MAG2 NEWS MENU

80カ国に達した中国包囲網。バイデン新政権が狙う反中統一戦線

トランプ大統領の暴走に手を焼いていた各国が急速に「バイデン・シフト」へと舵を切り中国包囲網に加わる方向に進みつつありますが、当然ながら中国も手をこまねいているわけではありません。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、米国政権の端境期を突き勢力伸長を図る中国の動きを解説。さらに習近平国家主席の悲願でもある「台湾統一」に向けた武力攻撃の時期についても大胆な予測を記すとともに、アジア重視の方針を打ち出したとされるバイデン新政権のメッセージの読み解きを試みています。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

米国の政治空白の隙を突く中国の企み?

アメリカ大統領選挙の混乱もバイデン氏勝利という“結論”で何とか収まろうとしています。それに呼応するように、欧州各国はバイデン氏にラブレターを送って4年間で冷え切った欧米関係を修復しようとしていますし、世界は一気に脱炭素に舵を切ろうとしています。

まさしく“バイデン・シフト”です。

ロシアのプーチン大統領はまだバイデン氏をPresident-Electとは認識していませんが、中国の習近平国家主席は民主主義国のリーダーたちに遅れること数週間、ついにバイデン氏を次のアメリカ大統領と認めました。

しかし、いみじくもプーチン大統領が繰り返し言っているように、【アメリカ大統領はトランプ大統領であり、バイデン氏ではない】というのは事実で、まだ短くても1か月半ほどはトランプ氏がアメリカの大統領として内政も外交も担っていることを各国は忘れてはなりません。欧州各国は少し浮かれているようですが、祝意は述べても習近平国家主席はそれを忘れてはおらず、任期少ない政権と、まだ成立していない政権の端境期を突いて、しっかりと勢力の伸長に勤しんでいます。

それはなぜか?

ただ力の空白を狙っているだけではなく、バイデン氏が率いる民主党の新政権は、ほぼ確実に原理原則を重視することから、トランプ政権に比べて中国に厳しくならざるを得ないと認識しているからです。

パリ協定や貿易については実利主義的な外交巧者として、バイデン新大統領は中国と協力の道を探るかもしれませんが、人権問題やコロナを巡る責任問題、そしてアジア太平洋地域および中東、北アフリカなど広範囲で進む一帯一路政策と軍事力を用いた中国の勢力拡大という、アメリカにとっての【国家安全保障問題】については、非常に厳しく、ビジネスライクに適宜妥協してきたトランプ大統領とは違い、交渉の余地がなく、外交上のハンドリングを間違えば、戦争に発展する危険性も見えてきます。

また、トランプ大統領の任期中に急に台湾に攻撃を仕掛けない限りは、トランプ大統領のアメリカが中国と戦火を交えることはないとの読みもあります。ゆえに台湾には圧力をかけつつも、直には手を出さないという方針が透けて見えます。

ただバイデン氏の場合、トランプ政権のアメリカ第一主義(America First)の裏返しのイメージを狙うため、国際的な協調と連携を用いて中国と対峙するという外交方針になるものと思われます。それは、新国務長官に指名されたブリンケン氏の最近の言動を見ても読み取れます。

「中国が最大の課題だと誰もが認識している」
「経済、軍事、技術面で米中は敵対的な側面がある」

その方向性を見て、アメリカの民主主義の同盟国は挙って中国包囲網に参加を表明し、12月3日の時点でその数は、程度の強弱はあるものの約80か国に達していると見られています。

その主たるものが、毎年11月に開催されるハリファックス国際安全保障会議で「中国vs.民主主義」というレポートが提出され、民主主義国家がいかに挙って中国の脅威に立ち向かうかについて論じています。そのラインに沿って、恐らくバイデン新政権では【反中国統一戦線】の形成が模索されることになるでしょう。

そしてその動きは半ばトランプ的とさえ揶揄される東南アジア諸国のリーダーたちにも広がってきました。ミャンマーやカンボジア、ラオスといった一帯一路と累積債務で手足を縛られた国々は別として、ASEAN諸国は挙って中国が主張する「中国が南シナ海のほぼ全域に主権または領有権を有する」との主張を完全否定し始めました。2016年に国際司法裁判所が出した判決が、今になってやっとアジアでもシェアされ、ついには南シナ海において直接的な領土問題を有さない国(例えばインドネシア)にも広がりました。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

王毅外相の訪日で日本に突きつけられた踏み絵

しかし、アメリカや英国、フランスとは違い、インドネシアやベトナム、フィリピンなどの国々は、安全保障上の脅威という点では反中国統一戦線に加わっていますが、中国がもたらす経済的・技術的な恩恵を受けて、あえて全面的な対立姿勢はとらず、米中の狭間でゲームをしているようにも見えます。

もちろん、中国も黙って批判されてはいませんし、反中国統一戦線の形成を許すわけではありません。

アメリカが政権移行の端境期にあり、かつ次期政権の基盤もできていないうちに、周辺諸国を抑えにかかっています。その一例がHuaweiの5G技術とノウハウという【通信インフラ】を迅速にアジア各国に広げることで一大情報圏を作ろうとしています。

ベトナムとシンガポールではHuaweiは採用されていませんが、インドネシアやマレーシア、フィリピン、タイ、そしてミャンマーではあっという間にHuawei製の5Gが通信インフラとしてパッケージ化されて採用され、それらの国は、非採用国に比してあからさまに中国からの援助や協力において優遇されています。同じ現象がエチオピアやケニア、ウガンダなどでも見られますし、サウジアラビアやUAEをはじめとする中東諸国でも、Huawei製かどうかはまちまちですが、中国のシステムによる情報通信インフラ網に与する動きが出ています。

欧米では、トランプ大統領の呼びかけに呼応し、また香港国家安全維持法やウイグル自治区での人権問題などを引き金に、Huawei製の排除に乗り出していますが、いわゆる途上国では中国の迅速な作戦が功を奏しており、中国包囲網の結束については大きな疑問が残る現状になっています。

それに加えて、中国が世界各国、特に欧米諸国に揺さぶりをかけたのが、12月1日に中国政府が打ち出したのが中国輸出管理法の施行です。

具体的な対象は明かされていませんが、「いかなる国や地域も輸出規制を濫用する場合、中国は対等の措置を取ることが出来る」という一文が示す通り、海外、特に欧米諸国が主導する対中国貿易規制への反抗措置と理解できるでしょう。

日本を含め、主要な工業国が中国に依存する“もの”といえば、COVID-19のパンデミックで明らかになったマスクや医療物資といった戦略物資、ハイテク技術、そして中国が世界の生産シェアの6割以上を占めるレアアースが挙げられますが、仮にそれらがこの法の対象になった場合、まだ中国離れの体制が出来上がっていない各国産業にとっては大きな痛手となり、中国に大きく強大な戦略的なカードを与えることになります。

バイデン氏がアメリカの新大統領になる可能性が高いと看做されてから一気に脱炭素の機運が加速しましたが、その目玉になっているのが電気自動車(EV)や、太陽光発電や洋上風力発電と組み合わせて使われる蓄電池技術などバッテリー技術ですが、その製造のための材料となるレアアースこそが中国からの輸出品です。パリ協定の実施、脱炭素型社会・経済の推進といったエリアでは、バイデン新政権の下、米中は協力するものだと思われていますが、その出鼻をくじきかねない大きな踏み絵が、今、“反中国統一戦線”のメンバー国に突き付けられています。

それは日本も例外ではありません。それを知ってか、11月24日に王毅外相が日本を訪問し日中外相会談を行いました。

「日本と中国は同じ海を共有する不可分の関係」と日本を持ち上げ、そして急転直下、時期尚早だと考えられていた両国間のビジネス往来の再開に合意しました。

王毅外相自身、この時期に訪日するということは、北京に帰国後、例外なく14日間の隔離措置が課されるにもかかわらず、あえてそれを厭わずに訪日したということで、日本に経済・ビジネス面で恩を売り、日本企業の中国依存度を高める狙いと共に、日米間に楔を打ち込み、言葉は悪いですが、日本に“過剰な反中体制を慎むよう”に迫ったものと考えます。突如、習近平国家主席が持ち出したTPP11への参加表明も同じような目的でしょう。以前から懸念していた【中国か米国か】という踏み絵が、ついに中国からこの時期に突き付けられたとも言えるでしょう。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

中国、バイデン新政権初期に台湾を攻撃か

これらに加えて2021年6月から施行予定の改正特許法では、これまでの欧米諸国からの知財保護問題に答えるべく、特許侵害に対しての賠償額を他国に比べても高く設定し、また特許有効期間も20年に延ばす措置を取ることで中国でのビジネスをやりやすくするというイメージ戦略を打ち出し、海外からの投資をさらに伸ばすためのアピールをすることで【自由で開かれた中国】を示そうとしています。

香港国家安全維持法にかかる批判への痛烈な皮肉にも思えますが、実施され施行された場合は、欧米各国の対中包囲網の結束を綻ばせる効果があるかもしれません。

今後、バイデン新政権下でのアメリカと、習近平国家主席の中国との間ですさまじい綱引きの材料になりそうなのが、台湾問題です。

ウイグル自治区や香港での人権問題については、バイデン政権は妥協の余地はないでしょうが、対台湾の方針については未定です。トランプ政権下では、中国への当てつけもあり、台湾の厚遇が進んでいます。

例えば駐台湾の外交トップを大使級に格上げし、その人事は大統領直轄という方針が進行中ですし、上下院では、まだ新しい議会は始まっていませんが、台湾をアメリカがリードする多国間のサプライチェーンに組み入れるというアイデアも進行中で、中国に対して多方面からの揺さぶりをかけています。

しかし、バイデン政権は中国との諸々の関係に鑑みて、どこまで台湾との距離感を縮めるかは見えてきません。明らかに過度な台湾への肩入れは、中国政府を苛立たせ、関係修復のチャンスを逸し、逆に中ロを軸とした国家資本主義体制の拡大を招き、同時に資本主義国家グループの結束を壊すかもしれません。そう、かつてのオバマ政権下で欧州各国が中国へ傾倒していったように。

しかし、トランプ政権の4年間で米国内にできた流れは、議会上下院含め、中国への対抗軸とアメリカのアジア太平洋地域へのコミットメントのシンボルとして、台湾との距離を縮める方向に針が振れており、政権が変わってもなかなかそれを急転換するのは、経済的にも、安全保障体制的にも困難かと思われます。どのような方針を取り、どれぐらいの距離感で中台と付き合うのか、バイデン政権はとても難しいバランスを要求されることになります。

そして、それを間違えるか、中国に誤ったメッセージを与えることになった場合、中国(北京)による台湾攻撃が行われ、それがアメリカと日本を含む東アジア諸国を巻き込んだ紛争に発展するドミノ現象が起こるかもしれません(そうなった場合、喜ぶのは北朝鮮だけでしょうか)。とはいえ、中にはバイデン新政権初期に、その隙を突いて中国が、習近平国家主席の念願を叶えるべく、「アメリカは中国の主権を侵し、“内政干渉した”」とでも理由をつけて、台湾攻撃と統一を試みるかもしれません。

アジア各国もバイデン・シフトに沸くばかりではなく、このような恐怖のシナリオにも備えておく必要があるでしょう。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

「America is Back!」どころではないバイデン新政権

12月3日にCNNなどが報じた内容によると、バイデン新政権では国家安全保障会議の幹部レベルにアジア担当を置くという方針が伝わってきました。

アジア重視の姿勢と中国への警戒を示したものと思われますが、具体的にどのように中国と向き合い、北朝鮮の問題に取り組み、トランプ大統領が見放した韓国と向き合い、そして日本と付き合うのか。一刻も早く戦略を練っておかないと、中国にいろいろと暴れさせるスペースと時間を与え、取り返しのつかないことになるかもしれません。

そう、America is Back!どころではないのです。

バイデン新政権初期には、コロナへの対応や経済・雇用対策など、国内問題が山積しており、多くの外交的な成果は期待できないと見るのが筋かもしれませんが、「中国といかに付き合い、戦略的に対峙するのか」という今後の世界の趨勢を占うBig Questionに対しては政権が正式に発足する前に方針を固めておく必要があるでしょう。そこにもし、日本がしっかりとパートナーとして並走することができれば、来年からの日米関係のバランスにも変化が見られるかもしれません。

皆さんはどうお感じになるでしょうか?またご意見、ぜひお聞かせください。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

 

image by: mark reinstein / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

有料メルマガ好評配信中

    

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』 』

【著者】 島田久仁彦(国際交渉人) 【月額】 ¥880/月(税込) 初月無料! 【発行周期】 毎週 金曜日(年末年始を除く) 発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け