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アシックスが新商品の9割に「高コスト素材」をあえて使用する深いワケ

今年1月、日本の大手総合スポーツ用品メーカー「アシックス」が、2021年に発売する新商品の9割以上にリサイクル素材を使用すると発表し、話題となりました。環境には良いものの、コストが割高といわれるリサイクル素材をあえて使うことを決めたアシックスですが、その理由はどこにあるのでしょうか? メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんは、今回のアシックスの決定を尊重するとともに、いま世界的に大きな潮流となっている「SDGs」や「バリューチェーン」に関連付けてわかりやすく解説しています。

アシックスのリサイクル素材シューズ開発に学ぶバリューチェーンの分析

今号では、スポーツ用品メーカー「アシックス」の取り組みについて深掘りをしていきます。

アシックスのリサイクル素材活用

アシックスが、今年発売するランニングシューズの新商品の9割以上に、リサイクル素材を採用する、と発表しました。

GEL-PTG(ゲルピーティージー)」という商品名になります

メディアポータルサイトBCNの記事によると、2021年1月1日からアシックス東京 有明ガーデン、アシックス名古屋 mozoワンダーシティ、アシックス大阪リンクス梅田、スニーカーショップ、1月2日からはアシックス原宿フラッグシップ、アシックス大阪心斎橋、1月5日からはアシックスオンラインストアなどで、順次販売を開始したとのことです。

アシックスでは、約50種類の新商品を2021年に発売する予定とのことです。

アシックスはなぜリサイクル素材を使おうと思ったのか?

日経新聞によると、足の甲のアッパーと呼ばれる部分を、石油由来の素材から、ペットボトルを再生したポリエステル繊維に置き換える、ということだそうです。

これも、ここのところ国連が提唱する「SDGs」(エズ・ディー・ジーズ、持続可能な開発目標)以降に高まってきた消費者の環境意識に対応するものです。

先日も、缶のロゴにスペルミスがあったサッポロビールの缶ビールが、廃棄されずに、そのままで発売に踏み切って「環境にやさしい!」とSNSでも大きな話題になりました。

このような意識を持つ人が、かなり増えてきたことを受け止めて、対応する企業も多くなっています。

これまでも、ファッション業界などでは、シーズン後の余った商品をどうするのか?という廃棄や処分にまつわる問題から、ひいては「環境問題に反しているのではないか」という議論がなされてきました。

その中で重要なことが、リユースやリサイクルといった「再使用できるか」ということです。

今回のアシックスのリサイクル素材の活用は、靴の製造に使う素材の一部を、ゼロから作るのではなく、ペットボトル素材のリサイクル品を使う、ということになります。

今まで使っていた素材をリサイクル素材に変えて生産をすると、効率が悪くなって、製造コストは上がります。

しかし、アシックスのホームページには、はっきりと、

「CSR・サステナビリティ事業のあらゆる場面でサステナビリティ(企業と社会と環境の持続的発展)に配慮しています」

と書かれています。

さらに、製品の企画開発から生産、販売までの流れの中で様々な工夫をすることで、販売価格への転嫁は最小限に抑えていく、と明言もしています。

その事例として、製品を卸売業者や小売業者に届ける「流通」の段階での工程や無駄を見直してコストを下げる努力をする、と宣言しているのです。

その上、コストを下げて価格をおさえることのみではなく、工場での生産過程も工夫して、環境に負荷がかからないようにするとか、直営店で商品を並べる什器をできる限り再利用するなど、企画から流通を経てお客様の手に届くまでの各工程で、環境のことを考えるという工夫をしているのです。

その意味では、一段進んだリサイクル素材を活用した、製品開発から流通対策までの流れを作ったと言えます。

この製品が消費者の手元に届くまでの流れを「製品の供給の流れ」という意味で「サプライチェーン」と読んでいました。

それを今は、工程ごとに自社製品に「付加価値」をつける、という意味で「バリューチェーン」と呼びます。

これまでのバリューチェーンの考え方は、製品に新しい機能をつけたり、売り方を工夫したり、といった足し算が多かったのですが、これからは今回のアシックスのように、同じ足し算でも環境面での足し算や、無駄やロスを省く引き算を積み上げたバリューチェーンが増えていくでしょう。

アシックスの例を見ても、環境を配慮するということを念頭に置いてリサイクル素材を使うことになると、様々なコストが割高になりますし、そのための設備投資や、各工程への周知などのコストもかかります。

しかし、やはりSDGsに始まる、環境問題を考慮するという機運は、今や大きなうねりのように社会を席巻しています。

したがって、「この会社は環境に優しい」という方針を掲げた企業や製品のブランドイメージは、商品を買う時に消費者が選ぶ大きな理由になります。

デザインや靴の軽さだけではなく、会社としての取り組みも差別化の要因になるのです。

今回のアシックスは、短期的には様々な投資をしても、長期的に地球環境に優しくすべきと考え、さらに企業イメージの向上も合わせて考えた長期的な環境考慮戦略を打ち出したのでしょう。

その意味でも、これからのアシックスが環境問題に配慮した、どのような製品を出していくのか、それによってどんな差別化をしていくのか、注目に値しますよね。

image by: 2p2play / Shutterstock.com

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