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年金受給者が長年「行方不明」の場合、遺族年金は受け取れるのか?

高齢化とともに、日本国内で「行方不明者」が増えているそうです。もし年金受給者が行方不明になってしまった場合、年金を止めたり、死亡とみなして遺族年金を請求するにはどのような手続きを踏めばよいのでしょうか。まぐまぐ大賞2020受賞メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、事例を交えて詳しく解説しています。 

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高齢化と共に急増する行方不明事案! 行方不明者の年金を止め、死亡とみなして遺族年金を請求するには?

主に厚生年金加入中の人が亡くなったり、25年以上の年金記録を持ち、かつ、1ヶ月以上の厚生年金期間がある人が亡くなった時に、生計を維持してる遺族が居ると余程の事が無い限り遺族厚生年金が請求できます。

また、本人死亡時に18歳年度末未満の子が居ると国民年金から遺族基礎年金が支給されたりします。

生計維持というのは本人死亡時に、遺族年金を請求する遺族の前年の収入が850万円未満で、原則として同居してた(生計を同じくしているという。生計同一)場合を生計維持といいます。

なお、死亡者と必ずしも同居してないといけないのではなく、別居してる正当な理由があるとか、何か死亡者から生活費や療養費を支払ってもらってたとか、死亡者と定期的に音信や訪問が行われてたりすればそれも生計を同じくしていたとします。

別居状態だったのであれば、別居の状況を知るためにその申し立てを専用の書類に書いてもらう必要があります。
その上で死亡者と生計維持関係があったかな~?と日本年金機構側が考える。

前年の収入が850万円未満で、生計同一があるなら生計維持関係があったという事になり、遺族へ遺族年金が支払われる事になります。

年金は死亡日の翌月分から発生するので、請求が遅れても死亡日に遡って支払われます。
死亡日は変わらないからですね。

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さて、本人が死亡した時はその死亡日を基準として、その時に生計維持されていた遺族を調べたり、死亡日までの保険料納付記録を調べたりすればいいです。

しかし、死亡してるのか何なのかわかんない状況というのがあります。

それは行方不明になった時です。

行方不明なんて日本ではそんな無いでしょ(笑)と思われるかもしれませんが、毎年8万人は新規で行方不明になっています。

よく認知症の方の徘徊とかもありますし、高齢化率も非常に高い国なのでそう考えると行方不明というのは割と身近な問題なのかもしれません。

行方不明になって、全く連絡も付かないどこにいるのかも全く分からないからといって、もう遺族年金を請求したいという事はできるのかというと基本的にはできません。

ただし、見つけるまで遺族年金を請求できないとなるとそれはそれで困るので、一定の期間を過ぎると遺族年金の請求ができる事になっています。

それは行方不明になってから7年が経つと、裁判所で失踪宣告を申し立てる事が出来ます。

そして失踪宣告が確定すると、行方不明から7年経った日が死亡したとみなされる日となります。

どこにおるかわからんけども、もう7年経った日に死んだものとするという事ですね。

例えば平成26年9月1日から行方不明になったなら、その7年後の令和3年8月31日を裁判所で死亡したとみなしてもらって、令和3年8月31日を死亡日として令和3年9月分から遺族年金が支払われる事になります。

ちなみに船や飛行機の事故から3ヶ月経っても生死がわからない、もしくは3ヶ月以内に死亡したのは間違いないけどいつ死亡したかわからない場合は事故日に死亡したものと「推定する」事になっています。

あの東日本大震災の時もその3ヶ月が適用されて、平成23年3月11日に死亡したものと推定するという事になってます。

「推定する」というのは、おそらく死亡したのだろうと推測するものであり、もし生存していた場合は過去に支払われた遺族年金は返還してもらう事になります。

7年経った場合の死亡したものとみなすというのは、法律で死亡した事にするので(死亡と決める)、もし生きてたとしても見つかるまで貰って来た遺族年金は返す必要は無いという違いがあります。

ところがここで考えてもらいたいのですが、遺族年金って死亡日に生計維持されていたかという事を見ますよね。
他に死亡日以前の保険料納付記録を確認したり。

でもずっと行方不明だったのに、行方不明から7年経った日に同居してたか、保険料を3分の2以上満たしてたかというのを確認するのは合理的な事ではないので、このような事は行方不明になった日の状況で見ます。

やや時間的なズレがあるので、その辺を注意しながら考えていきましょう。

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1.昭和13年3月27日生まれの男性(今は83歳)

・(令和3年版)何年生まれ→何歳かを瞬時に判断する方法!

・絶対マスターしておきたい年金加入月数の数え方。

20歳になる昭和33年3月時点はまだ国民年金制度が無かったから、何も年金には加入してなかった。

昭和35年4月から昭和55年7月までの244ヶ月間民間企業で厚生年金に加入する。
この間の平均標準報酬月額は38万円とする。

(昭和36年4月以降は国民年金同時加入とみなす期間)

退職して昭和55年8月からは国民年金加入となるが、昭和61年3月までの制度ではすでに厚生年金期間20年以上(240ヶ月)ある人の場合は国民年金には加入する必要は無かった(任意加入はできた)。

この男性は国民年金には加入しなかったので、カラ期間となった。

カラ期間は昭和55年8月から昭和61年3月までの68ヶ月。

20年以上の厚年期間があれば厚年を将来貰う事が確定してるので、昭和61年3月以前の旧年金時代は国民年金に強制加入にしなかった。

ちなみにこの68ヶ月の期間中に20歳以上60歳未満の妻(厚年加入ではない専業主婦など)が居た場合は、その妻も任意加入扱いとなるという事を覚えておきましょう^^。

夫に20年以上の厚生年金期間があると、将来は配偶者加給年金付きの厚生年金が貰える事が確定してるので、妻を国民年金に強制する必要は無いだろうと考えられてたからですね。

昭和61年4月からは大改正で新年金制度になり、すべての人を国民年金に強制加入させる事になったが(この男性も強制となる)、この男性は60歳前月の平成10年2月までの143ヶ月間は未納にした。

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※参考
昭和61年4月以降そのまま妻を国民年金に加入しなくていいよという事にしてたら、もし離婚した時に妻は何の年金も貰えない事になります。

しっかり自分の名義で年金を貰うためにも、昭和61年4月以降は国民年金第三号被保険者として国民年金加入を強化した。
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さて、この男性は60歳から年金が貰える生年月日の人ですが、令和3年現在支給されてる年金額を計算してみましょう。

まず年金記録を満たしてるかという確認です。
厚生年金期間が244ヶ月と、カラ期間が68ヶ月あるので全体で312ヶ月だから年金貰う資格はある。
(平成29年8月からは10年に短縮されてます)

ちなみにこのくらいの年代の人は厚年期間が20年以上あれば、それでも年金貰う資格は持っている(昭和27年4月2日以降生まれの人から21年~25年に延ばされていった)。

65歳から現在までの年金額。

・老齢厚生年金(報酬比例部分)→38万円×8.54(生年月日による乗率)÷1000×244ヶ月=791,829円

・老齢厚生年金(差額加算)→1,628円×1.327(生年月日による乗率)×244ヶ月ー780,900円÷432ヶ月(加入可能月数)×244ヶ月(国民年金加入となる昭和36年4月以降の20歳から60歳までの厚年期間)=527,127円ー441,064円=86,063円

・老齢基礎年金→780,900円÷432ヶ月(加入可能年月数)×244ヶ月=441,064円

同居してた妻(昭和31年1月生まれの65歳)と、娘(昭和54年6月生まれの41歳。就労中)あり。

妻の年金は老齢基礎年金50万円と老齢厚生年金10万円。

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さて、この男性は70代後半からやや認知症の症状があり、夜中に起きて徘徊をする事があった。

何度か発見されて連れ戻す事が出来たが、平成26年8月20日から全く消息が分からなくなり、捜索願を出していた。

警察に連絡すると共にその時の案内で、年金受給者の所在が1ヶ月以上わからない時は「年金受給者所在不明届」を年金事務所に出す事が平成26年4月から義務化されている。

そのため、年金事務所に所在不明届を提出し、その後に現況申告書というものが郵送されてくる。
誤って所在不明届が出された場合の確認のために現況申告書が年金事務所から家に郵送されてきて、それを年金事務所に返送する。

現況申告書が提出されると年金事務所職員が訪問で調査に来て、本当に受給者が居ないのかどうかを確認しに来る。

居ないというのが本当であれば、年金受給者の年金を差し止める処理をする。

一応、平成26年10月中に所在不明である事が確認され、その後は夫の年金は差し止まったとします。

平成26年8月20日から7年後の令和3年8月19日で7年経過し、数ヶ月後に裁判所で失踪宣告をしてもらった。
失踪宣告の確定日は令和3年8月19日。

この確定日が死亡日として、遺族年金を請求する事になる。

なお、死亡とみなされた令和3年8月時点は、夫は行方不明になっていてそもそも生計維持関係が無いので、行方不明時(平成26年8月)の生計維持関係を見る。

平成26年8月19日時点は同居しており、妻の年収は850万円未満だった。
遺族厚生年金が令和3年8月19日を受給権発生日として、9月分から発生する。

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ちなみに年金受給者が死亡すると、貰えなかった年金が遺族に支給される「未支給年金」がありますが、未支給年金は貰えない。

死亡日に生計同一(つまり遺族年金の要件の同居してたかどうかの部分)だったかどうかを見る事になっており、もちろん死亡が確定した時(7年後)には行方がわからない状態だったので未支給年金は出ない。

遺族年金は特別に請求ができますが…

・遺族厚生年金→38万円(平均標準報酬月額)×8.54(生年月日による乗率)÷1000×244ヶ月÷4×3=593,872円
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※注意
この遺族厚生年金の生年月日による乗率は、夫の生年月日の場合の乗率を使う。
妻の生年月日ではないので注意。

なお、計算に使う平均標準報酬月額の再評価は夫の生年月日ではなく、妻の生年月日を用いる。
ーーーー

あと、妻は昭和31年4月1日以前生まれの人(昭和31年1月生まれ)であり、夫は20年以上の厚生年金期間があるので、「経過的寡婦加算」が妻の生年月日に応じて加算される。

・遺族厚生年金(経過的寡婦加算)→19,567円(年額)

遺族厚生年金総額は593,872円+経過的寡婦加算19,567円=613,439円

なお、妻は老齢厚生年金が10万円あるので、613439円からその分停止されて513,439円が支給される。

よって妻の令和3年9月からの年金総額は遺族厚生年金513,439円(経過的寡婦加算込み)+老齢厚生年金10万円+老齢基礎年金50万円=1,113,439円(月額92,786円)

そういえば夫には20年以上の厚年期間があったので加給年金が付いていたはずですが、妻が65歳時は行方不明だったので生計維持されていなかったから妻の老齢基礎年金には振替加算は加算されなかった。

それでは今日はこの辺で!

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image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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