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【書評】街中に監視カメラ、ネット検閲…それでも中国人が幸福な訳

街中のいたるところに設置された監視カメラ、ネット上の出来事はすべて政府が把握していると言われている、中国。想像するだけで息苦しさを感じそうですが、なぜ中国人はそれを文句も言わずに受け入れているのでしょうか? 今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』では編集長の柴田忠男さんが、中国の「幸福な監視社会」の謎を解き明かそうとする注目の一冊を紹介しています。

偏屈BOOK案内:梶谷懐・高口康太『幸福な監視国家・中国』

幸福な監視国家・中国

梶谷懐・高口康太 著/NHK出版

「中国を訪問すると、その監視社会ぶりに驚かされます。地下鉄駅ではX線による荷物検査など空港並みのセキュリティチェックを実施。日本の新幹線に相当する高速鉄道では身分証の提示が必須です。さらに街中いたるところに監視カメラが林立しており、全国でその数は約2億台。2020年には6億台に迫るといわれています」とイントロからびびらせてくれる。これが現実世界……。

一方、インターネット上でもすべてが政府につつ抜けである。ところが、中国人のほとんどがそれに不満を抱いていない。それどころか、現状を肯定的に見ている。中国人はプライバシーに無頓着だから、専制政治によって洗脳されているから、と思いたいがそんな単純な理由からではないらしい。この本は、この「幸福な監視社会」の謎を解き明かすことを課題にしている。

第1章では、数々の事実誤認と誤解、時には歪曲であふれている、中国の監視社会に関する議論。第2章では、アリババやテンセントといった民間企業によるテクノロジーの開発および、その「実装」がいかに中国社会をより便利に、より快適にしてきたかに注目。第3章では、政府主導で進められている「社会信用システム」に注目、管理社会、監視社会について具体的に考える。

第4章では、政府による言論統制が、情報通信技術(ICT)の進歩によっていかに洗練化し、巧妙になっているかを現地での体験を踏まえて紹介する。第5章では、「テクノロジーを通じた統治と市民社会」という観点から、「管理社会」「監視社会」化の進展による「市民的公共性」の基盤の揺らぎを考えていく。

第6章では、中国の大都市の「行儀が良くて予測可能な社会」が中国のような権威主義国家で進行していることの意味を考える。第7章では、ジョージ・オーウェル「一九八四年」的監視の最前線、深刻な民族問題を抱える新疆ウイグル自治区で起きていることに焦点を当てて論じている。みごとな構成である。

それぞれの章のタイトルは、「中国はユートピアか、ディストピアか」「中国IT企業はいかにデータを支配したか」「中国に出現したお行儀のいい社会」「民主化の熱はなぜ消えたのか」「現代中国における『公』と『私』」「幸福な監視国家のゆくえ」「道具的合理性が暴走するとき」うまい!うますぎる。

「デジタル監視社会」の実体に詳しい専門家ですら、中国の監視社会については正確に理解できていないらしい。多くの誤解がある。その原因は、バイアスのかかった先行情報を参照した結果、後追い情報もさらにバイアスのかかったものになる、という負の連鎖が起きているからだ。驚くのは、外からの視点と中国自身の現状に対する内からの視点とでは、評価が真逆なのだという。

この本は、現代の中国社会で起きていることを、冷戦期の社会主義国家のイメージで語るのはかなりミスリーディングだ、というスタンスをとる。「監視社会」やそれに伴う「自由の喪失」を論じるのであれば、同時に「利便性や安全性の向上」にも目を向けなければならないということだ。というわけで、かなりめんどうくさい。うさんくさい。警戒しながらじっくり読むべし。

編集長 柴田忠男

image by: Shutterstock.com

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