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五輪中止で衆院選出馬か。総理の座を狙う小池知事の裏に二階氏の影

中止もしくは延期を求める国民が6割とも8割ともされる東京五輪ですが、そんな世論を追い風にしようとする向きも存在するようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、自民党本部で二階幹事長と面談を繰り返す小池都知事の「思惑」を推察。そこには、悲願達成のためなら五輪開催問題すらも政治利用するという、小池知事のしたたかな戦略が見え隠れしていました。

小池・二階は東京五輪中止へ動くのか

新型コロナ変異株が猛威をふるうなか、東京五輪・パラリンピックは、着々と開会式めざして聖火リレーが繰り広げられている。だが、メディア各社の世論調査では、東京五輪を中止または延期すべきだという人が圧倒的多数だ。

ただでさえ、コロナ患者の急増で病床は埋まり、医療スタッフが不足、病院のゆとりは失われ、入院すらままならない。そのうえ、世界から1万5,000人の選手と9万人ほどといわれる関係者、報道陣、スポンサー招待客らがやってくるのだ。

こんな状態で東京五輪ができるのか。アスリートたちの熱戦を見たいのは山々だが、フランスのル・モンド紙がいうように「変異株の祭典」になりかねない。

というような空気を政治利用し、小池都知事が「五輪中止」を言い出すのではないかなどと、自民党内で揣摩臆測が広がっている。

想像するに、こういうことだろう。今夏の五輪開催に否定的な世論を味方につけ、選挙の勝利につなげる。その場合の選挙とは、7月の東京都議選もあるだろうし、もしかしたら間近に迫る衆議院選挙を見据えているかもしれない。衆院選だとしたら、候補者は小池氏その人だ。もちろん、都知事を辞めて、である。辞任理由なら、五輪を招致した東京のトップとして「中止」の責任を取ると言えばよい。

だがここで疑問が湧く。そんなことをして、小池氏にどんなメリットがあるというのか。コロナ禍を乗り越えられず、五輪開催にこぎつけなかった不名誉が残るだけではないか。選手たちはもちろん、多くの関係者に迷惑をかけるし、辞めて衆院選に出るとしても、せいぜい都知事が衆院議員になるだけではないか、と。それはそうだが、国政復帰が、小池氏の悲願である女性初の総理への道につながると踏んだとしたら、どうだろうか。

菅首相を案じる自民党議員たちが気を揉むのは、今年に入り、小池氏がコロナ対策を理由に、頻繁に自民党本部を訪ね、二階幹事長と面談しているからだ。

東京のコロナ対策について話をしたと言う小池都知事の説明を額面通りに受け取る記者はいないだろうが、表向きの発表を客観的事実として伝える習性からして、以下のような記事になるのは仕方がない。

自民党の二階俊博幹事長は5月11日、党本部で小池百合子東京都知事と会談した。小池氏は緊急事態宣言の延長に伴う都の休業要請の継続に関し、国の財政支援の強化を求めた。(日経)

だが、コロナ対策なら西村担当大臣がいるし、それで不足であれば、波長が合わずとも菅首相に直談判すればいい。二階幹事長ならではの話があり、コロナ蔓延のおり、外で会うわけにはいかないから、党本部へ赴いたと考えるのが自然だ。

では、何の用だったのか。もちろん、選挙だろう。コロナ対策に超多忙な立場とはいえ、今秋までに行われる総選挙は、小池氏の今後にとって重要な意味を持つ。昨年、2回目の当選を果たした都知事だが、いつまでもこのポストに居続ける気はあるまい。総理をめざし、一度は民進党と合流して国政の新党をつくったほどである。

自民党を飛び出し党東京都連を敵に回したうえ、政権奪取の野心までのぞかせた小池氏を、自民党内から支えてきたのが二階幹事長だ。昨年の都知事選でも、小池氏の支持を表明し、党内の不満を抑えた。

多忙ななか、小池都知事はその二階氏と再三にわたって会っているのだ。いまやキングメーカーと称される二階氏は、菅首相の生みの親といってもいいが、新型コロナワクチン戦線に勝利した英国などと比較されて旗色が悪い菅首相を担ぎ続けるのも不安だろう。

もし、この機に乗じて、安倍前首相が再再登板ということにでもなれば、幹事長にとどまることはまずムリである。安倍氏と麻生副総理は、菅首相に幹事長交代の宿題を与えているほどなのだ。

二階氏もいまや82歳。そろそろ派閥の後継者をつくっておかねばならない。かといって、派内を見渡すと、伊吹文明氏といった長老がいても、総裁候補になりうるような人材がいない。

親分肌の二階氏は、自民党に挑戦状をたたきつけるように都知事選に出馬した小池氏の度胸に惚れ込んでいる。もともと二人は、新進党、自由党で小沢一郎氏の配下にいたころからの同志だった。

話は昨年2月4日に遡るが、小池氏は二階幹事長に都知事選への支援を要請するため党本部を訪ねた。そのさい、とんでもない依頼が二階氏からあり、あっさり引き受けた。

武漢発の新型コロナウイルスに見舞われた中国を救援するため、都に備蓄してあった防護服約30万着を、正式な手続きを踏まず、中国に寄付したのである。日本ではクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の集団感染に耳目が集中していた頃で、のちに防護服不足に陥るとは夢にも思わなかったのだろう。

密かにこういうことのできる間柄からみても、小池氏が二階氏の後ろ盾で自民党に復党し、二階派に所属してチャンス到来を待つ将来設計を描いているとしても、いっこうに不思議ではない。

もちろん、自民党を出て、都連や都議会自民党を「ブラックボックス」と罵った小池氏を嫌う空気は依然、党内に残っているはずだ。二階派とて例外ではない。しかし、小池氏の人気が今以上に上昇し、小池氏を担いで選挙に臨みたいという機運が盛り上がれば、状況はガラリと変わる。

菅首相の側近が心配するのは、そこまで狙って小池氏が「五輪中止」を言い出すのではないかということだ。

世論調査の数字を素直に信じるならば、変異株が猛威を振るうなかで五輪開催に走るIOCや日本政府に対し、小池都知事が「五輪中止」を敢然と掲げたら、小池人気が高まる可能性はある。その場合、菅人気は逆に落ちるだろう。

菅首相が小池氏を嫌っているのはよく知られた通りだ。男社会に飛び込んで、「ジジ殺し」と評されながら政財界の大物に近づき、引き立てられ、のしあがっていった小池氏のしたたかな処世術には、さまざまな見方がある。

その小池氏に、菅首相が命運をかける東京五輪の開催をやめるよう提案されたとして、菅首相が素直に応じるとは思えないが、世論が小池氏の味方につけば、
どうしようもない。

ただし、小池氏が本当に「五輪中止」を考えているかどうかについては、筆者もいささか懐疑的だ。菅首相の思惑通り、ワクチン接種が7月末までに高齢者分を完了するほどのペースで進み、新規感染者数が減少、医療の逼迫状況も解消されるのなら、世間の気分も変化するだろう。五輪開催ムードへと転換することだってあるのだ。

小池氏も、ギリギリまで判断したくないのが本当のところではないか。まずは緊急事態宣言の期日である5月末に、どのような状況になるかを見極めたいはずである。これからのコロナ情勢しだいでは、小池氏と二階氏の動向を過剰に気にする菅首相周辺の取り越し苦労に終わるかもしれない。

菅首相が「五輪中止」を言い出すことは、まずあるまい。五輪には電通などさまざまな企業の利権がからんでいる。なにより、安倍前首相が福島第一原発の汚染水はコントロールされていると世界にウソをついてまで招致したイベントである。しかも、安倍前首相と麻生副総理は、東京五輪までは菅首相を支えると言っているのだ。

裏を返せば、何が何でも東京五輪だけはやり遂げろという強い意思の表明にほかならず、安倍・麻生同盟の支援をよりどころとする菅首相が、「五輪中止」を主導するなど、想像すらできない。東京五輪を終えて解散総選挙を打つという根拠なき菅首相の政権維持シナリオ、言い換えれば、心の呪縛。そこから抜け出すのは難しそうだ。

小池氏は東京五輪の開催是非について何も語らない。それがかえって不気味なのだろう。だが所詮、政治的欲望ゆえの恐怖である。「安全、安心の大会は可能」とお題目を唱えているばかりでは世間にわだかまるオリンピック不安は消えない。明確に具体策を示し、説明を尽くすこと。首相としてやるべきことをやっておれば、何も恐るるに足らず、だろう。

image by: 東京都知事 小池百合子の活動レポート - Home | Facebook

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