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財務省の呆れた現実無視。深刻な人手不足も介護の報酬引き上げず

厚生労働省が公表した今年9月の訪問介護職の有効求人倍率は15.47倍と人手不足に拍車がかかっていることが明らかになりました。ヘルパー自身が高齢というケースも多く、コロナ感染を心配し離職する人も多くなっているようです。問題の根本は、低賃金を筆頭とする労働環境の劣悪さにあると語るのは、メルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』著者で健康社会学者の河合薫さんです。このままでは介護現場の崩壊は目に見えているにも関わらず、介護報酬の引き上げを拒否する財務省に批判の声を上げています。

財務省はスルー?介護現場崩壊の危機

なんと、ホームヘルパーなどの「訪問介護職」の有効求人倍率が15倍を突破してしまいました(9月時点)。すべての職種の平均と比べるとおよそ16倍、介護職全体と比較してもおよそ4倍の高さとなります。

訪問介護職の存在は、いわば「介護の最後の砦」です。「家族で、在宅で!」を基本とする国の介護福祉制度の中で、家族の役割を代行してくれているのが、訪問介護のヘルパーさんです。

しかしながら、賃金が破格の安さで、多くの人が「ゼロ時間契約」で働かされています。ゼロ時間契約とは、就労時間の保証がない契約のこと。つまり、賃金保障もないままにその時々に求められた時間だけ働く雇用形態です。

訪問介護ヘルパーの場合(正規以外)、待機時間に対する賃金は基本的に支払われませんし、訪問先間の移動費や、事業所に連絡する電話代などもすべて自分持ちになってしまいます。丸一日フルに働いても7000円程度にしかならないのに、仕事に関わる諸経費は手弁当でやるしかないのです。

訪問介護の仕事は、相当の覚悟と利用者との信頼関係がなくては成り立ちません。「身体介護」では、蒸しタオルで洗顔し、着替えを手伝い、失禁のため体を拭き下着を取り換え、シーツなどを洗濯し、「生活援助」では、食事の準備、掃除、洗濯、ゴミ捨てをし、「入浴介助」では血圧や体温をチェックし、洗髪と洗身をし、それらの合間に食器洗い、夕食の準備をして、洗濯の取り込みをし…etc. etc.。自転車での移動中におにぎりや肉まんをほおばり、移動、介護、移動、介護、移動、介護の繰り返しです。

そんな「介護の最後の砦」の唯一無二の訪問介護ヘルパーさんたちが、このコロナ禍で「感染できない、感染させたくない」という不安から、離職するケースが相次ぎ、有効求人倍率15倍を突破するという、深刻な事態に陥ってしまったのです。

そもそも“人間力”が求められる訪問介護ヘルパーさんは、年齢の高い人が多いのです。約4割が60歳以上、65歳以上は2割。10年後にはほとんどのヘルパーさんが引退する可能性が高いことから、近い将来「絶滅危惧種」となることが危ぶまれていました。

つまり、「15倍」という数字は、介護現場の崩壊の始まりを意味しています。それは介護が必要なのに受けられない「孤立した高齢者」が日本中に溢れる火ぶたが切られてしまったことでもある。なのに、悲しいかなこの危機感は霞が関に全く届いていません。

政府内では、来年度に行われる介護報酬の改定の議論が本格化していますが、厚労省がプラス改定を求めているのに対し、財務省は「負担増の環境にない」と全く応じない姿勢なのです。

しかも、財務省はコロナによる介護事業者への影響についても、施設の利用を控える動きは6月以降に改善したと指摘しているとか。税の負担が大きくなったとしても、深刻な人手不足、介護職員の処遇改善を鑑みればスルーするという選択肢はないはずです。

25年度には団塊の世代が75歳以上となり、約30万人の介護職員が追加で必要になるとされているのに、どうするつもりなのか?誰もが老いるし、誰もが介護が必要となるのに、本当に「高齢社会」という現実をわかっているのでしょうか。

果たして、我が国は「高齢社会」に見合った税金の使い方をしているのか?介護問題についてはこれまでも問題点と解決策を書いてきました。少子化対策についても、先日「マジ?」という意見が出ましたが、みなさんのご意見、お聞かせください。

※少子化対策の税金問題は、日経ビジネス「低所得は自己責任? 自分さえ良ければいい人増殖社会」をご覧ください。

image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
「自信はあるが、外からはどう見られているのか?」「自分の価値を上げたい」「心も体もコントロールしたい」「自己分析したい」「ニューストッピクスに反応できるスキルが欲しい」「とにかくモテたい」という方の参考になればと考えています。

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