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トランプよりもよほど危険。バイデン政権が中国と軍事衝突する日

トランプよりもよほど危険。バイデン政権が中国と軍事衝突する日トランプ陣営の「悪あがき」は続いているものの、次期大統領の座をほぼ確実に手にしたバイデン氏。各国のマスコミは新大統領に対する期待や懸念を盛んに報じていますが、識者はどう見ているのでしょうか。元国連紛争調停官の島田久仁彦さんさんはメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で今回、バイデン新政権が国際情勢に与える影響を考察。国内メディアが流布する「日本に冷たい親中派」というバイデン氏のイメージについては、否定的な見方を記しています。

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バイデン新政権が国際情勢に与える影響とは?

11月3日の投票日からなかなか決着がつかなかったアメリカ大統領選挙。まだ決着とは言えないようですが、一応、十中八九、ジョー・バイデン元副大統領(民主党)が勝利したという認識が広がっています。とはいえ、ジョージア州ではrecount(再集計)が行われ、ペンシルベニア州やミシガン州、ウィスコンシン州ではトランプ大統領側が再集計を求めるなど混乱は続いています。

さらには、現政権の国務長官であるマイク・ポンペオ国務長官は、「トランプ政権2期目の準備は万端」だとか、「アメリカには大統領も、国務長官も、そして首席補佐官も一人ずつしかいない」と、勝利を確信して、各国に対して外交活動を繰り広げるバイデン氏とその陣営に不信感を募らせています(ついには、米国憲法違反!とまで言っています)。

まだトランプ氏が勝利するという大逆転劇の可能性はゼロではないようですが、アメリカ国内のことはアメリカの皆さんに任せるとして、今回は【バイデン政権が成立したアメリカが国際情勢にどのような影響・変化を与えるか】について、多方面からの分析を行ってみたいと思います。

いきなりこの課題に対して私の結論ですが、期待されたほどの変化はすぐには望めないと考えています。パリ協定への復帰、WHOへの復帰、イラン核合意への復帰…などトランプ政権の外交方針を逆転させることを約束していますが、就任後すぐの喫緊の課題は、コロナウイルスの感染拡大への対策とアメリカ経済の立て直しであり、各国、とくに欧州各国が期待しているような大きな外交方針の転換にまでは手が回らないと思われます。

トランプ政権の4年間で徹底したAmerica Firstの外交・内政方針は、国際情勢においては、国際協調体制に止めを刺し、世界を再度ブロック化させ、そして国際情勢におけるアメリカ合衆国の影響力を崩壊・低下させたと感じています。

しかし、そこで表出してきたアメリカの対中強硬策やイランへの強硬的な態度、そしてトランプ大統領が強調したNATOにおける欧州各国のコミットメントの低さへの非難は、バイデン政権においても、大きな転換は起こりません。

まず中国については、バイデン氏は親中だと嘆き心配するメディアの論調もありますが、実際には、オバマ政権時代からアメリカ政府は中国への警戒心を高め、急速に発展していく中国の経済力と軍事力に懸念を示し、【中国の封じ込め】に必要性を認識していました。

トランプ政権下でそれが、彼のパフォーマンスもあり、クローズアップされましたが、実際にはオバマ政権で始まっていた動きです。ゆえに、バイデン氏が大統領の座についても、すでに米上下院で超党派の姿勢として対中強硬論は確立しており、バイデン政権下でも大きな転換は行われないと見ています。

もしかしたら、原理原則を重んじる民主党が政権の座に就くことで、トランプ政権時代よりも対中戦争の可能性が高まる恐れもあり、台湾問題をはじめとする緊張のネタを巡って偶発的な衝突が起きた場合、抑止が効かなくなるのではないかと懸念しています。

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ロシアとは全面的な対決に至る可能性も

欧州との関係ですが、こちらについては経済的な観点と環境対策の観点からは、概ね良好になり、協力体制を強めようとの動きが、トランプ政権からの反動という力も加わり、進むのだと考えます。パリ協定への復帰やWHO問題、そしてイラン核合意という視点から、アメリカがいち早く影響力を取り戻すには、欧州との連携を復活させるのが最も手っ取り早い策だからです。

しかし、最初に触れたCOVID-19の感染拡大への対策とアメリカ経済の回復という内政問題にしばらくは注力するものと思われることから、現在、大騒ぎし、期待がされているほど迅速に国際協調路線への復帰はなされないものと考えています。

そして欧州繋がりではNATOの負担問題がありますが、本件はトランプ政権下でクローズアップされたように見られていますが、実際にはオバマ政権下で対欧州への要請がスタートしており、その副大統領を務め、外交のフロントで力を発揮したバイデン氏ですから、安全保障問題において、欧州の安全に対して、もっと欧州各国からの貢献を求め、アメリカの“負担軽減”を進めるという方向性には変化はないと考えており、この考え方は、バイデン政権で大統領首席補佐官を務めるロン・クレイン氏もシェアしているとのことです。

今後、安全保障、経済的な連携、気候変動問題での協力、そしてイラン対策などで、多角的に欧米間の連携と協力を模索することになるでしょうが、各イシュー間の力のバランスの調整は、期待されている以上に、困難な課題だと見ています。

気になるのは、欧州各国や日本、カナダ、豪州などが相次いで【バイデン新政権】を念頭にした祝意と具体的な関係構築の模索を行っている半面、中国もロシアも、まだバイデン氏が新大統領になるという前提のコメントも外交活動も行っていません。

実際に北京やモスクワに尋ねてみると、“もちろん想定はして、策は練っている”とのことですが、習近平国家主席もプーチン大統領も、「トランプ氏大逆転という“リスクヘッジ”」を行っているとの見方もありますし、中国もロシアも、「バイデン氏のほうが、中ロに対して実は厳しい」との評価をしているとも聞いています。中国への対応と感情については先ほどお話しした通りですが、ロシアについては、大統領候補間での論戦で、「トランプはプーチン大統領の犬」とこき下ろしたり、息子のみならず自らも疑惑の渦中にいるウクライナ問題は、プーチン大統領が仕込んだもの!と非難したりしていることから、バイデン政権の対ロ政策は、恐らくトランプ政権の内容と圧力に比べて厳しいものになる可能性が高いと考えます。

実際に上院外交委員会のトップだった時期も、オバマ政権の副大統領時代も、一貫してバイデン氏はロシア嫌いです。先述のクレイン氏も認めていることですが、長きにわたる上院議員としての経験において、対ロ(対ソ)の見解は、伝えられている以上に、厳しく強固なものということです。恐らくカメラの前では、あのバイデンスマイルでプーチン大統領と握手しているかもしれませんが、プーチン大統領と持ちつ持たれつでうまく付き合っていたトランプ大統領とは違い、全面的な対決にも至るかもしれません。

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エチオピアにおける隠れた米中対立も表出か

その対ロ感情ゆえに、現在、プーチン大統領が一応は小康状態に持ち込んだナゴルノカラバフ地域の紛争と停戦合意に対して、あえて火中の栗を拾うことはしないと思われますが、もしかしたら、アメリカの中央アジア地域でのプレゼンスを高める(恐らく“回復する”という表現を用いるでしょうが)ために、トランプ政権が避けてきたアクティブなコミットメントに転換するかもしれません。

それがアメリカ外交としての方針であり、政権自らが主導するのであればいいのですが、本件ではアメリカはOSCE(欧州安全保障機構)の主要メンバーであり、ナゴルノカラバフ地域の案件については、欧州(特にフランス)とロシアとのトロイカ体制での関与になっていますので、マクロン大統領やプーチン大統領に乗せられて、不必要な負担を背負わされるように仕向けられる可能性も否定できません。

実際には、アメリカには特段の直接的な権益はない地域と言えますが、仮にトランプ政権の消極性への対峙という観点でアクティブコミットメントに転換してしまったら、オバマ政権以降進めてきた“アメリカの対外コミットメントの縮小”という流れに反し、アメリカは再度、世界の問題に首を突っ込み、泥沼にはまっていくようになる恐れも感じます。

仮にそうだとしたら、以前と大きく違うのは中国の“実力”であり、対外コミットメントが拡大するようなことがあれば、米中対立の衝突点が、トランプ政権時よりも広がる可能性が高いと言えます。

イントロダクションで触れたエチオピアにおける隠れた米中対立も表出することになります。

エチオピアは、一帯一路政策の恩恵を思いきり受けており、経済はもちろん、外交安全保障面でも対中傾倒が強まる一方で、各ドナー国とのバランスを取りたいと願って中国べったりの依存体制を改めようとしたのが現首相のアビー氏ですが、対中累積債務の拡大やインフラ事業での否定できない中国のプレゼンス、そしてCOVID-19の感染拡大に際して中国が手を差し伸べたという点からも、実際には中国への傾倒は大きくなるばかりです。

また今回、エチオピア北部のディグレ州で勃発したTPLFとの武力衝突を受け、国際的なサポートを得るために、中国との関係が強まってきました。

ちなみにこのエチオピアとその周辺国(ジブチ、スーダンなど)での中国の影響力の拡大はアメリカの外交・安全保障政策上、由々しき問題であると認識されています。

その理由は、表立って語られることは決してありませんが、アメリカのGlobal War on Terrorismにおいて、北アフリカ地域と中東アラビア半島におけるテロリスト認定組織の動きを逐次追跡し、かつ工作活動を指揮するCIAのBlack Siteがエチオピアに置かれています。

中国が隣国ジブチの軍港の権利を取得したことも、アメリカにとっては大きな問題と認識されています。それに対抗するために、先日、イスラエルを使ってスーダンを対イラン・トルコ包囲網に招き入れ、テロ認定国から除外することで、アメリカおよびイスラエルからの支援を受けることが出来るようにセッティングしましたが、実際には、これはエチオピア周辺における対中国包囲網の一環と見ることもできます。

イスラエルを含む中東諸国は、実際には中国とも近く、イランでさえも親中国という事実から、スーダンの巻き込みがどれほどの効果があるのかは不明ですが、対テロ戦争の戦略拠点としてのエチオピアをアメリカサイドにキープしておくためには、今回の内戦に対しても、新政権は何等かのコミットメントをしなくてはならないと考えるのではないかと見ています。エチオピアとエリトリアの緊張緩和や、スーダンと南スーダンの問題などに関わってきた身としては、この地域の安定が崩される可能性を感じて、懸念を強くしています。エチオピア問題がバイデン氏とその周辺、特に外交担当の頭にどれほど存在するかは未知数ですが、注意喚起はしておきたいと思います。

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バイデン政権下での日米関係

では日米関係はどうでしょうか?

「バイデン氏は日本に冷たく、中国にやさしい」というイメージが、なぜかメディアを通して流布されているような気がしますが、バイデン氏は日米同盟の存在をかなり重要視しており、アメリカ外交の基盤の一つと位置付けているとの評価があるため、私は心配していません。

特に11月13日の菅総理との電話会談において、【尖閣諸島問題は日米安全保障条約第5条に基づいた防衛対象】との言質を日本に与えていることからも、バイデン氏の対日・対中姿勢が垣間見られるのではないでしょうか。

とはいえ、クリントン、オバマという民主党の大統領が立て続けに日本軽視とも取れるジャパン・パッシングを行ったことから、バイデン氏もそうではないかとの懸念はぬぐい去ることはできませんが、クリントン政権時やオバマ政権時に比べ、中国の実力は格段に上がっており、そのほとんどが、アメリカの環太平洋での覇権と正面から衝突するほどのレベルに達していることから、元々の対中警戒論と米国内の超党派での対中強硬論に押されて、その反動でより日本シフトするのではないかと見ています。

これでTPPに復帰してきたり、防衛費増額をトランプ政権と同じく迫ってこなかったりすると、日本シフトは明確になるのでしょうが、どちらも難しいと言えるでしょう。

最後に、もし公約通りに外交を進めようとするのであれば、環境政策面では大きなプラスが生まれることになります。日本を含む各国もバイデン政権下では脱炭素の方向性が急加速し、すでに進めている欧州の施策と相まって、ポジティブな脱炭素競争が加速することから、日本がcompetitive edgeを持つ水素有効利用や、蓄電池の開発、再生可能エネルギーの普及、そしてグリーンファイナンスという部門では、国際協調が復活どころか一気に進むでしょう。

特に4年の任期中に気候変動対策と脱炭素に2兆ドルを投入するという方向性は、技術とエネルギーのマーケットを、心理ごと、大きく転換させ、脱炭素のブースターになるでしょう。これは期待したいと思います。

ただ懸念があるとしたら、本当に公約通りに進められるかという点です。コロナウイルスの感染拡大が一日平均10万人超えのペースで進み、それにつれ、経済も停滞させていることから、恐らく就任後すぐのpriority No.1はコロナ対策と封じ込めになると考えられます。そうした場合、予想していなかったコストが発生し、本当に4年間で2兆ドルという支出が可能になるのか、そしてコロナの公衆保健上の脅威と、経済に与える心理的な脅威を本当に抑えることが出来、再び前向きなコミットメントを可能にするのか。これは本当に4年後の検証を待つしかないでしょう。

そして何よりも、まだトランプ大統領の2期目の可能性がゼロではないという点を再度強調しておかなくてはなりません。十中八九、バイデン新政権が誕生すると思われますが、国際情勢の観点からは、Trump 4 more years!にも備えておかなくてはならないでしょう。

そして、高齢78歳での大統領就任となるバイデン氏が本当に1期を務めあげられるか否かも未知数です。有事には副大統領のカマラ・ハリス氏が大統領代行に就任しますが、外交面は決して経験も知見もあるとは思えないとの印象を持っており、プーチン氏をはじめとする曲者でかつ外交の荒波を何度も乗り越えてきた猛者を相手に、超大国アメリカの影響力を保つことが出来るかは不安です。

期待を持ちつつ、国際協調の舞台に再度アメリカが戻ってくることを願いたいと思いますし、コロナが早期に終息し、各国が協調して世界を回復させるような動きの中心に戻ってきてくれることを祈ります。

皆さんはどうお感じになるでしょうか?またご意見、ぜひお聞かせください。

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image by: VP Brothers / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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