私たちの社会生活に欠かせない「地図」は、時代とともに媒体の形を変えて利用され続けています。昔は紙や冊子が中心だった地図も、カーナビやGoogleマップと使われ方も変化していますが、老舗の地図メーカーはどのような生き残り戦略をはかっているのでしょうか? メルマガ『理央 周 の 売れる仕組み創造ラボ 【Marketing Report】』発行人の理央周さんは今回、大手地図メーカー「ゼンリン」の新しいサブスクサービスを分析しながら、ターゲットを大企業から中小企業にシフトさせた巧妙な戦略を紹介しています。
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地図の「ゼンリン」がとった機会損失を回避する顧客・製品戦略
今号は、「なぜ、地図のゼンリンは大企業から中小企業にターゲットをシフトしたのか?~機会損失を回避する顧客・製品戦略」です。
ビジネスは弱肉強食ではなく適者生存、だとよく言われます。ビジネスにおける適者生存とは、何を指すのかについて、ゼンリンの事例から学んでいきましょう。
さて、地図大手のゼンリンが、興味深い取り組みをしています。いわゆる「地図」を制作して、卸売をする、というビジネスモデルから、さまざまな分野に拡大を試みているのです。
まず今年は、中小企業に向けて、地域の情報が分かる「らくらく販促マップ」という定額制のサービスをはじめました。いわゆるサブスクリプションサービスです。
日経新聞の記事によると、ゼンリンはもともと、紙の地図の制作販売をするビジネスが中心でした。しかし、80年代からITに力を入れ始て、地図のデータ化を進めてきたそうです。
2000年代くらいまでは、その地図データを、大企業向けのカーナビ用に提供する形で業態を転換してきました。
ネット通販が流行ってきたこともあり、大手の物流会社に向けてカスタマイズした地図なども手掛けてきたのです。
このような流れを見ていると、ゼンリンは世の中の変化にとても敏感で、かつ、市場の動きを先取りして、素早く体制を変えることを得意としています。
ところが、大企業を相手にしていると、得意先の方針が急に変わったり、市場の動きが大きく変わったりすると、急に大口の注文がなくなるので、売り上げが大きくブレたりします。
たとえば、カーナビへの地図データの卸販売でいえば、新型コロナウイルスの影響などで、新車の台数が減ったりすると、その分、大きな打撃になってしまいます。
大企業向けだけでは、このようなリスクも出てくるので、中小企業に対して何かできないのか、という発想から、今回の新サービスの提供になったそうです。
ゼンリンのホームページによると、この「ラクラク販促マップ」は、ポストなどに入れる販売促進のチラシを作りたい、というようなお店が、どのエリアにどれくらいの家があるのかが、地図の上の数字ですぐにわかります。
世帯数はこれまで、文字ではわかりましたが、地図の上に載っているとイメージもつくしわかりやすいですよね。
もちろん、個人宅だけではなく、小売店や会社なども地図上でわかるので、法人向けのビジネスの方も使えます。
そして、このアプリ上でチラシのデザインを簡単に作ることができます。これがあると、複雑なソフトウエアの知識がなくても、感覚的にぱぱっと作れそうですよね。
そして、配布エリアの地図を切り取ってプリントアウトできるので、そのまま、社員の人たちに配布するために分配したり、それをもってすぐに営業に行ったりすることができます。
このサービスを、税込み月額1100円で利用できるそうです。
ゼンリンでは、地図を作る時に、1日約1千人が全国を回り、入り組んだ路地や建物の入り口まで、目視して確認するそうです。
これによって、1つ1つの家や道に関するかなり細かい情報が、会社に溜まっていきます。
このゼンリンに長年蓄積されているデータをベースにITを使って新しいサービスに転換したわけです。
考えてみると、私の世代ですと地図は紙とか冊子、あるいは本だと思い込んでいましたが、カーナビやGoogle マップなど、地図がデータで提供されるようになってからかなり経ちますよね。
自社の強み、製品やサービスの形を、少し変更すれば、お客様の種類を変えることで、さらなる売り伸ばしができる、ということです。
例えば、飲食店さんでいえば、通常のランチのメニューを弁当ボックスに入れて販売できれば、自宅で働いている人たちや介護が必要な方への宅配にできる、といった具合です。
ゼンリンの事例から、自社の強みを活かして、お客様の問題を解決する、というマーケティングの原点を思い出すことができました。
image by: Keramahani, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons