子の人生を支配する「毒親」。肉体的な苦痛を与え支配する親はある程度自覚的ですが、精神的に支配する親の場合は無自覚で、周囲も子ども自身も気づかないというケースが多くあるようです。今回のメルマガ『子どもを伸ばす 親力アップの家庭教育』では、母親の考えを押し付けられていたという子の側からの相談を紹介。母親の問題点を2つ指摘し、本当の意味で「共感すること」とはどういうことかを解説、さらには、江戸時代から伝わる「待つこと」の大切さを伝えています。
意思疎通の難しさ「今思えば母は毒親だった」
1.Aさんからの相談
「今思えば、私の母は毒親だったと思います。だから私は自分を嫌いだし、もちろん母も好きではありません。母から認められたことも無い気がします。認めたと思わせていて、実際は認めていないんです。聞いてもらいたくて話したことも、結局は、助言と称する母からの解決策の押しつけで終わりました。ただ、聞いて欲しかっただけなのに」とAさんは言います。
私はその母親を知っていました。アクティブな女性で、バリバリと好きな仕事をしながらAさんとその弟を育てていました。いつもバイタリティあふれ、笑顔の似合うさわやかな印象の母親でした。「よく出来たAを持って私は幸せ!」そんな言葉をよく聞きました。学校ではPTAの役員をやり、地域では子供会の会長も務めるという母親の鏡のような女性でした。
彼女は、まさかAさんがそんな思いをするようになるとは全く想像していないでしょう。端から見たらとても上手くいっている家族です。
2.問題は2つ
一つは、共感できていなかったこと。母親の思いがAさんに伝わらず、Aさんが母親に圧倒され、尚且つ母親の価値観に同意せざるを得ない状況で、何も言えなかったことです。母親は、自分の価値観を押しつけるものではない、とよくわかっていました。そしてAさんを自分の価値観へ誘導することも良くない、とわかっていました。また、高みからものを言わないことが大切だということも分かっていたと思います。では何がいけなかったのか…。
子供に寄り添う、気持ちに共感する、ということが出来ていなかったんです。Aさんのために子供会の会長になった、PTAの役員になった、学校行事に積極的に参加した。母親のこうした行動は、「Aさんのため」というよりも、母親自身が周囲に向けて「私はAのために頑張っている」とアピールするパフォーマンスとしてAさんに写ったのです。
そしてもう一つの問題は、「待つ」ことが出来なかったこと。母親はチャキチャキとした方で、物事を手早くてきぱきと進めることが上手で、それを良しとして行動する方です。
一方Aさんは、事前に慎重に考え、じっくりと時間を取ってから行動するタイプです。だから、母親が即答を求めるのに対し、時間を取らせまいと、母親が喜ぶ返事をしていたのでしょう。自分の気持ちを伝えるには時間が足りなかったから…。
3.共感するとは?待つとは?
共感するとは、相手の意見や感情に「そのとおり」と感じること、また「そのお気持ち、わかります」というイメージです。けれども、実際には違います。自分から相手の気持ちに共感することではありません。相手から「この人は信頼できる」とか、「この人になら全部話せる」「この人だったら分かってくれる」と感じてもらえることです。
どんなに相手の気持ちを感じ取ることができたとしても、同じ体験をしていないのですから「そのお気持ちわかります」とは言えません。相手が「悲しい」と言ったのなら、「悲しいんですね」と、相手の気持ちに寄り添い、確かめるように話を聞くことが、本来の共感です。
そして、返事を急かさないことです。特に子供を相手にしている場合は、じっくり時間を取って考えさせることが大切です。自分の気持ちはどんなだろう?自分はどうしたいんだろう?親の意向に沿わせるのでは無く、子供自身が、自分の気持ちや考えをまとめるための時間を取り、決まるまでゆっくりと「待つ」ことです。その日に返事が無くても良し、子供が自分の気持ちや思考をまとめるまでゆっくりと構えることです。
江戸時代には「待つもまた楽し」と待つ気持ち自体を楽しむ余裕があったようです。「待たされる」という被害意識ではなく「待たせてもらえて楽しみが増す」という余裕です。時代は令和へと下りましたが、先人達が行っていた人とのコミュニケーション術は、現代でも非常に大切で脈々と受け継いでいきたいものの一つです。子供に対して、是非、余裕と楽しみを持って接しましょう。
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