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無視された少女の心。母との同居を拒む娘に裁判所が出した無情な勧告

「こども庁」の設立は、気持ちを蔑ろにされている子供たちを救うことに繋がるのでしょうか。今回のメルマガ『伝説の探偵』では著者で現役探偵の阿部泰尚(あべ・ひろたか)さんが、両親が離婚した際、父との同居を望む自身の希望が受け入れられず、強い憤りを抱える少女のエピソードを紹介。記事中に阿部さんは、子供の気持ちや言葉を丁寧に聞き取ろうとしない司法への違和感を記すとともに、「大人社会は子供たちに責任を果たしていると言えるのか」という疑問を投げかけています。

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テーマ:いじめ問題の現状と記事では書けないより深い内情、Q&A
日時:2021/4/28(水)19:00~

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父と暮らしたい。母親との同居を拒んだ父子家庭の子の願い

現在、小学生高学年のAさんは、父親と暮らしている。いわゆるひとり親家庭で暮らしているのだが、裁判所は母親と暮らすようにという審判を下している。しかし、Aさんは父親と暮らしたいと母親の住む家に行くのを拒んでいるのだ。

私はこの家庭に一体何があったのかをAさんを中心に話を聞いた。

Aさんが父親と暮らす理由

一緒に暮らすAさんの父親によれば、今思えば2013年から2015年ごろからAさんの母は離婚計画を立てて動いていたのではないかと確信できることが多数あったそうだ。

2013年には一度連れ去りがあり、母子は友人宅に居候をしたそうだが、一旦子を連れて戻ったかと思ったら子だけを残して外泊を繰り返すなどして友人宅からも追い出され、やむなく帰宅したそうだ。

2015年には、本格的に家出をして、養育費を請求しに来たとのことであった。しかし、連れ去られたAさんと面会したところで、父親はAさんから「助けてほしい」と言われた。そこで、「パパと暮らしたいのか?」と聞くと「うん」と強く答え、母親の元に帰るのを強く拒絶したため、そのまま父親の元で暮らすことになったのだ。

この当時は、まだ離婚手続きはしていないため、母親とは時々会う程度でいわゆる別居状態となった。ただ、その後の審判では母親と暮らすようにという決定が出ているが、父子はこれを無視した。その結果、審判から2年経ったある日、強制執行が行われることになった。

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突然の強制執行

地裁執行部の執行官、ドアの開錠技術者、相手方弁護士を含めたおよそ7、8人の一団が予告無く夜にAさんと父親が住むマンションに現れ、粛々と執行を行おうとしたが、「わたしをまきこまないで」と泣きながら訴えるAさんの怯える様子から、同行した児童心理の専門家がAさんと2人で聞き取りを行った。一方執行官らは父親と協議をしたのだ。

執行官らはAさんが自らの強い意志で父親と一緒に暮らすことを望んでいることを確認し、執行不能であるとした。

こうした決定は私が知る限り極めて稀だと思われる。一般に若年層の女子児童については、方程式のように母親に親権や監護権が渡る。また、強制執行までいって、この執行が不能だと結論付けられるケースはあまり聞いたことが無い。

しかし、まだ話は続く。

父親 「執行以後、娘の様子は落ち着きませんでした。私も精神的にきつい状況でしたから元裁判官だという弁護士さんに相談に行ったのです。すると、地裁に執行不能に関する調書があるはずだから見てきたらよい、そこに裁判所がどう考えているかが記されているはずとアドバイスされました。こうしたケースは稀で、今更、妻側に監護権を渡せと言い出すのはちょっと考えられないと教えてもらい、離婚手続きをした方がいいと言われました」

父親が書類を確認すると、もう執行はしないのだということがわかる文面があったそうだ。そこで、今後将来に渡ってこうしたことが起きないようにと思って離婚手続きに入ったそうだ。

しかし、離婚の手続きは裁判、調停、審判と泥沼状態になっていった。

Aさんは裁判官に手紙を書いて、自分は父親と暮らしたいと主張しようとしたが、手紙すら見てもらえなかったそうだ。

出た結果は、親権は父親、監護権は母親で和解しなさいというものであった。もしも、抵抗するようであれば、父親から親権も取り上げると言われたのだと父親は話してくれた。

父親 「ぎりぎりの決断です。親権があっても一緒には暮らせない、今までの経緯から、面会交渉をする事すら適当な理由をつけられて反故されるだろうと思いました。それでも、全て取り上げられてしまうよりかはマシかと思ったのです」

その実、父親と一緒に暮らしている間、父親は母親の悪口を一切言わなかったし、面会交渉も母親への家にお泊りすることも全て約束通りにしていた。

Aさん 「お母さんは嫌いじゃないです。でも一緒に暮らすのは嫌です」

「なぜ一緒に暮らすのは嫌なの?」と質問すると、その第一声は「怖い」と言い、俯いてしまった。そこで、「そういう気持ちはお母さんには伝えたの?」と問うと、「うん」と答えた。

誘導的にならないように聞き取ると、母親と居る時は常に不安なんだそうだ。この人といるとお父さんのところに帰れなくなってしまうかもしれないし、自由に行き来が許されている父親の元の自由を壊されたくないという心理が強くあると感じた。

裁判所での和解に基づき、Aさんは2020年3月末に母親の家で暮らすことになったが、Aさんはこの時の気持ちを私にこう言った。

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逃げちゃおうと思った

Aさん 「行くのが嫌、逃げちゃおうと思った」

Aさんは自分の気持ちを母親に伝えている。どこで暮らせというのは裁判所の人が勝手決めた事で、Aさんの気持ちは無視された。

だから、Aさんは自ら行動を起こすことにしたのだ。

同時に和解で取り決められてことは、母親によって一方的に反故にされていた。

母親の家で暮らし始めてわずか2日後、Aさんは家出をした。向かった先は父親の住むマンションであった。

職場でこの連絡を受けた父親は驚いたが、すぐに仕事を切り上げ、同時に警察に事情を説明して自宅へ来てもらうことにしたのだ。

警察は現場検証を済ませ、Aさんから状況を聞き取り、事件性はないと判断してその場を去ったそうだ。しかし、家出に気が付いた母親はAさんら当事者に連絡することをせずに、警察に未成年者略取、つまり誘拐に違いないのだと主張したそうだ。

父親 「その日の晩、必ず何かしてくるであろうという予感もあったし、娘の精神的負担が大きいと思えたので、外に出て遊ばせましたが、警察からバンバン電話がかかってきたりしました。娘は過去の強制執行から、若干トラウマになっているので、電話で事情を警察に確認して事件性はないということは一致していたので、再度の事情聴取は拒絶して、その日はホテルに泊まりました」

この話を聞いたのはそれから6日経っているが、以降の問い合わせは来ていないということであった。あるとすれば、母親側の弁護士が辞任したということだけだそうだ。

しかし、和解の条件としては、監護権(簡単に言えば一緒に暮らすということ)は母親にある状態は変わりがない。和解を基準に考えれば、これを反故状態にしているのは、父親側ということになる。いずれ、何らかの法的手続きで、再び強制執行という事態も予想できる。

もしも、また執行という形など様々な手続きでAさんが母親側に行くようにされた場合、どうしますか?と質問してみた。

Aさん 「これが結果です。どんな事をしても、私はお父さんのところに帰ります」

― 裁判所の人とかお母さんや弁護士さんに言いたいことはある?

Aさん 「勘違いしないでください。勝手に決めないでください」

先日、自民党は「チルドレンファースト」の実現のために「こども庁」の創設を実現すると発表した。分断された省庁間の統一や子ども関係予算は今のところ少ないものだが、ここに8兆円の予算規模にして対応するという。

2021年3月16日「Children Firstの子ども行政のあり方勉強会事務局作成」の書面にはこうある。

子どもを「権利の主体」と位置づけ、縦割り行政・多重行政をなくし、制度分断による子どもの育ちの差異をなくす。

子どもを権利の主体とする場合、Aさんの気持ちやその行動はどう評価されるのだろうか。

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編集後記

本件はレアケースと言える事案です。

私の本業は探偵ですから、普通の職業よりかは数多くの離婚を見てきています。そのほぼ全ての割合で、子は母の方で暮らします。その中で、一人親世帯で様々な苦労があっても、親子で乗り切り、子どもが成長する様子もよく報告をもらいます。

ですから母子のつながりの深さやそれぞれの愛情の深さを目の当たりにしていますので、Aさんのケースのように、「嫌いじゃないけど、一緒に住むのは無理」という言葉は、すごく重たい言葉だと思いました。

中には夫による暴力(DV)などでPTSDとなっている子どももいます。

ですから、私は共同親権や面会交渉といったところの制度化については慎重に考える必要があると思っています。それは、DV被害を調査し、その実態を知り、この被害が深刻であることを知っていると同時に、単に妻側のコントロールで子どもと会うこともできず苦悩する父親の姿も見ているからです。

ですから、最後の砦とも言える司法が、どうしてAさんの気持ちや言葉を丁寧に聞き取らないのだろうと思いました。もしも、きちんと聞き取っていれば、Aさんが母親のところから家出をしてきて、父親に保護を求めるという事態は発生していません。

子どもの権利条約の考えの中に、「子どものアドボカシー(直訳すると代弁や擁護)」という考え方や行動指標があります。つまり、子どもの声をよく聴くということです。私たち大人社会は、これができているでしょうか。

Aさんは、もしもまた母親のところに行かされても、必ず家出をして父親のところに戻ると言います。Aさんが穏やかに暮らせるようになることを願います。

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image by: Shutterstock.com

阿部泰尚この著者の記事一覧

社会問題を探偵調査を活用して実態解明し、解決する活動を毎月報告。社会問題についての基本的知識やあまり公開されていないデータも公開する。2015まぐまぐ大賞受賞「ギリギリ探偵白書」を発行するT.I.U.総合探偵社代表の阿部泰尚が、いじめ、虐待、非行、違法ビジネス、詐欺、パワハラなどの隠蔽を暴き、実態をレポートする。また、実際に行った解決法やここだけの話をコッソリ公開。
まぐまぐよりメルマガ(有料)を発行するにあたり、その1部を本誌でレポートする社会貢献活動に利用する社会貢献型メルマガ。

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