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日本は欧米に騙されるな。バイデンの二枚舌「人権外交」が招く終末戦争

何にも増して尊重されるべき「人権」ですが、昨今の国際社会においてはあまりに「安易」に、そして都合よく用いられすぎている嫌いがあるようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では著者で元国連紛争調停官の島田久仁彦さんが、ミャンマー情勢やイスラエル―パレスチナ紛争で、「人権概念の価値観」が失墜したと指摘するとともに、なぜこのような状況に陥ったのかを分析・解説。その上で、人権原則適用における国際社会、特に欧米諸国の「ダブルスタンダード」について批判的な意見を記しています。

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“人権外交”の限界と新しいValue―イスラエルとパレスチナ、そしてミャンマー情勢とアジア

「人権尊重」を掲げて行われる【人権外交】。

対中国、そして一般的に発展途上国と言われる国々に対して、欧米諸国が頻繁に用いる理念です。

国連憲章にも基本的人権の尊重は謳われていますし、欧米諸国そして日本国憲法にも、基本的人権の尊重は“基本権”として謳われています。

【人権の尊重】の重要さに疑いを向けるものはそうそういないかと思いますが、この“人権”カードが、他国・他者を非難するカードとして使われているとしたらどうでしょうか?

そしてそのカードが、どのようなケース・国家に対しても、普遍的に用いられるのであれば公平性を確保することができ、その価値も高いと感じますが、外交的に用いられている“人権カード”の利用基準は、どうもケースバイケース、言い換えれば、使い手によるダブルスタンダードが目立つような気がしてなりません。

最近のケースでは、中国による新疆ウイグル地区でのウイグル族の強制収容と矯正行為にかかる人権侵害、香港の急激な中国化と表現の自由の抑圧といったように、欧米諸国が中国を国際的に非難する際に用いられています。

そして、2月1日の国軍によるクーデターによって、民主化プロセスが止まり、市民に対する武力行使や拷問などが頻発するミャンマー情勢を表現する際にも、この“人権侵害への懸念”という概念が、欧米諸国によって繰り返し用いられています。

ミャンマー情勢は緊迫度を極め、いまだに市民に対する人権侵害が継続していますが、時を同じくして紛争が行われているイスラエルとパレスチナ、特にガザ地区での惨状は、確実に人権蹂躙の状態であるにもかかわらず、欧米諸国が人権侵害への強い懸念という概念を当てはめることがありません。

もしかしたら使っているのかもしれませんが、私は安全保障理事会での議論の概要を見てみても、欧米諸国が人権侵害への懸念を述べている記録が見当たりません。

こじつけかもしれませんが、私には明らかに“人権”カード適用における国際社会、とくに欧米諸国によって形成される社会のダブルスタンダードの実態が見えています。

私も紛争調停官としての任に当たる際、軸とする概念の一つとして“人権の保護と尊重”を用い、紛争後の制度作りの重要な柱として含めてきました。

しかし、私が任に当たったケースでも、外から眺めるだけのケースでも、人権概念があまりにも便利使いされ、介入した側の(ケンカを吹っ掛けた側の)言い訳に用いられる様子をよく見るようになりました。人権概念の価値観としての重要性が失われているようにも思われます。

それが顕在化したのが、すでに触れましたが【ミャンマー情勢】と、現在進行中の【イスラエル―パレスチナ紛争】です。

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崩れ去る欧米諸国の人権を用いた外交的な圧力

まず、【ミャンマー情勢】をめぐる外交的な働きかけでは、人権外交アプローチの限界が露わになりました。

ミャンマーで行われている蛮行については、見過ごすことはできません。国軍による市民への暴力、不当な逮捕・拘留・拷問の横行は、確実に人権侵害ですが、ミャンマーに影響力を持つ周辺諸国(ASEAN諸国)は、ASEANが掲げる【相互内政不干渉の原則】を堅持するため、ミャンマー情勢の迅速な収束と平穏化を願う声明を出しても、それ以上の介入は慎んでいます。別の言い方をすれば、見て見ぬふりとも解釈できます。

それはなぜでしょうか?

理由の一つは、それぞれが“民主主義”をうたいつつも、実際にはゆるーい独裁体制の政体がほとんどであることです。そして、どの国にも、もし国連的な基準で人権を当てはめると、確実に人権侵害にかかる問題は多く存在します。

ゆえに『自分(自国)のことを棚に上げて、他人(他国)のことを非難すべきではない』との共通認識が働いて、互いの内政的な問題には目をつぶるという慣例が存在しているのでしょう。

ゆえに、外から見ると、今回のミャンマー情勢の混迷は、ASEANの外交努力の失敗と見ることもできるかもしれませんが、もしかしたら、【内政不干渉】という、いわばAsian Valueを堅持した(徹底した)とも見ることが出来るかもしれません。

欧米社会や国連から、支援や投資(ある国はワクチン)というカードをちらつかされて、ASEAN首脳会談(@インドネシア)でミャンマー情勢の解決を模索しましたが、ASEANが切った“クーデターの当事者を招いて話を聞く”という試み、つまりミン・アウン・フライン総司令官をサミットに招待するという賭けは、見事な失敗に終わったと思われます。

必死に【これは国軍による統治を、ミャンマーの代表とみなすものでない】と言い訳していますが、イメージとしては、ASEANが手を貸す形で、国軍による統治を既成事実化してしまったと受け取らざるを得ないでしょう。これにより、国軍およびフライン総司令官による、市民に対する武力行使などが“正当化”されるという事態になっていると思われます。

余談ですが、もし“人権外交”の理念がきちんと作用しており、ASEANもミャンマー国内の情勢を本当に好転させるべく努力するのであれば、民主化を進めようとするスーチー女史の支持者および“統一政府”の代表も招いておくべきだったと思われますが、それはありませんでした。

国連およびミャンマーの民主化を後押ししてきた欧米諸国(日本含む)が強調する“人権”とそれを用いた外交的な圧力は、ミャンマー情勢の前にもろくも崩れ去ったと見ることが出きるでしょう。

どのような理由が考えられるでしょうか?

一つは、マハティール氏が(最近ではなく)首相を務め、東南アジア諸国のリーダー的な役割を担っていたころに掲げられたAsian Valueとそれをめぐる議論が再燃したと思われます。

言い換えると、人権などを口実にずかずかと他国の内情に土足で踏み入る欧米型の価値観と支配者意識に対して、疲れと反発が再度強まったといえます。今回のミャンマー情勢を前に、いろいろなASEAN諸国のリーダー層とお話しする機会に恵まれましたが、口々にこのような指摘をしていました。

今回、Asian Valueの提示という動きが再燃した背景には、習近平国家主席が掲げるOne Asia構想の理念が強く反映されているといわれています。

それを簡単にかいつまんでお話ししますと、「これまで長年にわたり、欧米諸国はアジアに対して自らの勝手な理念や価値観を押し付け、アジアを支配し、搾取してきた。その時代を今、決定的に終わらせないといけない」という内容で、「その旗手に中国はなるのだ」とした、2019年年初の習近平国家主席の発言に、かつてマハティール氏が掲げたAsian Valueの“遺産”を重ねるリーダーもいるようです。

その影響もあってか、“人権”の指摘は、欧米諸国が用いる支配とコントロールのための口実であるという思想が出来てきていると思われます。

このところ、目まぐるしく伸長している中国の総合的な影響力の拡大も背後にあるでしょうが、実際には、今回のミャンマー情勢への中途半端に見える干渉は、欧米からの期待をスルーして、自らの独自の価値観(Value)を貫いた結果と見ることが出来るかもしれません。

どちらにせよ、実情は、ミャンマー国民の悲劇の拡大となってしまいましたが。

ここで一つ強調しておかないといけないのは、国連も欧米諸国も、ミャンマー情勢を懸念し、ミン・アウン・フライン総司令官を非難する理由として“人権侵害への懸念”を用いたという事実です。

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中東情勢を悪化させるバイデン大統領と政権の二枚舌

では、同じ人権侵害への懸念は、イスラエル―パレスチナ間の紛争に対しては使われたでしょうか?

答えは、残念ながらNOです。

特にアメリカを見てみると、中東政策に対する煮え切らないバイデン政権の態度が、対応の遅れと、国際協調への復帰を実質的に阻み、アメリカ外交の信頼性をさらに低下させることになっていると思われます。

そしてその状況をさらに悪化させる要素が、バイデン大統領と政権の二枚舌です。

中国に対しては、原理原則、特に人権擁護を前面に押し出した“人権外交”を進めて非難していますが、パレスチナ人の“人権”をことごとく踏みにじるイスラエルの行動は容認しているという、まさにダブルスタンダードです。

これについては、イスラエル内でも非難が出始めており、「自衛権という名の下の人権軽視は看過できない」と、国内政治におけるネタニエフ首相批判と相まって、現政権の方針と、その背後にいるアメリカの矛盾をあぶりだしています。

結果として、政権発足以来、同盟国との関係修復を急ぎ、中国脅威論を共通の盾として、対中包囲網の強化に邁進してきたアメリカが、国連安全保障理事会においては、イスラエル擁護という、また別の“アメリカ外交上の原理原則”に引っ張られて、対米包囲網を狭められるという皮肉に直面しています。

ここでも余談ですが、私も安全保障理事会対応をしていた際、非常に難解で苦しめられたのが、安全保障理事会における鉄則と言われている「イスラエル関係およびインド関係のresolution(決議)は成立しないか、出ても骨抜きにされる」というものでした。

今回は、またその隠れた鉄則が適用され、アメリカが他の14か国を相手に、その姿勢を堅持していますが、ここでもまた、人権原則適用におけるダブルスタンダードとともに、「基本的人権の尊重を謳う国連憲章とそのシステムの限界」を露呈する結果になっています。

つまり、国際協調と平和構築の理想は、強国の身勝手な政治的関心と現実によってゆがめられているという現実です。これは、国連設立から75年を経て、設立時とは全く違った世界の現実に直面しても、第二次世界大戦時の“現実”が無理やり強行されているという現実ともいえます。

結果として、世界の現実と理想の乖離が起き、国連不要論が再燃する結果になっているのでしょう。

人権原則適用における欧米社会、特にアメリカのダブルスタンダードが、本来働くはずのアメリカによるイスラエルの攻撃の抑止を不能にさせ、ネタニエフ首相に「アメリカは、イスラエルの攻撃を支持している」ということまで言わせる羽目になっています。国務省の担当官によると、「支持?いやしていない」とのことですが。

結果として、ネタニエフ首相のイスラエルは、これまでの空爆に加え、地上部隊をパレスチナ全土に派遣して総攻撃に近い態勢に入ってきていると言われ、その前にパレスチナ人の人権は完全に蹂躙されています。

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人類が受け入れられるレベルをはるかに超える全面戦争に

これは何を招くかは皆さんご存じかと思います。

イランに対イスラエル攻撃の口実と大義名分を与え、イスラエルとの融和に向かっていたアラブ社会の怒りと反発を再燃させるとともに、決して公にはされませんが、【アラビア半島を舞台にした核戦力の対峙】という大変恐ろしい段階の一歩手前まで来ていると思われます。

5月20日の、希望的観測に基づいた報道によると、ハマス(パレスチナ)がイスラエルとの“休戦”に応じるということですが、これにはかなり数多くの、イスラエルには受け入れ不可能となっている要素も含まれるため、大規模な報復の応酬は、まだまだ続くのだと思われます。

次にこの地域で起こるかもしれない中東戦争は、確実に全面戦争化すると思われますが(ネタニエフ首相の保身のための、対パレスチナ戦争が続く限り)、その全面戦争は、もう人類が受け入れることが出来るようなレベルをはるかに超える威力があると恐れています。

「もし、欧米諸国が、国際社会が、人権外交や人権擁護の原則を、普遍的に常時適用して、国際問題の解決に協調していたら、現在進行中の紛争はここまでエスカレートしただろうか?

「もし、強国たちが、他国それぞれの国内における統治の仕方に干渉しないことを徹底できていればどうなっただろうか?」

いろいろなタラレバを考えてみたくなりますが、実際には、世界の各国は、それぞれの内政事情に鑑みて、その場その場で原則を変え、対応を変えるというダブルスタンダード、そして大きな矛盾の連鎖を繰り返して、何とか非常にデリケートな国際関係の海を渡っているのが現実でしょう。

現在、進行中の紛争や報じられることのない蛮行について知り、一部、その解決に携わる中で、国際情勢の裏側が見えてしまい、少し疲れてきました。

今回、いろいろと書いた内容に対して、いろんなご意見があるかと思いますが、これが、私が今、見る国際情勢の現状の姿です。

皆さんはどう思われますか?

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image by: Abed Rahim Khatib / Shutterstock.com

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世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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