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行政書士が見た奇跡。「早く死ね」孫に暴行されていた亡き父の意外な遺言

ドラマや映画、小説などでもよく描かれる、「相続」による骨肉の争い。亡くなった本人は自分の死後にどのような争いが起きるか見守ることはできませんが、前もって「遺言」を残すことで、自分の「意志」をある程度コントロールすることはできます。では、どんな行動が「遺言」の明暗を分けるのでしょうか? 無料メルマガ『10年後に後悔しない最強の離婚交渉術』の発行者で、開業から6年で相談7,000件の実績を誇る行政書士の露木幸彦さんは、過去に依頼を受けた遺言をめぐる事例をあげながら、執行人の重要性についても解説しています。

故人が望まざる結果になることも。何が「遺言」の明暗を分けるのか?

自分がこの世を去った後、残された遺族に負担をかけたくない、相続で揉めて欲しくない、葬儀を円滑に進めて欲しい……。

余命が差し迫れば誰しも心配事の数々は絶えません。だからこそ「遺言」という形で生前の気持ちを残したいところ。しかし、最後まで遺言の行末を見届けたくても、本人はすでに亡くなっています。そのため、遺言の運用は執行人(相続を取りしきる人)に託すしかありません。

ところで最近、生前の人間関係が災いして、故人の遺志を尊重しない遺族が増えている印象です。遺言がある場合の相続とは、誰かが得をすれば、その分、誰かが損をするというゼロサムゲーム。遺言の通りに遺産分割を行うのは執行人の責任ですが、もし、相続人の一部が反対した場合、相続の結末には執行人と反対者の力関係が影響します。

例えば、執行人が反対者より立場が悪かったり、気が弱かったり、声が小さかったりしたら、どうなるでしょうか? 反対者に押し切られ、遺言の内容が捻じ曲げられ、故人が望まざる結果に至ることが少なくありません。何が明暗を分けるのでしょうか?

「家を守って欲しい」想像もしなかった父からの遺言

最初は父の遺言をめぐる姉と弟のトラブルです。

「姉に母を押し付けるようで悪いような気もしたんですが…姉も離婚してから苦労してきたので」 

そんなふうに当時の心境を言葉にしてくれたのは田中優一さん(44歳。仮名)。

姉(46歳)は21歳で夫と離婚し、2歳の娘を連れて実家へ戻ってきた人物。それから現在まで実家で父(77歳)、母(76歳。年齢はすべて相談時)と一緒に暮らしていたのですが、父の逝去をきっかけに、優一さんは姉に「(母を)うちで引き取ろうか」と提案したそう。

姉は「こっちで何とかするから」と言って聞かなかったので、優一さんも「そこまで言うなら」と引き下がったようです。

ところが、遺言の存在で状況は一変。四十九日法要が終わると、母が優一さんに遺言の存在を耳打ちしてきたのです。遺言には家族会議で決まったこととは逆の内容が書かれていたのです。

「美智子(母)と優一にすべて任せる。2人での田中家を守って欲しい」

優一さんは、姉と両親は仲良くやっていると思っていました。しかし、母いわく姉と孫(姉の娘)は「じじぃ臭いわ!」「もう!早く死ねばいいのに!」と暴言を吐くだけでなく、父を両手で突き飛ばしたので、父は廊下の床に顔から倒れ、全身がアザだらけになったこともあったそう。 

優一さんはどのような決断をしたのでしょうか? 一度は承諾した内容を撤回したら姉との間に波風が立つでしょう。見て見ぬふりをするという選択肢もあったでしょうが、優一さんは父の遺志を尊重し、姉を実家から追い出し、母を救い出すことを決めたのです。

姉は直系尊属なので、遺留分(どんな遺言を作成しても残る相続分)が認められており、今回の場合、遺産全体の8分の1です。優一さんは「裁判所で争っても遺留分の計算は変わらないよ」「警察署に被害届を提出することも検討しないといけないけれど」と必死に訴えたところ、姉は遺留分の支払を条件に退去することを約束してくれたそうです。 

こうして優一さんが親族間の世間体にとらわれず、「美智子(母)のことを頼む」という父の遺志を叶えるため、あきらめずに行動を起こした結果、遺言通りの遺産相続(母5割、長男5割)を実現することができたのです。

「夫と一緒に入りたくない」自分の墓を購入して亡くなった母

次は母の遺言をめぐる父と息子のトラブルです。井上優雅さん(現在42歳。仮名)の母(別居時72歳)が父(別居時74歳)に愛想を尽かし、家を飛び出し、優雅さんのところへ転がり込んだのは4年前。

母は父の些細なことでキレやすい癇癪癖、いつも監視したがる束縛癖、自分のことしか考えない自己中癖に長年、悩まされていたそう。このまま定男さんが衰えたり、大病を患ったり、怪我を負ったりした場合、「介護したくない」と思ったのでしょう。

母は父と同居していれば毎月19万円の厚生年金、1,600万円の退職金、そしてローン完済の持ち家があるので老後の生活も安泰だったはず。母には毎月わずか8万円の年金と少々の貯金しかありませんでした。不足する生活費は優雅さんが補填せざるを得なかった模様。

「母は父と同じ墓に入りたくないという一心でした」

と、優雅さんは回顧します。母は両親から400万円の遺産を受け継いでいたのですが、別居から遡ること4年前、遺産を充てて自分名義の墓を購入したそうです。

母の現世は残りわずかですが、死後の世界が永久に続くのなら、現世より死後の方を大事にしたいという気持ちも分かります。

そのため、母は「葬儀は家族葬で行い、父ではなく長男(優雅さん)が取りしきること、そして何より生前に購入しておいた墓に納骨すること」などをしたため、遺言の形式で残しておいたそうで、そのことは遺言執行人である優雅さんも生前に承知していました。

そして別居から1年2ヵ月でこの世を去り、優雅さんは母の遺志に従って葬儀を執り行ったのですが、父は優雅さんも耳を疑うような一言を発したのです。 

「おお、それなら俺も入れてくれよ」と。

父はその日暮らしの性格で墓を用意するという「終活」とは無縁の人間。すでに齢70を超えているのに何の準備もせず、のうのうと暮らしていたのです。

「母さんの気持ちも考えて欲しい。母さんは一緒のお墓に入るつもりはないから。母さんのお墓は僕たちが守っていくから」 

優雅さんはそんなふうに叱責したものの、実家を訪ねるたびに77歳の父は少しずつ体が小さくなり、声も小さくなり、動きも遅くなり、圭介さんの知っている父親の姿とはかけ離れていく一方でした。

それから1年。父もこの世を去ったのですが、優雅さんはどのような決断をしたのでしょうか?

「父さんも母さんの墓に入れることにしました。生前は母がいなくなったせいで目に見えて衰えていくのが分かり、なんだか可哀そうな気がしていたんです」

優雅さんは苦しい胸のうちを吐露してくれましたが、遺言のうち遺産相続以外の内容に強制力はなく、相続人が遺言の内容を守らなかったとしても特にペナルティを科せられるわけではありません。

長男が健在なのに父を無縁仏にするわけにはいかないという優雅さんの気持ちも分かります。しかし、先に亡くなった母はようやく父から解放され、自分の墓で眠っていたのに、後から父が墓に入ってきたのだから何のために別居し、墓を用意し、遺言を残したのか分かりません。

ここまで遺言が守られなかったケース、守られたケースについて見てきましたが、執行人の存在は極めて重要です。相続時に反対者が現れることを想定し、毅然とした態度で遺産協議に臨めるような人に任せなければなりません。執行人として適任かどうかの「身体検査」も抜かりなく行ってください。

image by:Shutterstock.com

露木幸彦この著者の記事一覧

行政書士の露木幸彦が夫婦の離婚、不倫、未婚出産、婚活の法律、交渉術、会話技術を解説明石家さんまさん司会のホンマでっかTV,ブラマヨさん司会の世界のこわ~い女たち、小倉さん司会のとくダネ、バナナマン設楽さん司会のノンストップなどに登場。11冊の著書を持ち累計部数は
5万部を突破。日本経済新聞、朝日新聞電子版では連載を担当。開業から16年で相談2万件の実績。

注)離婚手続に関する一般的説明や経済的観点から必要な離婚条件に算定を超え、個別事情を踏まえた離婚手続や離婚条件に関する法的観点からの助言が必要な場合は弁護士に依頼してください。

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【著者】 露木幸彦 【発行周期】 ほぼ 月刊

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