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電気自動車で負け組。トヨタは燃料電池車で勝ち組になれるのか?

トヨタ自動車は12月9日、フルモデルチェンジしたFCV(燃料電池自動車)『MIRAI(ミライ)』の販売を開始しました。前日には燃料電池(FC)小型トラックの配送実験をコンビニ大手3社と始めることが伝えられ、連日新聞紙面を賑わしています。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、国内でハイブリッド車の規制が猶予されている期間にトヨタが狙う供給網整備の戦略を解説。朝日新聞の過去記事から、二酸化炭素排出に関しては、水素の製造から供給まで多くの課題があることも指摘しています。

新聞は「水素電池」をどのように伝えてきたか?

きょうは《朝日》から。各国がガソリン車を禁止する方向で規制を強めようとしているなか、日本は完全に出遅れた感がありますね。特に、中国などがガソリンエンジンを搭載している全てのクルマを禁止対象にしようとしているのに対して、日本はハイブリッド車(HV)を禁止することができず、ハイブリッド車を含めた「電動車」なる概念を作りだし、ハイブリッド車を「長生き」させようとしているように見えます。

電気自動車(EV)開発で出遅れた日本にとっては、インフラも含めた大変革を求められる燃料電池車、とりわけ水素自動車の開発がこれからのカギになっていくと思われます。

そこで、きょうは「水素電池」を検索語に選びました。《朝日》のサイト内検索で55件、記事検索では2件にヒットしました。サイト内から重要と思われる記事をいくつかご紹介しましょう。まずは今朝の《朝日》9面の経済面記事の見出しから。

水素電池車 コンビニ配送実験 トヨタ

セブン-イレブン・ジャパンとファミリーマート、ローソンのコンビニ大手3社とトヨタは、燃料電池(FC)小型トラックの配送実験を来春から始める。FCトラックは日野自動車のトラックをベースにした3トン車で、航続距離は260キロ。将来は400キロを目指すという。大型のFCトラックも開発中で、そちらの方は再来年の春頃からヤマト運輸など5社と実証実験に入るという。

●uttiiの眼

トヨタの発想は、やはり、燃料供給インフラの重視という点にありそうだ。ハイブリッド車は電気自動車に進化する途中の過渡的なクルマという印象があったが、実際には「燃費の良いガソリン車」に過ぎず、真っ直ぐEVに進化していくものではない。しかし、ガソリンの業界と絶縁することもなく、「エコ・フレンドリー」なクルマを求めるユーザーの期待にも応える絶妙の選択肢だった。あまりに燃費が良いため、ガソリン消費量は減っただろうが、ガソリン業界がハイブリッド車で決定的に傷付くということはなかっただろう。

今のところ政府は、少なくともあと15年、ハイブリッド車を容認する姿勢なので、トヨタをはじめとするハイブリッド車メーカー及びガソリン供給インフラは生き延びることができる。さらに、一定の時間的猶予の中で、燃料電池車の開発を進め、とりわけ水素電池車を標準的なものにできれば、ガソリン業界が、既存の供給網を水素の供給網に転換していくことも可能…そんなふうに読んでいるのではないかと思う。

「ガソリン車」から「水素燃料電池車」にチェンジすることが可能になれば、水素を使わない電気自動車は進化の袋小路に入ってしまうかもしれない。トヨタが思い描いているのはそのような道筋なのではないだろうか。

今回、記事にあるように、商用車で水素電池自動車と水素供給インフラの標準を作り出そうとしているのは、そのような戦略に則った動きなのではないかと思われる。

【サーチ&リサーチ】

2016年3月14日付
風力発電で水素を作り、燃料電池で動くフォークリフトの実証実験。「従来のエンジンで動くフォークリフトに比べ、全工程における2酸化炭素(CO2)排出量を8割減らせるという」2割は、水素充填車の走行時に排出される分。水素充填車はまだ燃料電池車になっていないということ。

2016年7月20日付
「燃料電池車(FCV)の燃料となる水素をアンモニアから製造することに成功したと、広島大や昭和電工などが19日に発表した。純度の高い水素を取り出す技術は世界初という。水素自体を輸送したり貯蔵したりするよりも安全で、コストも安いと期待されている」

*このプロジェクトに、豊田自動織機も参加している。

2017年1月31日付
「ホンダは30日、水素で走る燃料電池車(FCV)の普及に向け、米ゼネラル・モーターズ(GM)との合弁工場で、燃料電池の量産を2020年をめどに始めると発表した。両社が同じ電池を使うことで、価格を引き下げるねらいだ」

*ホンダは2013年からGMと燃料電池の共同開発を手掛けていた。「ホンダは16年、一度の水素補給で世界最長の750キロを走れるFCV「クラリティ フューエルセル」のリース販売を始めた。ホンダ、GM両社とも20年ごろには新型FCVを販売する予定で、電池は両社の車に搭載される見通しだ」と。

2017年8月19日付
「韓国の現代自動車は17日、水素で走る燃料電池自動車(FCV)の「次世代型」を来年3月に韓国などで販売すると発表した。燃料電池の性能を大きく向上させ、1回の水素補充で走行できる距離は2014年にトヨタ自動車が発売した「MIRAI(ミライ)」を上回るとしている」

2018年4月26日付
「中国政府が国家を挙げて電気自動車(EV)やその関連産業を育てようとしているなか、地方ではその先を見越して、水素燃料電池車(FCV)の普及に向けた態勢づくりが着々と進んでいる。FCVが本格的に普及すれば、EVで後れを取る日本勢も活躍するチャンスが増えそうだ」

2018年6月18日付
「コンビニ最大手のセブン─イレブン・ジャパンは、店で使う電気の半分弱を太陽光発電などの再生可能エネルギーでまかなう省エネの実証店舗を開いた」とのニュースの中で…。

「発電した電力の95%は、トヨタ自動車のプリウス20台分の中古蓄電池などにためて夜間に利用。店舗の使用電力の46%をまかなうという。セブンは約2万店のうち、すでに約8千店に太陽光パネルを設置。昨年12月には東京・四谷に、水素燃料電池などを備えて使用電力の約1割をまかなう店も開いた。今回は国内外の90種類の新技術を採用した実証店舗と位置づける」

*セブン-イレブンにプリウスの中古バッテリーと水素燃料電池…の話は今回の記事につながっていく。

2018年11月27日付
北京で環境フォーラムが開かれたとのニュースの中で…。「中国政府は大気汚染対策や、エンジン車に強い日米欧が握る自動車産業の主導権を奪うため、電気自動車(EV)を全面的に推進している。次に注目しているのが、水素が燃料の燃料電池車(FCV)だ。中国の産業政策「中国製造2025」では、30年までに燃料電池車を100万台に増やす目標を立てている」と。

*「水素は環境に良い」という“常識”を覆すような話が出てくる。

2019年5月14日付
「京都で12日夜まで開かれた国連の「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の総会では、温室効果ガスの排出量と吸収量の算定に必要な改良版ガイドラインが採択された。水素や希土類金属を新たに温室効果ガスの排出源とするなど、最新の知見が盛り込まれた」という。「水素は燃料電池車での利用をはじめエネルギーとして注目されているが、製造段階が排出源とされた」ため。

2019年11月7日付
「中国・上海で5日始まった第2回中国国際輸入博覧会で、日本からは約380の企業・団体が出展し、出展した181の国・地域などでは最多となった。50万人訪れると言われるバイヤーに高齢化や水素エネルギー、グルメなど、市場のトレンドに沿った商品を売り込んでいる」水素電池車については以下の記述…。「電気自動車(EV)大国となった中国は、水素燃料電池車(FCV)にも積極的になった。トヨタ自動車はFCV「ミライ」の新型を展示した」

*水素関連は景気のいい話ばかりではない。

2020年10月8日付
「燃料電池車のガソリンスタンドにあたる「水素ステーション」について、会計検査院が、国の補助金で設置された約20カ所を調べたところ、「再生可能エネルギーだけで電力をまかなう」という補助要件が守られていなかったことが関係者への取材でわかった。ほぼ全てで一般の商用電力が使われていたという。検査院は約20億円の補助金の使い方が不適切だと環境省に指摘。同省は今年度、事業の募集を見合わせた」

●uttiiの眼

水素電池車が二酸化炭素排出の超優等生と言われるためには、水素の製造段階、あるいは供給までの各段階において、化石燃料を使うようなことがあってはならないということが分かる。太陽光や風力による発電を水素製造に利用する体制まで整備して初めて、評価されうるものだろう。

日本のクルマメーカーが水素電池車に取り組む理由の中で、「将来の中国の自動車市場」という要素が非常に大きいように思える。国を挙げてEV開発に取り組む中国だが、その先のFCVの世界に向かって早くも動き出しており、日本のメーカーはその市場で勝者となれるか否かが極めて重要だと判断しているのだろう。

日本国内では「水素ステーション」の躓きはあったが、商用車と水素供給網の世界で「標準」を作り上げようという動きが、トヨタを中心にますます顕著になっていくのだろう。

image by:josefkubes / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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