イギリスで確認された新型コロナウイルスの「変異種」がイタリアやオーストラリアでも確認され、日本をはじめ世界中で波紋を広げています。日本も英国からの渡航を制限するなどの「水際対策」を講じるとしていますが、この「変異種」「変異株」とは一体どのようなもので、どのような形で各国へ広がりを見せているのでしょうか。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは今回、朝日新聞がここ1年間で報じてきた「変異株」というキーワードを扱った記事を検索し、今後私たちが注目すべき点などについて解説しています。
この1年、コロナ「変異株」を新聞はどう報じてきたか?
きょうは《朝日》から。
英国で見つかり、イタリアやオーストラリアでも発見された新型コロナウイルスの「変異種」あるいは「変異株」が、新型コロナ問題の焦点の1つになりそうですね。
言葉としては、「変異株」の方が新型コロナウイルスの問題に関連してより多く使われているようなので、こちらを選択。1年以内の新聞記事からは6件、サイト内からは16件出てきました。サイト内を見てみましょう。
まずは《朝日》3面記事の見出しから。
コロナ変異種 伊や豪でも
英などからの入国 禁止する動き
官房長官「日本では未確認」
英、往来・物流混乱広がる
変異は日常的、重症化への影響は一部
英国で確認された強い感染力を持つ新型コロナウイルスの変異種が、イタリアや豪州などでも発見された。感染力がこれまでのものより7割強いとされ、クリスマス休暇で往来が増えるのを前に、世界各国が英国からの入国禁止に乗り出した。
開発されたワクチンに関しては変異種にも有効とされていて、EUは、正式承認した上で月内にも一斉に接種をスタートさせる。
変異種が確認されたのは、英国以外ではデンマークで9件、オランダと豪州で1件ずつ。イタリアでは数日前にローマに到着した航空便の乗客から見つかったとして、21日から英国からの航空便乗り入れを停止している。南アフリカでも変異種は確認されており、スイスとイスラエルは南アからの入国を禁止。トルコは英国とオランダ、デンマーク、南アからの旅客機乗り入れを停止。サウジアラビアは、国際線の受け入れを全面的に一時停止したという。
加藤官房長官は会見で、国立感染症研究所によると、わが国において同様のウイルスは確認されていないという。
●uttiiの眼
各国は英国からの入国を止め始めているが、秋の「第2波」の折りにはフランスもドイツも、英国との行き来を認めていたので、「変異種はすでに広がっている可能性がある」と《朝日》は書いている。
変異種は、既に世界中に広がっている可能性があり、またその危険性がどれくらいのものか、よく分かっていない新しいウイルスと見なしておいた方が良く、もし「水際」を重視するなら、サウジが採った「国際線受け入れの全面的な一時停止」を日本も採用するかしないか、早急に判断するべきではないのか。既に「遅きに失した」可能性もあるが、やるならば今しかチャンスはないように思われる。
この間の「第3波」への対処とは別個に、変異種への対応は行うべきだ。
【サーチ&リサーチ】
変異株とか変異種といっても、当然ながら、新型コロナばかりではない。21件のサイト内の記事の中で、「黒い葉ボタン」、「新型インフルエンザ」、「ホップ」のそれぞれ「変異株」についての記事もあった。また、ヒトゲノム研究で特定の遺伝子の「変異株」を作成するという話もあった。それらの合計4件を差し引いて、残り17件の記事のなかから、いくつかを紹介する。
2020年8月20日付「論座」
東京脳神経センター整形外科・脊椎外科部長の医師、川口浩氏の寄稿。タイトルは「「指定感染症」の呪縛から新型コロナを解放せよ」というもの。全文の趣旨は、新型コロナウイルスへの過剰反応で医療の負担が増しているというもの。「日本が目指すべきは、「医療資源を温存しながら、緩やかに感染を広げる」という方法ではないか。」とまで言っている。
以下の記述は、変異株についての基本情報として重要。
「SARS-CoV-2も既に世界中で4000以上の変異株が報告されている。日本でも国立感染症研究所の病原体ゲノム解析研究センターがこの塩基の変異を足がかりにして、国内で流行したSARS-CoV-2のゲノム情報を基にしたクラスター解析(ハプロタイプネットワーク解析)をつづけてきた。同センターはこれまでも、1~2月に日本へ入ってきた武漢由来のウイルス株が終息し、3月になると帰国者らが持ち込む形で欧州株が流行したことを解明している」とする。
2020年9月13日付「論座」
上記と同じ川口浩医師による論考。趣旨は大きくは変わらないが、変異株が5000種近くに達しているとして、「病原性(毒性)の強い株が流行している国や地域からの入国を選択的に制限する措置は必須と考える」と述べている。
2020年11月5日付
デンマークで突然変異した新型コロナウイルスがミンクからヒトに感染し、最大1700万匹の殺処分が行われることに。首相は「変異したウイルスのせいで、将来のワクチンが期待通りに効かなくなるリスクがある。断固たる行動が必要だ。全てのミンクを殺処分す
る必要がある」と述べたという。
*その後、英国で感染が拡大することになる変異株が問題になり始めるのは、12月に入ってから。
2020年12月15日付
英国で感染者が急増し、「ロンドンで、パブやレストランの店内での飲食を禁止するなどの厳しい抑止策を16日から始めると発表した。」とのニュース。変異株については以下の記述。
「ウイルスの新たな変異株の感染例が英国南部を中心に1000件確認され、英南東部での急速な感染拡大と関係している可能性があると明らかにした。変異株については保健当局が分析を進めており、「現在のところ、この変異株が重病につながると示すものはなく、ワクチンに反応しない可能性は極めて低い」と話した」
2020年12月20日付
英国が3度目のロックダウン。ジョンソン首相は、「最近見つかった新型コロナウイルスの変異株は、従来のものより最大で7割感染が広がりやすいとの分析結果を発表した。分析は確定的ではないとしつつ、英東南部での感染急拡大の背景にはこの変異株の存在があると指摘。20日からロンドンを含む同地域で外出を制限するなど抑止策を強化した」と。
●uttiiの眼
変異種、変異株そのものは既に5000種も見つかっているということで、問題は「感染力」や「毒性」が変化するような変異かどうかだということは確認しておくべきことだろう。英国東南部で感染を急拡大している株については、7割も感染力が強まっているらしく、仮に毒性が弱まっていたとしても、容易ならざることだ。
記事を読んでいるだけでは、まだまだ分からないことが多い。感染力が強いというのは、一度罹って治った人も再び掛かるということを含むのか、含まないのか。ワクチンは効かなくなる可能性はほとんど無いと言われているようだが、だとしたら、一度掛かって体内に抗体が出来た人はその抗体がある限り再び感染することはないのか、など。いずれ、致死率について異同があるのかないのかなど、データが出てくるのだろう。
image by:Jason Wells / Shutterstock.com