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顧客だけでなく従業員の幸せを優先する企業が成功をおさめた理由

企業の成功は顧客の満足にかかっていると思われがちですが、実はそれだけではないようです。今回のメルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では著者の浅井良一さんが、とある一冊の本を引きながら「全従業員を幸福にする」企業が成功を納めている例を挙げ、その理由について論じています。

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人の幸福と業績 全従業員の物心両面の幸福 

懇意にしてもらっている税理士さんの推薦で一冊の本を読みました。『理想の会社をつくるたった7つの方法』という著書名です。この本を読んでホッとして、妙に納得したのでした。それというのも「社員本位」で高業績の企業が、けっこう多くあるということで、もっとも本来そうでなければ繁栄しないのが道理ですが。

確かに「未成熟な時代や地域」においては、少ない賃金でも働ける場所があるということだけで勤労が引き出され、経営者の利己欲求だけであろうとも時流に乗ってさえいれば儲けることができました。残念なことにこの辺境の繁栄は今もあるのですが、しかし一方「人の幸せ」こそが繁栄の要件であるとする機会がより多くなっています。

なぜなら、今日社会が求める感動が得られる差別化商品やサービスは、働く人達が喜んで働ける労働条件のもとでしか生まれることがなく、顧客満足を果たそうとするなら、従業員満足が絶対要件だからです。

ドラッカーは、日本型経営、特に「終身雇用制」が結構好きでした。自身を“社会生態学者”だと称し、社会の諸現象を俯瞰して人・社会が幸せになる本質要件を探って日本的経営に大いに期待したものです。ところが、あまりに成果が大きかったがためか慢心し緩み退廃して、それがために不似合いな“模倣・成果主義”などにすがったりしました。

以前トヨタには「『なぜ』を5回繰り返し“真因”を明らかにする」とする“なぜなぜ分析”なるものがあると言いましたが、それは「1つの問題に対して『なぜ?』とその問題を引き起こした要因を提示し、さらに『なぜ?』と何回もそれを繰り返すと、やっと“根本的原因”が分かり対策を立てることができるのです」とするものです。

またトヨタを事例にあげるのですが、トヨタは『なぜ』を5回繰り返した結果なのか“成果主義”の模倣はなく、職場での「QCサークル」での成果は“グループ”単位で報償を行います。それも「少しの飴玉とたくさんの賞賛」でもってしており、個人の孤立した知識を超える集合知の喚起で「カイゼン」をはかっています。

先に上げた“この本”での、妙に納得したことについてですが、それというのは“京セラの理念”「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」の、なぜ「従業員の幸福」が前面に出ているのかということです。企業の成功は「顧客満足」があってで、これが焦点であるはずです。

GEの元CEOだったジャック・ウェルチは「従業員の雇用を保証するのは、唯一顧客だけだ」と言っています。ドラッカーも「企業の成功には5つの問い」の一番目に「われわれのミッション(使命)は何か」を掲げています。だから「人類、社会への貢献する」こそが最初に来るべきはずです。

ところがよくよく考えてみますと、ドラッガーの言う「ミッション」が「全従業員の物心両面の幸福」であって何の不都合もなく。顧客と直に接して、その満足を企業のフロント・ルーム(現場)で適えるのは他ならぬ従業員であり、すべてはここから発すからです。だから「全従業員の物心両面の幸福」から始まってオカシクないのです。

さらにこの本にこんなことが書かれています。「好業績と高い社員満足を両立している良い会社は、例外なくしっかりした“経営理念”を持ち、それを実践している」というものです。なぜこの本に着目するかというと、著者の大学教授が40年以上の歳月をかけて約8,000社の企業を実際に訪問して得た実感だからです。

ここでつくづく思ったのは、高業績の企業で「社員を幸福にしている」ところがあるんだというごく当たり前とも言える確信でした。それも「顧客を幸せする」という実践を通して、自己実現と成長をともにかなえて自己が磨かれて行くということです。経営者もまたこの“覚醒”こそが、満たされる条件となるでしょう。

経営者、社員という「金銭を媒体とする雇用関係」からではなくて、「価値観の共有という同志関係」によってのみ始めて形成される「知識と貢献意欲と協働意欲」が『本源的強み』を創り上げるでしょう。つまり資本主義(おカネの集合)だけでは不可能な、人本主義(価値観の連帯)こそが内外ともに幸福をもたらす源泉になるということです。

ここのところについて、松下幸之助さんはこう言います。「経営理念というものを持った結果、信念的に強固なものができてきた。なすべきことをなすという力強い経営ができるようになった」「経営に魂が入ったといってもいいような状況になったわけで。それからは、われながら驚くほどの事業は発展したのである」と。

“価値観”の核心は“同感する人たち”に共通の意義と意味を与え、「顧客・社会を幸福にする」という“目的”を使命感を持って達成することで、その“報酬”として「私たち(社内、関係会社、地域)が“物心両面”で幸福になる」というのは真っ当な納得できる道理です。「競争では強みは孤立」し「共創によってこそ強みが増殖」されます。

信じがたい成果 

多くの企業ではミッション(使命)などは認識されておらず、さらにビジョンに至ってはほぼ皆無であり、ドラッカーはこう言っています。「企業にせよチームにせよ、シンプルで明快なミッションを必要とする。ミッションがビジョンをもたらす。ビジョンがなければ事業とはなりえない。人の群れがあるだけである」

少し補足をすると、ミッションとは“使命”のことで、顧客や社会に対して「私たちがどのように“貢献”するか」が共有化して認識されて、そのことによって全体の焦点化された活動が始められます。ビジョンとは「到達したい未来像」のことで、これが明確であることによって戦略さらに行動計画がつくられ具体的な行動をおこせます。

それでは、具体的に行動を起こすについての要点と核心と困難性について「理想の会社をつくるたった7つの方法」の事例を借ります。これはテクニックや知識といったものではなく、自身が信念として自家薬籠中のものとしなければならないもので、またそうでなければ仲間に影響を与えらず“求めている成果”を得られることはないからです。

因みに経営理念とは、ミッション(使命)、ビジョン(未来像)、さらにバリュー(行動基準)などの“あるべき価値観”を統括し明文化したもので、企業をして成果を成すための基盤を与えるものです。

<東大阪市にある歯科医院の事例>

経営理念は「感動、感謝、ワクワク楽しい」で、院長が自分の生き方やスタッフが定着しないことに疑問を持ったことで定めたものです。しかし、これをみんなの前で話したところ半数が退職したそうです。そうして思いを同じくするスタッフだけで、取りくみを行った結果、厳しさがある反面やさしい空気感が生れるようになったのでした。

その後については、スタッフが大幅に増え定着率も高く、業績も全国平均の10倍にもなったのでした。

<徳島市にある精密部品メーカーの事例>

経営者が広告会社をやめて引き継いだ家業の会社は、暗い雰囲気でした。なんとかしようと考えてたどりついた経営理念が「ものづくりを通じて、みんなが物心ともに豊かになり人々の幸福・発展に貢献する」です。経営者は、この理念の浸透のために毎日社員とのメールでの対話を始めさらに毎朝1時間の朝礼を行いコミュニケーションに務めました。

コミュニケーションは圧倒的なものとなり「大家族主義」ともいうべき企業風土も生れて、社員の自主的な取り組みも高まったのでした。

<浜松市にある木造注文住宅建設業者の事例>

注文数も伸びない従業員も専門性が活かせず辞めてしまう閉塞感が漂う会社の社長になって、定めた経営理念が「夢、愛、自由を感じることに没頭する幸せを仲間と分かち合う(DLoFre’s 造語)」でした。お客様に「家づくり」の先にある「最高の幸せ」を実感していただくことを通して、社員が自分磨きの幸せをつかもうというものです。

「まちづくり」の観点から、宿泊施設の建設や駅とコラボレーションしたカフェを造るなどして、笑顔が集う場づくりがすすめられています。

3例あげましたが、いずれの企業も活気があり好業績だそうです。

ドラッカーからの言葉を添えます。「組織の優劣は、平凡な人をして非凡なことをなさしめるか否かにある」「人は理念と価値観によって動かされ、信じがたい成果をあげる」「マネジメントとは人にかかわることである。その役割は、人が共同して成果をあげることである。強みを発揮させ、弱みを意味なくさせることである」と経営(マネジメント)の要点を示しています。

image by: Shutterstock.com

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戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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