同・流用していたのではないのか」

と質問されて、TBS側は、

「放送2日前に、証言者の証言を得て、カントリーマアムの話とチョコレートの話それぞれについて、事実確認の質問をしている。記事にあった、『賞味期限が切れていたのでゴミ箱に捨てたら上司に怒られ、再度パッケージに入れて製品にしていた』という趣旨の質問は、チョコレートに関する質問だった」

と答えた。

しかし、本当に、チョコレートに関する質問に対するそのような証言、しかも、「カントリーマアム再利用証言と文言まで酷似している証言」が存在するのか、TBSにその映像があるのか、そこが最大の問題だった。

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信頼回復対策会議報告書で『朝ズバッ!』の虚偽捏造報道の疑いを指摘

3月30日、不二家信頼回復対策会議の調査報告書を公表し、議長として記者会見に臨んだ。

不二家側に関する問題も十分に指摘した。

食品衛生面や品質保持上の問題はなかったが、食品製造現場の客観的な適正さの管理が不十分だったために消費者の「安心」を損なった。

それを招いた原因として企業の体質、経営者のリーダーシップの欠如、危機対応の失敗などを厳しく指摘した。

一方で、TBS『朝ズバッ!』の虚偽捏造報道の疑いにも言及し、不二家はTBSに対する損害賠償請求の提訴も検討すべきだと提言した。

報告書には、1月20日のTBSからの事実確認の電話に関する女子社員のメモを添付し、3月25日の不二家とTBSとの会談の録音中、TBS側がカントリーマアムについての証言ビデオが存在していると述べている部分などを、会見の中で公開した。

この録音の公開については、TBS側の事前了解はとらなかった。

TBS側がクレームをつけてくることは予想できたが、録音自体については了解を得ているし、極めて公共性・社会的重要性の大きい問題であることに加えて、TBS側が会議での発言内容をその後の会見等で覆しており、公表する社会的必要性がある。

もし、TBS側が問題にしてくるのであれば、公開の場での反論を行いTBSに論争を仕掛けることも可能になると考えたからであると会見で説明した。

会見場では、会見者席の後に設置したボードに、全国から届いていた不二家への応援メッセージの文面を全面に貼った。

「『ペコちゃん頑張れ』のメッセージとペコちゃんの絵を書いた手紙」が私と不二家社長の間に見え、会見映像にも映っていた。

会見は大成功だった。

不二家の不祥事報道には、重大な誤解や歪曲があるとの指摘に、記者からの質問・反論が相次いだが、私は、信頼回復対策会議の調査結果に基づいて説明し、報道に関する問題を具体的に指摘した。

会見の途中から、「不二家バッシング」は「TBS捏造疑惑追及」にモードが切り替わっていった。

その日の夜、TBSの広報室が、

「捏造は行っていない。不二家側のメモが間違っている。会議録音の無断公表は道義、モラルにもとる」

とするコメントを出した。

不二家の信頼回復対策会議は3月末で活動を終えたが、その後、私は不二家とは無関係に、桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センター長を務めるコンプライアンスの専門家としての私的な立場でこの問題の追及を続けた。

週末をはさんだ月曜日の4月2日、私は、TBSの社長宛に公開質問状を送付し、関係するメディアに公開した。

本件の公共性・重要性を指摘した上で会議録音の公開に踏み切った理由を説明し、その説明を受けてもなお「道義、モラルにもとる」と考えるのであれば理由を示すよう求めた。

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「謝罪」か「広告」か不明な放送

公開質問状に対してTBS側からは何の回答もなかった。

一方で、TBSは、不二家から責任追及を受けないよう、不二家に擦り寄る方向に切り替えていったようだった。

そして、4月18日の『朝ズバッ!』で、「謝罪放送」まがいの放送が行われた。

1月22日の報道について、「出荷されたチョコレートが小売店から工場に戻る」という証言は、証言者が他人から聞いたことで、確証がなかったなどの点について、

「誤解を招きかねない表現があった」

とした上で「やらせ捏造」は否定し、みの氏は不二家の主力商品のミルキーを頬張りながら前日に販売を全面再開した不二家製品を宣伝した。

「スタジオのお菓子は全部不二家にしますから」とまで言った。

「期限切れチョコレートの返品を再利用した」という報道内容について、その事実があったのか無かったのかには触れず、証言テープの捏造の事実だけは否定したが肝心なことは何一つ明らかにされなかった。

しかし、この放送を受けて、不二家は、「TBSの謝罪を受け入れる」と、あっさり矛を収めてしまった。

大手菓子メーカーにとって、テレビ局の存在は重要だ。

大手テレビ局のTBSが、不二家製品を番組内で好意的に取り上げてくれると申し入れてきたことに、不二家としては乗らざるを得なかった。

しかし、このようなTBSのやり方は、公共の電波を使って、損害賠償請求をする可能性のある相手方に「無償広告」を行うことで賠償の代替措置をとろうというものであり、まさに「電波の私物化」だった。

私は、企業不祥事の報道の在り方にも関する重大な問題であり、放置すべきではないと考え、その後もコンプライアンスセンター長個人の立場で、TBS追及を続けた。

TBS側は、当事者間で解決してしまえば部外者の私が何を言おうと関係ないと考えたのであろう。

しかし、その後の展開はTBSの思惑どおりにはならなかった。

BPO放送倫理検証委員会初の審理案件

5月12日、民放とNHKで構成する第三者機関「放送倫理・番組向上機構(BPO)」に「放送倫理検証委員会」が設置された。

関西テレビの『発掘!あるある大辞典2』の捏造問題をきっかけに、総務省が新たな行政処分を盛り込んだ放送法改正を国会に提出していたことなどを受け、放送業界の自浄能力を高め、放送に対する公的介入への防波堤とするために新設された委員会であった。

信頼回復対策会議の設置に先立って不二家の経営改革のために設置されていた「外部から不二家を変える改革委員会」委員長の田中一昭氏とともに、私は、個人の立場で、BPO検証委員会に『朝ズバッ!』の捏造疑惑について審理を要請する文書を提出した。

6月8日に審理入りが決定され、「放送倫理検証委員会」最初の審理案件となった。

6月20日、衆議院・決算行政監視委員会で放送のあり方が議題となり、広瀬道貞・民間放送連盟会長と私が参考人として呼ばれた。

野党議員の質問に、広瀬会長は、BPO放送倫理検証委員会では、捏造を疑われる報道があった場合に取材テープなどを提出させる権限を持っていると答弁した。

民放連会長が明言した以上、TBSも取材テープを提出しないわけにいかない。

それによって、「証言映像のすり替え編集」の事実が明らかになることは確実だと思った。

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「カントリーマアムをチョコレートと混同」という“苦し紛れの弁解”

BPO検証委員会は、TBSの取材テープを確認した。

その結果、私が想定していたとおり、「チョコレート再利用証言」は存在せず、カントリーマアムについての証言を流用した事実は確認された。

それにもかかわらず、TBSの証言の「すり替え編集」の捏造は認定しなかった。

追い詰められたTBS側が、

「担当者がカントリーマアムをチョコレートの一種だと勘違いした」

という「苦し紛れの弁解」、まさに「幼稚園児レベルの言い訳」をBPO検証委員会は丸呑みしたのである。

8月6日に放送倫理検証委員会が出した「見解」では、『朝ズバッ!』で放映したビデオ証言は、

「チョコレートではなく、クッキーの『カントリーマアム』についての発言であった」

と認定した上で、

「ディレクターは『カントリーマアム』がクッキーではなく、チョコレートを主体とした菓子であると誤解しており、比較的、要領よく語っている『カントリーマアム』についての発言を使い、放送用に編集した」

と述べて「誤解・過失」で片付けてしまった。

この「見解」を受けて、TBSは自社の検証委員会を立ち上げ、11月16日にその報告書が公表されたが、カントリーマアムの証言ビデオのすり替えの問題については、BPO検証委員会の認定に沿って、「担当者の混同による編集」ということで済ませるものだった。

私は11月27日に TBSの社長宛に、2通目の公開質問状を送付し、記者会見を行った。

質問の趣旨は単純であった。

「元従業員」が「チョコレート工場なのになんでクッキーが戻ってくるのか」と証言していた事実があるのか否かである。

その事実があるとすれば、それを聞いた担当者がカントリーマアムをチョコレートと誤解することはありえず、「意図的なすり替えの捏造」を否定する根拠が崩れる。

一方、その事実がないとすれば、3月25日の不二家・TBS会談の際に、コンプライアンス室長やプロデューサーは「真っ赤な嘘」をついていたことになる。

しかも、TBS側は3月28日の広報室長・コンプライアンス室長の会見でも同様の発言をしている。

いずれにしても、TBSのコンプライアンスの重大な欠陥を示す問題だった。

国会でのTBS『朝ズバッ!』追及

当時、国会で、事実に反する放送に対する規制強化を内容とする放送法改正案の審議が進められていた。

2007年12月4日の衆議院総務委員会での放送法改正の審議に参考人で呼ばれた私は、放送法改正に関して重要な事例だと思われるTBS『朝ズバッ!』の不二家関連報道の問題について経過を説明した上、証言映像の捏造の事実を否定するTBS側の対応を批判するとともに、捏造の有無を十分に検証しなかったBPO検証委員会の審理を厳しく批判し、次のように述べた。

私は、この問題、捏造の有無も極めて重要な問題だと思いますけれども、このように社会的にも非常に関心を集めた重大な、重要な問題に関して放送事業者の対応の中でウソがあったということが、それ以上に重要な問題ではないかと考えております。

 

そして、もう一つ大きな問題は、この問題はBPO検証委員会が立ち上げられて初めて審理の対象とされた事案だということです。BPOの検証委員会で審理が行われたにもかかわらず、このようなTBS側の説明のうそが全く見抜けなかったということでは、放送業界の自浄作用を発揮させるために設置されたBPOの検証委員会に、現状では十分な期待ができないのではないかと言わざるを得ないと思います。

 

私は、放送法の改正の問題に関しては、行政の放送事業に対する介入は極力避けるべきだと思っておりますし、この改正案の中の再発防止計画の提出の求めに関する部分、これをそのまま成立させることには反対です。しかし、だからといって何もしなくてもいいというわけではない、やはり放送事業者の自浄機能を発揮させるためにもっとBPOの検証委員会が機能しなければいけない。機能させるための方策を十分に講じた上で、このような行政の介入を認めるような内容の法案は削除するという方向が望ましいのではないかと思います。

 

とりわけ、過去にいろいろ、放送事業者の不祥事と申しますか、いろいろな問題が発生しております。

 

例えば、同じTBSでは、オウム事件の際の、オウム側に坂本弁護士の証言ビデオを見せたという問題、これがその後、坂本一家殺害事件の一つの原因になったというふうにも言われております。

 

この事件に関しても、最大の問題は、そういうような事実があるんじゃないかという疑いが向けられた後も、一切そのことを明らかにしようとしなかった、

 

それについて事実の解明に協力しなかったということが問題にされたわけです。

 

今回の問題に関しても、捏造の部分も非常に重要な問題ですが、それに加えて、問題が提起された、指摘されたときには、きちんと正直に話す、正直に事実を明らかにするという態度を貫いていただきたいと思います。

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TBSは反省することなく「郷原排除」を行った

虚偽報道への行政上の措置を含む規制強化の放送法改正というテレビ業界全体に関わる問題の国会審議で、参考人の私に証言映像の捏造疑惑を指摘されたことは、巨大メディア企業TBSにとっても、大きな打撃だったのであろう。

しかし、その後のTBSが行ったことは、不二家関連報道のコンプライアンス上の問題について反省し、是正措置をとることではなく、その問題を追及してきた私を、それ以降、全てのTBSの番組に出演させないという「郷原排除」だった。

当時、私は、桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センター長であり、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書)がベストセラーになったこともあり、企業コンプライアンスの専門家として、様々なメディアから取材を受け、テレビ出演の機会も多かった。

その中にはTBSからの依頼も含まれていた。

しかし、不二家問題以降、私には、TBSからの出演依頼は全くなくなった。

その2、3年後に、TBSラジオの番組に生出演したことが一回だけあった。

ところが、その後のツイッター情報によると、不二家問題での私とTBSの間の経緯を知らずに私を出演させたそのラジオ番組の責任者は、それが原因で番組の担当を外されたということだった。

不二家社員の思いが「ペコちゃんブランド」を守った

テレビ報道での「証言捏造」というのは、通常は、証言者側の証言や報道機関側の内部告発などがなければ明らかにならない。

TBS『朝ズバッ!』の捏造疑惑は、苦情・問合せへの一つの対応メモから明らかになったものだった。

不二家に対する激しいバッシング報道が行われる中で、不二家社内から社員がかき集められ、連日膨大な数の苦情・問合せ電話に丁寧に対応し、丁寧にメモを残し、応対の内容を正確に記載していた。

一人の女性社員が残していた正確な対応メモで、TBS側が事実確認の電話で告げた「証言者の言葉」と『朝ズバッ!』で放映された「証言者の言葉」が完全に一致していることがわかった。

そこから、私は、直観的に、『朝ズバッ!』での「証言捏造」を疑った。

その「直観」が働いたのは、直前まで「検事」であった私の長年の検察での捜査経験があったからであろう。

それは、巨大メディア企業TBSという「権力」と戦う武器になったことは間違いない。

しかし、そもそも、『朝ズバッ!』に関する調査を始めたのは、信頼回復対策会議の事務局の不二家社員が、

「この番組だけは許せないんです」

と私に訴えたことがきっかけだった。

そして、女性社員の丁寧な対応がなければ、私が「捏造の疑い」に気付くこともなかった。

さらに、平塚工場の従業員達が、週刊文春の取材に協力したことが、トップ記事の「文春砲」につながった。

そういう意味では、TBS『朝ズバッ!』の追及は、「ペコちゃんブランド」を守ろうとする不二家社員の思いが原動力になったものだった。

「大坂夏の陣の真田幸村」で終わった巨大メディアTBSとの闘い

残念ながら、証言のすり替え編集という捏造疑惑の追及による「巨大メディア企業TBSとの戦い」という面では、あと一歩及ばなかった。

大阪夏の陣で徳川家康本陣に向かって突撃し、後一歩のところまで迫りながら、家康を討つことは果たせなかった「真田幸村」のイメージだった。

しかし、メディアのバッシングの集中砲火を受けて存亡の危機に追い込まれていた不二家という企業の不祥事対応の面では、最も悪質な捏造報道を行っていたTBS『朝ズバッ!』に狙いを定めて反撃を行い、その一点を突破したことによってマスコミ包囲網を打ち破り、危機を脱することができた。

少なくとも、「社会の要請に応える」という私のコンプライアンス論に関しては、危機に瀕した企業を不当なバッシングから救うという「社会の要請に応えるGood Job」だったと自分なりに自負している。

そして、この経験は、「権力との戦い」に関しても、企業不祥事の危機対応という面でも、私の原点であり、その後の大きな糧になったことは間違いない。

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image by: image_vulture / Shutterstock.com

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1955年島根県松江市生まれ。1977年東京大学理学部卒業。鉱山会社に地質技術者として就職後、1年半で退職、独学で司法試験受験、25歳で合格。1983年検事任官。公正取引委員会事務局審査部付検事として独禁法運用強化の枠組み作りに取り組む。東京地検特捜部、長崎地検次席検事等を通して、独自の手法による政治、経済犯罪の検察捜査に取組む、法務省法務総合研究所研究官として企業犯罪の研究。2005年桐蔭横浜大学に派遣され法科大学院教授、この頃から、組織のコンプライアンス論、企業不祥事の研究に取り組む。同大学コンプライアンス研究センターを創設。2006年検事退官。2008年郷原総合法律事務所開設。2009年総務省顧問・コンプライアンス室長。2012年 関西大学特任教授。2017年横浜市コンプライアンス顧問。コンプライアンス関係、検察関係の著書多数。

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