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なぜ日本人男性はリタイア後に家に閉じこもってしまうか?解決策

現代のビジネス社会で人は時間に追われ、休む間もなく働き続けています。そして定年がやってくると、今度は時間を持て余すようになり、まるで抜け殻になってしまう─。そんな老後を送らないようにするため、そして時間に追われる生活から脱却するための「スローライフ」を指南するのが、メルマガ『j-fashion journal』の著者で、ファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。坂口さんは、日本人がこれから実践すべき新しいライフスタイルについて論じています。

日本式スローライフを考える

1.現代ビジネスは時間との戦い

現代ビジネスは時間との戦いだ。時間と共に金利が発生するので、何もしないことはゼロではなくマイナスになる。コロナ禍で世界中の往来が止まり、ビジネスが止まった。それだけで大きな損失である。

企業が素早く成長するにはM&Aが有効だ。ビジネスに必要な技術開発、人材育成には時間が掛かる。しかし、企業買収すれば、時間が短縮できる。つまり、時間を金で買うということ。正に「時は金なり」だ。

ビジネスは投資だと考える人もいる。株や為替をデジタル取引するようになり、秒単位、分単位で利益が確定するようになった。短時間で莫大な利益を上げることもあるし、莫大な損失を被ることもある。

ビジネスでは、常に時間に追われる。予定通りに仕事が終わっても、次は更に短い時間が設定される。そして仕事の量も増える。量が増えても「早くやれ」と命令される。この繰り返しが続く。

ストレスが溜まると、酒、タバコ、ギャンブルに走る人も出てくる。健康を害し、金を失い、失った金を稼ぐためにまた働く。その繰り返しだ。

仕事の時間に追われ、食事の時間が減る。睡眠の時間が減る。恋愛をする時間、趣味を楽しむ時間、読書する時間、思索する時間も減る。全ての時間は仕事のために使われていく。

時間に追われる暮らしは、突然終了する。「定年」だ。時間に追われる生活から、時間を持て余す生活に追い込まれる。なぜ、人生は極端なんだろう。

2.土地に根ざした仕事と生活

昔の日本人は、もっとゆったりと生きていたに違いない。といって、暇だったわけではない。農作業以外に、畦や用水の管理、建物の修理、干し柿や漬け物作り、機織りなど、仕事はいくらでもあった。加えて、道路整備など公共事業的仕事もあっただろう。更に、様々な行事、神事、祭り、冠婚葬祭などもある。

会社の仕事は分業だ。仕事の全貌が見えず、自分の仕事の意味を理解するのも難しい。

農民の仕事は分業ではない。無から有を生み出すものだ。種を蒔くところから収穫まで、仕事全体が完結している。分業どころか、自然の一部として、自然に生かされているのではないか。

また、個人や家族で行う日常的なケの仕事だけでなく、村を上げて行う祭礼などのハレの行事が生活のリズムを刻み、正月と盆にゆっくりと休む。その土地に根ざした生活の実感である。

3.製造業は時間をかけて成熟する

一般のビジネスは時間との戦いだ。もちろん、製造業も納期との戦いはある。しかし、技術を磨くには時間と経験が必要である。日本の伝統工芸の職人仕事が素晴らしいのは、何世代にも渡って、技術を磨き続けたその蓄積にある。

企業買収によってその技術を買うことはできても、技術者を育成し、技術を発展させ、技術を継承することはできない。やはり時間をかける必要があるのだ。

現在のような「お金中心のビジネス」を続ければ、素晴らしい日本の伝統工芸も採算が取れなくなるだろう。

これを守るには、ゆっくりと生きる生活者が存在し、ゆっくりと作れる環境が必要だ。もしかすると、多くの伝統工芸はアートとして生き残るのかもしれない。

アートの世界なら、ゆっくりと作ることができる。そして、アート作品を購入する人もコストパフォーマンスで選ぶことはでいだろう。そもそも大量生産商品と、職人仕事で作る商品が同じ基準で比較されることがおかしいのだ。

アートとして生き残るには、社会全体がアートを楽しむ余裕を持たなければならない。時間に追われた生活ではなく、ゆったりと人生を楽しむこと。仕事中心、会社中心の生活ではなく、スローな生活を取り戻すことを目指すべきではないか。

4.スローなリタイア生活

時間と仕事に追われて、ストレスを溜めていた生活を卒業し、ようやく人はゆったりとした生活が可能になる。そういう意味では、リタイアは幸せへの入口のはずだ。

しかし、リタイア後の男性は家に閉じ籠もり、人生への意欲さえ失ってしまう人が多い。会社組織から離れた途端に、人間関係を失い、社会との関係も失う。そして、仕事を失うことで、アイデンティティさえ失ってしまうのである。

まず、ゆったりとした時間に慣れなくてはならない。焦らず急がず、今まで落ち着いて見たことの景色を眺め、雲や星を見る。植物にも目を向ける。もちろん、道行く人にも目を向ける。

生活のために仕事をしていたはずが、仕事が生活になっていた人が多いだろう。だから、仕事がなくなると生活もなくなってしまうのだ。

人生を楽しむ、生活を楽しむとは何か。たとえば、食事に向き合ってみる。そして、ゆっくりと時間をかけて、味わって食べる。そして、食材に対して思いを巡らせる。

そして野菜を育ててみる。食材を調達することも立派な仕事だ。金のためではなく、生活のための仕事。充実した毎日が過ごせれば、お金が稼げなくても仕事である。

同様に、服について考えてみる。身体について考えてみる。靴や時計について考えてみる。お酒についても考えてみる。

そして、考えたことをツイッターでつぶやいてみる。フェイスブックに短い文章を書き込んでみる。ユーチューブに動画をアップしてみる。これも仕事になる。

生活に積極的に取り組めるようになれば、次は社会貢献や社会的使命についても思いが至るだろう。そんな人が増えれば、世の中も楽しくなるはずだ。

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■編集後記「締めの都々逸」

「嘘をつく人 なぜだか急ぐ 焦る つまずく うろたえる」

嘘をつくのは、面倒なものです。辻褄を合わせるために、嘘が嘘を呼び、最後は何が嘘だか分からなくなる。時間が経てば経つほどばれるので、なるべく早く話をつけようとするし、その場から逃げようとします。

逆に嘘をつかずに正直な人は急ぐ必要がありません。じっくりゆっくり生きていけばいいんですね。

現代のビジネスは常に急いでいます。じっくりと取り組めない。どこかに嘘があるんじゃないでしょうか。

というより、真実ってあるんですかね。むしろ、全部嘘なんじゃないか、と思う今日この頃です。(坂口昌章)

image by: Shutterstock.com

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