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日本政府、グタグタ感の正体。コロナ第4波を招いた「次善の策」は何を間違えたか?

日本のコロナ対策は、最初の感染拡大から1年以上が経過しても頼みは国民の自制だけ。自制を頼む理由の病床問題には一向にメスは入らず、ワクチンも数の少なさは明らかで、まもなく第4波を迎えようとしています。こうした状況に諦めにも似た絶望感が漂ってはいないでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では、米国在住の作家・冷泉彰彦さんが、こうなってしまった原因を探ります。冷泉さんは、ベストではない「次善の策」を選択せざるを得なかった理由を推測。本当の事情を真摯かつ丁寧に説明しない限り、政治に対する信頼回復はないと論じています。

コロナとワクチン、絶望的な「グタグタ」感の正体は?

政治や社会が「グタグタ」だとよく言われます。とにかく、問題がどこにあるのか良く分からない、政治がまともな判断をしているとはとても思えない、何か決定や判断がされても、その根拠が示されないし、そもそもその判断が信用できない…そんな感じです。

もっと直感的に言えば、どうも変だなと思っていたら、やっぱり変な判断が降りてきて、結果もダメダメだった、ということが何度も繰り返されるという感じでしょうか。その最たるものが、コロナに関する政策の迷走です。

パンデミック発生から既に丸1年が経過する中で、日本のコロナ政策は迷走している、これは間違いないと思います。ですから政治不信が拡大しているわけですが、野党に統治スキルがないので代替の選択肢もない中では、閉塞感が増すばかりです。

では、一つしかない与党にこのまま任せていいのかというと、例えば安倍政権にしても、菅政権にしてもここまで「大事なことは言わない」ということが続くと、さすがに世論としても「このままこの人たちと心中して大丈夫なのか?」という不安を隠せなくなってきます。しかしながら受け皿はない、という不信と閉塞のスパイラルが益々グルグルになっているわけです。

このままでは、ただでさえ活力が低下しており、それがコロナ禍で疲弊している日本の場合は、更に社会のエネルギーが乏しくなって行って、もう1段、あるいは2段貧しくダメな社会に陥ってしまうのではと真剣に懸念されるように思うのです。

何が問題なのでしょうか?要するに1点だと思うのです。それは「次善の策となった複雑な事情」を、政治の側でちゃんと説明するスキル、そしてメディアや世論の側で受け止めるスキルをちゃんと身に付けるということです。

まず検査と病床の問題があります。確かに疑わしい人、必要な人にはPCR検査が100%用意されるべきです。また、パンデミックが事実である以上は、コロナ病床は必要に応じて増床すべきです。ですが、こうしたことは実現していません。2月くらいからチラホラとメディアでも言われ始めていますが、病院のマネジメント、医師会の現状維持政策、保健所のキャパなどの問題で、「できない事情」があるということも分かってきました。

要するに日本の場合は、医師や看護師、臨床検査技師といった「終身雇用で国家資格の必要な専門職」は、いくらパンデミックだからといって、現行の制度では柔軟に増やしたり元に戻したりできないのです。

だったら、そう説明すればいいのに、医師会などは一方的に感染拡大を抑制しないと自分たちが困るとの一点張りですし、PCRについて増数ができない時期には、厚労省は「やります」と言いながら「やらない」といういい加減な態度を取っていました。

とにかく「終始雇用専門職の臨時増員はできません」ということを正直に言えば良いのですが、医師会も厚労省も言わないわけです。「正直に言ったら臨時増員が可能な制度変更がされて、それが既存有資格者の既得権益崩壊につながる」とでも思っているのかもしれませんが、そうした批判が出たらそれは堂々と受けて立てばいいのであって、いつまでもいい加減な態度を改めないから「グダグダ」という感じになってしまうのです。

ワクチンの確保遅れの問題も良く分かりません。勿論、日本の場合は「下手をすると噴出してしまうアンチワクチン感情のマグマ」という問題と、「絶望的なまでの治験への無理解」という問題があって、厚労省としては半世紀に渡って、この問題と悲惨なまでの「負け戦」をやってきた歴史があるわけです。

ですから、個人的には同情を禁じえない点もあるのですが、それでも、ここまで手配が遅れるという中には、色々なファクターが積み重なった結果「次善の策」としてどうしようもない現実として「こうなった」のでしょう。そのファクターをしっかり公開しないから「グダグダ」という印象が広がるわけです。

例えば、河野ワクチン担当相の任命という問題があるわけです。どうして厚労省は、自分の権益を侵害されかねないにも関わらず、河野大臣の就任を許したのか、そもそも「何か裏がある」と疑ってかかればキリがないわけですが、この点も含めて、国としてどんなワクチン政策を決定し、実行しようとしているのか、まったく説明がありません。

漠然とした印象論としては、「欧米で接種が進んで、リアルな超大規模治験が進んだ後の方が、日本でのワクチン恐怖症蔓延を防げるので、ワザと遅らせた」。「日本発のワクチンがあまり早期に有望視されてしまうと、日本での大規模治験をせざるを得ないことで、アンチ治験との面倒なトラブルになるので、日本勢には積極的な後押しをしなかった」。「その一方で、あまり早期から欧米のワクチンの買い付けに走ると、欧米の製薬会社と癒着しているとかナントカといったイチャモンが来るので、こちらもスタートを遅らせるしかなった」というような印象もあります。

その一方で、「接種は医師、事前問診や経過観察は看護師、といった日本独自の超厳格な縛りを緩めることはできないので、どうせ接種体制は遅れる。ならば、早期に発注して、早期に来てしまうと大量の超低温冷蔵が必要だったり、それ以前の話として、ワクチン来たのにどうして打てないといった批判が来るので、手配を急がなかった」という可能性もあります。

こうした辛口の印象というのは、もしかしたら間違っているかもしれず、もっともっと基本的なところで、絶望的にできない理由があるのかもしれません。

仮にそうであるにしても、PCR検査についても、病床確保についても、そしてワクチンの確保についても、現状がベストとはとても言えません。様々な事情でこのような「次善の策」を選択しているのです。統治というのは、そこでウソをついたり、ダンマリを決め込むことではありません。有権者の、世論の納得するような説明を果たすこと、どんなに複雑でも「この判断に至った理由」を丁寧に率直に説明する、政府への信頼回復というのは、そこから始まると思います。

image by:StreetVJ / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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