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独フォルクスワーゲンがソフトウェア分野に「3兆円投資」決断の背景

今年11月、世界最大手の自動車メーカー「フォルクスワーゲン(VW)」が、車に関するソフトウエア分野に5年で日本円にして3兆円を超える投資をすると発表して大きな話題となりました。なぜ、自動車を製造するメーカーが「ソフトウェア」にここまで巨額の投資をすると決断したのでしょうか? 今回のメルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』では、著者の理央周さんがその理由を解説するとともに、電気自動車(EV)へのシフトが世界的潮流となる現在の自動車業界から学ぶべきマーケティング戦略について詳述しています。

2021年は何をすべきか? 自動車業界のマーケティング戦略とフォルクスワーゲンのソフトウエア投資に学べ

世界最大手の自動車メーカー、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)が、車のソフトウエアの分野に、5年で270億ユーロ(約3兆3千億円)を投資する、という報道がありました。

なぜ、自動車メーカーであるVWが、ソフトウエアにこれほどの投資をするのか、その背景にある目論見は何か、について考えていきます。

VWソフトウエア投資の背景にある理由

EV開発の中でのソフトウエア投資は、従来計画の2倍というかなり巨額な投資ですが、この背景には、デジタル化で先行するアメリカの、電気自動車(EV)大手テスラへの対抗意識がある、と報道されています。

日経新聞によると、この対抗意識はかなり激しいものだったようで、VWのヘルベルト・ディース社長は、2021~25年の投資計画説明会で、「この計画はテスラを倒すためのものだ」と、強調したとか。

約2時間の説明会でディース氏ら幹部は、テスラという言葉を、20回以上も発したとのことです。

公の場で、ライバルの名指しを控える企業も多い中、異例のことなので、かなり意識をしていることが見受けられます。

これから、ガソリン車から電気自動車(EV)へのシフトは、ますます加速していくでしょう。

このトレンドは、欧米諸国だけではなく、中国、日本をはじめとするアジア諸国でも同様です。

各国とも、環境問題をはじめとして、EVへの切り替えには期日を設定してシフトする、と宣言しています。

これら外部環境の変化に伴って、消費者の意識も、EVへとシフトしていきます。

この動きの中で、テスラは、EVと聞いて最初に消費者の頭に浮かぶブランドです。

その意味でも、VWが意識するのは十分理解できます。

なぜVWはソフトウエアに力を入れるのか?

そのVWが、ソフトウエアに力を入れる、というのはなぜでしょうか?

電気自動車(EV)では、カーナビやドライブレコーダーなどの、様々なインターネットにつながったデバイスが、搭載されています。いわゆる、IoT(Internet of Things)です。

これらIoTによって、ドライバーが走れば走るほど、その人が、どこをどのように走ったのか、どこに立ち寄ったのか、という、そのドライバーの走行データが、フォルクスワーゲン(VW)のクラウドに溜まっていきます。

他のドライバーの分も合わせて、これらのデータが大量に溜まっていきます。

これによって、ビッグデータ分析ができるようになります。

そうなると、VW側としては、ユーザーであるドライバーに対して、

「もう少し行くと充電スポットですが、立ち寄ったほうがいいですよ」とか

「渋滞を避けて下道で行く方が便利ですよ」

「いつも立ち寄る、あのお店が近いです」

などという情報を提供できるようになるのです。

ユーザー側から見ると、自分の車が「お利口さん」になると感じるのです。

こうなると、ユーザーは一度VWに乗ると、他の車に乗り換えるよりも、次もまたVWにのりたくなりますよね。

アマゾンがユーザーのデータを溜め込んで、レコメンデーションに活かすのと、元になる考え方は同じです。

メーカーとしては、この点を活かすために、ソフトウエア開発に投資したくなります。

EVシフトで各社が勝てる要因は何か?

JETROによると、VWは2030年までに70モデルのEVを市場投入し、うち、約20モデルは既に投入済み。

ハイブリッド車は同年までに60モデルを投入、といいますから、ハードとソフトウエアの双方における、巨額の投資になります。

これらにともなって、VWグループ車種が統一的に使える、ソフトウエアシステムの開発を進める、「Car.Sofware」という組織への投資もして、ソフトウエアを強化していくとのこと。

一方で、デジタル化についてディース氏は、「テスラは2週間ごとにクルマをアップデートするなど、顧客に新しい体験を提供している。VWはそれができていない」と認めているそうです。

この点に関し、トヨタ自動車の豊田章男社長も、テスラを認める一方で、「リアルな世界では、電動化フルラインアップをそろえる我々の方が、選ばれるのではないか」と発言したそうです。

やはり、形のないソフトウエアは人が作るので、ノウハウや経験の積み上げが、差別化の最大のポイントになるのです。

これからは、車が単なるハードウエアではなく、ソフトウエアと一体化してきます。

アップルのように、ハードとソフトの両方を開発できると、先ほどの事例のように、

ユーザーメリットも大きくなり、差別化要因にもなります。

これからの自動車業界は、その意味でも大きく変わるでしょう。各社が市場で勝てる要因は、ソフトウエア開発による、顧客データの収集量と、その活用になります。

フォルクスワーゲンの事例から学び気づけることは何か?

このVWの事例から学べることは、ずばり「顧客データの収集と活用」です。

なにも、GAFAのように、膨大な顧客データを集めて、大勢のデータサイエンティストを雇用し、詳細な分析をするべきだ、といっているわけではありません。

今一度、顧客を見つめ直して、変わりゆく市場の中で、同じように変わっていく顧客価値を見つめ直す、という、商売の原理原則に立ち返ること。

そして、それは顧客のデータから、分析をすることができる、ということです。

新規事業においても、中堅・中小企業においても、過去の顧客データをもう一度見直し、そこから、仮説を立てて、検証していきながら、自社のサービスをより良くしていく、ということです。

ITによって便利になるに従って、顧客の欲求も増えていきます。そこに、柔軟に対応できるようにするために、顧客データの収集と活用は、必須です。ぜひ、手持ちのデータ活用から始めてみてください。

image by:multitel / Shutterstock.com

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