【バズフィードCEOインタビュー】ネットメディアは「媒体」ではなく「プロセス」

佐々木俊尚© Robert Kneschke - Fotolia.com
 

バズフィードCEO、ジョナ・ペレッティのインタビュー記事を読み解く

『佐々木俊尚の未来地図レポート』第329号(2015年1月19日号)

新興メディア「バズフィード」のCEO、ジョナ・ペレッティのインタビュー記事が米テック系メディアのザ・バージに出ていました。これは今後のネットメディアのあり方を考える上で、非常に重要な記事です。今号と次号にわけて、このインタビューを読み解いてみたいと思います。

BuzzFeed CEO Jonah Peretti: ‘It’s not just a site, it’s a whole process’

記事のタイトルからして刺激的ですね。バズフィードは「単なるウェブサイトではない。それは包括的なプロセスなのだ」。ネットメディアというのは、従来のような「媒体」ではなく、読者にダイレクトにコンテンツを送り届けるための「プロセス」に変わってきているという意味です。媒体からプロセスへ。これは非常に重要な意味を持っています。

さて、私が驚いたのは前半のこの部分。

メディア企業の古典的なモデルは、コンテンツと配信方法があり、これらは分離されているというものだ。ある企業がコンテンツを持っていて、別の企業が配信を担当する。この二つは配信について契約したり、提携したりする

ペレッティはいきなりこういう話をしていて、驚かされます。私は2009年に出した『2011年新聞テレビ消滅』という本で、インターネットメディアではコンテンツとコンテナ(配信)とコンベヤが分離しているのだということを書いています。マスメディアはコンテンツとコンテナが垂直統合していたのが、ネットの時代にはそれが分離するようになるってことだったんですが、バズフィードの人たちはそういう分離モデルが「古典的だ」と見ているんですね。そしてコンテンツとコンテナが、今後は再び統合されていくのだということを説いているわけです。

とはいえ、その統合モデルは決してかつてのマスメディアと同じではない。ここがキモです。

「バズフィードは、より垂直統合されたモデルを志向している。テクノロジーとウェブサイト、CMS、ブランド、コンテンツをすべてひとつに積み重ね、ネットワークとして統合された企業になる。ニュースやエンタテインメント、ライフスタイルといった各ジャンルのコンテンツはウェブサイト上で統合されているが、今後はこれがアプリにも集約され、またFacebookやYouTubeなどの各種プラットフォームにもネイティブコンテンツとして統合されていく」

ちょっとわかりにくいのですが、要するにバズフィードはたくさんの分野のコンテンツを制作し、これらを自社のウェブサイトや自社のモバイルアプリ、そしてFacebookやTwitterやYoutubeといった外部のプラットフォームにそれぞれ配信していくという垂直統合スタイルを採っていくということなんですね。配信をひとつのコンベヤ(媒体)に絞るのではなく、自社や他社のプラットフォームなどあらゆるコンベヤを通じてユーザーに届けていくという形態は、従来のマスメディアとは決定的に違います。

これが新しい時代の新しい垂直統合モデルということなのでしょう。

「そしてすべての曲面で、テクノロジは重要なカギとなる。どうコンテンツを制作するのかという曲面。ゲームやクイズを作ったり、美しくレイアウトされた長文記事や速報ニュースを作ったりする場合。またコンテンツを表示するCMS(コンテンツマネジメントシステム)や記事のフォーマットを作る曲面。どの曲面でもテクノロジがとても重要だ」

「また、コンテンツの配信でもテクノロジが必要だ。どう記事をお勧めし、どう記事のサムネイル画像を見せるのか。またYouTubeの動画がどう見られたのかということをトラッキングするなど、ユーザーとのエンゲージメントを測るのにもテクノロジは重要だ」

「このように、バズフィードが作ろうとしている統合されたネットワークのあらゆる場面にテクノロジが役目を果たすようになる。外部のプラットフォームに記事を配信する場合にも、APIをどう使いこなしてコンテンツがどう配信されているのかをトラッキングするためにはテクノロジは必須ということ」

これに対してインタビュアーは「バズフィードはあらゆる場所やプラットフォームに記事を配信し、『バズフィード・エヴリホエア』という仕組みを作ろうとしているように見えるけれど、じゃあバズフィードの本体はどこにあるということになるの?」と質問しています。これは重要な質問ですね。そもそも、メディアには「本サイト」があって、そこにあらゆる方面からユーザーのトラフィックを集めてくるものだ、というのが従来のメディアビジネスの常識でした。トラフィックを集約させる場所がなければ、ページビューやアクティブユーザー数という概念も生まれません。なのにバズフィードは、本サイトについてあまり考えていないように思える?なぜ?という疑念です。

これにたいする答は、見事なまでに明快です。

「コンテンツの本体がウェブか、モバイルアプリか、それか他のところにどこにあるのかというようなイデオロギー的、もしくは宗教的な見方は重要じゃない。重要なのは、ユーザーにとって何がベストなのか?ということだ。その視座に立って考えると、コンテンツは本体がどこかにあるということなのではなく、『配信される』という捉えかたが必要になってきている。バズフィードの動画は8億ビューぐらいにまで成長してきていて、さらに伸びていく勢いだけれど、これらの動画はすべてがさまざまなプラットフォームに配信されている。Facebookにも配信され、YouTubeにも配信され、AOLにも、Yahooにも。そしてこれらの配信先でどのように視聴されているのかを、ひとつのダッシュボード上で解析できるようにしている」

配信先は多岐にわたり、それらはいろんな場所で見られる。重要なのは、それらの視聴のされ方をきちんとコンテンツ発信側でトラックして解析できるようにしておくことだ、ということなんですね。

「バズフィードにとってもっともカギとなるのは、あらゆる方法でユーザーがコンテンツとエンゲージできるようにしていくということ。その際に、きちんとデータをとって知見を溜めることができないと、エンゲージを高めていくための学びを得られない。そしてまた同時に、マネタイズもできるようにしなければならない。それらがすべて可能になっていれば、コンテンツの本体がどこにあるかなんてどうでもいいことだ。従来のメディアはこれができていなかった。逆に言えばこれを可能にできるのが、テクノロジー志向の新しいメディアの大きなアドバンテージになっている」

「テレビのような伝統的なメディアの場合、番組を作ってそれをネットワークに流して放送し、ニールセンから視聴率というデータを得ている。でも番組の中のどの部分を視聴者が好んだのか、あるいは嫌がったのか、番組の内容について視聴者がどんなことを考えたのかということまではわからない。これでは視聴者と番組制作者がエンゲージされているとはいえない。しかしこれからのメディアでは、テクノロジの力を借りることによって、これまで不可能だったより近接した関係性をコンテンツ発信者とユーザーの間につくることができるようになってきている」

バズフィードは最近、Hyper IQというネイティブアプリの開発会社を買収しています。これは何の意味があるのか?と聞かれて、

「バズフィードのネイティブアプリ版を作ることによって、ユーザーがコンテンツをどう消費しているのかというより正確で細かいデータを得ることができる」

これに加えて、ネイティブアプリの方が外部プラットフォームやウェブよりもユーザーと深くエンゲージできるということも大きいようです。なるほど。一方でアプリは、ウェブと違ってバージョンアップや公開手続が煩雑(アップルのAppStoreの承認に時間がかかることは以前から難問になっていますね)で、アプリの開発をいかにスピードアップできるかはチャレンジングだ、というようなことも言っています。これが外部のアプリ開発会社を買収した理由になっているというわけです。

インタビュアーはさらに食い下がって、バズフィードのネイティブアプリのアイコンがスマホの画面にFacebookのアイコンと一緒に並ぶようになるってことは、それはFacebookとの競合になるのでは?と質問しています。Facebookというプラットフォームに依存してページビューを伸ばしてきたのに、そこと競合して大丈夫なの?という意味です。これは確かに、従来型ネットメディアの発想としては当然の疑問でしょうね。

これに対する回答も、実に明快で気持ちいい。

「それは、バズフィードにウェブサイトがあるのと同じ。だってウェブサイトがあるからといって、Facebookのウェブと競合していると誰も考えないでしょう?」

たしかに。

どこからユーザーが流入しようが、彼らがバズフィードで読んだ記事をFacebookでシェアしてくれれば、それでいいのだというんですね。要するにコンテンツには「発見」「読む・観る」「シェア」という三つのフェーズがあり、

「発見」=FacebookやTwitterなどの外部プラットフォーム、バズフィードの公式サイト、公式ネイティブアプリ
「読む・観る」=バズフィードが制作したコンテンツそのもの
「シェア」=FacebookやTwitterなどの外部プラットフォーム依存

というふうに棲み分けしているということです。こう切り分けてみれば、「発見」のところにバズフィードの公式アプリがあることは不思議でもなんでもないし、シェアのところでFacebookにユーザーが流入してくれるのであれば、Facebookにとってもバズフィード公式アプリは競合になるわけがありません。ものごとは部分的に見るのではなく、全体としてどのようなエコシステムになっているのかまでを俯瞰する必要があるということなのです。

 

『佐々木俊尚の未来地図レポート』第329号(2015年1月19日号)

著者/佐々木俊尚(ジャーナリスト)
1961年兵庫県西脇市生まれ。愛知県立岡崎高校卒、早稲田大政経学部政治学科中退。1988年毎日新聞社入社。岐阜支局、中部報道部(名古屋)を経て、東京本社社会部。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人や誘拐、海外テロ、オウム真理教事件などの取材に当たる。1999年アスキーに移籍し、月刊アスキー編集部デスク。2003年退職し、フリージャーナリストとして主にIT分野を取材している。
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