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無礼千万。日米首脳会談の質疑応答で露見した米国マスコミの本性

バイデン大統領が初めて海外首脳を自国へ招く形で実現した、日米首脳会談。メディア各社によりさまざまな分析や評論がなされていますが、識者はどのように見たのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国に軸足を置き両国を取り巻く問題を注視してきた冷泉彰彦さんが、会談後に行われた共同会見を18項目に分け整理し、各々について解説。その上で、今回の会談における問題点の指摘を試みています。

菅=バイデンの「対面首脳会談」をどう評価するか?

4月16日(金)に行われた菅義偉総理とジョー・バイデン大統領の第1回首脳会談については、色々な論評が出ています。現時点での評価をするのであれば、

「台湾海峡を中心とした中国とのパワーバランスについては現状維持の意思を明確に示し、中国もそれを冷静に認識したと思われる」

「『環境、国際分業、コロナ』の3大実務協議については予想通り行われてお互いに相手の立場が理解できた」

ということで、この種の首脳会談としては、珍しく想定通りのコミュニケーションが実現したと思います。

内容的には多岐にわたりますので、主として共同会見について箇条書きで整理しておこうと思います。

1)当初は、共同会見は4:15からと発表されていた。4:16までサキ報道官の定例会見があり、すぐに共同会見が始まるのでということで、報道官は慌ただしく会見を打ち切った。だが、結局、実際に首脳がローズガーデンに登場したのは5:05。つまり50分ほど予定より長くかかったということになる。

2)バイデンのステートメントは、例によってプロの仕事。「感染対策はした、対面はいい」から始まった。菅総理については「ヨシ」と呼ぶこと数度。これは自然。「21世紀の世界でも民主主義は競争力がある」という文言は、キレイだが、どこか受け身の印象。中国やトランプ現象を前提に含んだ表現にしても、もう少し押しの強い表現はできないものか。

3)パンデミックについては、ここでは美しい建前論。ワクチン・パートナーシップを加速、長期的な医療面での安全保障、WHOとの協調で次のパンデミックを防止…ということで、日米協業するという美辞麗句で「ワクチン供給」を約したことを示唆。

4)イノベーションを日米で。民主主義という共通規範がある。5G、サプライチェーン、クワンタム・コンピューティング、AI…これも美辞麗句だが、そのほとんどが「日本に残存する技術」をアメリカが吸い上げるだけの話に聞こえる。もっとも、日本側に投資余力がない以上は、そうするしかないわけだが。

5)環境面では、グラスゴー・サミットで取り上げる。2050ゼロに日本はコミットということで、この問題では、小型原子炉構想、水素構想、トリチウム処理水なども話合われたに違いないが、発表はなし。

6)日米の人の交流については、3.11の10周年ということで、バイデンは「自分は直後に行った」「日米のジョイントでの努力を名誉に思う」という震災に関する話題があり、加えて、マンスフィールド・プログラムの再開についても言及。また松山英樹選手のマスターズ勝利への祝意。ここは、こんなものという印象もある一方で、「それだけ?」という感じも。

7)一方で、菅総理のステートメントは大真面目という印象。同盟と安全保障、2+2の確認、インド太平洋についての確認、ASEANとの協力。中国の及ぼす影響について真剣に議論して、力による現状変更に反対で一致。

8)更に菅総理からは、それぞれが中国との率直な対話、普遍的価値擁護で安定へ。北朝鮮の安保理決議履行を。拉致は人権問題、即時解決。日米韓の3カ国協力を推進。とレトリックなしの直球一本の発言。但し、日米韓3カ国の協力という文言は重い。

9)そして、日米同盟の抑止力、防衛力強化の宣言、安保の尖閣適用コミットについて合意と明言。また、普天間固定化避けるための、辺野古推進ということも強調。

10)コロナ、気候変動への危機へおいても、日米は欠かすことのないパートナー。多国間の取り組みへの責任。多国間主義と法の支配。

11)共同声明では「グローバル・パートナーシップ」で一致。つまり、日米コア・パートナーシップ(デジタルと競争力のイノべーション、コロナ、気候変動)ということ。具体的には、デジタル分野の様々な開発について日米協力、コロナについては短期から長期の重層的な協力。

12)特にワクチン協力については「途上国への公平なワクチン提供を日米で」という言い方で、日本へのワクチン提供で合意というニュアンスか。

13)気候変動については、気候サミット(来週)、日米で世界の脱炭素をリードする日米気候パートナーシップを宣言。

14)アジア系への差別、暴力について議論がされたというのは、良い意味でのサプライズ。人種など差別を行うことは断固として反対だというバイデン発言を菅総理は歓迎、その上で、米国の民主主義を評価という総理発言。この部分は、共同声明には入っていないが、もっと評価されていい。

15)東京五輪実施の決意とバイデンの支持、これは外交辞令か。自由、民主主義、法の支配、これを共有価値、自由で開かれたインド太平洋の実現ということで、当初予定されたアジェンダについてはカバーしているという印象。

16)続いて質疑応答、トップはAPだったが、銃規制の優先順位とインフラ整備案の話だけで、日米関係には触れず。失礼千万。ロイターもイラン問題についてのみ。アメリカのメディアは、とにかく日米関係など関心はない様子。

17)一方で、日本側もなぜかトップバッターは産経。で、その産経は台湾について、台湾環境について、新疆問題での制裁しないのは何故といった具合で、まるで官邸と示し合わせたような挑発的な質問。これに対して菅総理は「台湾も新疆の問題も話し合ったし、日本の立場を説明した」と無難な回答。

18)続いて共同通信からは、五輪にアメリカは選手団出すのか?ワクチン供給は?というなかなか鋭い質問。これに対しては、総理からは「バイデンは五輪支持、協力継続」そして「気候変動やコロナは官民協力、パートナーシップ」ということで、無難に逃げられた。バイデンの回答を引き出すこともできずに終了。

ということで、懸案事項については全てカバーしているものの、全体としては様々な問題があるわけです。とりあえず、私の観点からは、次のように総括できると考えています。

a)対中国については、徹底的な現状維持宣言であり、その意味では冒険主義や挑発色は皆無であり、これを菅総理が呑んだこと、バイデンが呑んだことについては政治的な成果としていいのではないかと思います。

b)アジア系へのヘイトクライム問題については、私は、Newsweekで「首脳会談で取り上げよ」という提言をしたわけです。

日本政府はアジア系へのヘイトの連鎖を断ち切る外交を

これを官邸が参考にしたのかは分かりませんが、とにかく、従来の政権とは一味違うという印象を持ちました。これは良かったと思います。何よりも、中国などへの日米からのメッセージとして評価できます。

c)技術協力については、とにかく「日本は持ち出し」で終わることを危惧しています。

d)もう一つ気になるのは軍拡を約束したことです。究極の公共工事ですから、財界は歓迎するかもしれませんが、やればやるほど技術はアメリカに流れ、中国との競争は激化して、最後には財政が苦しくなるのは日本側となります。追求すればするほど不利なわけですから、中長期の国益を考えた自制を強く求めたいと思います。

e)ワクチン供給に関しては、J&Jが血栓問題で接種停止になっており、余剰が出ない危険を感じていましたが、ファイザー供給の道が開けたようです。この動きですが、高齢者への接種がヤマを越えた後で、米国内での接種が供給過剰になりつつあり、そのために日本へ回すことができそうです。つまり、トランプ派などが嫌がって接種を受けない分が回るという気配があるわけで、仮にそうなれば何とも妙な展開になります。

f)エネルギー政策に関しては、小型原子炉、水素、トリチウム水に関しても協議されたと思いますが、詳細は薮の中で、これは大変に困ります。議論された内容の公開を求めたいと思います。

g)双方が、厳重にマスクをしての会談ということですが、バイデン大統領と、菅総理はどちらもファイザーを2回接種しています。ということは、接種完了者同士ということですから、CDC(アメリカ疾病センター)の基準によれば、会食はOKのはずです。にもかかわらず、あのような厳戒態勢となったのは、双方が高齢だったので警戒した、国境を越えた場合のルールがある、お互いの世論向けに炎上しないようにマスクした、などの理由があると思います。但し、日本の代表団に「非接種者がいた」ので厳戒態勢になったのなら、日本側が間抜けとしか言えませんが、日本の代表団が全員接種していたのであれば、少しだけですが引っ掛かりを感じます。

詳しい分析はまた改めてお届けしたいと思います。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

image by: 首相官邸

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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