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危険性も隠蔽か?菅政権下でコロナワクチン接種という大きな不安

我が国でも2月下旬から開始される予定の新型コロナワクチンの接種。菅政権にその安全性や有効性にかかわる確たる情報を公開する意思はあるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、首相はワクチン接種の成功に政治生命をかけてはいるものの、これまでの答弁等を振り返る限りにおいては、透明性の高い情報開示は期待できないと結論づけています。

新型コロナワクチン接種には安全情報の完全公開が必要だ

同じ国会議員でも、羽田雄一郎議員は発症してすぐにPCR検査が受けられず、コロナで死んだ。石原伸晃議員は無症状でも検査を受け、すぐに入院できた。

同じ世論調査でも、朝日新聞の内閣支持率は33%、産経・FNNのそれは52.3%…。どちらを信用すればいいのやら。永田町界隈は解せないことだらけである。

今年度中、すなわち今年3月までに使う予定の第三次補正予算案に、1兆円をこえるGoToトラベル事業を盛り込んだまま通常国会がスタートし、菅首相は、野党の要求する予算組み替えを拒否した。3月までにGoToを再開できると思うのだろうか。これも、謎だ。

代表質問が始まると、まず問題視されたのは菅首相の答弁の短かさだ。誰に対しても平等に素っ気ないが、たとえば、21日の参院本会議、立憲民主党の水岡俊一議員は新型コロナウイルスのワクチン接種などについて約30分質問したが、菅首相の答弁は、わずか10分弱。あまりにも短すぎるので、野党の議院運営委員会理事たちが本会議場の壇上に詰めかけるほどだった。

別にいいのである。答弁時間が短くても。関係ない話をダラダラと続けて野党議員の質問時間を奪った前首相よりマシかもしれない。ただし、簡明にして、中身があれば、の話だ。

菅首相のそれは短いだけで、ほとんど質問とかみ合うことがない。水岡議員は接種を受ける国民の不安や疑念を代弁した。菅政権がワクチンで成果をあげ、沈み続ける内閣支持率を浮上させたいと考えているのであれば、十分に時間をかけて答えるべきである。

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さて、そのワクチン接種。2月下旬から始め、まずは医療従事者、そして次は高齢者だという。71歳の筆者も高齢者の部類なので、順番が早いのはありがたいが正直、打つべきかどうか迷っている。

副反応も怖いし、どれほど効果があるのかも疑わしい。政治的な思惑もからんで世界的なワクチン開発競争が起き、まだ長期的な安全性が十分確認されていない段階で世に出るというイメージが強いのだ。

国内の専門家がテレビで発言しているのを聞くと、これから日本で接種されることになるワクチンはどれも、かなりの優れものらしい。しかし、あくまで従来型の新型コロナウイルスに対応できるということであって、いま世界のあちこちで発見されている変異株に対する効能のほどは定かではない。

だからこそ、接種開始にあたっては、国のリーダーの説得力が何より肝心である。そのためには透明性の高い情報を国民に提供する仕組みが必要だ。

ところが、菅首相は「感染対策の決め手となるワクチンについては、2月下旬までには接種を開始できるよう準備いたします。私も、率先して接種します」(施政方針演説)とスケジュールを語るだけ。何はともあれ首相たる自分が接種するのが安全の証拠、といわんばかりなのだ。

水岡議員は、ワクチンについて「副反応や変異株にも効果があるかなど、最新情報やデータを公開する手立てをどう考えるか」と質問した。

世界中でワクチン接種が広がるにつれ、副反応の実例や、変異株に対する効果など、さまざまなデータが出てくるだろう。当然、メディアも報じるだろうが、政府としてどのような情報公開の手立てを講じるつもりなのかというのが、水岡委員の質問の趣旨である。これに対する菅首相の答弁。

「副反応や効果を含めワクチンに関する正しい理解を広げるべく科学的知見にもとづいた正確な情報を発信してまいります」

正確な情報を発信。もちろん、そうしてもらわなくては困る。ただし、これでは水岡議員の質問に答えたことにはならない。国民は、アベ・スガ政権で継続している情報隠蔽、説明拒否の体質を不安に感じている。刻々と変化する情報を、いかに迅速、的確に国民に公開していくのか。その仕組みをつくるつもりがあるのか、ということを聞きたいのだ。

政府を信じてとにかく接種を、というのでは誰でも二の足を踏む。なにせ、世に出たばかりのワクチンである。自分に副反応が起こるかどうかは打ってみなければわからない。過去にワクチンでアレルギー症状を起こした経験がないからといって、今度もそうとは限らない。

国としては、社会全体を守るための「集団免疫」獲得にワクチン接種が必要で、どんなワクチンでも多少の犠牲者が出るのは仕方がないということになるのだろう。だが、それとて思い通りにコトが運ぶ保証はない。

国民の60~70%が、感染したり、ワクチンを接種することで獲得できるとされるのが「集団免疫」だが、ワクチンで得た抗体がいつまでもつかは今のところ定かでなく、あくまで長期にわたる検証が必要なのだ。

国民が抱く不安を、詳細で明確な情報公開によって払しょくすることなくして、ワクチン接種が菅政権の思い通りスムーズに進むとは思えない。「実験台にされたくない」「しばらくは様子見だ」などと尻込みする人もいるだろう。

実際、すでにスタートしている欧米諸国のワクチン接種も、フランスなど一部の国で、もたつきを見せている。トランプ前大統領が政権浮揚の切り札としてワクチンの早期開発を促していた米国では、医療従事者の約25%がワクチン接種を拒んでいるといった報道もあり、1月7日までに1回目の接種を受けたのは600万人ていどだった。

だが、ここへきてようやくスピードアップしてきたようで、米疾病対策センター(CDC)によると、1月22日までには、約4,000万回分のワクチンが全米に配布され、約1,910万人が接種を受けたという。

スピードアップの背景には、米政府が、ワクチンに関する情報公開を徹底したことがある。ワクチンの緊急使用許可を決めるFDAの審議の様子や、臨床試験の最終報告などを、誰でも見られるよう、なんとYouTubeで公開したのである。

こんな芸当が、菅首相にできれば国民は苦労しない。なにしろ、情報公開どころか情報隠蔽ばかりしているのだ。

さりとて、菅首相が一大国家プロジェクトといわれるワクチン接種の成功に政治生命をかけざるを得ない状況であるのも確かだ。逆に、しくじれば、それこそ自民党内から菅降ろしの嵐に見舞われる。

そこで、菅首相は、得意の人事カードを切った。河野太郎規制改革担当相を、ワクチン接種の担当大臣に任命したのがそれだ。

ワクチンの接種に向けた調整は、総務省や厚労省のほかにも、保管する冷凍庫の確保は経産省、輸送は国交省と、複数の省庁にまたがるため、全体を統括して調整し動かす大臣が必要であるとの理由で今回、規制改革・行政改革担当である河野大臣の起用になったという。
(FNNプライムオンライン)

これで一気に、ワクチン接種に世間の関心が集まった。人材不足が深刻な自民党にあって、数少ないスター選手を勝負どころで使ったというところだろうか。

河野氏は、ブログやツイッターでこまめに発信し、ときおり正論めいた思い切りのいい発言ができるものの、結局は日和見の方向に落ち着くか、単なるスタンドプレーに終わりがちだ。

ワクチンについても、平井卓也デジタル担当大臣の唐突な提案に乗って、関係者をざわつかせた。

河野氏は25日、マイナンバーを用いて個人の接種記録をリアルタイムで管理できるシステムづくりを国の費用で進める考えを示した。…混乱の始まりは19日。平井卓也デジタル改革相が記者会見で、マイナンバーの活用を唐突にぶち上げた…その日のうちに、ワクチン担当になったばかりの河野氏と新システムの検討を確認した。
(1月27日朝日新聞朝刊)

すでに自治体へのワクチン流通管理システムに取り組んでいた厚労省の担当部課が驚いたのは言うまでもない。

マイナンバーカードを普及させるのにいいチャンスだと平井大臣は気持ちをはやらせたのだろうが、1ヶ月後には接種が始まるというこの時期、新システム導入はどう考えてもムリがある。

さすがに河野氏も、26日の衆院予算委員会では「ワクチン接種そのものにマイナンバーカードもマイナンバーも必要ない」と、トーンダウンし、ひとまず騒ぎはおさまった。

河野大臣の総合調整役としての手腕は未知数だが、接種される我々としては、水岡議員が指摘したように、ワクチンの安全性、有効性にかかわる情報公開をしっかりしてくれなければ、納得して接種会場に向かえない。

この点について、1月25日の予算委員会で、公明党の遠山清彦議員が米国の例を引きながら、菅首相の考えをただした。

「アメリカ合衆国の国立研究機関で博士研究員を務める峰宗太郎氏によると、米国ではYouTubeなどによる徹底した情報公開がワクチンへの信頼の醸成につながっていると指摘されている。日本もファイザー社ワクチンの薬事承認はこれからです。ワクチンの承認プロセスについて国民に最大限の情報開示をすべきだと思いますが、いかがでしょうか」

菅首相が薬事承認プロセスをYouTubeで公開するとでも言ったなら、それこそ政治姿勢転換の大ニュースだが、案の定、次のように答えるのが精いっぱいだった。

「諸外国における先進的な事例を参考にしながら、たとえばワクチンの有効性、安全性に関する資料や審議会の議事録等については企業の知的財産権にかかわるところを除き迅速に公開するようつとめたい」

「~等」や、「~を除き」がついたりする、いつもながらのあいまいさ。これでは、透明性の高い情報開示をあまり期待できそうもない。打つべきか、打たざるべきか、不安を抱え煩悶しながら、菅首相の言う「自助」で判断するほかなさそうだ。

image by: 首相官邸

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