菅首相は14日夕、政府の観光支援事業「GoToトラベル」を28日から来年1月11日まで、全国一斉に一時停止すると表明しました。新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めのかからぬ中、出演したネット番組で「いつの間にかGoToが悪いことになっている」とし、改めてキャンペーン継続の意思を示していた菅首相ですが、世論の声を無視することはできなかったようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では著者で日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、国民の命を守ることは安全保障上の問題で経済より優先する必要があるとして、現政権の舵取りを強く批判しています。
コロナ感染爆発の危険性。命より経済の方が重要?
11日、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、GoToトラベル・GoToイート事業の一時停止と、飲食店の営業時間短縮を「午後8時」に前倒しするよう求める提言をまとめた。
しかし、11日朝加藤官房長官は、政府が観光支援策GoToトラベルの一時停止の検討を始めたなどとする一部報道について、政府としてはGoToトラベルを維持する方向であると語った。
GoToトラベルによって、「大きな感染のなかった地域でも感染拡大になっている」と専門家は言う。事実、岩手県は、第1波時には感染者ゼロであったが、12日43人感染で感染者累計295人となっている。
感染爆発した地域では外出自粛をする必要も出るが、大阪市、札幌市、旭川市、広島市に広がっている。11日現在、病床使用率20%以上「ステージ3」(感染急増)の水準は24都道府県で、北海道、兵庫、高知が病床の使用率50%以上で、緊急事態宣言発令となる「ステージ4」(爆発的な感染拡大)の水準に達した。
東京は、12日621人の感染者を出しているが、再生産指数が1近辺であり、大きく増えていないが、東京の若者が旅行に行く地方の感染が拡大している。地方の方が病床数が少ないので東京より地方の方が心配になっている。
山中教授は、大阪とサンフランシスコの2つの都市に住んでいるが、サンフランシスコより大阪の方が感染規模が大きいと言っている。
特にPCR検査量が、大阪はサンフランシスコの10分の1以下であり、隠れ感染者が多数いる可能性が高いという。
日本は米国の50分1の感染規模というが、米国の先端地域に比べると日本の方が感染爆発しやすいことになる。
その上、専門家は、この規模の感染者数では、追跡ができずに、クラスターを見つけることができなくなり、PCR検査を面的に広げて、感染者を見つけるしかないと言っている。もししないと、感染爆発を起こすと警告している。
このコラムで毎週感染者数、重症者数を追っているが、感染爆発を起こす危機的で心配した方向に、状況は推移している。
このため、専門家は「現状よりも強い措置が必要」で「経済対策と感染防止策の両立は困難だ」と指摘している。中でも、日本医療法人協会の太田圭洋副会長は「『勝負の3週間』の3分の2が終わりつつある。感染者が減らないなら、より強い措置を取らないといけない」と強調。「冬場は心筋梗塞などが増えるため、病床はもともと逼迫(ひっぱく)する。今の新型コロナ患者数の状態で冬場に突入するのは非常に厳しい」と危機感を示した。
しかし、「経済を壊してしまったら大変なことになる」。首相は11日のインターネット番組でこう強調し、菅首相はGoToトラベルを継続すると。
これから、本格的な冬になり、まだまだ、GoToトラベルという感染拡大を奨励することで、地方の感染拡大は止まらないとともに、国民の「気のゆるみ」も解消しないことになる。
12日、近くのスーパーにいたが、非常に混んでいた。皆はマスクをしているが、話すときにマスクを取る人を見た。気のゆるみはいろいろなところで見る。
政権支持をすることが多い産経新聞も社説で、菅首相も専門家の意見を聞くべきであるいう。
もう1つ、「持続化給付金」と「家賃支援給付金」について来年1月に終了する。「雇用調整助成金」の特例措置は来年2月末まで延長し、3月以降、段階的に縮減するという。コロナ第3波で苦しむ人達への給付金を無くして、自殺者を増やすようである。コロナ対策も不十分、給付金も削減して自殺者も増やすようだ。
このため、コロナ死者と自殺者の二重の意味で、死亡者が今後増えることが予想できる。
期待した第3次補正予算73.6兆円のほとんどはデジタル化の推進やマイナンバーカードの普及促進、GoToトラベル旅行促進などといった経済対策に費やされて、コロナ感染防止策、医療機関への補助や雇用失業対策はたったの6兆円である。
それと、実質無利子・無担保の融資についても来年3月末までは延長するが、それ以後は融資条件厳格化となる。このことで、中小企業の倒産が、来年春以降、多発することになる。
どこまで経済中心で行くのか、菅首相の責任は大きいし、国民の命を守らないなら、自民党は野田派、麻生派、岸田派など大派閥を中心に結束して、早く辞めさせることである。
国民の命を守ることは安全保障上の問題で、経済より優先する必要がある。命を守らないことで、医療崩壊などで緊急事態宣言を出さざるを得なくなり、経済も大きなダメージになる。
院政に戻す
日本の歴史を本郷和人教授がいろいろな角度から本を出している。日本は、政権交代後、すぐに世襲主義になる。
しかし、実力者が這い上がる仕組みを作り、トップ世襲者で、ナンバー2以下を実力者にする平安後期の院政政治が日本では、一番理想的な政治形態なのであるという。
そして、この仕組みを作ると長期政権になる。江戸時代も徳川政権トップは世襲で、老中は実力主義にしたことで長く続いた。
この典型が、安倍首相と菅官房長官であった。目配りのトップと実力のナンバー2という理想的な政権スタイルになったことで、長期政権ができたのである。
実行力のある実力者をトップにすると、自分の望む方向とは違う状況になると、望む方向とは違う意見を聞けずに、転身できないようである。
しかし、世間の状況が自分の望む方向と同じ時は、大きな力を発揮するが、状況が違うときは、多くの人から批判を受けて、政権崩壊になる。
小泉元首相は自分の望む方向と同じ状況であり、長期政権になったが、菅首相は違う状況で、短命政権になりそうである。
菅首相は、国民の怨嗟の声が、大きくなっていることを気付くべきである。日本の将来にとって目指している方向は正しいので、非常に惜しいが、今は命を大切にした政治が必要な時である。
さあ、どうなりますか?
image by: 首相官邸