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日本しかない。クーデターで袋小路に陥ったミャンマーを救える先進国

全世界に衝撃を与えた、ミャンマーのクーデター。フライン総司令官率いる国軍が権力を掌握してからおよそ1ヶ月が経ちますが、国内の混乱は収まる気配がありません。今後、ミャンマーは国家としてどのような道を辿ることになるのでしょうか。そして世界はミャンマーとどのように関わってゆくつもりなのでしょうか。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者の島田久仁彦さんが、クーデター勃発後から現在までの各国の対応を検証。さらに日本の政府や企業に対しては、実を伴ったサポートをしつつ、ミャンマーに和平をもたらす役割を果たすべしと記しています。

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袋小路に陥ったミャンマー情勢―アジア太平洋地域の地政学的拠点を巡る動き

2021年2月1日。

昨年11月の総選挙の結果を受けて、国民議会が開会されるはずだったその日に、ミャンマー国軍総司令官ミン・アウン・フライン氏のリーダーシップの下、クーデターが実行され、アウン・サン・スー・チー女史を含むNLDの幹部および議員たちが連行・軟禁されました。

その瞬間、10年間続いたミャンマーの民主化運動にピリオドが打たれました。

そのクーデターからもうすぐ1か月が経とうとしていますが、国民の怒りが収まらず各地で大規模なデモとゼネストが起き、それに対して国軍が暴力で応じることで、ミャンマー国内はまさに混乱しており、情勢の鎮静化の見込みが立っていません。

ミャンマー国内で「ブッダの子」と崇められる僧侶たちまでデモに参加する事態で、国軍、そしてフライン総司令官の手詰まり感ばかりが目立っています。

クーデターを決意し、実行の引き金を引く瞬間、フライン総司令官は何を期待したのでしょうか?民衆による国軍への支持でしょうか?それとも中国をはじめとする周辺国、特に強権国家からの同調とサポートでしょうか?

もしそうなら、残念ながら、国軍とフライン総司令官は、望んでいたほどのサポートは得られていません。

クーデター当初、私も書きましたが、中国が今回の黒幕ではないかと見ていました。

【関連】習近平のスーチー潰しか。中国がチラつくミャンマー軍事クーデター

フライン総司令官が中国を何度も訪れて、中国共産党幹部との親交を深めていたことや、クーデター直前に王毅外相がネピドーを訪問し、フライン総司令官とも会談していたことで、「中国に事前にお墨付きとサポートの約束をもらったのではないか」と考えました。

実際のところは分かりませんが、中国政府の一貫した姿勢は「より隣人という立場」を貫くことで、「一刻も早い沈静化を望む」ということと、「ミャンマーの民主化を支持する」というコメントに終始しています。

実際のところは、習近平政権が進める一帯一路政策の要となる位置付けにあるミャンマーが、“再度”親欧米に傾くことを避けたいとの思惑があったのではないかと推察します。

中国にとっては、国境を接する隣国であり、タイをはじめとする東南アジア諸国にも接し、さらには地域における覇権を争うインドの喉元に突きつけるナイフのような役割が期待できるのがミャンマーです。

民主化が進む以前から国軍とは近しい関係にあり、またロヒンギャ問題を巡って欧米諸国が対ミャンマー支援を控える中、一気呵成に勢力と影響力拡大したのが中国です。

ゆえに、今回、クーデターの餌食になったアウン・サン・スー・チー女史もNLDも中国とは近しい関係にあり、ミャンマーの近代化における中国の役割は認識していました。

しかし、そのNLDが中国の影響力拡大を懸念して欧米に接近し始めたと感じ、制御不能と感じた中国が、国軍を支援してNLD排除に乗り出したという噂が流れ(私も聞きました)、中国黒幕説が、米中対立や中国包囲網と相まって、囁かれだしたことに危機感を感じ、ここ2週間ほどは国軍と距離を置き、突き放す方針に変わっているように思われます。

クーデターから1か月ほどが経つ現在、中国はミャンマー問題にあまり関わろうとしておらず、結果として、フライン総司令官ははしごを外された感が強いように思われます。

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対応に苦慮するバイデン政権

では、周辺国ASEAN諸国はどうでしょうか?ASEAN諸国については、以前にもお話しした通り、相互内政不干渉の方針を各国とも堅持し、良くも悪くも、ミャンマー情勢とは距離を取っています。

例えば、フライン総司令官から支援を要請されたタイのプラユット首相は、即座に支援要請を拒否しています。表向きは内政不干渉ですが、実際には、「緊急事態宣言下で権力の座に付く自身の正統性への国内での激しい非難の火に油を注ぐようなイメージは避けたい」との判断があったようです。

フィリピンも、インドネシアも突き放す発言をしているのは、形式上、どちらの大統領も民主的な選挙で選ばれていますが、その統治手法は強権的とも言え、国際社会からの非難の矛先が自らに向くのを、同じく、嫌ったのではないかと思われます。

そして、マレーシアに至っては、ミャンマーから非難してきた1,100人ほどの“難民”を22日にミャンマーに「不法移民」として強制送還しました。UNHCRやHuman Rights Watchなどから非難され、最高裁が引き渡しを止める決定をしましたが、時すでに遅しでした。これもミャンマー情勢と距離を置きたいとの思惑があったのではないかと見ています。

では、欧米諸国はどうでしょうか?欧州については、先述の通り、口は出しても実質的な制裁は発動しないことから、ここでは言及しません。

アメリカについては、対応に苦慮している様子が窺えます。人権尊重という原理原則を掲げるバイデン政権としては、国軍によるクーデターとスー・チー女史らの軟禁は看過できないものであるため経済制裁を課していますが、あまり効果を発揮できるものではないと思われます。

国軍の幹部とその資産を制裁対象にしていますが、制裁の度合いも段階的に、様子を見つつ上げるというレベルのもので、正直、中途半端に思われます。

そのような状況を生んでいるのが、ミャンマーというアジア太平洋地域における影響力拡大のための戦略拠点が、プレッシャーをかけすぎることで(ロヒンギャ問題の際のように)、ミャンマーが一気に中国に傾倒し、ミャンマーがRed Teamの仲間入りをする状況を何としても避けたいと考えているということです。

冷戦時代の対ソ戦術と全く同じロジックに思えますが、結果、アメリカによる対ミャンマー制裁も中途半端に終わっており、フライン総司令官への決定的な圧力にはなっていません。

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皆にとって期待外れだったスーチー政権

ところで、ここで批判を覚悟で問いを立ててみたいと思います。

【本当に国軍による軍政は悪なのでしょうか?】

この問いの起こりは、軍政を終焉させ、ミャンマーの民主化を進めるきっかけになった2010年11月以降のティン・セイン政権の功績です。

ティン・セイン大統領は、それまで軍政首相として権力の座についていましたが、民主化とは名ばかりの軍政の看板の架け替えと揶揄されたのとは反対に、その後のミャンマーの民主化を一気に進める基礎を築く大改革を断行しました。政治犯の大量釈放による融和の進行、少数民族との対話、そしてスー・チー女史を政治の表舞台に引っ張り出しました。

結果はどうだったでしょうか?

5年の統治の後、スー・チー女史の揺るぎない民主化への道を切り開きましたが、何よりもミャンマーを世界最後の成長フロンティアに成長させ、優秀な国軍スタッフを閣僚に布陣して、日本も投資した工業団地の建設や投資環境の整備として管理変動相場制を導入して、外貨獲得の素地を作り、経済の透明性を確保しました。

スー・チー女史のNLDに政権を譲り渡すことになってしまいますが、その後の5年間、NLD政権は、ティン・セイン政権の成し遂げた内容に比べると、期待外れであったとも言えるかもしれません。

とは言え、その“期待外れ”とは、誰から見た視点でしょうか?ミャンマーを支援した日本や欧米諸国でしょうか?それともミャンマー国民にとってでしょうか?

恐らくそれら皆にとって期待外れだったのではないかと私は考えます。

国民にとっては、憲法的な制約を付されたという状況はありますが、国軍の影響力を削ぐことが出来ず(恐らく気を使い過ぎた)、ロヒンギャ問題の際にも、対応が不十分になってしまいました。

これは、ティン・セイン政権と違い、政策立案と実施のプロ集団の欠如または不足が理由として挙げられるのではないかと思います。

そして、昨年11月の総選挙でやっと国軍の勢いを削ぎ、2月の国民議会を皮切りに憲法改正を!と意気込んでいた矢先、クーデターでその可能性を摘まれてしまいました。

しかし、今回のクーデターについては、どれだけ贔屓目に見ても、非常にまずかったと思われます。また、ここ1か月ほどの、デモへの対応も、暴力を盾に反対勢力を抑え込もうという、前時代的な対応になっており、フライン総司令官以下、国軍内での混乱が見て取れます。

ただ、批判はよいのですが、かといって「ならばどうする?」のでしょうか。

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日本に期待される役割

日米欧や国連のように、フライン総司令官と国軍を非難する各国は、ミャンマーの未来に責任を持てるのでしょうか?

恐らくできないでしょう。これまでのように経済的な利益を追求し、投資先としてのミャンマーという位置付けは作り直せるとは思いますが、国づくりは手に負えないでしょう。

では“良き隣人”中国はどうでしょうか?

ミャンマーの戦略的かつ地政学的な位置付けに鑑みて、影響力拡大には関心はあると思いますが、果たして、国際社会と周辺のアジア諸国からの批判を覚悟してまで、ミャンマーを支配する気はないでしょう。

習近平政権にとっては、今はミャンマーに手を出して戦端を開くよりは、One China(大中華帝国の復活)のための台湾対応がPriority Number Oneとなるでしょうから、現時点では手は出せません。

では、ASEAN諸国のように、内政不干渉の原則を盾に、ミャンマー政府と距離を置き、その後の展開を様子見するというのはどうでしょうか?

この場合、“だれか”が何らかのアクションを起こすことを待ち、その行方を見ながら対処するというreactiveな対応が良いのでしょうか?

それとも、「ミャンマーの将来は、ミャンマー人の手に委ねるべき」という外交的な美辞麗句に終始して、結局、見放すのが筋なのでしょうか?

この答えはとても出せそうにないですが、国軍側も、暴力以外の手詰まりで、国民側もデモやゼネスト以外の手がなく、ズルズルとスー・チー女史の軟禁が長引く中、コロナとは関係のないところで、動きが完全に止まってしまう状況は、決して望ましいとは言えないでしょう。

ビルマの竪琴ではありませんが、日本政府も企業も、ミャンマーには親近感があるはずですし、同じアジアの国ですので、ぜひ実を伴ったサポートをしつつ、フライン総司令官とスー・チー女史の話し合いを仲介・調停する役割を果たしてほしいと切に願います。

皆さんはどうお考えになるでしょうか?またご意見、ぜひお聞かせください。

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image by: Robert Bociaga Olk Bon / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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