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まるで「のり弁」。いじめ問題で請求した資料を黒塗りする自治体の異常

これまで、いじめを巡る学校側や教育委員会の信じがたい対応を糾弾し続けてきた、現役探偵の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんは今回、自身のメルマガ『伝説の探偵』の中で、学校や教育委員会のみならず、自治体などの行政側が資料を隠蔽したり、被害者側と首長側で提出する資料を2種類に分けて出す事例を列挙。中でも酷い「のり弁」状態の黒塗り資料に関する実態を暴露しています。

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全国で当たり前のように起こる開示請求の不正

過去に「伝説の探偵」でも取り上げたことのある学校問題の被害者からこういう連絡がきた。

不正事実を証明するため、情報開示請求をおこなっているが、個人情報などを理由に開示されなかった重要書面がある。これに不服審査請求(再審)をしたが、その担当部局が裁判を担当する課と同じなのだという。(すでに訴訟になっているので県名などの詳細は伏せる)

答申の通りに動くということだが、「そもそもの文書を廃棄」だとか「改ざんする恐れはないか?」という問いだ。

行政法やその手続法等を見ていけば、 それはないだろうと判断するのが普通だが、報道を見ていればわかる通り、いじめ問題や学校のハラスメント問題などでは、資料の紛失は頻繁におきるし、二重資料(遺族用と市長用で内容がまったく違う)などは事実として起きている。

私自身も開示請求を勧めるが、常にあるのは「いじめに関する資料のすべて」として請求しても、不足文書がみつかり、少なくとも3度は請求をし直すことになるのだ。

冒頭に挙げた質問は、そもそも担当部局が、ある種の審査庁になってしまっていることに問題がある。ただし、これは構造上の問題である。例えるなら「被告が裁判官も兼ねる」というような理不尽さだ。これでは原告が勝てる見込みはないのだ。

全国各地で起きる「のり弁」開示

 

開示された資料が「黒塗りばかり」なのはよくあることだ。

これがまるで 「のり弁当」 みたいだということで、 「のり弁」開示 と呼ばれている。

その多くは「資料の中に個人情報が含まれている」という理由で黒塗りをしているということだが、審査請求をおこなうと、ほとんどのケースで「眉毛」をのせるほどのレベルに黒塗り部分が減るのだ。

つまり、「個人情報ではない部分までも黒塗りにされてしまう」ということは往々にして起きる。

こうして何度も手間をかけさせられるわけだが、これに費やす時間は半年から1年かかるケースもざらにある。また、開示請求される書面は印刷代などを取られるので、1枚あたりは数十円だが、それが多くなればなるほど相当な費用が掛かる。

結果、被害者側はこうした開示手続きでも手間と時間、費用の負担を強いられることになるのだ。

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個人情報保護を伝家の宝刀にする行政の卑劣

個人情報保護は確かに重要だ。みだりに出せるようなものではないし、地方自治体はこれを守るのは当然だ。

しかし、いじめの被害者が、自分の情報がどのように管理され記録されていたのかを知るために情報開示を求めた場合、個人情報の保護をする必要があるのだろうか。

関西圏に住むいじめ被害者が、自らの情報を求めた際、「黒塗りの記録」が出てきたことがある。これを不服として再審請求をして黒塗り部分が開示されたが、結果、その内容は本人について担任が書いた、さして問題もないような記録に過ぎなかった。

この際、黒塗りをしたのは学校を監督する課であったが、なぜ黒塗りにしたかについての理由を問うことはできなかった。

報道をみれば、より多くの事例が出てくるが、2月8日の報道によれば、高知県の公立学校の体罰事故に関する報告書を情報開示した際、「県教委が教員名や学校名を非開示した決定は違法だ」として、神戸大学の教授が取り消しを求めた訴訟の判決があったとある。 

この件では、県教委は小中高数が少ない市町村が多いことなどから「開示すれば、被害生徒が特定されるおそれがある」として学校名や教員名などを非開示にしたということであったが、高知地裁は判決で「プライバシー保護の範囲を拡大することは、知る権利を過大に制約しかねない」として神戸大教授の請求を認めた。

このような事例は枚挙にいとまがない上、実は日々報道されていることなのだ。

一方、(被害者からの制約により県名などの詳細は公表できないが) 東海地方のいじめ被害者のご遺族は、第三者委員会の調査報告書が「ご遺族側の意思で非公開となった」という件について、「そんな意思表示はしていない」と憤っていた。

この第三者委員会の報告書の内容は、学校や教育委員会の対応が極めてずさんであったという項が多数あり、彼らにとって不都合だったのではないか、という話をしてくれた。

つまり、 個人情報のみならず、被害者やご遺族が公表の機会を持てなければ、その意思すらも歪められて悪用されてしまうのだ。

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開示請求の不正を許すな

このような、ある種の「不正」は起きてはならないことだ。しかし、多くの人が生涯のうちで、自分自身の記録がどうなっているのかを情報開示請求する経験はほとんどないだろう。

ところが、いざトラブルに巻き込まれれば、こうした記録が必要になってくる。その時に、様々なハードルや理不尽に出くわすことになるのだ。

いじめの被害者然り、ハラスメントや学校の事故、体罰の被害者然り、統計などを分析している研究者も然りだ。

私は主にいじめ問題での開示請求をおこなっているが、地方自治体によってその実態は様々であり、資料の呼び方も違うことがある。

ひとつ言えることは、各自治体で開示請求とその審査などを含めて、それらがどのようにおこなわれているかをしっかりチェックして実態を把握する必要がある。

Wikipediaによれば、国内には1741もの自治体があるということだから、各地のオンブズマンや市議会などの議員さんなどでこれを総点検してもよいのではないかと思う。

例えば、問題の争点となる課や部局が、その審査に当たるというようなことは不適切であろう。

また一方で、紙ベースやデータ自体がバラバラに管理されていることで、開示対象を検索するのに膨大な時間が掛かってしまうという問題もある。これについてはデジタル庁に期待したい。

紙ベースのファイルから関連する資料を探し当てるのは大変な時間と労力がかかるが、データベースから検索をすれば、数秒から数分で関連する資料を探し当てることができる。

改ざんや紛失についても、バックアップや認証などのプロテクトが機能していれば、シュレッダーにかけて追跡不能にすることはできないだろう。

デジタル技術の進歩をうまく活用すれば、不正を極力できないようにすることは可能なのだ。

私は常に、いじめやハラスメントなどの被害者に付き添っているが、学校や教育委員会などに踏みつけにされ、場合よっては第三者委員会からも踏みつけられ、その上、自治体による不正や嫌がらせではないかと思えるほどの対応に心を痛めることが多くある。

これは、ある種の「二次被害」といえるだろう。そして、その多くは「あってはならぬ理不尽」と言えるようなものばかりで、それが当たり前のように存在しているのだ。

未だ被害者になった経験のない大勢の方は他人事のように感じるかもしれないが、いつ自分が被害者になるのかは分からない。これはまさに「隣にある現実」なのだ。

被害者の多くは、被害を受けるまでは「その他大勢」であり、特に何の非もない人たちだ。いつ起きるかわからぬトラブルを怖れているのは不毛だという考え方もあるが、怖れるのではなく、 こうしたことが起きないように仕組みや構造を再検証すことは必要だろう。

本来、全幅の信頼を寄せているであろう自治体において、不正を許してはならない。

編集後記

近々裁判になるようなので都道府県名は明かせませんが、 関西地方のあるいじめ被害者は、同じ題名で作られていた文書が2種類あって、それが被害者用と市長部局への説明用であったことが明らか になっています。

他にも、 いじめの遺族側が行政手続きをしても、見ることも、その資料があることも明かされなかった資料が、第三者委員会では普通に配布されていたという問題もあります。

こうした資料は、問題の根本に当たる上で基礎となるような重要なものが多く、これらの資料の組み当てによって結果がまったく違ってしまうものです。

つまり、教育委員会の担当課などによって、 重要なプロセスが捻じ曲げられてしまったことを意味します。如何に第三者委員会などの中立性が確保されていても、事務局が捻じ曲げるのですから、相当なキレ者がいても、この不正になかなか気付けるものではありません。

私ですら、問題に当たるまでは、こうした不正が起きるとは想像もしていませんでした。あまりにショッキングに思うようなことが、いじめ等にかかる問題で当たり前のように起きています。

それに気付くことは容易ではありません。私は常に起きるものだという認識で点検をしているので、気付く率は高いかもしれませんが、それでもわからないことはたくさんあります。

気付くよりも、積極的に「防ぐ」ことの方が大切という状態にあると思います。今や「デジタル」が当たり前の時代ですから、仕組みを構築することはさほど難しくないはずです。

一方で、こうした不正が発覚しても、そのままスルーされることが圧倒的に多いのです。一般的な感覚からすれば、懲戒免職相当なのではないかと思っても、現実はせいぜい訓戒程度で、うやむやで終わってしまいます。聞けば「裁く法がない」とのことですが、たとえ法があっても運用しないのではないかと思えてきます。

「次世代に苦労を掛けるな」という言葉を発した方がいましたね。私もその通りだと思います。

こうした不正や理不尽、そして世間とかけ離れたトップがいたり、理不尽なことで人の命を奪っても裁かれない立場の人が存在することを含め、私たちの世代で終止符を打つことが、次世代に苦労を掛けないことだと思います。

まずは総点検から始める必要はありそうですが……一歩踏み出すことが何より大切なんだと思います。

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image by: shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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