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なぜアイリスオーヤマがソフトバンクとロボット事業を始めるのか?

2月1日、アイリスオーヤマとソフトバンクロボティクスが共同出資会社アイリスロボティクスを設立し協業をスタートさせました。家電事業に参入するやユニークな製品を次々生み出し、製造から販売まで手掛けて業績を伸ばしてきたアイリスオーヤマが、ロボット事業に参入したのはなぜなのでしょうか。以前から、アイリスオーヤマの取り組みに注目してきたメルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんが、独自のマーケティング視点でその思惑と戦略を読み解きます。

なぜ、アイリスオーヤマは、ソフトバンクロボティクスと組んで、AIロボット事業に参入したのか?

このメルマガでもこれまで何度か取り上げた、アイリスオーヤマが、また新しい取り組みをしています。それもなんと「AIロボット」の事業。なんだか面白そうですね。

今号では、このトピックスについて、アイリスオーヤマがなぜAIロボットなのか?その思惑は?について、マーケティングの視点で、深掘りをしていきます。

AIロボット事業に参入するアイリスオーヤマ

アイリスオーヤマが、ソフトバンクグループのソフトバンクロボティクスと組んで、2月に共同出資会社を設立し、運搬や配膳などができる「企業向けロボット」を開発・販売するロボット事業に参入すると発表しました。新会社の名前は、アイリスロボティクス株式会社で、出資比率がアイリスが51%と多いことから、アイリスが主導する会社になりそうです。

家電などの商品を手がけるアイリスが、「ロボット」と聞くと意外に感じます。アイリスオーヤマはもともと、ペット用品や雑貨を手がけるメーカーベンダーと呼ばれる、製造から販売までを一気通貫で行うビジネスモデルです。アパレルではSPAと呼ばれる、ユニクロの製販一体の仕組みと多くの点で共通しています。

アイリスオーヤマは、9年前に家電事業に本格参入しました。以前このメルマガでも取り上げたように、アイリスでは大手家電メーカーがやらないような、ニッチな市場を狙う“こんな商品があるといいな”、という「なるほど家電」というコンセプトで、照明や掃除機などの日用的に使う、アイディア豊富な家電を開発して、販売していました。

アイリスオーヤマの特徴は?

アイリスオーヤマのこのなるほど家電は私も好きで、手軽に使える扇風機や、細くて立てかけておける掃除機などを愛用しています。いつも感心するのは、ユーザーの痒いところに手が届く、ありそうでなかった商品を開発する点です。

たとえば、先日もテレビ番組で取り上げられていた、2つに折りたためる「ホットプレート」。2つに分かれて焼けるので、片方で焼肉、もう片方でお好み焼きなどを同時に作れる、という優れものでした。しかも、折りたためば通常のサイズの半分になるため、収納も簡単だし持ち運びもできる、という便利さです。

これらのなるほど家電へのネットなどでの評判は、「お得な価格だけど高品質」と上々です。こういった、お客様が気づいていないけれど、あれば嬉しい「潜在」ニーズを探し出し、商品化することが得意な会社です。言うまでもなく、潜在ニーズを発見することができれば、値段で比較されることもなく、ひいては価格競争に煩わされずに、値決めが可能になります。

アイリスオーヤマでは、毎週月曜日にアイディア会議という、新商品開発のためのプレゼン会議があります。ホームページによると、「1つの案件につき5~10分で社員が、次々とプレゼンテーションすることから、新商品開発会議は「プレゼン会議」とも呼ばれています」とのこと。2018年における売り上げのうち、62%が新商品が占めているそうです。

この凄まじい商品開発力と、それをヒットさせる力は、「社員も生活者」というコンセプトから生まれています。なるほど家電は、ユーザー体験からの視点で発見された、ニーズを具現化したものなのです。

アイリスオーヤマはなぜソフトバンクと組んだのか?

一方で、ソフトバングはこれまでも、人型のロボットの「ペッパー」などを開発してきた経験もあり、誰もがその技術力を認めています。今回、アイリスとソフトバンクグループとが、ともに会社を作った背景には、その相乗効果を期待する点にあります。

アイリスオーヤマの商品開発力を、ソフトバンクロボティクスの、AIやロボット開発などの技術力と組み合わせて、アイリスの販売に関するネットワークとノウハウを活用する、といった一連の流れができることにあります。これも今までにはなかった「バリューチェーン」が、双方の力でできる、ということになります。

IT系のニュースサイト『インプレス』によると、この両社は従来から、除菌掃除ロボットの「Whiz」の販売を、共同で行なっていましたが、合弁会社の設立によってこれをさらに進化させる、ということが狙いです。

手始めに、法人向けサービス・ロボットとして、AIを活用した除菌清掃するロボットの「Whiz i アイリスエディション」と、配膳・運搬をするロボットの「Servi アイリスエディション」を販売すると報道されています。

これらの商品ラインアップは、コロナ後の新常態の経済の中で、人手不足のホテルや飲食業界のニーズにマッチしそうです。ホテルなどで清掃ロボットだけではなく、布団やシーツの運搬も出来るので、5フロアを2人で分担していた分をその半分で可能になる、ということができそうです。

また、ファミレスなどでも、単にこのアイリスのロボットが運ぶだけではなく、ここのところ進化してきた回転寿司のように、メニューもタブレットで選び、自動移動式のロボットが運んでくれる、というファミリーレストランなんかも出てくるでしょう。そのうち、ルンバの進化系のような消費者向けもぜひ、出して欲しいところですよね。楽しみです。

アイリスオーヤマとソフトバンクの狙いは何か?

ではなぜアイリスオーヤマとソフトバンクは、AIロボットを事業化しようと思ったのでしょうか?もちろん、市場の拡大に対する期待もあり、そこで「ロボット」を売りたい、という思惑もあります。しかしそれだけではなく、このロボットを使用するたびに生まれる、大量のデータを活用することができるでしょう。

AIはデータが蓄積されるたびに「賢く」なります。間違いが多発すれば、AIがそれを修正し、再発を防ぐことになりますし、細菌除去の場所に特徴があることがわかれば、段階的に、より質の高い動きができるようになるでしょう。こうなると、今までメーカーとしては、高品質な製品を、次々と開発しなければならない、という苦労をすることなく、ソフトウエアのアップデートだけで、顧客ニーズを満たすこともできるでしょう。

当然AIは、IoTとしてメインのサーバーにつながっているので、消耗品の交換が必要なタイミングなども掌握できます。つまり、ハードとソフトウエアを合体させてのサブスクリプションモデル、ということになるのです。これからの、アイリスロボティクス株式会社の動き、注目に値します。

image by:Ned Snowman / Shutterstock.com

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ビジネス・仕事に大事なのは、情報のキモに「気づき」どう仕事に「活かす」かです。トレンドやヒット商品には共通する「仕掛け」と「思考の枠組み」があります。このメルマガでは、AI、5G、シェアリングなどのニュースや事例をもとに、私の経験とMBAのフレームワークを使い「情報の何に気づくべきか?」という勘どころを解説していきます。現状を打破したい企画マン・営業マン、経営者の方が、カタくなっている頭をほぐし情報を気づきに変えるトレーニングに使える内容です。

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