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グローバリズムによる分断を世界に気づかせたトランプ大統領の功罪

11月3日に投票が行われたアメリカ大統領選挙では米民主党のバイデン候補が勝利宣言し、主要メディアではトランプ氏の「敗北」が報じられています。今後、米国はトランプ大統領が押し進めた「保護主義」を捨て、バイデン政権下で「グローバリズム」へと舵を切り直すのでしょうか? メルマガ『j-fashion journal』の著者で、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、トランプ大統領こそがグローバリズムによる分断の危機を気づかせたとその「功績」を評価し、グローバリズムの功罪について持論を展開しています。

グローバリズムは人を不幸にする

1.米国の分断、世界の分断

トランプ大統領は米国を分断したと言われているが本当だろうか。

グローバル時代の中で、まず産業が二つに分断された。ICTや金融など、国境に関係なく、デジタル技術により省力化が可能なグローバル産業と、製造業、農業、石油関係等のように土地や人件費の影響を大きく受けたローカル産業だ。

グローバル産業は、グローバリゼーションと共に成長できる。世界はひとつであり、国境なんて必要ない。自由に貿易ができて、自由な投資ができれば、より巨大なビジネスが可能になる。

しかし、労働集約型の製造業は人件費の比率が高く、新興国の方がコスト競争力で優位である。新興国とのコスト競争に負ければ、製造業の拠点は国内から新興国へと移転してしまう。国内の製造業は淘汰され、企業は倒産し、従業員は失業する。

農業も同様だ。コスト競争力を高めるには、外国からの出稼ぎ労働者に依存することになり、自国民の労働は奪われる。

石油の採掘もコストの低い産油国との競争に負ければ、国内企業は淘汰される。

国内のローカル産業を守るには、関税が不可欠だが、グローバル産業にとって、関税を撤廃した方がビジネスチャンスが広がるのである。

グローバリゼーションが進むと、国家としては自立できなくなる。他国に食料やエネルギーを依存し、国内製造業も衰退してしまう。世界が共通の価値観を持ち、互いの自由を尊重するならばグローバリゼーションも成立するが、経済的な優位性を利用して、他国を侵略したり、人権を弾圧するような国が出てくれば、グローバリゼーションを無条件に認めることはできないだろう。

これは、米国だけでなく、日本も全く同じだ。それでも、グローバル時代に衰退する産業が出てもやむを得ないと思っていた。その思い込みはある意味で教育だったのかもしれない。マスコミやメディアはグローバリゼーションは人類の進歩の結果であり、明るい未来の象徴のように演出していたのである。

その陰で、分断は見えなくなっていった。世界の人々に、グローバリゼーションがもたらす分断に気づかせたのは、トランプ大統領の功績だったのかもしれない。

2.グローバリゼーションは格差を拡大する

世界を一つと考え、自由な貿易とサプライチェーンを気にビジネスを組み立てるならば、最も人件費の低い国で生産し、最も高い価格で購入してくれる国で消費することが正解となる。しかし、そのビジネスをコントロールするには、大量生産大量販売が必要になる。

大量生産大量販売には巨大な資本が必要である。

グローバルサプライチェーンとは、グローバルなスケールの分業である。分業の恩恵を受けるのは、サプライチェーン全体をコントロールし,価格決定権を持つことだ。グローバルなサプライチェーンに組み込まれた工場は、常に海外とのコスト競争に晒され、最低限のコストが押しつけられる。商品のコストは押えられるが、製造業としては儲からない。

グローバルビジネスの利益を享受できるのは、消費者と大企業だけである。これを進めれば、中小零細企業は淘汰されるのだ。

消費者は安い商品を購入できるようになるが、消費者は一方で供給者であることも多い。市場価格が下がり、市場規模が縮小すれば、企業の売上も利益も下がる。そして社員の給料も下がる。商品価格は下がるが、収入も下がるというデフレスパイラルに陥るのだ。

日本人は身を持ってこれを経験している。コストの低い国に製造拠点が移転することで、国全体のGDPが下がり、非正規雇用が増え、子供の出生率も低下した。

グローバリゼーションは先進国の格差を拡大する。新興国に富裕層を生み出すが、低いコストに抑えられる労働者の所得は一定以上には上がらない。結果的に新興国も格差が拡大する。また、新興国になれない国は資源や農産物を現金に換えなければならず、やはり

貧困化が進む。

貨幣経済、市場経済の拡大と国際的な分業は国際的な格差を生み出しているのである。

3.常に監視される情報統制社会

一定以上に経済格差が拡大すると、貧困層の数が増え、不満が蓄積される。不満分子が組織化され、反政府的な行動が出てくる。商店を破壊し、商品を強奪するようになると、ビジネスは成立しない。

商取引に暴力が介在すると、市場や社会そのものが崩壊してしまう。

それを防ぐには、不満分子の組織化を防ぎ、反政府活動を行う個人を特定し、逮捕することが必要になる。

中共は、町中に監視カメラを設置し、顔認証技術とAIを組み合わせて、個人を特定している。そして、その膨大なビッグデータをリアルタイムで通信するために5G回線が必要になる。

世界中にこの監視システムを普及されるには、世界的な通信網とビッグデータの収集が必要になる。監視カメラだけではなく、SNSの画像や動画も検閲の対象になる。

香港では国家安全維持法が制定され、香港の独立を支持する個人は、香港在住であるか否かに関わらず、外国人であっても罪に問われる。

グローバリズムが行き着く先は、究極の監視社会につながっている。一部の特権階級が富を独占する体制を維持するために、善良な一般国民が監視される。こうなると、我々は何のために働いているのか分からなくなる。

個人の幸せのために働いていたはずが、気がついたら労働を強制され、利益を搾取される。そんな悪夢に少しずつ近づいているかもしれないのだ。 

4.ローカルビジネスと個人の幸せ

一部の特権階級が富を独占し、身分が固定されると、社会の進歩は止まってしまう。そして、個人の自由と幸せも奪われてしまうだろう。

グローバリズムが個人の幸せを奪うシステムならば、それを否定することも可能である。国土に根ざし、国益を優先する社会を作る。多国籍企業によるグローバルビジネスに規制をかけ、関税により国内産業を保護する。行き過ぎた保護政策も社会の活力を奪うが、行き過ぎたグローバリズムも同様に社会の活力を奪うのである。

常に適度な競争と企業や組織の新陳代謝が行われること。適度で健全な欲望を抑制しないこと。一定以上の格差拡大を防ぐための社会保障を充実させること。

貨幣経済は自由競争には適しているが、社会のインフラ整備、文化や芸術の振興には適していない。お金だけではなく、名誉や尊敬を保証する仕組みも必要だろう。

また、常に新たな課題をテーマを設定し、人々が努力したくなる社会的ビジョンも必要

だ。経済だけではなく、道徳や精神的な尺度も必要である。

現在は、自由主義経済、貨幣経済、グローバリズム、競争社会等に偏り過ぎて、人々はストレスを抱えている。家族や社会との関係も希薄になっている。

我々は、一度、グローバリズムだけが正しいという思い込みを捨てて、ローカルに生きる個人の幸せに目を向ける必要があると思う。

編集後記「締めの都々逸」

世界に目を向け 夢見ていても そんな器量があるかいな

米国大統領選挙、凄いですね。次々と想定外のことが起こります。不正選挙の疑いがありますが、あまりにも雑で杜撰な工作活動であり、こんなことが通用するのなら、世も末だと思っています。

実際、世も末なのでしょう。末だから、焦っている。追い詰められている。しかし、大統領になっても、米国を良くできるのでしょうか。結局、私利私欲の戦いになりそうです。米国と中国の私利私欲。

そして、怖いのが、私利私欲のための戦争や侵略です。

なぜ、他人の自由や幸せを認められないのでしょう。私利私欲を捨てない限り、幸せになれないのだから、私利私欲を捨てる競争をすればいいのにと思います。どちらが先に悟るかを競争する。どちらが我欲を捨てられるか。そんな時代じゃないのかな、と思うのです。(坂口昌章)

image by: Evan El-Amin / Shutterstock.com

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