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無反省の愚かしさ。三浦瑠麗氏ら「原発ヨイショ」討論会への強烈な違和感

東日本大震災発生から丸10年、この地震大国・日本で「原子力発電所」を稼働し続けていくことの難しさは、多くの日本国民でが感じていることではないでしょうか。しかし、一部の専門家たちは過去の反省点やリスク面の議論を十分にせず、「原発再稼働ありき」で話を進めようとしているのが現実です。今回のメルマガ『週刊 Life is beautiful』では、著者で「Windows 95を設計した日本人」として知られるシアトル在住の世界的エンジニア・中島聡さんが、国際政治学者の三浦瑠麗氏ら3人による討論記事から、強烈な危機感を覚えたことを紹介。さらに、菅首相が2050年までの目標を掲げる「カーボンニュートラル」の実現に向けて、原発に頼らない最新技術や自身のアイデアを提示しています。

プロフィール中島聡なかじま・さとし
ブロガー/起業家/ソフトウェア・エンジニア、工学修士(早稲田大学)/MBA(ワシントン大学)。NTT通信研究所/マイクロソフト日本法人/マイクロソフト本社勤務後、ソフトウェアベンチャーUIEvolution Inc.を米国シアトルで起業。現在は neu.Pen LLCでiPhone/iPadアプリの開発。

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● 再生可能エネルギーと原子力 「大きな壁」をどう乗り越えるか(エネルギーフォーラム)

日本がどうやって「カーボンニュートラル(排出される二酸化炭素と吸収される二酸化炭素の量が同じであること)」を実現するかに関する、興味深い議論です。

澤田哲生(東京工業大学助教)、山地憲治(地球環境産業技術研究機構副理事長・研究所長)、三浦瑠麗(国際政治学者 山猫総合研究所代表)の三氏による議論ですが、始めの二人が原子力畑の人なので、原発の再稼働や稼働年数の延長でカーボンニュートラルを実現するという方向に進めたがっている点に、私は大きな危機感を覚えます。

原子力の専門家であればあるほど、事故の反省に基づき、既存の原発の設計上の問題点や、稼働年数の延長に伴うリスクを、技術面からちゃんと語るべきなのに、それが全く出来ていないのは、とても情けないことだと思います。ポジショントークだと指摘されても当然の状況です。

リスクを背負ってまで既存の原発を動かし続けるべきなのかどうかを判断するのは国民であり、専門家や電力会社ではないのです。

高レベル放射性廃棄物処分場の問題も同じで、国民の誰もが「自分の裏には処分場を持ちたくない」と考えている現実を知りつつ、「技術的に可能」というだけの理由で推し進めるのは明らかな間違いです。

この記事を読んで、「有識者」や「専門家」を集めて意見を聞き、それに基づいてものを決めることがいかに難しいかが良く分かりました。

ちなみに、この記事で二つのことを学びました。

一つ目は、「高温ガス炉」です。高温ガス炉は、原子炉の一種ですが、冷却剤にヘリウムガスを使い、出力が「高温の熱」であり、炉心溶融事故の恐れがない点が特徴です。

1000度程度の高い熱を取り出すことが出来るので、45%以上の発電効率を得ることが出来るそうです(水を冷却剤に使う場合には30%)。さらに、この高熱を利用して水素を生成することも可能で、水素社会の実現の切り札とも見られているそうです。

万が一、何らかの理由でヘリウムガスによる冷却が出来なくなっても、炉心で発生する熱は原子炉の容器表面からの自然な放熱により除去されるため、(福島第一で起こったような)炉心溶融事故を起こさないのが最大の利点です。

「こんな素晴らしい技術があるなら、早くそっちに切り替えろよ!」と言いたくなるような話ですが、実験炉は動いているものの、実用化までにはまだ時間がかかるようです。

日本の将来のために、本当に原発が必要なのであれば、「何があろうと炉心溶融事故は起こさない原発」が必須であることは明確です。その意味では「高温ガス炉」は国民の理解を得る上で「切り札」のような存在に見えますが、この札を早く切りすぎると、(炉心溶融のリスクがある)既存の原子炉の再稼働に理解が得られなくなるというジレンマを(国や電力業界は)抱えているのだと思います。

二つ目は、「パープル水素」という言葉です。水素に色があるとは知りませんでしたが(皮肉です)、水素社会を目指している人たちの間では、再生可能エネルギーから作った水素を「グリーン水素」、化石燃料から作った水素を「グレー水素」と呼んで来たそうです。水素を使うことが環境に良いのか悪いのかを判断するには、その製造過程を知ることが大切なので、そこから生まれて来た言葉です。

そんな中で、「高温ガス炉」から出る熱を使って水素を作る研究開発をしている人たちが、「原発から作った水素も、環境に悪くない」という意味を込めて作り出したのが「パープル水素」という言葉だそうです。

私が政治家であれば、日本のエネルギー政策に関しては以下のようなビジョンを掲げます。

もっとも頭が痛いのは、すでに大量に存在する放射性廃棄物の処理問題ですが、どのみち30年や50年の単位で解決する問題とは思えないので、宇宙エレベーターを使って宇宙空間に捨てるぐらいの思い切った計画を立てるのも悪くないと思います。宇宙エレベーターを作るには、少なくとも25年の期間と、1兆円の予算かかると言われていますが、厄介な問題である放射性廃棄物の処理という名目であれば、税金を使う価値はあるし、国民の理解も得やすいと思います。

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image by: 防衛省, CC BY 4.0, ウィキメディア・コモンズ経由で

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