SNSの書き込みのみならず、大手新聞までにその「棒読み」具合が批判的に報じられている菅首相。一国の宰相の演説が国民の心に届かないという事態はある意味深刻ですが、「棒読み」を根本的に治す方法はあるのでしょうか。今回のメルマガ『スピーチコーチ・森裕喜子の「リーダーシップを磨く言葉の教室」』ではスピーチのプロである森裕喜子さんが、棒読みになってしまう原因を解説するとともに、その具体的な改善法を実例を挙げつつレクチャーしています。
棒読みだからって、自分が悪いんじゃないぞ! 脱・棒読みのために出来ること
1.棒読みを根本的に治すには
いま、菅総理のスピーチがあまりにも棒読みだと、メディアで盛んに言われていますね。
一方、20日に行われたアメリカのバイデン大統領の就任スピーチには言葉に力がありました。プロンプターを見ながらでしたが、自分の言葉になっていて、とても自然に感情が伝わってきました。
同じ国のトップという立場であることを考えると、棒読み、メッセージがない、と騒がれていることについてはやっぱり残念な気持ちになります。
自分の会社の社長には、やっぱり伝わる話をしてもらいたい。社員ならそう思いますよね。「うちの社長の話はちっとも心に響かないよね」なんて思うのは、寂しい。
なぜ棒読みになってしまうんでしょう。
総理にしろ経営者にしろ、あるいは、PTAのスピーチであったとしても、だれも棒読みしたくてしている人はいないはず。
スピーチトレーニングをしていると、棒読みになってしまう方には一つの傾向があります。それは「原稿を正しくきちんと話そうとしている」ということです。つまり、原稿が主役で、自分はそれを読む立場。話すことが自分軸で行われていないのです。
- 原稿を読まされている状況
- 感情を込めた言葉を発するのではなく、正しく読むことが目的
つまり、真面目で一生懸命に原稿に忠実になろうとした結果、棒読みになるのです。
傍目からは棒読みに思える話し手であっても、実は、微妙ながらに表現をしようと努力しているのですよ。スピーチトレーニングをしているとひしひしとそれを感じます。
そこで、トレーナーはどう対応するか。お話しましょう。
棒読みに聞こえるか原因は、実は「話し方の問題」ではありません。話の中で使っている「言葉そのものの力が弱い」のです。インパクトある言葉になっていない。瞬時に聞き手の記憶に残る言葉ではないのです。
例えば
「このコロナウイルス感染という難局を何としてでも国民の皆さんと共に乗り越えたい、と思います」
という一節があったとしましょう。ここで使われている言葉は
- コロナウイルス感染という難局
- 国民の皆さんと共に
- 思います
などですね。それぞれの言葉、総理大臣でなくても言えそうな、ニュースにも出てくるような言葉ですよね。
スピーチで聞き手を引きつけるコツのひとつは、「今、ここでしか言えない、自分にしか言えない言葉に変換する」ことなのです。
実際に変換してみましょう。
- コロナウイルス感染という難局
これに「今ここ」を付加してみましょう。例えば、
「緊急事態宣言を発令してからXX日目の今日、なお拡大が止まないコロナウイルス感染という目の前の難局」
となります。今日しか言えない情報になりますよね。
- 国民の皆さんと共に乗り越えたい
「皆さん」と言ってしまうと全員ひとかたまりのようで、ひとりひとりが強調されません。ここは「一億XX万、かけがえのない一人ひとりの命と生活」などとしてみると個々の存在を大切にしていることが感じられます。
- 思います
思っているだけで実行しないんだなと取られかねない漠然とした表現です。
これ、全てのリーダー、ビジネスマンの方に「思います禁止令」を出したいくらい、やめが方がいい言い回しです。
行動すると決意したなら「~をいたします」「~をします」と決断を表現する言葉に直してください。
それではまとめましょう。
原文「このコロナウイルス感染という難局を何としてでも国民の皆さんと共に乗り越えたい、と思います」
これが、以下のようになります(一例)。
「緊急事態宣言を発令してからXX日目の今日、なお拡大が止まないコロナウイルス感染という目の前の課題があります。私は、一億XX万、かけがえのない国民一人ひとりの命と生活を守る国のリーダーとして、また、私自分も国民の一人であることを再度自覚して、この難局を乗り越える決意です」
ちょっと長くなりましたが、決意を述べる最重要部分ですから、このくらいのボリュームになってもよいのではないでしょうか。
言葉を変換するとき、気をつけなくてはいけないのが、誇張しすぎて嘘になってはいけないこと。インパクトを出そうと頑張りすぎると、熟語、立派に聞こえる言葉を使いたくなります。でも、飾り立てすぎるとリアリティがなくなりますから要注意です。
言葉を変換し、言葉そのものに力を持たせる。すると、たとえ原稿を読んでいたとしても、自然と感情がこもるのではないでしょうか。
棒読みになってしまう要因は人により様々ですし、要因も複数あります。お一人お一人の現状を把握しないと適切な処置方法は見つかりませんが、
「メリハリを出して話してください」
「感情を込めて」
などと伝えても、治るはずはありません。メリハリを出す方法を知っているならとっくにやっているはず。
棒読みにならず、メリハリがある、感情が入っているというのは結果の状態。そこに行くつくためにはどうしたらよいのか?それを知らねば解決されないのです。
まずは、言葉そのものを見直してみる。これがひとつの「棒読みを根本的に治す方法」です。
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