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コンビニの原点「便利さ」で差をつけたセブンイレブンの巧みな戦略

新型コロナウイルスによる外出自粛やリモートワーク推進により、都心のコンビニや百貨店は、外食産業ほどではないものの客足が遠のき影響を受けています。そうした中、セブン-イレブンの「スピード宅配」、西武HDの「駅配サービス」といった「店側から出ていく」サービスが注目されています。メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんは、両社の新発想は無駄を省き効率を高める「垂直思考」では生み出せないと解説。小売の原点に立った顧客視点の「水平思考」によるものと、その重要性を説いています。

今こそ小売業は原点の顧客視点に立ち返れ! ~セブンイレブンと西武HDに学ぶ水平思考の重要性

今日は、ここのところ一層頑張っている、セブンイレブンの取り組みから、ビジネスのヒントを得ていきたいと思います。

セブンイレブンは環境の変化にどう対応しているのか?

セブンイレブンは、コンビニ業界のトップを走り続けてきました。規模の大きさもですが、ものを販売する場所だったコンビニエンスストアで、宅配の発送受付や受け取りができるようにしたり、セブン銀行を設立して、お金を下ろしたりできるようにしたりと、まさに、ユーザーの便利さを追求しながら、様々な取り組みを成功させてきました。一方で、ローソンやファミリーマートも猛追し、コンビニ業界では激しい競争が続いています。

いうまでもなく、インターネット通販のますますの浸透で、楽天やアマゾンも競争相手になりました。さらに、環境問題への配慮や、コロナ禍の新しい生活スタイルの中で、ステイホームによる家での食事、そもそも外出を控えたりする中での売り上げ減少など、ここ1年、難しい問題が続々と出てきています。これらの問題を解決するために、セブンイレブンは、様々な取り組みをしていますが、どれも、小手先での対処療法ではなく、本質的な部分にメスをいれる、根本的な対応をしているのが目立ちます。

まず、ここのところセブンイレブンで美味しいものが増えた、という印象があります。先日も正月番組で、セブン、ローソン、ファミマそれぞれの人気商品に一流料理人が点数をつけるという番組で、セブンイレブンのオリジナル食品の、「セブンプレミアム」シリーズの、直火ハンバーグが満場一致で満点をつけられていました。この、セブンプレミアムシリーズが、味も商品ラインアップも、とても充実していて、私も、太るとわかっていながら、「金のもなか小豆入り」をよく買ってしまいます。

一方で、SDGsの推進をはじめとする、環境問題に配慮する動きも迅速でした。コカコーラと組んで、ペットボトル商品の一部を、完全リサイクルできる仕組みを作ったことが話題になりました。また、食品の廃棄が問題になっていたため、これを解消するために、おにぎりなどの食品の賞味期限を伸ばしました。

小売業が本来やるべきことは何か?

コンビニに限らず、小売業ではどうしても、販売する商品が似通ってしまい、立地条件や値段の安さでの勝負になりがちです。こうなると、いかに多くの店をだせるか、という出店合戦になったり、TポイントやPontaポイントでの販売促進での勝負になってしまいます。こうなると、顧客視点からするともはや、どの店で買っても同じ、というみられ方になります。

しかし、もともとコンビニエンスストアの原点は、読んで字のごとく「便利な店」です。先ほどあげたセブンイレブンの取り組みには、そもそもの原点に立ち返り、顧客の利便性が向上できる付加価値を出そう、という動きが見て取れます。

そんな中でさらに、セブンイレブンが、リアルの店舗から出て、消費者に直接接近しようという試みをしています。2020年7月から、東京都内40店で、スピード宅配の実証実験を始めました。日経新聞によると、記者の方がこのサービスを試したそうで、まずスマホで専用サイトを開き、注文をすると、ショートメッセージが届き、自分で選んだ指定の場所に取りに行く、というステップです。これで、注文から受け取りまで約1時間ですむ、という便利さです。

配送にもこだわっているそうで、単発で仕事を請け負うギグワーカーではなく、業務提携した企業の方が届けるのも特徴です。記事によると、セブンイレブンの担当の方は、「すぐ食べたい“即食”という、コンビニ本来のサービスに期待し、20代の男女など新しいセブンの利用客が増えた」とのこと。また、無人のセブンとして自動販売機を設置したり、過疎地で閉店してしまったコンビニの近くに、移動販売車を出して売るということもしています。

これらを見ていると、セブンイレブンは、自社のコンビニエンスストアという定義を、「便利に買いに来ることができる場所」を提供することから、「場所を選ばす便利に買える」いうコンセプトに、変容(=トランスファー)したのです。

どうしても、場所にこだわると、先ほど書いたように「売れ筋商品」を厳選しなければ、とか、値段を安くしようとして、ライバルと似通った手法になってしまいます。24時間営業がだんだんとなくなる傾向にあり、ネット通販も台頭してくる中、市場が変わっていくことに適応して、「いかに便利にセブンイレブンで買ってもらえるか」という原点に立ち戻って、できることはないか、と考えての施策ということが読み取れます。

ビジネスでは、変化に適応できた企業が生き残ります。その意味でも、臨機応変に変化に対応する、セブンイレブンの姿勢に学ぶ点が多いですよね。

西武ホールディングスの取り組み

一方で西武ホールディングス(HD)も新しい試みをしています。そごう・西武などと組んで、2月8日から、ネット通販で注文した、西武池袋百貨店の商品を、西武鉄道の駅構内に設置してあるコインロッカーで、受け取ることができる、「駅配サービス」の提供を開始するとのことです。「BOPISTA(ボピスタ)」という名称のサービスとのことで、今現在で、ホームページはあるものの、「2月開始 お待ちください」と、カウントダウンが表示されています。

当初は、実験的に開始するとのことで、池袋駅、富士見台駅、所沢駅にて、2月8日から3月31日を予定しているとのことです。対象になるのは、西武百貨店の池袋本店で販売している、常温保存可能な焼き菓子などのスイーツ類と、化粧品、小物雑貨などのギフトの一部商品です。

24時間注文可能のインターネットで注文をして、最短3時間後から受け取りができるそうです。いずれも土日祝日以外でのサービスになり、商品代金に応じて利用料として、100~500円が課金される予定ということですが、通勤するビジネスパーソンにとって、便利なサービスですよね。

会社や学校の帰りに、化粧品を注文して、帰宅する時にコインロッカーで受け取って帰ることができます。昼過ぎくらいに注文すれば、帰るときには間に合うので、夕食後のおやつなども注文しておけば、帰りに受け取れますし、逆に家でギフト用に焼き菓子や、小物雑貨を注文しておけば、百貨店によることなく、最寄駅で受け取ってから、その贈り物を渡す場所に向かうこともできそうです。これから、バレンタインデーもありますし、本命チョコはともかく、友チョコや家族チョコ、職場の方々へのチョコなどにも便利そうです。

新型コロナウイルスによる外出が制限される、新常態のライフスタイルの中、通販で物を買う、ということが浸透してきました。確かに便利なのですが、通販で買い、自宅に届けてもらうとなると、いつ届くかわかりませんし、今日あればいいのに、というような商品は、やはりお店に買いにいかなければいけません。また、受取日が指定できたとしても、その時間のあたりに家にいなければなりません。しかも、その時間にいられないと、再配達を頼まなければなりません。

通販の量が増えて、宅配の量が増えているので、配送会社も負担がかかっています。そしてこの、再配達は配送会社にとって、二度手間のロスになってしまいます。この再配達によって、年間で42万トンのCO2が排出され、9万人相当の労働力がロスしているとの試算もあり、社会問題にもなっています。西武ホールディングスは、この試みを他の駅や他の商品にも拡大していくと思われます。

今までは、小売業は「どれだけ多くの集客をするか」、「そのために売れる場所を広げよう」となっていましたが、インターネット通販が普及して、その考え方が、「お客様にいかに便利に商品を買えるか」を、考えるように変わりました。そして「どこで売るか」よりも、「どこでいつ受け取れるか」という点も追加されてきています。

様々な場所で販売することを、オムニチャネルと呼びますが、このようにいかにお客様が便利に買えることができて、便利に受け取れるか、ということにシフトする時代です。その意味でも、コインロッカー受け取り、ありそうでなかった新しい発想ですよね。

セブンイレブンと西武HDの事例から学べること

セブンイレブンにしても、西武HDにしても、業界の競合に先駆けての、新しい取り組みにチャレンジしています。このような発想は、「どうやって商品を売るか?」を、戦略的に、ビジネスのフレームワークを用いて、ロジカルに分析していくだけでは、なかなか出てきません。

ロジカルに分析するこのような垂直思考は、無駄を省き、効率を上げる方法なので、すでに顕在化している問題を解決することに、適したアプローチになります。それが故に、従来やってきたことからはずれて、新しい何かを発想し企画するアプローチではありません。

もし、セブンイレブンが垂直思考で問題を解決していたら、「もっと精度高く売れ筋商品を選ぼう」とか、「効率良い出店方法が必要だ」となり、これまでの延長線上での改善案しか出てこなかったでしょう。

新しい発想をするためには、垂直思考で削ぎ落とした要素の中から、「もしかしたら顧客のためになるかも」という仮説を立て、やってみるという水平思考というアプローチが必要です。その時のポイントは、「ユーザー目線」すなわち、顧客視点にたち、顧客のために何ができるのか、を徹底的に考えることから始めます。

今回のセブンイレブンと西武HDは、顧客の利便性向上の辺りを強化しての発想から出てきた企画と読み取れます。ITでのシステムを組んだり、多大な投資をすることは、大企業にしかできないかもしれませんが、新規事業の場合も、中小企業でも、顧客視点に立ち、何かできることはないか、と考えることはできますよね。

新型コロナウイルスに振り回され、意外と忘れがちなこの点に関して、もう一度見直してみる、いい時期なのではないかと思います。

image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

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ビジネス・仕事に大事なのは、情報のキモに「気づき」どう仕事に「活かす」かです。トレンドやヒット商品には共通する「仕掛け」と「思考の枠組み」があります。このメルマガでは、AI、5G、シェアリングなどのニュースや事例をもとに、私の経験とMBAのフレームワークを使い「情報の何に気づくべきか?」という勘どころを解説していきます。現状を打破したい企画マン・営業マン、経営者の方が、カタくなっている頭をほぐし情報を気づきに変えるトレーニングに使える内容です。

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