プーチンの凋落。中国とトルコに打ち砕かれた大ロシア帝国構想の夢

 

ロシアの命運握るトルコ

その要素の一つが、アゼルバイジャンとアルメニア間の紛争を止め、治安を維持するために派遣したロシア軍の存在です。平和維持部隊の派遣そのものは評価したいのですが、先ほどお話しした通り、すでにアルメニア側では今回の和平合意内容に大きな不満のマグマが溜まっており、アルメニア国内で爆発してしまうと、恐らくそのままナゴルノカラバフ地域に引火します。その際、ロシアとしては物理的に軍隊をそこに置いているため、何らかの対応を迫られることになりますが、もしアルメニア側に対して反撃してしまうと、ロシアは以後、アルメニアという“同盟国”を失うことになりかねません。かといって何もしなければ、恐らくアゼルバイジャン政府は「ロシアは中立ではなく、また無力だ」と非難し、何らかの行動に出ることを考えます。その際、ナゴルノカラバフ地域およびアゼルバイジャン・アルメニアを巻き込んだ戦争の再発に至るか否かの大きなカードを握るのがトルコになるわけです。

もしトルコがアゼルバイジャンをけしかけてアルメニアに対する攻撃を加えたとしたら、ロシアとしては反撃をするか、アルメニアのサポートに回るか、それとも即時にアゼルバイジャンとアルメニアに対して停戦を呼び掛けるかの3択になります。

その際、ほぼ100%、停戦の条件としてトルコを当事者として協議に参加させるという、これまで必死に避けてきたチョイスが現実化してしまい、トルコによる地域への影響力拡大を許すことになります。

現在、ロシアはかつての旧ソ連の共和国が挙って親欧米政権に覆っていくという悪夢に苛まれていますが、そこにこれまでさほど対抗軸として存在しなかったエルドアン大統領のトルコが加わることで、コーカサスにおけるかつての裏庭と目してきた国々との結びつき、言い換えるとロシアが優越感を持って接してき国々が“ロシア陣営”から次々と離れていくことに繋がりかねません。

欧米側にひっくり返るのか?

それともトルコとの関係を強め、地域におけるトルコの影響力拡大に繋がり、トルコをロシアと欧州各国との間に挟むkey playerに押し上げるのか?

もしくは、プーチン大統領のマジックが威力を発揮し、エリツィン大統領からロシアを引き継いでから20年以上、描き続けた旧ソビエト連邦の威光の復活と大ロシア帝国の再興へとつながる秘策があるのか?

そのカギを握るのがトルコとのパワーバランスと、ナゴルノカラバフ地域の状況です。

以前からお話ししているように、ナゴルノカラバフ地域には石油と天然ガスのパイプラインが並行して走っており、アゼルバイジャンにとっては欧州各国にエネルギー資源を輸出することで外貨を稼ぐ大事な収入源となっています。

その建設と維持にこれまではロシアがサポートを提供してきましたが、今後、その地位を狙っているトルコという存在がどのように機能するか非常に注目です。

少し話はそれてしまいますが、ここ数年、トルコ・エルドアン政権のエネルギー安全保障への執着はすごく、東地中海での天然ガス田採掘権を対EUそして対イスラエルで地域の帰属権争いと絡めて複雑化することで、採掘権を確保しにかかっています。またこれはキプロスの帰属を巡る直接的なEUとの係争とつなげ、そこにEU各国が頭を悩ませるシリア難民の問題を絡めて、すさまじい交渉を行っています。

ここで出てくるシリアでも、実はロシアとトルコは今、対峙しています。シリアのアサド政権の後ろ盾としてしばらくロシア・トルコは肩を並べていましたが、シリア北部のイドリブ県でのシリア政府軍とトルコ政府軍との武力衝突を巡りロシアとトルコが直接的な対峙に至るようになりました。

ナゴルノカラバフ地域での紛争が継続していた際にも、シリアとナゴルノカラバフ地域での“主導権”争いの一環として、イドリブ県でのロシア軍による対トルコ空爆もあれば、トルコ軍機によるロシア軍機(シリア軍機)撃墜事件もあり、大きな緊張関係が続いています。

それはリビアの“内戦”にも影響しており、不安定要因を多くの地域に広げながら影響力の対峙が起きているのが現状です。

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