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医療崩壊で注目の「看護官」。何でも自衛隊頼みで大丈夫なのか?

基幹病院で新型コロナウイルスのクラスターが相次ぎ、医療崩壊の危機に瀕した旭川市は自衛隊に災害派遣を要請。自衛隊から看護官が派遣され、その活動が注目を集めています。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、過去に新聞各紙が「看護官」の活動をどう伝えてきたかを紹介。国内、海外問わない活躍を伝えつつも、自衛隊本来の国防という目的に照らした吟味も必要と問題提起しています。

自衛隊の「看護官」という存在について、新聞記事はどのように扱ってきたか

きょうは《毎日》から。各紙、北海道旭川市が医療崩壊に瀕している状況について記事を掲載していますが、《毎日》も1面下の定番コラム「余録」と29面社会面の「新型コロナ」特集記事で大きく報じています。自衛隊の看護官が派遣されているので、迷彩服を来た看護官の写真なども掲載されています。

きょうは「看護官」という存在について、新聞記事がどのように扱ってきたか、見ていきたいと思います。試みに《東京》の記事検索を使うと3件。《朝日》ではサイト内15件、記事で4件となっています。いずれも大半が今回の派遣に関わる記事だというのは予想通りでしたが、意外な記事がいくつか見つかっています。まずは《毎日》29面の記事。見出しから。

旭川 妊婦30人2度「転院」
基幹病院でクラスター
崩壊 人ごとじゃない
専門医 目立つ偏在

旭川の2つの病院(旭川厚生病院と吉田病院)で新型コロナウイルスのクラスターが発生し、通常の医療が行えなくなってしまった様子が描かれている。旭川厚生病院では患者ら258人が感染して25人が死亡。吉田病院でも201人が感染して31人が亡くなっている。

旭川厚生病院に入院していた30人の妊婦たちは、同病院でクラスターが発生したため、旭川赤十字病院に移ったが、そこでも感染者が発生したため、もともと赤十字病院で出産を控えていた10人と共に、さらに他の病院で対応することに。

旭川赤十字病院では3人の麻酔医も濃厚接触者として自宅待機の状態にあり、緊急度が低い手術を取りやめたり、手術が予定されていた患者を一時退院させたりしているという。もしもこれからさらに他の病院でクラスターが発生するようなことになると、「市内の医療体制はもうもたない」(赤十字病院の牧野院長)という。

旭川市では複数の病院で感染が広がったため、「受診控え」が起こっていて、難病の患者さんなどの病状が悪化しないか、心配されている。

●uttiiの眼

旭川は人口33万人以上、北海道第2の都市。旭山動物園や独特のラーメンで有名で、年間に500万人もの観光客を惹き付けてきた町。その旭川が新型コロナで医療崩壊に瀕していることになる。自衛隊看護官の派遣が必要になったのは、まさしく「災害」級の事態ということに他ならない。

【サーチ&リサーチ】

《朝日》サイト内の15件中、旭川市への看護官派遣に関わる記事は9件。それ以外の6件中4件は、クルーズ船の頃の支援に関わる記事だった。1件は武漢からの邦人帰国に向かったチャーター機の第2便に同乗した看護官らについての記事。

2020年1月30日付
「新型コロナウイルスによる肺炎が発生した中国・武漢市(湖北省)から、帰国を希望する日本人を乗せた日本政府の民間チャーター機の第2便が30日午前8時50分ごろ、羽田空港に到着し、210人が帰国した」との記事中、第2便に関する次の記述。

「チャーター機は第1便と同じく、成田と武漢を結ぶ定期路線を持つ全日本空輸(ANA)が、ボーイング767で運航。29日午後10時すぎ、羽田空港を出発。第2便には陸上自衛隊の看護官2人が搭乗した」

*クルーズ船については「防衛省は6日、チャーターしている民間貨客船「はくおう」を、新型肺炎の発症者が乗っていた大型クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の接岸場所に近い本牧ふ頭(横浜市)に移動させた。はくおうを活動拠点にして、医官や自衛隊員がクルーズ船内で乗客の支援に当たる」との記事があり、さらに「このほか自衛隊は、チャーター便で帰国した人が滞在している施設に、医官や看護官ら計約50人を派遣し、医療相談や生活支援を実施している」とある。

《東京》の3件のうち、旭川への派遣関係は2つ。残る1つは、2017年年頭の社説だった。

2017年1月3日付
「隊員23万人の組織力、機動力が国際平和構築に活用」されているという内容。2016年、パラオで米海軍が主催する人道支援活動「パシフィック・パートナーシップ(PP)」に参加した自衛隊は、18日間、白内障の手術を38件実施。「空路やってきた日本のNPO法人四団体の医療関係者19人と自衛隊医官、看護官が診察した住民は1929人。新聞で告知したところ、早朝から順番待ちの長い列ができたそうです」とあり、ここに「看護官」が登場している。

「武力によらない国際貢献を本格化させるには自衛隊法を改正するなどの政治決断が不可欠です。迷彩服を着ているのに「人助け」「国づくり」に力を入れるのは奇妙かもしれません。国内で評価されたのは献身的な災害救援が認められたからこそです。「おかしな軍隊」といわれてもいいではありませんか」というのが社説子の主張。

●uttiiの眼

武力によらない支援は様々なバリエーションと可能性があるだろう。しかし、その目的は支援活動を通じて、日本の安全保障に資することであるはず。この話は、自衛隊全体を一足飛びに「医療支援部隊」に変えることではなく、他方で「武装集団」としての自衛隊が果たして「日本の防衛」という目的に相応しいものなのかを冷徹に吟味することを要求するものだろう。

image by: Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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